月葬グランギニョル

    作者:西東西


     満月の夜。
     廃園となった遊園地の真中で、少年が笑っていた。
     足元には数十の死体。
     どの死体ももとの輪郭がわからないほど、ぺちゃんこに、あるいは全身を抉られている。
     月明かりですべてがはっきりと見えないのが、幸いと言えば、幸いか。
     その中で、5人の不良少年たちが声をあげる。
    「み、みんな殺しちまいやがって!!」
    「くそう、なんなんだよ、てめえはよォ!」
    「おまえらが天下の往来でオウオウ唸ってるから相手してやったんじゃん? なのにオレの方がワルモノ扱い? しかもおまえらときたら、ロクに金ももってねーんだもん」
     「泣きたいのはこっちだっつーの」とぼやき、腕を振るう。
     逃げようとした5人の首が、胴が。
     鞭のようにしなる剣によって、次々に刎ね飛ばされた。
    「しょーがねーなー。また金もってそうなヤツ、探しに行くかあ」
     少年が歩きだそうとした、その時だ。
    「ごきげんよう。デモノイドロードの『ハイジ』さん」
     錆びつき、動かなくなったメリーゴーランドの前に、いつの間にか、制服姿の少女が佇んでいる。
     淡いブルーの瞳に、青白い肌。プラチナブロンドの髪が、夜風になびく。
    「……フン。こんな場所に美人が一人で、なんの用だ」
     明らかに異質な気配をまとった少女の出現に、少年が身構える。
    「わたくしは『ノヌーシャ』。貴方を、迎えにまいりました」
     少女は凍りつくような美しい笑みで、そう、答えた。
     

    「先日ブランシュフォール(蒼炎騎士・d11726)が懸念した通り。ヴァンパイアがデモノイドロードに接触し、仲間に引きこもうとする事件が頻発しているのは、すでに知ってのとおりだ」
     一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)はそう告げ、教室に集まった灼滅者たちを見渡す。
     デモノイドロードとは、普段はデモノイドヒューマンと同じ能力を持ち、危機に陥ると『デモノイド』として戦う事ができる存在。
     いうなれば、『自分の意志で闇堕ちできる灼滅者』のようなものだ。
    「今回、私の予測に現れたデモノイドロードの元にも、朱雀門高校のヴァンパイアが現れるというヴィジョンが視えた」
     しかし、現時点でのヴァンパイア勢力との全面戦争は避けなければならない。
     事件を穏便に解決するには、デモノイドロードが事件を起こしてからヴァンパイアが現れるまでの間に、デモノイドロードを倒す必要がある。
    「やっかいな依頼になるが……。きみたちに、デモノイドロードの灼滅を頼みたい」
     一夜は眉根を寄せながら、静かに、告げた。
     
    「デモノイドロードは『ハイジ』という名の少年だ。高校三年生ではあるが、すでに学校には通っていない。廃園となった遊園地を根城とし、金を奪っては、ひとを殺して過ごしている」
     事件が起こる満月の晩も、ハイジはそうして、不良少年たちから金を奪っている。
     無関係の一般人の姿はなく、月明かりで視界も良好。存分に戦闘に集中できる。
     接触推奨タイミングは、『ハイジが不良少年5人を殺害しようとする時』。
    「5人を殺害しようとする瞬間、ハイジに大きなスキが生まれる。よってそのタイミングで、先制攻撃を仕掛けるのが得策だ」
     ハイジが扱うのは、デモノイドヒューマンとシャウト相当のサイキック。
     それに、ウロボロスブレイドに似た武器を装備している。
     灼滅者8人と同等の戦闘力を有し、ハイジの攻撃はどれも殺傷ダメージが高い。
     先手をとれたとしても、くれぐれも、油断は禁物だ。
     
    「対して、現れるヴァンパイアの名は『ノヌーシャ』。かつてある学園で少女たちの上に君臨し、圧政を敷いていたダークネスだ」
     ヴァンパイアが現れるのは、デモノイドとの戦闘を開始できるようになってから10分前後となる。
     確実を期すならば、8分以内にデモノイドロードを灼滅し、撤退を目指したい。
    「戦闘になれば勝利は難しく、その後の情勢も悪化してしまう。よって、万が一が起こった場合、ヴァンパイアとの戦闘は避けるようにしてくれ」
     デモノイドロードを灼滅する前にヴァンパイアが現れた場合も、戦闘を中断し、迷わず撤退するようにと、一夜は念を押した。
     
