愛よ甦れ

    作者:西東西


     それは、とつぜんの来訪だった。
     武蔵坂学園に、ある一人の男が訪ねてきたのだ。
     男の名は、クロキバ。
     人間の姿をとったダークネス・イフリートは、警戒半分、好奇心半分の面持ちで集まった生徒たちを前に、厳かに口をひらく。
    「シロノ王セイメイノアラタナ企ミガ確認サレタ。死体ヲアンデッドニスル儀式ノヨウダ」
     クロキバは以前より、白の王・セイメイの企みを追っていた。
     今回もいちはやく動きを察知し、企みを阻止しようとしたのだが――、
    「申シ訳ナイノダガ、コレヲ知ッタ若イイフリートガ、事件ノ起コル場所ニ向カッテシマッテイル」
    「彼ラガ暴レレバ、周囲ニ被害ガ出テシマウノデ、済マナイガ彼ラヲ止メルカ、彼ラガ来ル前ニ、セイメイノ企ミヲ砕イテクレナイダロウカ」
     年若いとはいえ、ダークネス・イフリート。
     人が多い場所で暴れまわれば、場合によっては、死人が出ないとも限らない。
    「ヨロシク頼ム」
     ざわめく生徒たちを前に、イフリートは事件の発生場所を告げた。
     

    「まさかまた、クロキバが武蔵坂学園に依頼を持ってくるとはな……」
     一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)がうめくように告げ、説明をはじめる。
     クロキバからの情報は、『白の王セイメイが、新たなアンデッドを生み出そうとしている』というものだ。
     詳細を調べたところ、全国の病院の霊安室や通夜や葬式の席、火葬場などで、死体がアンデッド化する事件が起こることがわかった。
    「新たに生みだされたアンデッドが暴れだせば、さらなる悲劇を招いてしまう」
     そうならないよう対応にあたってほしいと、一夜は灼滅者たちを見渡した。
     
    「今回事件が発生するのは、夜八時ごろ。場所は、通夜の行われている民家だ」
     高級住宅街にある庭付きの日本家屋で、各部屋はひとが行き来しやすいよう、大きく開けはなたれている。
     亡くなったのは、この家の中学生の少女。
     名は、石蕗・愛菜(つわぶき・まな)。
     死因は、失恋を苦にしての自殺と言われている。
     なお通夜の会場には、計40人ほどの一般人が居合わせる。
    「戦闘を仕掛けるタイミングは『石蕗愛菜がアンデッド化した時』となる。だがやっかいなことに、その時、友達やクラスメイトなどが弔いを行っている」
     クラスメイトたちは棺を囲むように、それぞれが別れを告げたり、祈りをささげている。
     蘇った愛菜に自我はなく、まず棺のそばにいる者を手にかける。
     攻撃は恨みつらみを含んだ言葉などの呪詛となり、遠距離の列攻撃なども持ちあわせている。
     今の灼滅者たちであれば十分に灼滅できる相手だが、一般人への被害を最小限にとどめようというのであれば、周囲の状況を含め、気を配る必要があるだろう。
     
    「それと、もうひとつ」
     一夜は資料を手に、眉根を寄せる。
    「クロキバの言っていた『若いイフリート』が、事件をかぎつけてすぐ近くまできている」
     現在は民家の周囲を嗅ぎまわっている状態だが、事件が発生すればすぐに現場に駆けつけてしまう。
    「よって事件が発生する前にイフリートを探しだし、説得して帰還をうながす。あるいは、事件解決に協力してもらうよう話をつける必要があるだろう」
     ただしこの若いイフリート、人間で言うところの『反抗期』だ。
     自分の力だけで『狩り』を成功させようと躍起になっているうえ、灼滅者の存在についてもあまり良く思っていない。
    「下手をすれば、きみたちに牙をむくとも限らない。こちらも、慎重に対応にあたってほしい」
     
     アンデッド化した石蕗愛菜。
     会場の一般人40人。
     血気盛んな若いイフリート。
    「考えるべき要素が多いため、七湖都に一般人対応を手伝うよう、頼んである」
     一夜の言葉に、七湖都・さかな(dn0116)が教室の端で深々と頭をさげる。
    「念のために繰りかえすが、きみたちが最優先すべきは『アンデッドの灼滅』だ」
     作戦や行動のすえ、事態がどのような方向へ転ぼうとも、それだけは忘れないでくれとエクスブレインは告げる。
    「…………かならず。愛菜を、『終(つい)の境界』の、むこうへ」
     さかなは頷き、同行する仲間たちへ視線を向けた。


