木更津デモノイド事件~星葬カルナバル

    作者:西東西


     真夜中十二時。
     高速道路下の薄暗い道路を、そぞろ歩く異形の姿があった。
     眼をもたないのっぺりとした顔つき。
     青い巨躯。
     灼滅者であれば見まごうはずもない特徴的なダークネス。
     『デモノイド』だ。
     2体はしばらく周囲を徘徊すると、やがてなにかを探すかのように、別の場所へ向かおうと方向転換する。
     だが、
     ――キキイィィーーーッ!
     視界の悪い高架下。
     とつじょ前方に現れた異形を避けきれず、走ってきた一台の乗用車がデモノイドに衝突。
     急ブレーキ音に続き重低音が響き、車体が大きくひしゃげた。
     追突された1体は、それをなんらかの『攻撃』ととり。
     ――オオオオオオォォォォン!
     鉄塊のごとき腕を振りあげ、固めた拳で車を殴りつける。
     どっ。
     フロントガラスが真っ白にひび割れ。
     どごっ。
     運転席が、赤黒く染まる。
     ばごっ。
     三度目の打撃で、車が爆ぜた。
     爆炎。
     熱風。
     逆巻く陽炎のなか、2体の異形が咆哮をあげる。
     さらに高架下へ向かいくる3台の車を見つけ。
     2体は蹂躙の限りを尽くすべくアスファルトを踏みしめ、同じ方向へ走りだした。
     

    「『不死王戦争』で灼滅したソロモンの悪魔・アモンの遺産を手に入れたハルファス勢力が、木更津市にデモノイド工場を作っていたことがわかった」
     教室に集まった灼滅者たちの顔を見渡し、一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)が説明をはじめる。
    「当の工場は、ハルファス勢力の動きを察知した朱雀門高校のヴァンパイアによって、すでに破壊されている」
     だが、その結果。
     多数のデモノイドが木更津市に解き放たれ、現在も多くのデモノイドが進行を続けている。
    「デモノイドたちは暴虐の限りを尽くし、このままでは木更津市に多大な被害が出てしまう。よってきみたちに、デモノイドの灼滅を願いたい」
     
    「時刻は真夜中の十二時。木更津市の道路上に、2体のデモノイドが出現する」
     乗用車の衝突を引き金に2体のデモノイドが走りだし、通りがかった車を含め、周囲の破壊活動を開始する。
    「接触推奨タイミングは、『2体が走りはじめた時』だ」
     そのまま走らせてしまえば、新たにやってくる車3台がさらに犠牲になってしまう。
     しかし灼滅者たちの対応しだいで、3台の車に乗る者たちを、救うことができるかもしれない。
    「……ただし。一番初めに衝突した車の運転手は、どうあっても救うことはできない」
     犠牲となった車の爆炎が周囲を照らし、戦場の視界は良好。
     ガソリン引火による大火災のおかげで、3台の車以外には、事件現場に近づこうとする者もいない。

     現場に現れるデモノイドは、腕に『無敵斬艦刀』相当の武器を仕込んだ個体と、『妖の槍』相当の武器を仕込んだ個体の、計2体。
     1体の戦闘力は、およそ灼滅者8人分。
     それぞれ体力・攻撃力が高く、特に長期戦となる場合は、殺傷ダメージの累積に注意が必要だ。
    「また、この2体はお互いの手の届く位置で戦おうとする傾向がある」
     へたをすれば2体の猛攻を受ける可能性があるため、立ち回りにも気をつけるようにと告げ、一夜は説明を終えた。
     
    「私にできるのは、己の視たことを、君たちに伝えることだけだ」
     時おり、ただそれだけの能力に、疑問をいだくことがある。
     どんなに恐ろしい情景も。
     どんなに哀しい結末も。
     ただ、見守ることしかできない。
     だが己の予測で、とり戻すことのできた『日常』がある。
     救われた命がある。
     ――理不尽な『非日常』は、灼滅者たちが討ちはらってくれる。
     ――そう、信じている。
     だから今回も。
     目の前の彼らに託したい。
    「灼滅者たちに願う。どうか私たちの『日常』を、守ってほしい」
     一夜はそう告げ。
     理不尽に抗う灼滅者たちの背を、最後まで見送った。


