栗じいさんと小熊

    ●クロキバの憂い
    「シロノ王セイメイノアラタナ企ミガ確認サレタ。死体ヲアンデッドニスル儀式ノヨウダ」
     そう語りはじめたサングラスに黒い上着のワイルドなイケメンを、武蔵坂学園のエクスブレインたちが、真剣な眼差しで見つめている。
    「申シ訳ナイノダガ、コレヲ知ッタ若イイフリートガ、事件ノ起コル場所ニ向カッテシマッテイル」
     語っているのは、イフリートの一派を率いるクロキバである。これまでも源泉襲撃事件など、多くの事件解決を灼滅者に依頼してきた彼だったが、再び自ら武蔵坂学園にやってきたのだ。
    「彼ラガ暴レレバ、周囲ニ被害ガ出テシマウノデ、済マナイガ彼ラヲ止メルカ、彼ラガ来ル前ニ、セイメイノ企ミヲ砕イテクレナイダロウカ」
     クロキバはエクスブレインたちをサングラスの奥の鋭い目で見回し、
    「ヨロシク頼ム」
     頭を下げた。
     
    ●栗長老の忌まわしき復活
    「えっ、またクロキバが来てたの!?」
    「ええ、相変わらずイケメンでしたよ。例によって困ってましたけどね」
     灼滅者たちの驚きの声をしれっと受け流したのは、春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)。
    「クロキバの報告の通り、全国各地で白の王セイメイが死体をアンデッド化し、暴れさせる事件が起こります」
     灼滅者たちは頷く。すでに多くの仲間たちが事件解決に向けて動き出している。
    「僕が予知したのは、長野県小布施町での事件です」
     小布施は有名な栗の名産地である。その小布施でも有数の大栗園を経営する農家の長老が亡くなってしまう。
    「その長老……おじいさんが、自宅での通夜の席でアンデッドとして蘇ります。介入しなければ、蘇った長老は手当たり次第に居合わせた一般人を惨殺してしまうでしょう」
     やっかいなことに、大農家の長老だし、小布施の栗栽培の発展に長年尽くしてきた人なので、自宅での通夜といっても弔問客は多い。
    「日本家屋の広ーい座敷をぶちぬいて通夜の席を設けてまして、入れ替わり立ち替わり弔問客がやってきます」
     復活時は夜中だが、それでも親族・弔問客など30人ほどが現場にいる状態である。ただし、一般人は家から出してしまえば、危険はなくなる。
     灼滅者のひとりが訊く。
    「そのアンデッドは、どんな攻撃を?」
    「栗名人アンデッドだけに、復活のために与えられたサイキックエナジーを栗型にして各種攻撃をしてきます」
     栗型!?
     灼滅者たちは目を点にしたが。
    「それより、もうひとつやっかいなことがありまして」
     典は構わず話を進める。
    「クロキバが憂いているように、小布施でもこのあたりの山を縄張りとする若いイフリートが、セイメイの企みを察知して通夜へと押しかけようとしています」
     栗長老アンデッドとイフリートが戦うようなことになったら、一般人や街に甚大な被害がもたらされてしまう。
    「幸い、イフリートは母屋の裏手に広がる広大な栗園にひっかかって、獲り残しの栗を拾うのに夢中になってますので、そこで捕捉するのが無難だと思います」
     セイメイの悪事の気配を嗅ぎつけて付近をうろうろしているうちに、栗の誘惑に負けたのだろう。
    「栗拾いに集中させておき、その間にアンデッドを倒すもよし。手なずけて、協力させるのもよし。説得して引き返してもらうもよし。ただ、子供イフリートなので、先日の源泉防衛戦よりも、言うことをきかせるのは更に難しいと思いますけどね」
     もちろん他の手段を選んでも構わない。どうにかしてアンデッドとイフリートを正面衝突させなければいいのだ。
    「ところで……子供って?」
     灼滅者のひとりが気づいて首を傾げる。
    「子熊イフリートなんです」
     子熊!?
    「一応、人里に降りるときには人型の方が都合がいいってことくらいはわかってるみたいで、小学校低学年くらいの男の子の姿に化けてます。ただし、術が中途半端で、くま耳とかくましっぽが残ってますので、発見は容易いです」
     くま耳にくましっぽ……。
    「あ、皆さん、今、結構可愛いかも、とか思ったでしょ」
     典はちっちっと人差し指を気障に振って、
    「気性は荒いので、下手に怒らせると獣型に戻って、手当たり次第に火を吹きかねませんよ。気をつけてください」
     ラブリーな見かけに油断してはいけないということだ。
    「何かと面倒くさい事件で大変ですが、よろしくお願いします。首尾良く解決したら、小布施で栗をたっぷり味わってきたらどうですか」
     典はうらやましそうに。
    「栗拾いの時期は終わってしまいましたが、秋の限定栗スイーツはまだあるらしいですよ……」


