無名彷徨　Baleful Encounter

■リプレイ

●命、狩るモノ
「話は、あたしに勝てたら聞いたげる！」
　六六六人衆、八波木々・木波子（ははきぎ・きばこ）が巨大化した腕を掲げ、ロード・ナナシの間合いへと飛びこむ。
　繰りだされた腕を寸でのところでかわし、ナナシは瞬時に反撃にかかった。
　刃と化した腕を振りおろし、避けた木波子へ追撃を仕掛ける。
　しかし、木波子は鞭のようにしなる尾を跳躍して回避。
　死角へもぐりこむと、持ち替えた断罪の刃で次々と青い巨躯を切り刻み、圧倒していく。
「ダークネス同士の戦い。やっぱ、すごいね……」
　天羽・桔平（信州の悠閑神風・d03549）はダークネスに気付かれないよう身を隠しながら、眼前でくりひろげられる戦いに息をのむ。
　一方、如月・春香（クラッキングレッドムーン・d09535）は冷めた目つきで木波子の姿を追っていた。
　春香は今回ただ一人、木波子灼滅を目的として参加した灼滅者だ。
（「私なら……。人間にすがりつかなければ指一本動かせない存在に成りさがるくらいなら、灼滅して欲しいと願う。でも――」）
　仲間たちが目指すのは、『闇堕ちした七士・姫の救出』。
　そのためにはエクスブレインの予測にしたがい、六六六人衆が撤退するのを待たなければならない。
「如月殿」
　『目的に反する行動』を行わないよう、事前に、皆に確認していた阿久沢・木菟（灰色八門・d12081）が声をかける。
「『ギヨたん』が、気になりますか？」
　続けて問いかけた小鳥遊・優雨（優しい雨・d05156）は、春香とは反対に、最初から七士の救出だけを目的として参加した灼滅者だ。
「ふふっ、ご心配なく」
　中途半端な選択をし、灼滅も救出も叶わぬ事態となるのは、春香とて望んではいない。
　ゆえに、この場に来る前に、仲間たちと意思統一をすると誓った。
　その時だ。
「見てください！」
「デモノイドです……！」
　注意深く戦闘を見守っていた式守・太郎（ニュートラル・d04726）と桜庭・遥（名誉図書委員・d17900）が、鋭く声を発した。
　――オオオオオォォォォン！
　ナナシの呼び寄せたデモノイド２体が戦闘に加わり、壁となって立ちはだかる。
「おまえたちはヤツを抑えろ！」
　木波子はすかさず虚空から刃を招くも、隙をついて迫ったナナシが、渾身の力で木波子を殴り飛ばす。
　木波子は頭を振り立ちあがると、声をあげて笑った。
「アッハハハハ！　朱雀門の吸血貴族は、ホントにデモちゃんたちを飼いはじめたんだ！？」
　次の瞬間、一瞬でデモノイドの足元に迫ると、その腕を一撃で斬り落とした。
　とどめに巨大化した腕で頭部をひねり潰し、１体が完全に沈黙。
　木波子は追い撃ちを狙うナナシの猛攻をあざ笑うかのようにかいくぐると、一気に距離をおいた。
「帰ってあんたの飼い主に伝えなよ！　あたしたちと遊びたいなら、とびっきり面白いコトしようってさー！」
　一方的に告げるなり、木波子はあっという間に、夕暮れの街に姿を消した。
「行った行った。出番だ」
　スレイヤーカードの封印を解放し、ハノン・ミラー（ダメな研究所のダメな生物兵器・d17118）が早々と立ちあがる。
　かたわらに立つ、卜部・泰孝（大正浪漫・d03626）が重々しく頷き、
「いざ。ロード・ナナシの闇祓いと参ろうぞ」
　８人は目線を交わし、それぞれの位置についた。