    参加者
    風宮・壱(ブザービーター・d00909)
    獅堂・凛月(真っ黒魔法使い・d00938)
    ミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)
    ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)
    十三屋・幸(孤影の罪枷・d03265)
    百枝・菊里(アーケインワーズ・d04586)
    メルキューレ・ライルファーレン(春に焦がれる死神人形・d05367)
    鈴木・昭子(そらとぶゆめ・d17176)

    ■リプレイ


     今日のような明日。
     明日のような今日。
     そんな、なんでもない『日常』が、ずっとずっと永遠に続くのだと、思っていた。
     なのに。
     おとずれた『最期』は、あまりにもあっけなく。
     おれは、いったい。
     いつの間に『非日常』の世界に踏みこんでいたというのか――。

    ●星葬開幕
     ごう。と、風がうなった。
     衝撃波のごとき熱風が肌を焼き、いびつに歪んだ車が、二度、三度と爆発をくりかえす。
     灼滅者たちは闇に身を隠し、その一部始終を見ていた。
     顔も知らぬ。
     名も知らぬ。
     縁もゆかりもないだれか。
     けれど、『日常』という世界で、ともに生きていただれか。
     そのいのちが蹂躙され、かき消されるのを。
     最後までまっすぐに、見つめていた。
     そして――。

     夜闇をはらい、真昼かと思うほどに照らされた4車線道路を、2体のデモノイドが走りだす。
     道の先からは、3台の車が向かってきている。
    「暴虐を。止めるわよ」
     短く告げた百枝・菊里(アーケインワーズ・d04586)に応えるように、
    「『いと高き神よ。私は喜び、誇り、御名をほめ歌おう』」
    「『aufbluhen』」
     メルキューレ・ライルファーレン(春に焦がれる死神人形・d05367)とニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)が解除コードを唱え、残る灼滅者たちも次々にスレイヤーカードの封印を解放。
     各々の役目を果たすべく、暗闇から躍りでる。
     真っ先に駆けだしたのは風宮・壱(ブザービーター・d00909)。
     灼熱色のグローブ『Brave Heat』を手に拳を固め、敵を撃つ橙のシールドを展開。
     狙うは、『無敵斬艦刀』装備のデモノイドだ。
    「おまえの相手は、この、俺だ!」
     見定めたデモノイドの横っ面を、渾身の力で殴りつける。
     しかしこの程度では、デモノイドは足を止めようとはしない。
     十三屋・幸(孤影の罪枷・d03265)は状況を見かね、人払いより、足止めを優先することを選んだ。
    「これ以上、殺させない……!」
     壱とともに『無敵斬艦刀』装備のデモノイドに立ちはだかり、WOKシールドで殴りかかる。
     ――オオオオオオォォォ!
     刀持ちのデモノイドはそこでようやく灼滅者2人に向き直り、足を止めた。
     異変に気付いたもう1体が振りかえった、その時。
     黒のドレスをひるがえし、『妖の槍』装備のデモノイドへ迫ったのはミルドレッド・ウェルズ(吸血殲姫・d01019)。
     死角から咎人の大鎌を振りかざすや、一閃。
     目にもとまらぬはやさでデモノイドを切り刻む。
    「キミは、こっちだよ!」
    「私たちが相手です……!」
     続くメルキューレは白い法衣をなびかせ、影業を操る。
     縛りあげた槍のデモノイドめがけ、黒尽くめの魔法使い獅堂・凛月(真っ黒魔法使い・d00938)は妖の槍を振りはらった。
    「ほぉら、凍れ」
     放たれた妖気は凍てつく刃となり、青きデモノイドの身体を貫き、凍結させていく。
     菊里はタイミングを見計らい、魔導書に記された禁呪を詠唱。
    「炎はその身に宿り、内より喰らい尽くせ……!」
     浮かびあがった魔法陣が収束すると同時に、2体のデモノイドが同時に爆発する。
     槍を手にしたデモノイドは、延焼する身をそのままに。
     低く身を構え、灼滅者たちに牙をむいた。