    参加者
    佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)
    御統・玉兎(鳥辺野にかかる月・d00599)
    天上・花之介(連刃・d00664)
    灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)
    ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)
    雨井・戦争(青大将・d04799)
    有馬・由乃(歌詠・d09414)
    神打・イカリ(幻想書庫のヒーロー・d21543)

    ■リプレイ

    ●栗園にて
    「いてっ」
     雨井・戦争(青大将・d04799)は、拾うついでにイガでわざと手を傷つけた。血が滲み、掌に炎が点る。
     背後には、先ほど覗いてきた母屋の灯りが小さく見える。
    「立派なお通夜のようでしたね」
     灯屋・フォルケ(Hound unnötige・d02085)は、ちらりと背後を振り返ってから、落ち葉に埋もれたイガから火ばさみで栗をほじくりだした。栗は割れていて商品価値はなさそうだが、イフリートの餌としては充分だろう。
     予め別に栗を用意し、母屋から遠い方にも撒いてきてある。小熊イフリートに拾わせるためだ。
    「やはり地元では慕われていた方だったのでしょうね。そんな方に汚名を着せるわけにはいきません」
    「だよな、大往生なんだしよ、きっちり成仏させてやんねえと。それにクロキバの頼みとあっちゃなァ……そんでイフリートはどこに……あ」
     戦争は、火を点している手で前方を指した。
    「あれ、そうじゃねえか?」
     フォルケも前方の闇に目を凝らす。
     遠くの木の下に、小さくめらめらと揺れる炎が見えた。戦争のとは違う濃い赤の炎だ。
    「そのようですね」
     ふたりは頷き交わすと炎に足早に近づいていく。

    ●通夜の席
    「栗園の方は上手くやってっかな」
     天上・花之介(連刃・d00664)は、座卓の下でスマホを覗く。イフリート担当の2人からは今のところ連絡はない。
    「栗、いいよな。たまに中の虫にビビるけど」
     佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)は、通夜振る舞いの寿司をちゃっかりいただいている。彼と花之介のプラチナチケットで、灼滅者たちは首尾良く通夜の席に潜り込んだ。故人は学校の社会科見学や職業体験にも協力していたので、子供が紛れこんでも違和感はないようである。
    「小熊さんの栗拾い作戦……絵本みたいだな。ウチの中に不法侵入してるイフリートと取り替えてーくらいだわ」
    「栗か。そんな季節なんだな」
     御統・玉兎(鳥辺野にかかる月・d00599)がしみじみと。
    「イフリートも栗を拾うとはな……焼き栗の火種には困らなそうだが」
     玉兎は、栗園班に手作りの栗菓子詰め合わせを託した。イフリート懐柔に使えればラッキーだし、使えなくとも皆で食べれば良い。
    「それにしても、なの」
     ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)が、開け放たれた隣の座敷にある祭壇の方を見やって。
    「偲んで集まってくれた人たちを襲わせるなんて、酷すぎるの。絶対防いでみせるの」
     ピアットは家族と離れて暮らしているので、白の王の惨いやり口への怒りがよりつのっているようだ。
    「ええ、弔問の方々をなんとしても守らないと」
     有馬・由乃(歌詠・d09414)が座敷を見回す。通夜振る舞いに預かっている者、故人の思い出話に花を咲かせている者、孫なのだろう、うつらうつらしている子供達など、30名ほどが残っている。
     ついと中年女性が立ち上がって、線香の交換だろうか、祭壇の方へと向かった。
     神打・イカリ(幻想書庫のヒーロー・d21543)はその喪服の後ろ姿を目で追って。
    「家もなるべく壊したくないな……んっ!?」
     ふいに、棺の蓋がガタリと動いた。
    「えっ!?」
     祭壇の前に座りかけていた女性は、驚いて動作を止め、その声に弔問客たちは一斉に目を向ける。
     その蓋はガタガタと横滑りするように動き、そして。
     その隙間から、青黒く、骨張った――死者の手が。
     
