殲術病院の危機~病院で滾っちゃお☆

    ●殲術病院にて
     東北の背骨、奥羽山脈の山懐に抱かれた場所に、その殲術病院はある。
    「ハルファス軍の襲撃か!? なしてここに」
    「考えるのは後にすっぺ。とにかく戦闘態勢ば整えねば! 」
    「んだな、まずは近くの病院に援軍を頼まねえと……」
     院内を、武装した医師や看護師、患者達がにわかに駆け回り始める中、ひとりの医師が他病院に連絡をするべくパソコンの前に座る……が、慌てて立ち上がり、
    「ダメだ! 援軍は来ねえ。却って周辺の病院……いんや、全国の病院から援軍の求めが入ってる状態だ!」
    「何だと? そうか全国一斉攻撃っつーことか……那須以来動きが無いと思ってたら、機会を窺ってただな」
    「どうすべ?」
    「こうなったら籠城して迎撃だ……隔壁を閉めろ! なに大丈夫、援軍が無くてもこの病院は簡単に落ちたりはしねえ……それにしても、妙な敵だな」
     窓から覗いた山中の暗闇には、ふよふよぷにぷにと病院に近づいてくる、数十体のピンク色の浮遊物が見えた。

    ●ピンクの襲撃部隊
     そのふよふよぷにぷにピンク色の最後方には、ひとりの女性が仁王立ちしていた。ボンキュッボンのナイスバディに、緩くアップにしたロングヘア。シースルーのえんじ色のブラウスに黒のタイトスカート、ハイヒール姿の美女である。しかし何故かそこに白衣を羽織り、聴診器を首にかけ……。
     そう、彼女は女医のコスプレをしているのである。しかも、男性諸氏が妄想する”えっちな女医さん”というヤツの。
     女医もどきはニヤニヤして。
    「病院! いいわあ~妄想るわあ~滾るわあ~」
     彼女は、まあ言うまでもないが淫魔で、設定・萌子(したさだ・もえこ)という。
    「医師と看護師、看護師と患者とか、カップリングも魅力だけど、やっぱりシチュエーションに滾るのよね。病室に診察室に院長室。ナースステーションや屋上なんかも萌えだわ~!」
     萌子は、ふよふよぷにぷにピンク色……眷属のピンクハートちゃんたちに指示を与える。
    「さあ、行ってラブポイズンを撒きまくりなさい! そして滾りを病院中で繰り広げさせるのよ!」
     ハートちゃんたちは指示を受けると、ふよふよぷにぷにと病院へと迫っていく。萌子自身は、手下の怪しい攻撃により病院が混乱に陥ったところで、おもむろに参戦するつもりのようだ。
    「ふふふ、この病院を落とせば、晴れてスキュラ様の正式な配下になれる。そうすれば、ああいうことやこういうことや……滾りのままにやり放題よ!」
     
    ●武蔵坂学園
    「何なの、そのシチュ萌えの困ったオバサンは」
      黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)は目を点にしている。
    「僕に言われても」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は肩をすくめ。
    「まあとにかく、灼滅者組織のひとつである病院が大変なことになってるんですよ」
     ダークネスの3組織が手を組み、全国の殲術病院を一斉に攻撃しているのだ。3組織のそれぞれの頭は、ソロモンの悪魔ハルファス、白の王セイメイ、淫魔スキュラ。
    「やっかいなヤツらが手を組んだものね」
    「全くです。病院も、いつもの戦法が使えず窮地に陥っていて」
     病院勢力は殲術病院という拠点を全国に持っており、その防御力は高く、どこかの殲術病院が襲撃されても、籠城している間に他の病院から援軍を送って撃退するという戦いを得意としている。
     しかし今回は、ダークネス3勢力により、ほとんどの病院が一斉に襲撃された為、互いに援軍を出す事ができない。
    「それでアタシたちが加勢するってわけね」
    「そういうことです」
     典は地図を広げて目標の病院の場所を示してから、
    「この病院は殲術隔壁を閉鎖して籠城戦を行っていますが、いつまでも保つわけではありません。攻めてきているのは淫魔1体と、50体ほどのピンクハートちゃんです」
    「50体……!」
     それは多い。まともにやりあっては勝てない。
    「ですので、皆さんは眷属が病院攻撃に集中しはじめた隙をついて、最後方にいる淫魔を倒してください」
     首尾良く指揮官である淫魔を倒せば、眷属の攻撃も緩み、病院の灼滅者たちも籠城を解いて攻勢に出てくるだろう。出てきた彼らと協力すれば、50体といえども掃討は可能だ。
     但し、淫魔を倒すのに失敗すると眷属の中に逃げ込まれてしまい、著しく不利になる。その場合は撤退もやむなしだ。
    「なかなか大変ね。色々注意しなきゃ」
     湖太郎の言葉に典は頷いて。
    「ええ、ダークネスと病院の大規模戦闘に割り込むわけですから、用心にこしたことはありません。しかし、すでに陥落してしまった病院もあると聞きます。どうか皆さんの力で、ひとつでも多くの病院を救ってください!」