    参加者
    伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)
    花凪・颯音(花葬ラメント・d02106)
    鳴神・月人(一刀・d03301)
    ゼノビア・ハーストレイリア(神名に於いて是を鋳造す・d08218)
    エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)
    華表・穂乃佳(眠れる牡丹・d16958)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)
    カツァリダ・イリスィオ(ゾオシンドロフィアス・d21732)

    ■リプレイ


     夜八時、すこし前。
     閑静な高級住宅街の一角。
     自殺した石蕗・愛菜(つわぶき・まな)の家――庭付きの日本家屋に、白黒の鯨幕がひるがえっている。
     事件現場の対応にあたる灼滅者7人は、ESP『プラチナチケット』を駆使し、密かに通夜の会場にまぎれこんでいた。
     愛菜と同年代だったことが功を奏したのだろう。
     7人の参列をいぶかしむ者は誰もおらず、泣きむせぶ家族や友人たちをよそに、葬儀屋が粛々と式を進行させていく。
     花凪・颯音(花葬ラメント・d02106)は唇を引き結び、頑なな表情で、愛菜の遺影を見つめる。
    (「『愛』のために数多の慈しみを捨てられるとしたら、それは、傲慢ではないんすかね」)
     ――こんなにも想いを寄せ、泣いてくれる人がいる。
     にも関わらず、少女はただひとつ、望んだ愛のために死を選んだ。
    (「なにも、自ら命を絶つ事はないだろうに……」)
     ともに立礼焼香の列に並んだエアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)も、死者を悼みながらも、その想いを理解できずにいた。
     なにより、愛菜の死が儀式の一端として扱われる事に、不快感を覚えていたのだ。
     僧侶の読経が続くなか、同じく会場に入っていた鳴神・月人(一刀・d03301)も思案する。
    (「あいつら、生前強かった人間をアンデットにしてるわけじゃねえんだな」)
     単純に数を揃えようとしてるのか。
     それとも、何か目的があるのか。
     どちらにせよ、パニック映画のような事態は断じて防がねばならない。
     一方、華表・穂乃佳(眠れる牡丹・d16958)は庭の隅で、通夜の動向を見守っていた。
     かたわらには、霊犬『ぽむ』の姿。
    (「……最近。だーくねす……動き……激しいの……です」)
     若いイフリートを気にかけ、武蔵坂学園に協力を求めるクロキバはまるで中間管理職のようだと苦労をしのぶ。
     できれば、若いイフリートも無事に帰してやりたい。
     七湖都・さかな(終の境界・dn0116)は会場の端に立ち、行き過ぎる人々を見守る。
     『旅人の外套』をまとい、付近の偵察に行っていたカツァリダ・イリスィオ(ゾオシンドロフィアス・d21732)が戻ったのに気付き、顔を向けた。
    「(避難経路を確認してきました。経路を増やすため、閉ざされていた場所もいくつか解放しています)」
     これで、大勢の人間が一斉に避難を開始しても、スムーズに誘導を行うことができるはずだ。
     さかなは携帯電話を手に、頷く。
     イフリート対応班からの連絡は、まだ、ない。