    ●小熊イフリート
     ぴくり、と少年はくま耳を立てて母屋の方を振り返った。
     少年――小熊イフリート。確かにパッと見は小学校低学年くらいの可愛らしい少年なのだが、くま耳くましっぽはもちろん、伸び放題の赤毛と、晩秋なのに薄汚れた浴衣1枚なのが人外の存在であることを現している。
     丁度この瞬間、アンデッドが復活しようとしていたのだった。その騒ぎが聞こえてはいないのだが、気配を察したのだろう。
     上手く小熊イフリートに接触できた栗園班も、バベルの鎖の作用か、ピリッと感じるものがあった。しかしこういう時のための栗園班である。
    「おっ、ほら見ろよ!」
     戦争が大きな声を上げて、少し先の方に見える大きな栗のイガを指した。実はこの栗、予め餌用に撒いておいたブツだ。
    「あそこにでっけえのがあるぜ!」
     少年はその声に振り向くと、バッと獣じみた動作で地面を蹴り、栗に飛びついた。イガをものともせず実をほじくりだすと、生のままバリバリとかじり、ペッペッと皮を吐き出す。
     その間にフォルケが、
    「おお~立派な栗ですね」
     おだてつつ、更に母屋から遠ざかる緩斜面にパチンコで栗を飛ばし、
    「あ、あっちの方にもコロコロと何かありますよ?」
     転がっていく栗に目を凝らしてみせる。
     少年は釣られてトコトコと栗を追いかけだす。
     ふうー、とふたりは溜息を吐く。どうにかアンデッドの気配から気を逸らすことができたようだ。
     小さな後ろ姿を追いかけつつ、
    「(食べっぷりはワイルドだけど……)」
     戦争は、少年のお尻にピコピコするしっぽにうっかり萌える。
    「(くそっかわいいなっ……でも、こぐまかわいがったりするなんて、俺のプライドがねっ)」

    ●恐怖の通夜
     灼滅者は一斉に立ち上がり、祭壇と弔問客の間に入る。
    「放火犯が棺桶に隠れてたようです! ご近所に避難してください!!」
     再度プラチナチケットを使って司が叫ぶ。
    「さあ、危ないので屋敷から離れてください」
     由乃が祭壇前で腰を抜かしていた女性を助け起こす。
    「お……おじいさんが生き返った……?」
    「違いますよ、放火犯です。さ早く」
     由乃に手を引かれる女性につられるように、弔問客らは通夜の会場からぞろぞろと退避しはじめた。
    「早く屋敷の外へ」
     花之介がやはりプラチナチケットを使い、躊躇する一般人を促す。礼服の効果もあって、治安関係者のように見えているだろう。
     ゆっくりと、棺桶から白装束の人影が起き上がろうとしている。それを一般人の目から隠すように、玉兎が立ちはだかる。
     イカリはお年寄りを支え、司は眠りかけの小さな子供をウットリとあやしながら早足で廊下を行き、座敷は空になった。
     それを見届けて玉兎は殺界形成を、ピアットがサウンドシャッターをかける。
     すぐにバタバタと足音がして、外まで一般人を送っていった仲間たちが戻ってきた。
    「隣の家に行ってもらうことにしたぜ」
     残っていたメンバーは緊張した顔で、祭壇を見つめていた。
     棺桶の中で立ち上がったアンデッドが、こちらにうつろな眼窩を向けていた。白装束に青黒く変色した肌。骨と皮ばかりの体からは、濃い腐臭。
     焼香でお顔を見せてもらったから知っている。つい先ほどまでは安らかな表情で、美しく清められたご遺体だったのだ。それが突然こんなに禍々しい怪物に変化させられてしまうとは……。
     白の王の企みに新たな怒りを覚えながら、灼滅者たちはカードを解除した。
     イカリはベルトにカードをセットし、
    「変身!」
     と叫び、リンゴ色の真っ赤な装甲を纏う。
    「出来るだけ迅速に処理してしまいたいところだな、イフリートとの混戦は避けたいし」
     玉兎が“蒼玉守護せし紅翼”を握りしめながら呟き、仲間たちも頷いてターゲットと対峙する。
     キシャア、とアンデッドが茶色い乱杭歯をむき出して吠えた。