     「もし」と、一夜が言葉を重ねる。
    「もし、きみたちが一般人5人を助けたいと、考えるなら。接触タイミングは、先と同じく、『ハイジが不良少年5人を殺害しようとする時』となる」
     ハイジにスキができる瞬間を5人の救出にあてれば、一般人を救うことが、できるかもしれない。
    「ただし。その一手が、きみたちを危機に追いこむ可能性は、十分にある」
     一般人を救出した場合、その者たちに、すくなからず手をかける必要が出てくる。
     パニックを起こす可能性。
     人質として悪用される可能性。
     救った一般人を殺される可能性。
     そのうえ灼滅者たちは遅くとも10分以内にすべてを終え、ヴァンパイアに備えなければならない。
     命は、等価だ。
     予測に現れた一般人の命も。灼滅者たちの、命も。
    (「――5人を見殺しにしろとは言えない。5人のために、命をなげうってくれとも」)
     一夜は唇を噛みしめ、
    「どうか、頼む」
     それだけを告げ、長い間、頭をさげ続けた。


    参加者
    アプリコット・ルター(甘色ドルチェ・d00579)
    千条・サイ(戦花火と京の空・d02467)
    一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609)
    リーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794)
    真純・白雪(白蛇の神子・d03838)
    阿剛・桜花(硬質圧殺粉砕オーガ系お嬢様・d07132)
    塵屑・芥汰(お口にチャック・d13981)
    オリヴィエ・オーギュスト(従騎士・d20011)

    ■リプレイ

    ●Scarred
     月明かりの廃園。
     事件発生前に現場に到着した灼滅者たちは、物陰に隠れ、様子をうかがっていた。
     塵屑・芥汰(お口にチャック・d13981)は特徴的なマスクの奥から、冷めた口調でつぶやく。
    「満月に廃墟の遊園地なんて、浪漫あふれる風景に血なまぐさいことだな」
     後味が悪い結果は、できれば勘弁願いたい。
     時間に制約があるとはいえ、できる限り、手を尽くすつもりだ。
     傍らに佇んでいた千条・サイ(戦花火と京の空・d02467)は、一般人と敵の位置を確認し、逃がしやすい方向にあたりをつける。
     デモノイドロード――ハイジが立つのは、メリーゴーランドを背にした広場のような場所だ。
     すでにこと切れた死体はハイジをとり囲むように転がっており、まだ生き残っている5人の不良少年たちも、ハイジの前後左右に点在している。
    (「『鞭剣』振れば、いっぺんに『華』が咲く、か」)
     柔軟に操ることのできる剣だからこそ、一挙で全方位へ攻撃を繰りだすことができる。
     ハイジもそれを理解しているのだろう。
     手遊びがてら鞭剣を振りまわし、一般人を脅しながら笑っている。
    (「ヴァンパイアにどんな目的があるのかわからないけれど、ろくでもないことになるのは、間違いないでしょうね」)
     一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609)はハイジの後方に位置取る。
     すでに犠牲になった人々の借りは、返さなければならない。
    (「絶対に、助けるんだ」)
     険しい表情でハイジを見やるオリヴィエ・オーギュスト(従騎士・d20011)も、祇鶴とともに背後からの奇襲を行う。
     一般人を助けるためには、『獰猛な殺意の塊』を演じる覚悟だ。
     リーリャ・ドラグノフ(イディナローク・d02794)はハイジの側面に位置どり、タイマーを手にじっと息をひそめる。
     作戦に使うと決めた時間は、8分。
     ――格下の相手から脅されても、効果はない。
     リーリャはそう考えていた。
     ならば死を感じさせるべく、ありったけの殺意をこめるまで。
    (「殺すことに躊躇いのない、ご同類を相手にしていること」)
     それを、思い知らせてやるのだ。
     リーリャの反対位置には、真純・白雪(白蛇の神子・d03838)の姿。
     すでに失われた多くの命を見やり、眉根をひそめる。
     それでもまだ、救える5つの命が残されている。
    (「力の限り戦って、必ず、救ってみせる」)
     覚悟を胸に、マテリアルロッドを握りしめた。