●闇、堕ちしモノ
「チッ。これだから殺人狂は……」
　絶命し、液状化したデモノイドを前に、ロード・ナナシは短く吐き捨てる。
　気乗りのしない任務だったとはいえ、ああも一方的に交渉を蹴られるとは、さすがに想定外だ。
　ひとまず、『ＨＫＴ六六六』とみられる六六六人衆の返答は手にした。
　急ぎ、その場を後にしようとするも、
「よう、ロード・ナナシ。貧乏くじを引かされたみたいだな」
　黒いシャツに、細身のパンツを合わせた泰孝が姿を現した。
　己の内に眠るダークネスの口調を真似、進みでる。
　一か八か。
　ナナシが『ロード・ウラベ』の姿に反応したなら、その隙に乗じ、仲間たちがデモノイドに奇襲をかける手はずだ。
　しかし――。
「殺れ」
　命令を受けたデモノイドが、即座に腕の砲台から死の光線をはなち。
　ナナシは刃と化した右腕を振りかざし、泰孝に斬りかかった。
　『ロード・ウラベ』はロードたちの会議に出席せず、すぐに朱雀門高校を出た。ゆえに、ナナシはウラベのことなど、ほとんど覚えていなかったのだ。
　もっとも、泰孝とて己の策を過信していたわけではない。
　あらかじめ不意打ちを警戒していたおかげで死の光線をかわすも、たて続けに繰りだされたナナシの会心の一撃からは、逃れられなかった。
「くっ……！」
　抉られ、血に濡れた身を押さえ、後ずさる。
「卜部」
　ハノンはすぐにバトルオーラを癒しの力に転換。泰孝の傷を癒した。
　奇襲失敗となれば、正攻法で押しきるしかない。
　春香はすぐに天星弓を構え、攻撃を援護すべく桔平へ癒しの矢をはなつ。
「いきます」
「確実に当てていくよ……！」
　太郎は雪のように白く輝くオーラを。
　桔平はマテリアルロッドを手に、デモノイドへ向け先陣をきった。
　――オオオオオ！
　怒涛の連撃と魔力の奔流を同時に受け、青き異形が怒りの声をあげる。
「だれかと思えば、武蔵坂の灼滅者どもか」
　ロード・ナナシは現れた灼滅者たちを見やると、デモノイドへ向けられた木菟の一撃をかばい受けた。
　優雨は仲間たちの合間をぬい、舞うようにクルセイドソードを繰りだす。
　非物質化した刃が、デモノイドを霊的に貫き。
　続いて遥が敵の間合いへ飛びこむと、
「今回は七士先輩の救出が目的です。……申しわけないですが、あなたには、退場してもらいます！」
　炎を宿した解体ナイフで、デモノイドの身を深く切り裂いていく。
「ったく。六六六人衆やら、灼滅者やら。今日は面倒の多い日だ……！」
　ナナシは剣先を持つ尾を振りあげると、勢いに乗せて灼滅者たちを薙ぎはらった。
　ビハインド『千秋』と遥が、とっさに春香と泰孝の攻撃を負う。
「デモノイドじゃダメだ。今までロードを見てきたから、こんな単細胞は見てて面白くない」
　ハノンはそうぼやきながら、自らの背に『炎の翼』を顕現させ、傷ついた仲間たちを癒していく。
「なら、お望み通りおまえから殺してやるぜ！」
　ナナシは再び尾を振るうと、ハノンを捕えるべく鞭剣をはなつ。
　しかし、切っ先がハノンに届く寸前
「千秋！」
　春香の声を受け、ビハインドが再び身を投げた。
　強力な締めあげをくらい、その姿が引き裂かれ、かき消えていく。
　奇襲が失敗した今、デモノイドロードは灼滅者たちがデモノイドに集中しているのをいいことに、好き放題に攻撃を仕掛けていた。
　このまま野放しにすれば、いたずらに仲間の傷がかさむ一方だ。
（「……あのデモノイドも、だれかが闇堕ちした姿なのでしょうか」）
　同じ寄生体を身に宿す者として、デモノイドのことも気にかかる。
　だが遥は意を決し、ナナシの前に進みでた。
「はじめまして。わたしは武蔵坂学園のデモノイドヒューマン、桜庭遥です」
　礼儀正しく名を告げ、ロード・ナナシを見あげると、
「ダークネスに用はありません。七士先輩に、話があるんです」
　きっぱりと、言いはなった。