    ●説得
    「……旨いか?」
     戦争が訊くと、落ち葉の上にぺたんと座り込んだ小熊イフリートは、玉兎の栗菓子から顔を上げ、こくんと頷いた。口の周りに栗のカスがいっぱいついていて……。
    「(う……かわええ)」
     戦争はまたうっかり萌える。
    「生より、お料理した方が美味しいですか?」
     フォルケが訊くとまたこくんと頷き、再びガツガツと上品な菓子をほおばり始める。
    「栗って、大事に世話しないとちゃんと実らないそうですよ」
     フォルケが頭上の落葉した栗の梢を見上げて。
    「あなた方の力が強いことはわかってますが、ここで亡くなる方が出たら、もうこの栗園を世話してくれる人はいなくなってしまうかもしれませんね」
     少年の食べるペースが遅くなる。
    「だな。来年も栗拾いしたけりゃ、今夜は辛抱してくれねえか」
     戦争も慎重に語りかける。
    「お前らの敵は、俺らが始末しとくからさ」
     少年は思い出したように母屋の方を振り返り、しばしそちらに目を向けた後、ふたりをつぶらな瞳でじっと見つめた。

    ●栗バトル
     パァン!
    「くっ……!」
     花之介は炎を纏い破裂した巨大栗の勢いに押され、ドン、と壁に背中を打ちつけた。掛かっていた額が頭に落ちてくる。
    「大丈夫か!? やせ我慢すんなよ!」
     司が敵との間に入ってカバーする。
    「いてえけど大丈夫……しかし、ガードしてあるのにこの威力か」
     単体で蘇っただけに、並のアンデットよりは強力なようだ。壁伝いに立ち上がったところにひらりと由乃の癒やしの護符が飛んできて、火傷を癒やす。
    「このような、死者の眠りを妨げる所業は……」
     玉兎がロッドを構えてじりとアンデットに詰め寄る。敵はすでに腕を一本失っているが、怯む様子もなく玉兎に向かって吠える。
    「全力で阻止するまで。死者の尊厳は守らせてもらう!」
     玉兎は敵の腕をかいくぐると、腰にロッドを叩きつけ魔力を流し込む。胴体を貫くようにビシリと火花が走り、アンデッドはぐええと呻いてどぶ色の液体を吐いた。
    「おじいさんに、大事な人たちを傷つけさせるなんて悲しいことはさせたくないの!」
     続いてピアットがギターをかき鳴らすと、音波がアンデッドをよろめかせる。
    「だから……止めさせてもらうの」
     攻撃するピアットは悲しそうな表情。
    「マルス(リンゴの学名)パワーを見せてやる!」
     よろめいた敵に、イカリは突き出した両掌から赤色のオーラを放出する。事前にガイアパワーを得ておいたので絶好調だ。
     ガシャーン!
     アンデッドは祭壇に尻餅をついた。お供えや花が倒れ飛び散る。
    「今だ!」
     回復なった花之介が籠手からシールドを展開させ飛びかかり、同時に司がギターから鋭い音波を放つ。
     が、アンデッドは倒れこみながらも呪文のような言葉を唱えた。すると。
     ぬちゃあ。
    「うっ!?」
    「なんだこりゃ!?」
     前衛に、ねばねばぬとぬとした、黄金色で甘い香りのするものがべっとりとまとわりついた。
    「栗きんとんか!」
     小布施の栗きんとんは餡までサツマイモではなく栗なので、余計粘る。
    「美味しそう……じゃなくて、回復します!」
     由乃が慌てて清めの風を送り、きんとんは消えた。
    「くっ、やるな」
     その隙に立ち上がっていた敵に、玉兎がロッドで打ちかかる。切断された二の腕で受け止められるが、流し込まれた魔力によって残っていた部分が爆発する。
     続けて、素早く踏み込んでいたピアットが槍で脇腹を突き上げ、イカリがライフルから撃ち込んだ魔法光線が耳をもぎ取る。
     ギャアア……!
     痛覚はないはずなのに、アンデッドは悲鳴を上げる。
     由乃は栗長老の遺体でもあるアンデッドを傷つけてしまうことに罪悪感を覚えるが、
    「(それでも故人を偲んで集まった方々を傷つけることは望まれないでしょうから……)」
     気を取り直して護符を握りしめる。
    「焼き栗パーン! は怖いけど、炎で負けちゃいられない!」
     司がダッと畳を蹴ると、炎を宿したギターを叩きつけた。ボウッと燃え上がる音と共に、ギィンと弦が鋭く鳴った。
    「これでどうだ!」
     炎に巻かれた敵に、花之介は投げナイフを模った影を放つ……が。
     ガシュッ!
     何かが撃ち出されるような鋭い音がして。
    「うわっ!?」
     影の中からイカリに向けて撃ち込まれたのは、巨大イガ栗だった。イカリはまともにそれを受け止め、倒れ込んでしまう。
    「いてえっ!」
     無数のイガが赤い装甲に刺さっている。
    「大変、こんなにたくさんのイガ、抜けるかしら?」
     由乃が急いで防護符を貼り付けると、イガは無事に消滅した。
    「大分弱ってるだろうに……」
     玉兎が異形化させた腕で牽制するが、すでに腕1本と耳を奪われ、腹部に大穴も開いているのに、恐怖心も痛覚も持たない敵は棒立ちでうつろな眼差し……と。
    「――お待たせしました!」
     最後方からしゅるりと影が伸びてアンデッドを喰らい、同時に巨大な刀を二刀流で振りかぶった青い人影が斬りかかった。
    「フォルケ! 戦争!」
     栗園班のふたりが戦闘に加わったのだった。
    「ってことは、イフリートに無事お帰り頂けたんだな?」
     司が尋ねると、
    「おう、ここは俺らが何とかするって約束でお帰り頂いたよ」
     戦争がニカっと笑って答える。
    「そんじゃーきっちり片付けないとな!」
     司が気合いを入れ直してギターをかきならし、玉兎が巨大な拳で殴り倒す。倒れたところにピアットが狙い定めて氷弾を撃ち込み、勝負どころと見た由乃も風の刃を巻き起こす。
    「じいさん、今楽にしてやっからな!」
     花之介が散らばっていた座布団を1枚、目くらましに蹴り上げ、
    「ナイス!」
     そこにイカリが一気に踏みこんで斧で座布団ごと敵を叩き切り、同時に脇から回り込んだ花之介が逆手に持ったナイフを一閃。
    「……今度こそ、おやすみ」
     しゅううぅ……と、何か目に見えないものがアンデッドから抜けていく気配を灼滅者たちは感じた。
     ――そしてその後には、動かない栗長老の骸だけが残されていた。