     永遠とも思える時間を経て。
     その時は訪れる。
    「おまえらときたら、ロクに金ももってねーんだもん。泣きたいのはこっちだっつーの」
     ハイジが鞭剣を振りあげる。
     5人の不良少年たちは、逃げるよりも早く迫る剣を見やった。
    (「死――」)
     その単語が脳裏をよぎった瞬間、襟首を掴まれる感覚。
     息が詰まるとあえいだ次には浮遊感に包まれ、すぐに全身に衝撃が走った。
    「邪魔ですわ! さっさと向こうにお逃げなさい!」
    「早く、逃げてください……!」
     その少年が投げ飛ばされたのだと気づいたのは、鋭く叱咤する少女たちに気付いてからだ。
     華奢な少女たちが自分を投げ飛ばしたなど、信じがたいことではあった。
     だが、
    「ギャァアアアアアアア!!!」
     別所からあがった悲鳴に、思考が停止する。
     正反対の方向にいた少年。
     その身体が抉られ、鮮血をまき散らしながら倒れるのが、見えた。

    ●Gods Gift
     デモノイドロードが動くと同時に、灼滅者たちは一斉に行動に移った。
    「ハイジだな? お前を狩りにきた!」
    「早いトコ、幕引きにしましょっかね」
     オリヴィエが後方から影業で縛りあげ、その隙に芥汰がWOKシールドで、祇鶴が巨大化した腕で殴りかかる。
     一方で、阿剛・桜花(硬質圧殺粉砕オーガ系お嬢様・d07132)とアプリコット・ルター(甘色ドルチェ・d00579)が『怪力無双』を発動。
     手近にいた一般人1人ずつを後方に投げ飛ばした。
     さらにアプリコットのビハインド『シェリオ』が、別の場所にいた一般人1人の攻撃をかばい受け、計3人を守り通すことに成功。
    「ンな!? なんだおまえぐぁっ」
     突然の攻撃にデモノイドロードが膝をついたところで、白雪がロッドを振りかざし、力の限り叩きつける。
     魔力の奔流に苦悶の声をあげるハイジに答えず、リーリャはガンナイフを手にその身を一閃。
     だが視界の端で、一般人2人が悲鳴をあげながら倒れるのが見えた。
     救出にあたる者以外が攻撃を仕掛けることで、鞭剣の軌道はわずかに逸れた。
     しかし一般人は、バベルの鎖をもたない。
     即死を免れたとはいえ、致命傷を負った2人には、すぐにでも手当が必要だ。
     だが灼滅者たちに、その暇はない。
    (「罪過を背負っていくこと。とうの昔に、覚悟は決めています」)
     リーリャはハイジを蹴り飛ばし、一般人との間に立った。
     今回の作戦にタイムリミットがある以上、怪我をした2人にこれ以上手をかけるのは得策ではない。
     だが、3人は自力で動くことができる。
     サイは即座に状況を判じ、『パニックテレパス』を展開。残る一般人を遠ざけることを選んだ。
     ――人死には少ない方がええ。世界がつまらんくなる。
    「ちょっとの間だけ稼いだるから逃げとき。今から化物対決やから、命の保証せんでー?」
    「死にたくなきゃこの場から逃げて!」
     サイとオリヴィエの声に、難を逃れた3人が一目散に駆けだした。
    「なに勝手なことしてんだおまえらぁああ!!!!」
     初手のダメージから立ち直ったハイジが怒りの声をあげ、己の利き腕を巨大な刀に変える。
     至近距離から芥汰をひと突き。
     さらに追撃を受けるも、芥汰は踏み耐える。
    「……気分悪い見世物に付きあわンとならん。お代は命で、ってこと?」
     マスクに血をにじませ、月を映す縛霊手の鉤爪でハイジの腱を一閃。
     足取りを鈍らせる。
    「今、癒します……!」
     アプリコットは傷ついた一般人の傍に立ちつつも、バイオレンスギターを奏で、芥汰の回復を優先させた。
     一般人を助けたい。
     だがここで仲間たちが倒れれば、彼らの命運も、確実に尽きてしまう。
    「あなたこそ、うるさいのよ。耳障りが過ぎるから、少し黙ってもらえるかしら」
     続く祇鶴がほっそりとした脚を伸ばし――、
    「さぁ、『終り』をはじめるわよ」
     声とともに怒涛の連撃を繰りだし、とどめにハイジを勢いよく蹴りあげる。
    「よそ見をしている暇は、ありませんわよ!」
     血を流し、倒れたまま動かない少年2人を視界の端に押しのけ、桜花も攻撃に転じた。
     立ちあがろうとするハイジをWOKシールドで殴り飛ばし、せめて攻撃の手が少年たちへ向かないようにと、視界を阻む。
    「ねえ君、わたしたちとやりあった方が、楽しいよ?」
    「ちょお遊ぼや、廃園の王様。あんたと俺ら、どっちが勝つか金賭けん?」
     白雪が放出したバトルオーラに続き、サイの妖の槍『喰』が、両サイドからハイジを撃つ。
     リーリャはすかさずガンナイフに炎を宿し、地を蹴った。
     血濡れのハイジめがけ、『一角獣(イディナローク)』の通り名にふさわしい突撃を見舞う。
     それでも、デモノイドロードは血の混じったつばを吐き、再び立ちあがった。
     彼もまたバベルの鎖を持ち、強靭な肉体を持つ者。
     この程度では、易々と倒れはしない。
     ハイジは阻む少年少女がただ者ではないこと。
     それ以上に、己より年下の、幼子が多くを占めることになにより怒りを抱いていた。
    「ったく。クソガキ相手なんざ、一円にもなりゃしねえ」
     同じデモノイド寄生体を宿した敵の言葉が、オリヴィエの闘志に火をつける。
     演じるのは、『怒り』と『憎しみ』。
     抱くのは、大切なものを奪った『悪』への怒り。
    「そうさ。僕はひよっ子で、ただのガキだ。それでも――」
     ――怖れるものか。
     あどけなさの残る面差しに精いっぱいの険を浮かべ。
    「お前の邪魔くらいは、できる!」
     叫びとともに己の利き腕を巨大な砲台に変え、『死の光線』を撃ちはなった。