「先輩は学園の仲間を救うためにデボネアと交渉して、闇堕ちしたと聞きました。戻ってきてください！　そして、ほかの学園の仲間を救うために、協力してください……！」
　呼びかけながら戦う遥の声が、剣閃の音が、仲間たちのもとに響きわたる。
　――デボネアの力を受けたロードを前に、遥ひとりで、どれだけ耐えられるというのか。
　不安をうちはらいながら、残る灼滅者たちはデモノイドへの攻撃に集中する。
　木菟がデモノイドの腱を絶ち、足取りを鈍らせたところへ、
「卜部殿、今でござる！」
「承知」
　泰孝は縛霊手に内蔵した祭壇を展開し、青い異形の周囲に霊的結界を構築。デモノイドの動きを封じこめる。
　再び春香が矢をはなち、桔平の技の狙いを研ぎ澄ますと、
「まかせて……！」
　クルセイドソードに炎を宿し、桔平がデモノイドへ刃を叩きつけた。
　延焼する炎をそのままに、ついにデモノイドが膝をつき。
　白いマフラーをなびかせた太郎が、非物質化させた『ジャスティスソード』を振りはらう。
　優雨はデモノイドの死を見届けるより早く反転し、ナナシの元へかけた。
　だが、
「七士先輩が闇堕ちしたのも、わたしたちを信じていたから――」
「だまれ！」
　ナナシの声とともに、弾き飛ばされた遥の身体が、優雨の足元に落ちた。
　引き裂かれた小さな身体は、そのままぴくりとも動かず。
　優雨は佇むロードを見据え、口を開く。
「姫ちゃん、迎えに来ましたよ」
　急ぎ駆け寄ったハノンに遥をまかせ、無敵斬艦刀を握りしめる。
「もっとも。姫ちゃんに、拒否権はありませんが」
　息をつめ、地を蹴る。
　語るよりも強く、優雨は一撃に想いをこめ、超弩級の一撃を叩きこんだ。