     完全に足を止めた2体のデモノイドの横をすり抜け、鈴木・昭子(そらとぶゆめ・d17176)とニコはさらに走る。
     視界には迫りくる3台の車。
     灯されたヘッドライトから察するに、一台目と二台目が前後に続き、もう一台は、すこし距離をおいて走っているようだ。
     夜闇に沈む青い異形は、車内からはそれがなんであるか。判然としないのだろう。
     爆炎も単なる車の事故と思っているのか。3台が停車する気配はない。
    「――止めます」
     昭子が小さく宣言し、ESP『殺界形成』を展開。
     そのまま走りくる車の前で両手を広げ、できうる限り、つよく。腹の底から、声を張った。
    「この先へ、行ってはいけません!!」
     ヘッドライトに浮かびあがった少女の姿に気づき、先頭を走っていた車が急ブレーキをかける。
     ゴッと鈍い音が響き、後続の1台が追突。
    「おい、テメエ! なに止まってんだ!」
     後続車から顔を出した運転手が叫ぶも、その時、前方の車の運転手は言い知れぬ恐怖に襲われ、震えあがっていた。
     ESPの効果を確かめた昭子が道をよけたのを確認すると、ハンドルをきり、急加速。
     あっという間に遠ざかっていく。
     追突した運転手は最初こそ破損した車のことで激怒していたものの、すぐに殺気を察し、怖気づきはじめた。
     だが、その運転手が退避するのを確かめる間もなく、残る一台がスピードを落とさぬまま、昭子の横を通り過ぎていった。
     デモノイドと対峙していた壱がそれに気づき、『割り込みヴォイス』で叫ぶも、
    「危ない、逃げ――ぐぁっ!」
     一瞬の隙をつかれ、刀のデモノイドの超弩級の一撃をくらい、地面に叩きつけられてしまった。
     一方、槍のデモノイドは、間合いに入りこんできた車にすぐに気付いた。
     得物を大きく回転させ、周囲にまとわりついていた灼滅者たちを力尽くで薙ぎはらう。
    「……ッ!」
     身を挺して車への攻撃を受けたニコが、そのままボンネットに激突。
     車はそこでようやく、急停止する。
    「うわ、わ、わああああ!!!」
     人をはねたとでも思ったのだろう。
     車から飛びだしてきたのは、まだ若い、複数の少年少女たちだった。
     眼前に佇む青い異形と、ボンネットに沈むニコ。そして昭子の殺気を受け、ようやく、その場が異質な雰囲気に包まれていることを察し、後ずさった。
     しかし、
     ――オオオオオオォォォォン!
     咆哮があがり、刀のデモノイドが壱と幸に猛攻を加える。
     デモノイドの攻撃は、狙い通り確かに、2人に集中していた。
     だがその作戦が、2人の傷を増やす結果につながったのも、また事実だ。
     おびただしい量の血を流し、それでも立ちあがる灼滅者たちを見て、少年少女は車を置いて走りはじめた。
    「さあ、はやく! 行ってください!」
    「こっちよ! 急いで!」
     空飛ぶ箒にまたがった菊里が動こうとしない者の手を掴み、無理やりその場から引きはなす。
     昭子は彼らの後ろ姿を見届けると、マテリアルロッドを手に仲間たちの元へ駆けた。
     ここから先が、本当の、戦いとなるのだ。