    ●and Battled
     戦況は一進一退を極めた。
     初手こそ隙をついて押し切ったものの、デモノイドロードはその態度とは裏腹に、きわめて冷静に戦局を見極め、動く。
     ハイジは死角から伸びた芥汰の爪を回避すると同時に、白雪めがけて鞭剣を繰りだした。
    「ガキに用はねえんだよ!」
     すかさずビハインドが間に入り、鞭剣の拘束を代わりに受ける。
     それまで仲間たちの攻撃を肩代わりしていた『シェリオ』は、白雪の眼前で煙のように姿を消した。
    「残念。外れ、だよ……!」
     白雪はマテリアルロッドを掲げ、ハイジめがけて雷を降らせる。
     舌打ちし、逃げようとするハイジの頭を、異形化した祇鶴の剛腕が捕えた。
    「お金が欲しいのならあげるわよ? ほら、地べたに這いつくばって拾いなさいな」
     その頭蓋を容赦なく地面へ叩きつければ、
    「んの、アマ……!」
    「そんなに金ほしなら、大人しく働きや」
     サイは諭すように告げ、槍をひと薙ぎ。氷弾をはなった。
     ハイジは氷を受けながらも、間一髪のところで桜花の拳を回避。
    「くっ! 往生際が悪いですわね!」
     続くオリヴィエの影業に捕らわれ、リーリャの炎の一撃を受けるや、絶叫。
     ――オオオォォォォォオオ!
     己にまとわりついた枷のほとんどを、うち払う。
     アプリコットは思わず後ずさり、唇を噛みしめた。
     兄の姿をうつしとったビハインドは、もういない。
     仲間たちは果敢にハイジに攻めかかる。
     けれど一刻、一刻。時が過ぎていく。
     傷を負った少年2人の顔色が、白く、血の気を失っていく。
     ――殺させる、わけにはいかない、です。
     力が欲しい。
     無関係のひとを救い、仲間を支えるだけの力が。
     けれど、内なる闇は応えない。
     その理由を、アプリコットはうっすらと察していた。
    (「私にはまだ、できることがある。……そうですね、お兄様?」)
     悔しさをにじませながらも、ロッドを握りしめる。
    「頑張って、ください……!」
     魔力を宿した霧を展開し、アプリコットは最後まで仲間たちを支えると、改めて決意を固めた。
     5分を過ぎ、リーリャは果敢に紅蓮斬を繰りだす。
     当たれば大きく敵の体力を削り、己の糧とすることもできる技。
     しかし初めの攻撃が当たりこそすれ、後の攻撃はすべて、回避されてしまう。
    「その攻撃は、もう見飽きたぜ!」
     ハイジの挑発にもリーリャは眉ひとつ動かさず、殺意を向け続けた。
     己が『こう』と決めたこと。
     どのような結果になろうとも、貫くしか、ない。