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    黒洲・智慧(九十六種外道と織り成す般若・d00816)
    糸崎・結留(ぬいぬい・d02363)
    桜吹雪・月夜(花天月地の歌詠み鳥・d06758)
    アスル・パハロ(星拾いの瑠璃鳥・d14841)
    深海・るるいえ(深海の秘姫・d15564)
    ミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)
    北条・葉月(我歌う故に我在り・d19495)

    ■リプレイ

    ●急襲
     灼滅者たちは、山奥にはミスマッチな煌々と明るい超近代的なビルにピンク集団が接近するのを、冬枯れた木々の間から固唾を呑んで見守っていた。そのビル――殲術病院も敵接近に気づいたらしく、侵入され易そうな窓や出入り口などの隔壁を次々閉じていき、その音が重たく響く。
     病院に通じる車道の脇、森を切り開いただけのパーキングエリアを見下ろす急斜面に彼らは潜んでいる。病院の様子は遠目ながら何とか見える。
     先程までエリアには、ぞっとする数の眷属・ピンクハートちゃんがいたのだ。しかし今そこに残るのは、満足げに病院を見下ろす白衣の美女ひとりだけ。
    「まずは隔壁をひっぺがして病院に入り込むのよ! そしてラブポイズンをたーっぷり注入してあげなさーい!」
     ガードレールから身を乗り出す美女――淫魔・設定萌子のハイな声が聞こえたかのように、病院に群がる眷属たちは我先にと隔壁に体当たりしたり、隙間に触手を突っ込んだりし始めた。一方病院側も、屋上や銃眼から応戦しだしたようで、戦闘音も聞こえてくる。しかし侵入されてしまうのは時間の問題だろう。
     今こそ作戦開始のタイミング――まずはサポート隊が気配と足音を殺しながら、道路沿いの森を伝って病院の方に降り始める。淫魔と眷属の間に入り、合流を防ぐ。
     サポート隊が去ると、加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)は、
    「ふざけた淫魔といっても、50体の眷属をひきいた指揮官だ。気を引き締めていかせて貰うぞ」
     サウンドシャッターをかけなおした。猫変身して樹上から萌子を観察していたミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)が、木から下りて人型に戻り、7人の仲間たちを見回して。
    「準備、いい? ……カウント。3、2、1、GO!」