     一方、その頃。
     イフリートの対応にあたる3人の灼滅者は、夜の住宅街をあてどなく彷徨っていた。
    「若輩者のイフリートのご機嫌とりをする羽目になるとは……。クロキバは、本当に協力しようという気があるのかね」
    「死者の命を弄ぶセイメイの企みは許せぬでござるが、同時にイフリートの顔も立てねばならぬとは……。ニンともカンとも、厄介な任務でござるな」
     伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)とハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)の言葉に、ゼノビア・ハーストレイリア(神名に於いて是を鋳造す・d08218)も同調する。
    「うーーイフリートさん……ゼノビアも苦手……」
     でも話し合いは頑張りたいと、つぶやく。
     3人はエクスブレインに聞いたイフリート『ザクロ』の特徴を念頭に、石蕗家の周辺を捜索する。
     しかし、数分が経過しても、接触することができない。
    「……いかんな。このままでは、少女が先に蘇ってしまう」
     事前に地図などを用意していれば、3人で区域を分ける等して効率よく捜索することができたかもしれない。
     しかし、イフリートの説得に気を取られていたあまり、捜索についての対策が抜け落ちていた。
     ここでイフリートと接触できなければ、作戦の全体指針そのものが揺らいでしまう可能性もある。
    「八時までまだ数分あるっす。もう一度、周囲を捜索するっすよ!」
     ゼノビアは黒ヤギ人形ヴェロを手に、再度、周辺の捜索を提案。
     その時だ。
     3人の視界の端に、白い獣の姿が飛びこんできた。
     狼に似た体躯。額には鮮紅の角。
     エクスブレインに聞いていた若いイフリート、『ザクロ』だ。
     炎獣は3人の視線に気づき、身をかがめ、警戒するようにこちらを見据えている。
     ――この機を逃せば、次はないかもしれない。
     黎嚇は慎重に進みでると、用意してきた言葉を紡いだ。
    「ザクロ、どちらがアンデッドを先に倒すか、勝負をしないか」
     ハリーもすぐに『殺界形成』を発動し、
    「拙者達もクロキバ殿にアンデッド退治を頼まれたでござるが、それだけではもの足りぬでござる。どちらが上手くアンデッドを退治できるか、勝負といかぬでござるか?」
     2人の言葉を聞いたザクロは唸り、さらに身を低く構えた。
     黎嚇は炎獣の出方をうかがいながらも、慎重に提案を続ける。
    「現場には何名かの人間もいる。彼らや建物を傷つけず、アンデッドのみを倒すというのは如何かな」
     ゼノビアも時間を稼ぐべく、ヴェロを掲げ、言葉を重ねた。
    「オレっちたちはクロキバに頼まれてここに居るっす。それに、こどもの灼滅者に勝負を挑まれて逃げるのは、恥ずかしい事っすよ! イフリートの威厳を灼滅者に示したいなら、勝負に応じるのが一番っす」
     だが次の瞬間、炎獣は灼滅者の提案に応えることなく、牙をむいて飛びかかってきた。
     3人が一斉に回避し、スレイヤーカードの封印を解除する。
    「クロキバ コシヌケ。スレイヤー ナカマ コロス」
     ザクロの反抗期は、『クロキバが仲間殺しの灼滅者と協力するようになったこと』も一因だった。
     ――灼滅者の力など借りずとも、獲物は己ひとりで仕留められる。
     そう考え出奔したところへ、灼滅者たちが『クロキバに頼まれてやってきた』と現れたのだ。
     クロキバが己を信用しなかったこと。
     再び灼滅者に協力を要請したこと。
     なにより灼滅者の言葉を通してそれらを知るに至り、ザクロは完全に怒りにかられていた。
    「ジャマ スルナ!」
    「行かせない……よ!」
     黎嚇を襲う炎の爪を、ゼノビアが身代わりとなって受けとめる。
     こどもとはいえ、相手はダークネス・イフリートだ。
     想像以上に重い一撃に、ゼノビアは思わず眉根を寄せる。
     攻撃を受け、耐えきれるのは、ゼノビアしかいない。
     こうなっては、一刻も早く炎獣の注意がアンデッドに向いてくれるのを願うばかり。
     ――だが、それまで耐えられるかどうか。
    「拙者もちっちゃな頃は悪ガキだったでござる。ザクロ殿の反抗心も、理解はできるでござるよ……!」
     ハリーは即座にゼノビアを癒し、そう投げかけるものの、交渉の決裂はだれの目にも明らかだ。
     黎嚇は別所の仲間たちに連絡を入れようとしたが、再び襲いくるザクロを前に、断念せざるをえない。
     夜の八時が過ぎる。
     鮮紅の角をもつイフリートは3人を睨みつけ。
     灼滅者たちはダークネスを前に、覚悟を決めた。


     夜八時。
     通夜の会場内で待機していた灼滅者7人は、イフリート対応班からの連絡がないことを危惧しながら、その時を迎えていた。
     ――単に連絡を忘れているのか。
     ――それとも、連絡ができない事態に陥ってしまったのか。
     どちらにせよ時間内に連絡がなかった以上、最悪の事態を想定して動くしかない。
     7人はイフリートとの接触・交渉に失敗したものとし、アンデッドの灼滅を自分たちの手で行うよう、方針を切り替える。
     そして。