     灼滅者たちの攻撃は着実にハイジの体力を削り、ハイジもまた、灼滅者たちを攻め続けた。
     祇鶴とリーリャは全力で攻撃に徹し。
     ハイジの攻撃が飛べば、芥汰と桜花がかばいに走った。
     傷を受けた者はアプリコットが癒しを施し。
     サイは仲間たちの攻撃が通りやすくなるよう、枷をかけ続けた。
     白雪やオリヴィエは狙いを定め、着実にハイジの体力を削ぎ落とし。
     デモノイドロードは、すでに満身創痍だった。
     態勢を立て直さなければ灼滅されかねないと、ハイジも既に悟りつつある。
     それでも、決定的な一手が決まらない。
     灼滅をめざし、灼滅者たちが次の攻撃を重ねようとした時だ。
     ――ピピピピピピピピピ。
     リーリャのタイマーがアラームを響かせ、8分目の訪れを知らせた。
     灼滅者の動きが、一斉に止まる。
     連撃を受け、体勢を崩していたハイジは何事かとリーリャを見やるも、当の少女は、変わらず睨めつけるのみ。
     灼滅者たちが攻撃をやめたのを機に、ハイジはすかさず8人から距離をとった。
     祇鶴はとどめを刺すことのできない悔しさを表に出さぬよう、言いはなつ。
    「灼滅される覚悟がないのなら、部屋の片隅でガタガタ震えてなさい。そうすれば、見逃してあげないこともないわよ?」
    「また一般人に手ェ出す気なら、次はほんまの奈落に落としにくんで?」
     続くサイの言葉に、デモノイドロードが一瞬、怯えをにじませる。
     だが、灼滅者たちがとどめを刺さずに立ち去る気配に気づくと、声をあげて笑った。
    「ひゃーっはっはっは! オレの勝ちだ! 生き残ったやつが勝ちなんだよ!」
     灼滅者たちは後ろ髪を引かれながらも、背を向けるしかなかった。
     灼滅に、わずかに足りなかった。
     あと1分もあれば。
     ――一般人にかけた手数があれば、足りていた。
     しかし、少年たちを救うと決めたのは灼滅者たち自身であり。
     作戦時間を8分と定めたのもまた、彼ら自身だ。
     これ以上の戦闘は、さらなる状況の悪化を生みだしかねない。
    「ひとまず、追いつめられたんだ」
    「最善は……尽くしたよ」
     芥汰と白雪の声に祇鶴とサイが続き、廃園の出口へ向かって撤退を開始する。
     タイマーを手に、リーリャはメリーゴーランドを振りかえった。
    (「『No.9』に会えないのは、残念ですが」)
     かつて対峙したヴァンパイア。
     できることなら、再度、まみえたかったのだが。
     リーリャはすぐにきびすをかえし、先をいく仲間を追う。
     アプリコットと桜花は去りぎわ、傷を負った一般人2人のもとへ駆けた。
     だが、アプリコットは静かに首を振り、
    「……この方は、もう」
     桜花もまた、もう1人の少年に望みがないことを察し、
    「ごめんなさい、助けられなくて……」
     目に涙を浮かべながら、その場を離れた。
     灼滅者たちは、すべてを救えなかったわけではない。
     3人の少年の命は、たしかに救ったのだ。
     それでも、
    (「……2人を、助けられなかった」)
     オリヴィエは奥歯を噛みしめ、夜闇に沈む廃園を後にした。

    ●massage no.9
     数分後。
     錆びつき、動かなくなったメリーゴーランドの前に、制服姿の少女が佇んでいた。
     青白い肌に、プラチナブロンドの髪。
     淡いブルーの瞳が、瀕死のデモノイドロードを見おろす。
    (「……わたくしがくる前に、『なにか』が、あった」)
     ――これでは、使い物にならない。
     そう判じた『モノ』が、少女に手を伸べ。
     血濡れの指が、磨かれたつま先を汚した。
     少女は凍りつくような美しい笑みを浮かべ、告げる。
    「ごきげんよう。哀れな『灰』の王さま」
     デモノイドロードの眼前に現れたのは、巨大な銀狼の鼻先。
     数匹の狼のあぎとが迫り――。

     月の廃園に、断末魔が響く。
     残された死体はなにも語らず。
     かくして、悪逆無道なる灰路(ハイジ)のグラン・ギニョールは、これにて閉幕。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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