    ●『日常』と『非日常』のはざまで
     8人の臨む戦場は、2体のデモノイドが存在する。
     デモノイド1体の戦闘力は、およそ灼滅者8人分。
     圧倒的な戦力に抗うために彼らがたてた作戦は、まず槍のデモノイドを落とし、刀のデモノイドへ総力戦を挑む。というものだった。
     刀のデモノイドを抑えるためについたのは、ディフェンダーの壱と幸。
     2人は戦列に加わった昭子の盾と癒しを受け奮闘するも、怒りにかられ、絶え間なく繰りだされる重い攻撃を前に、早くも殺傷ダメージが蓄積しつつあった。
     それでも、幸は果敢に攻めこんだ。
     バスケットで培った身のこなしで攻撃を避け、影業の腕でデモノイドを捕縛する。
    「いいぞ十三屋! ……くらえ!」
     壱は痛む身体をおし、拳に宿した雷を叩きこむ。
     はじける電撃に刀のデモノイドはたたらを踏むも――、
    「!?」
     声をあげる暇もなく、再び壱に鉄塊がくだる。
    「風宮先輩!!」
     砕けたアスファルトに沈む壱をかばうように、幸がWOKシールドを構えた時だ。
    「そこまでよ!」
     菊里がとっさに縛霊手を掲げ、霊的因子を強制停止させる結界を構築。2人を援護する。
    「回復は、お任せください!」
     同じく駆けつけた昭子が、すぐにリングスラッシャーで壱を癒す。
     壱の体力も限界に近づきつつあったが、体力の低い幸も、油断のならない状態だ。
    (「それでも、怖いとか、言ってられない。僕らは、託されたのだから……!」)
     幸はここ最近、たて続けに起こる事件に思いつめていた。
     この作戦に参加したのも、心の内に焦りがあったからだ。
     ――仲間を守り、敵を斬るためなら。戦闘不能になるまで、意地でも倒れない。
     ――こんなところで、倒れるわけにはいかない。
     灼滅者としての、義務感。
     そしてダークネスに対する敵愾心が、ただただ、幸をつき動かす。
    「ここは、通さない!」
     WOKシールドを振りかぶり、幸はふたたび、デモノイドに立ち向かった。

     4人の奮闘は、槍持ちのデモノイドに挑む灼滅者たちの目にも入っていた。
     だがここで感情に流され、隊列を崩せば、以降の作戦が崩壊してしまう。
    「2人の負担を軽くするためにも、速攻で決めるよ!」
    「確実に、当てていきましょう……!」
     ミルドレッドとメルキューレは仲間たちを鼓舞しながら、繰りだされた槍を大鎌で受け流す。
     『吸血殲姫』が非物質化させた破邪の聖剣を振りおろせば、続く『死神人形』が、影業の触手で槍のデモノイドを絡めとる。
    「危険な武器は、落とすに限るってね」
     日本刀をひるがえし、凛月が槍を狙った一撃をはなつも、逆に、デモノイドに間合いを詰められてしまう。
     鋭く舌打ちをしたニコが即座に凛月の前に飛びこみ、WOKシールド『Hindernis』を構えた。
     蒼い魔方陣の障壁が、捻りの加えられた一撃を受け流し、
    「――クソが」
     そのまま、裏拳を食らわせるようにデモノイドを殴りつける。
     槍持ち相手には最初から複数の灼滅者がつき、攻撃対象をある程度分散できた。
     だが、幸と壱はたった2人でその攻撃を受け続けているのだ。
    (「2人の負担は、俺を遥かに上回る」)
     武器による個体差こそあれ、デモノイドの力量はほぼ同じ。
     槍のデモノイドを攻撃する中で唯一ディフェンダーとして立つニコも、すでに疲労の色が濃い。
     それでも、ニコは隙あらば仲間の攻撃を受け、傷を一手に引き受け続けた。
     ――声や態度には出さずとも。仲間たちを、信じている。
     無謀な戦いではあっても、ともに戦い、背を預けられる仲間がいる。
     その事実が、『星狩り』を奮い立たせる。