     変わらず続く読経と、嗚咽と、すすり泣く声が響くなか。
     棺を取り囲んでいた友達のひとりが、「あ」と声をもらした。
    「愛菜の目が、ひらいた」
     ――えっ?
     周囲のクラスメイトがその言葉を確かめるより早く、愛菜が納棺された花をまき散らしながら、身を起こす。
     白い着物に、色とりどりの花びら。
     死化粧を施された少女は美しく。
     アンデッドは微笑を浮かべ、高らかに呪いを唱えた。
    『ス、スススベテ。モエテ シマエ』
    「――させるか!」
     月人の声に続き、棺の周囲で待機していた颯音、カツァリダ、さかな、霊犬『ぽむ』が、一斉にクラスメイトたちを突きとばし、アンデッドの間合いに飛びこんだ。
    「キャアアアァァァ!」
     巻き起こった悲鳴は愛菜に対するものか。それとも、灼滅者たちを巻きこんだ爆発によるものか。
    「あぶないから……はやく……逃げるの……です」
     穂乃佳は呼びかけながら『サウンドシャッター』を展開し、近隣への対策を行う。
     受けた傷をおして立ちあがり、さかなはすぐに『パニックテレパス』を発動。
    「そとへ、逃げて」
     逃げ惑う一般人へ向かい、指示を行う。
    「避難経路はいくつかあります。落ち着いて行動してください」
     カツァリダの準備のかいもあり、指示に従った一般人たちは騒然としながらも、素早く家の外へと避難していく。
     それでも、一部の一般人はすぐには動かなかった。
    「愛菜! 愛菜ごめん! ごめんね!!」
     かすり傷を負った少女が、泣きながらアンデッドと化した少女に手を伸べようとしている。
     生前、愛菜と浅からぬ縁があったのかもしれない。
     だが呪いを吐くこの少女は、愛菜であって、愛菜ではないのだ。
    「落ち着け! お前の知ってるやつは、あんなイカレたこと言うのかよ!?」
    「むきゅぅ……いっしょに……行くのです」
     月人は少女の肩を掴んで引き留めると、穂乃佳と『ぽむ』に避難誘導を託す。
    「ここは危ない、向こうへ!」
     エアンはイフリートを警戒しながらも、残る一般人に声をかけ、家の外へ連れだしていく。
    (「誰ひとり、被害を出したくないからね」)
     二次被害を防ぐためにも、イフリートが来る前に一般人を避難させておきたい。
     一方、颯音は縛霊手を振りかざし、アンデッドと化した愛菜へ想いをぶつける。
    「なんで、命を投げだしたんすか! 君はクラスメイトや、家族にも悼まれるほど愛されてた! やさしい居場所があったはずだ!」
     己が願ってやまないものを、簡単に捨ててしまった少女。
     だが、アンデッドがその問いに答えるはずもなく。
    『セイメイサマノ、タタタメニ。ハイニ ナレ』
     あらゆるものを破壊する呪いが、ふたたび灼滅者たちを襲う。
     月人は攻撃を見切り棺に迫ると、
    「もう一回、眠ってもらうぜ!」
     WOKシールドを構え、力の限り殴りつけた。
     弾き飛ばされたアンデッドは身体を両手足で支え、その状態で、髪を振り乱しながら会場を駆ける。
     華奢な少女が反り返りながら移動する様は、まるでホラー映画を見ているようで傍目にもおぞましい。
    「……死者への冒涜だね」
     エアンはそう吐きすて、捻りを加えた槍で一息に少女の胸を穿つ。
    「この身が血にまみれ、屍の山を築こうとも。異端に堕ち、狂気に侵されようとも――」
     カツァリダは異端審問具『凌遅の鉈』を構え、己に言い聞かせるように、つぶやく。
    「なさねばならない境地と、なけなしの矜持があるのです……!」
     エアンの縫い止めたアンデッドめがけ、カツァリダが鉈を振るい、その腕を落とす。
     さかなは続けて攻撃を行おうとしたところで、霊犬『ぽむ』が激しく吠えているのに気付いた。
     その意を察し、カツァリダを突き飛ばしたところで、
    「…………っ!」
     飛びこんできたイフリートの炎の奔流を受け、弾き飛ばされた。
     同じく月人をかばい『ぽむ』が消滅したのを見届け、穂乃佳は深手を負ったさかなの元へ走る。
    「むきゅぅ……炎わんこさん……おこってる……?」
     撃ちだした霊力で傷を癒し、その身を支えながら後方へと移動させる。
     イフリートの対応に向かった3人の姿は見えない。
     月人は二転三転する事態になかば混乱しつつも、唸る炎獣を睨みつけ、言い放った。
    「躾のなってねえ犬だな。お前の倒すべき相手は、向こうだろ」
     ――もともとは、イフリートにとどめを譲る作戦だった。
     カツァリダは周囲を見渡し、一般人の避難が完全に済んだことを確認。仲間たちへ視線を向ける。
     エアンと颯音は穂乃佳とさかなをかばうように立ちながら、アンデッドへ向かおうとするイフリートへゆっくりと道を開ける。
    『セセセセイメイサマ、ノ、タメニ。モエロ、モエロ』
     両者のやりとりなど、どこ吹く風。
     アンデッドはケタケタと笑いながら、灼滅者と炎獣めがけ、精神を暴走させる呪いをはなつ。
     イフリートは喉の奥で唸るや、身をかがめた姿勢から、突進するようにアンデッドの首に喰らいついた。
    『ヒャーーーーーハハハハハ』
     己の首を食いちぎろうとする炎獣を嗤いながら、アンデッドは影をいくつもの錐のように変化させ、イフリートの身を串刺しにした。
     若いイフリートは退くことを知らないのだろう。
     白毛を鮮血に染めながらも、アンデッドの首に喰らいついたまま、離れようとしない。
    「なんて無茶な戦い方を……」
    「このままじゃ、共倒れになるっすよ!」
     見かねたエアンと颯音が声をかけた時だ。
     傷だらけのハリーが会場へ駆けこみ、バイオレンスギターでリバイブメロディを奏でた。
     みるみるうちにザクロの傷がふさがり、くわえたアンデッドにとどめを刺すべく、地面に叩きつける。
     炎の爪で焼き尽くすと、
     ――オオオオオォォォォォン!
     勝利を告げるかのごとく、高らかに吠えた。
     愛菜の遺体は灰と化し。
    「……あれでは、『擬死化粧』は無理だな」
     気絶したままのゼノビアを伴い、遅れて現れた黎嚇が首を振る。
     目的を達成したイフリートは満足したらしい。
     灼滅者たちを一瞥すると、振りかえることなく、去って行った。