●未来の新星
「ひめくん、なんでそっち側にいるの？　おかしくない？」
「仲間や一般人を助けるために堕ちたあなたを、学園の皆が待っています……！」
「拙者はあの局面で闇堕ちを選んだ意志を尊敬するでござる。故に、帰ってきて欲しいと思うでござる」
　桔平、太郎、木菟の３人が、攻撃とともに説得の言葉をなげかける。
「彼の苦境、されど仲間信じ得た結果は枯樹生華。ならば、次に貴殿が行うは、その身支配す闇、祓う事よ」
「卜部先輩も、あなたと一緒に闇堕ちしました。そして今、ここにいる。それが、答えです……！」
　二度、闇に堕ち。そのたびに、学園の灼滅者に救われた泰孝。
　闇に堕ちた者を、救うことのできなかった、太郎。
　それぞれの言葉が、攻撃とともに、重い一撃となってナナシの身を貫いて。
　連戦となるナナシは、ここへきて徐々に疲労がかさみつつあった。
　そこへ、積み重ねられた灼滅者たちの言葉が、『ロード・ナナシ』の意識を揺り動かす。
「……だまれ、だまれ！」
　抗うようにナナシは再び尾を繰りだすも、これまで何度も仕掛けてきた攻撃だ。
　灼滅者たちは動きを見切り、機を逃さず一気に攻勢をかけていく。
「ダークネス如きが……。邪魔を、するなっ！」
　春香は彗星のごとき威力を秘めた矢をはなち、ナナシの付加効果を撃ち破る。
　説得の言葉を持たぬ春香は、仲間たちを信じ、己の役目を全うするのみ。
「俺はロード・ナナシだ……！　おまえたちに用はない！」
　ナナシは声を荒げながらも、灼滅者を狙い、剣を振るい続けた。
　しかし、ただひたすらに仲間の傷を癒し続けていたハノンが、ふいに、告げる。
「あなた、『デモノイドロード』っていうには、いい子ちゃん過ぎるんじゃない？　ママのおつかいなんかに、一生懸命になっちゃってさ」
　エクスブレインに予測を聞いた時から、気になっていたのだ。
　他のロードにくらべ、ナナシの行動はどこか、積極性に欠ける印象があった。
　こうして相対して、ハノンには、はっきりとわかった。
「あなたはデモノイドロードなんかには相応しくないんじゃね？　つまり、灼滅者のほうが、何倍も似合ってるってことなんじゃね？」
「なん……だと……！」
　動きを止めたナナシに気付き、太郎も、ハノンの言葉の意を察した。
（「確かに。彼の行動はあくまでも『おつかい』を実行しているにすぎず、『自分の意志』で悪事を起こしているわけではない……！」）
　そうとわかれば、さらに揺さぶりをかけるまでだ。
「今のあなたは強い。でも、意志も覚悟も無い力でなにを成すつもりですか！」
「姫ちゃん。姫ちゃんがなにを思い、なにを覚悟して挑んだのかはわかりませんが。今の自分に満足ですか？　朱雀門の下僕であることに満足ですか？」
　優雨は剣を携えたまま、畳みかけるように問いかける。
「満足なら、ここで灼滅されてください。満足でないなら、遣り残した事があるなら。しっかり、足掻きなさい……！」
　言葉だけでは届かない。
　力だけでは、救えない。
　それがわかっているからこそ、優雨は一撃、一撃。問いかけるように無敵斬艦刀を叩きつけた。
「こっち側に戻ってきてよ！　みんな、ひめくんが戻ってくるの、待ってるんだよ！　自分が誰だか思いだして！　ひめくん！！」
　己が何者かを思い起こすよう。
　桔平はあえて名前を呼び続け、炎の奔流を撃ちはなつ。
「拙者は、あの場で闇堕ちを選択できたような心の強い相手を、敵に回すのはごめんなんでござるよね」
　爆炎の魔力を込めた弾丸をばらまき、木菟が告げるのは心からの言葉だ。
　圧倒的な敵を前に交渉を続け、冷静に、仲間を守りきった精神力。
「七士殿の魂には、別人格を打ち倒すだけの力が。大切な者たちへの想いが、まだ、残っているはずでござる……！」
　奮いたつ仲間たちを癒しながら、ハノンはむき出しのままの己の腕をさする。
「いい加減に戻ってきてくれなきゃ、貧血になっちゃうかもしんない。寒い寒い」
　「ねえ？」と気絶した遥に語りかけるも、少女の目覚めはまだ遠い。
　けれど彼女が起きていたなら、きっとこう言っただろう。
　――七士先輩。いっしょに、学園に帰りましょう。
　戦いながら様子を見守っていた春香は、ふいに「ふふっ」と笑みをこぼした。
（「説得の言葉なんてひとつも浮かばなかったし。こんなに足並みがそろわない状態で、救出なんてできるのかしらと思っていたけれど」）
　春香の見解だけでは、ナナシの違和感を見抜くことはできなかった。
　同様に、この中のだれかの言葉だけでは、こうしてナナシの動きを止めることさえ、できなかったかもしれない。
　だからこそ今なら、救出も叶うかもしれないと、感じる。
「姫ちゃん。みちを見失ってどうしようもないときは、『無事カエル』と三べん唱えるといいらしいですよ」
「そうそう！　無事カエル×３！」
　優雨の言葉に、桔平も続く。
　いつも涼しい顔の。けれどひと一倍心配性の、エクスブレインのおまじない。
「汝、思う者あり。ならば、我等はその思い果たせるよう手を貸そう」
　泰孝は救われた経験者だからこそ、信じた。
　声は、届く。
　そして必ず、姫は自分たちの手を掴む。
　泰孝は姫の意志に賭け、縛霊手を掲げた。
「残るは七士殿、貴殿の思い次第。今一度、力振るわれたし……！」
　網状の霊力を放射し、その身をしっかりと戒め。
　クルセイドソードを手に、優雨がそっと微笑む。
「友梨ちゃんがお弁当を作ってくれたんです。戻って、一緒に食べましょう」
　非物質化した剣が、ナナシの――七士姫の霊魂と霊的防護だけを、切り裂いた。
　青い寄生体に包まれていた身体が、しだいに、ひとのはだ色を取り戻していき。
　もうろうとする意識のなか。
　脳裏をよぎるのは、やはり、恩人の少女の名で。
「ねめしす……おじょうさ……ま」

　そうして、『ロード・ナナシ』と呼ばれたダークネスは、博多の街から姿を消した。
　
　

作者：西東西	重傷：桜庭・遥（名誉図書委員・d17900）  死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年12月5日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 33／感動した 0／素敵だった 3／キャラが大事にされていた 3
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