     決定打にかける攻防が続いた後、ついに、その時は訪れた。
    「これで、終わりだよ!」
     ミルドレッドの大鎌が閃き、槍のデモノイドに断罪の刃を振りおろす。
     間断なく攻め続けられたデモノイドは、その場に膝をつき。
     大地を揺るがして倒れたかと思うと、一瞬にして溶け消えていく。
    「まずは1体め、灼滅完了!」
     ミルドレッドの宣言を聞き、仲間たちは回復もそこそこに、刀のデモノイドの元へ走る。
     幸はすでに倒れ、昭子の手で後方へ退避させられている。
     菊里が壱を援護することでなんとか抑えこんでいたが、それも、ここまでだ。
    「ぐあっ……!」
     菊里をかばい弾き飛ばされた壱が、倒れた先で、気を失う。
     昭子はいまだ立ち続ける仲間たちに癒しと盾を与え、倒れた2人のそばにたたずみ、行く末を見守る。
     4人倒れたなら、その時は撤退するという取り決めだ。
     しかし、ここまで戦い抜いたのだ。
     退こうという意思をみせる者は、だれひとり居ない。
     ――悔やむのも悼むのも、全部後でできる。今、まだ間に合うもののために、全力を尽くす!
    「だいぶ傷を負わせてあるわ! もうひと押しよ!」
     菊里は縛霊手の拳を開き、浮かびあがった魔法陣を握りこむ。
     発生した霊的結界が刀のデモノイドの動きを阻害したところへ、
    「じっとしていれば、すぐにすむよん」
     駆けつけた凛月が、さらに影業でデモノイドを戒める。
     ニコは反撃を繰りだそうとするデモノイドに『Hindernis』で殴りかかり、なおも、敵の注意をひき続けた。
     鉄塊ごとアスファルトに叩きつけられ、口の中にひろがる血の味を噛みしめながらも、最後の気力を振り絞り、叫ぶ。
    「ライルファーレン!」
     メルキューレの掲げた純白の大鎌は、まるで月のように美しい。
     デモノイドであり。
     かつて、人間であったかもしれない、者たちへ。
    「せめて、安らかに眠れますように」
     つぶやき、『春に焦がれる死神人形』は祈りとともに、断罪の刃を振りおろした。

    ●星葬完了
     青い巨躯2体がすべてが溶け消えたのを見届け、菊里は仲間たちに回復を施した後、周囲の安全を確認にまわった。
    「アモン……。断ち切りたい因縁ね、本当に」
     乗り捨てられ、道路に残された車を見やり、まだまだ調査が必要そうだと息をつく。

     ニコは傷による全身の痛みに耐えつつも、仲間たちの姿があることを確認し、安堵していた。
     結果は、万全ではなかったかもしれない。
    (「しかし、最善は、尽くした」)
    「……亡くなった、ひとは?」
     気絶状態から目覚めたばかりの幸が問うのへ、ニコは静かに首を振って応える。
     幸は犠牲者に『走馬灯使い』を使うことを希望していた。
     だが、遺体は燃え、ESPが発動しないのは明らかだ。
    「ごめんなさい……」
     顔を覆い、泣きだしそうな声でうめく幸の声を聞きながら、隣に横たわる壱は満天の星空を見あげる。
    (「……少しでも、ひとに近い間に、送ってやれたかな」)
     ――こんなことしかできなくて、ゴメン。
     せめて、だれかの痛みや哀しみが和らいだならと、壱は願う。

     最初に爆発した車の火はようやく勢いをなくし、あたりに闇を呼びもどしつつあった。
    「すべてを救えるとは思わないし、助からないひとがいるのは仕方ないとは、思う。……けど、力不足は、悔しいねえ」
    「……助けられなくてごめん。安らかに眠って」
     淡々と。けれど悔しさをにじませる凛月の言葉に続き、ミルドレッドは胸の前で十字をきり、静かに、瞼をとじた。
    (「予知が与えられていても、私たちに助けられるのは、ほんの一握りの命だけなんですよね」)
     制服姿に戻ったメルキューレは胸中でつぶやき、犠牲となった者たちへ祈りをささげた。

     昭子は燃え続ける車と、残されたデモノイドの拘束具を見やり、唇を噛みしめる。
    (「あなたたちもわたしも、『非日常』だからこそ、生きていて。そこに、違いなんてないのに」)
     いったい、どこで道が違ってしまったのか。
     ――あなたたちがどう生きたかったのか。聞くことができたら、よかったのに。
     だが、その願いはもう、二度と叶うことはない。
    「どうかこれ以上は、迷いませんよう」
     昭子は一般人とデモノイドへ向け手をあわせ、つぶやく。
    「さようなら」

     弔いを終え、灼滅者たちはひとり、またひとりと、その場を後にする。
     死した一般人。
     消滅したデモノイド。
     『日常』と『非日常』のはざまにも、死はひとしく訪れ。
     月と星は、やさしく光を降りそそいでいた。
     
     

    作者:西東西 重傷:風宮・壱(ブザービーター・d00909) ニコ・ベルクシュタイン(花冠の幻・d03078) 十三屋・幸(夢の終わりの後日談・d03265) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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