    「それにしても、無茶するぜ」
     月人の言葉に、ハリーが苦笑する。
     怒りにかられたイフリートは、ハリーが手を貸したことには気付かなかった。
     もし気づかれていれば再び怒りを向けられたかもしれないが、クロキバの気にかけていたイフリートが倒れるのを、見過ごすわけにはいかないと思ったのだ。
     だがそれも、動ける身があってこそ。
     ゼノビアが居なければ、ハリーも黎嚇も、あの場で倒れていた。
    「ゼノビア殿。心から、礼を言うでござる」
     意識を取り戻したゼノビアは、ヴェロ人形を手に、小さく、手を振った。

     穂乃佳は、からになった棺へかき集めた灰を戻した。
     二度目の死を迎えた少女へ向け、
    「むきゅ……愛菜さんも……やすらかに……おねむして……ほしいの……です」
     黎嚇、エアン、カツァリダも首を垂れ、祈りの言葉を唱える。
    「迷える魂よ。在るべき場所へと、還れ」
    「どうか、安らかに」
    「Amen」

     すこし離れた場所で。
     唇を噛みしめる颯音を見やり、さかなが告げる。
    「いのって、颯音」
     いつもと同じ、無表情で。
     けれど、はっきりとした声で。
    「愛菜が、今度こそ。『あい』に、気づけるように」
     颯音はさかなを見やり。
     そして、天を仰ぐ。

     星のうつくしい。
     いちだんと冷えこみの厳しい、夜だった。
     
     

    作者:西東西 重傷:ゼノビア・ハーストレイリア(神名に於いて是を鋳造す・d08218) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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