    ●さあスイーツ!
     栗長老の遺体を可能な限り整え、屋敷を片付けて、避難していた一般人を呼びに行き、改めて焼香したり花を手向けたりしているうちに、通夜の夜は明けた。
     解決後にはお楽しみが待っている。やってきたのは老舗栗菓子店のティールーム。開店早々、灼滅者たちは店になだれ込んだ。
    「限定というと、なんだか食べなきゃーという気がしちゃうの」
     ピアットの嬉しそうな言葉に、仲間たちはうんうんと頷く。幸せそうな彼らの前には、巾着しぼりの栗きんとん、新栗ようかん、栗どら、栗きんつば、栗かのこ、和風モンブランetc……。
    「どれも美味しいですね」
     栗長老を傷つけてしまい凹んでいた由乃だったが、スイーツで元気が出てきたようだ。
    「美味いなー事前のガイアチャージとは別腹だぜ!」
     イカリは何故かコーヒー牛乳片手である。
    「部活にお土産買って行きたいのですが、何がいいでしょうね」
     フォルケは色々味見しながら思案中。
    「なあ、栗ごはんも頼んでいいか?」
     花之介がそわそわとメニューを見る。
    「シンプルな焼き栗もいいよな。沢山食べられるしー」
     司も隣からメニューを覗き込んだが、ふと気づいたように顔を上げて。
    「なあ、小熊イフリート、可愛かったか?」
     訊かれて戦争はうっかり鼻の下を伸ばして。
    「まあな」
    「あーいいなー」
     会いたかったらしい。
    「子供のイフリートか……」
     玉兎がしみじみようかんを食べながら。
    「今回は無事に帰ってくれたから良かったけど、それにしてもクロキバは苦労してるよなあ……」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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