    ●シチュ萌え淫魔をやっつけろ
    「イッツ・ショータァーーイムッ!」
     桜吹雪・月夜(花天月地の歌詠み鳥・d06758)がカードを指に挟み腕を真上に伸ばした。一瞬裸体になったかと思うと、アイドルっぽい装備が身を包み、ピンクのギターが降ってくる。それをキャッチした月夜は、まずは夜空を振るわせるような歌声を張り上げる。
     他のメンバーも斜面を駆け下りながらカードを解除し、装備を着け、武器を手にする。 ディフェンダーの深海・るるいえ(深海の秘姫・d15564)とミツキは、サーヴァントを引き連れ道路側へと回りこむ。萌子を囲んで逃亡を防ぐ布陣だ。
    「はぁーっ!」
     灼滅者たちの出現に振り向いた萌子の驚いた顔に、糸崎・結留(ぬいぬい・d02363)が気合いを込めてロッドを叩きつけ、挨拶がわりとばかりに魔力を流し込む。
    「病院の人、助けたい。友達とか、大切な人。居なくなる、とっても悲しい。なの。だから、ルーは。戦う」
     アスル・パハロ(星拾いの瑠璃鳥・d14841)は縛霊手を掲げて結界を張り、
    「積極的に助けたい、とかはあんまりない、の。でも、ヒトが死ぬのは好きじゃない……から……うん、がんばろ」
     ミツキはシールドを展開し、前衛の防御を固める。
    「遂に病院と接触の好機だ。これを逃す手はねぇな。厳しい戦いになるだろうけど、気合入れていくぜ!」
     北条・葉月(我歌う故に我在り・d19495)も道路側に回り込みつつ影を伸ばして萌子を縛り、るるいえと蝶胡蘭が左右から聖剣を振るった。白光が敵を貫くと同時に、彼女達をも聖なる光が包み込む。
    「なんなのよ! アンタた……いたあいっ、なにすんのっ!」
     やっと声を上げた萌子に、死角に回っていた黒洲・智慧(九十六種外道と織り成す般若・d00816)が槍を突き刺し白衣を切り裂く。
    「もうっ、何者だって訊いてんでしょ!」
     飛び退き様に、萌子は腕を大きく振った。金属質な音を立ててピンク色の光が伸び、
    「……うっ!」
    「きゃあっ」
     前衛を切り裂き跳ね飛ばした。鞭剣が蛇のように自在にうねる。
     灼滅者は凍った地面に倒れ込んだが、結留は素早く起き上がりガッと地面を蹴ると、拳を握って敵の豊満な胸元に飛び込み、
    「武蔵坂軍団参上ですよー!」
     堂々と名乗り、拳を突き上げる。
    「武蔵坂……ってことは」
     結留の拳をのけぞって受け流した萌子は、ニヤリと笑い。
    「ははあ、噂の灼滅者の学校ね。ねえ、スキュラ様がアンタらのこと、スゲー嫌いだって、知ってる?」
     そりゃそうだろう。思い当たる節は山ほど。
    「病院落とした上に、アンタたちも倒したら、さぞかしスキュラ様は喜ぶでしょうよ」
     萌子は赤い唇を長い舌で舐め回し。
    「遠慮無くヤらせてもらうわ!」
     ビシュルッ!
     至近にいる結留に鞭剣が巻き付いた。小さな体から血がしぶき、
    「ういろう、結留を!」
     ミツキの命令に、霊犬がカバーと回復に飛んでいく。
    「よくも……」
     シュルリと戻っていく剣をかいくぐって、智慧が槍を突き出す。槍は白衣をかすっただけだったが、智慧は淫魔とにらみ合いながら囁く。戦いの場なのにあくまで紳士的な口調で。
    「年下集団に襲われる美人女医って、なかなかのシチュエーションじゃないですか?」
    「あら……ホントね」
     萌子が一瞬うっとりした隙を逃さず距離を詰めた蝶胡蘭が、左拳をめり込むほどみぞおちに叩き込み、
    「ゲボォッ!」
    「何もわかってないな、設定萌子。そんな不完全なコスプレで女医だとは片腹痛い! 貴女には圧倒的に足りていないものがある!」
    「な、何が足りないっていうのよッ。完璧でしょっ!?」
    「女医さんといったら眼鏡だろうがっ!!」
     ハッと萌子は顔の脇に手をやり、蝶胡蘭は得意げに自分の眼鏡を指す。
     更にその隙を突いて、るるいえがご当地ビームを撃ち込み、
    「なあ、設定萌子、おまえ大将だろ。改宗しろよ、なあ改宗しろよ!」
     半ば本気で自分チの邪宗へ勧誘する。
    「ハァ? 何なのこんな時に」
    「眷属引き連れて改宗しろよー!」
    「宗教の勧誘してる場合かー!」
    「ぎゃっ」
     るるいえはツッコミと共に打ち倒されたが、攪乱(多分)している間にも、ミツキはシールドを振ってせっせと仲間の守りを固め、後衛では葉月が癒やしの歌を山々にこだまさせている。
    「(血反吐を吐くまで、戦場へこの声を響かせてやるぜ!)」
     中衛ではアスルがハンマーで地面を震わせて足止めを図り、月夜は混乱の中そっと近づいて、
    「えーい、燃えちゃえー!」
     炎を宿したギターを思いっきり後頭部に叩きつけた。
    「あっつっ! んもう、顔は可愛いのにヒドイ子たちねッ、あたしだって歌っちゃうわよ!」
     萌子が歌い出したのは……ド演歌。それも女の情念系。しかもさすがは淫魔、情感が籠もり中々上手い。前衛はうっかり聞き惚れ、うっとりと眠くなってきて……と。
    「寝んな、コラ!」
     怒声に続いて中性的な美声が、萌子の歌をぐっと押し返した。葉月だ。
    「起きて-!」
     月夜もハモりだし、前衛は危ういところで睡魔の手から逃れた。
    「ちっ! こうなったらハートちゃんたちと合流……」
     萌子は数の不利を痛感し、包囲を突破しようとしたが、
    「動いちゃ、やです」
     すかさずアスルの影が絡みついて動きを止める。
    「逃がさないよ」
     ミツキも蛟を模る影を伸ばして縛り上げ、蝶胡蘭は利き腕に光の剣を振り下ろし、るるいえは聖剣で敵のサイキックパワーを削ぐ。結留が叩きつけたロッドと、智慧の両手から放たれた光が、目が眩むほどに眩しい。
    「こ……の、ガキ共があっ!」
     ギュルルルッ!
    「くるぞ、てけり・り、結留を守れ!」
     るるいえの命令に、ナノナノがダメージの大きい結留のカバーに入った瞬間、また鞭剣が前衛を薙ぐ。
     しかし。
    「……おや、さっきほど痛くない。さすがに弱っているようですね?」
     倒されることもなく、智慧がくるりと槍を回す。
     一方の淫魔は血にまみれ、息が荒く、足下もふらついているようだ。
    「勝負所のようだな……タアーッ!」
     蝶胡蘭が左拳を握って跳んだのを皮切りに、灼滅者たちは集中攻撃に出る。ミツキの蛟が食らいつき、結留は巨大な刃と化した利き腕で斬りつける。智慧は全体重をかけて槍を捻り込み、月夜は歌声を響かせる。葉月もここぞとばかりに鋼の糸を張り巡らせ、ハンマーを振るうアスルと共に逃亡を防ぐ。
    「……ま、負けないわよ、スキュラ様のために……っ」
     力なく伸びた蛇剣はアスルを狙ったが、
    「おそい、の」
     ひょいと軽く躱されて。
     結留と蝶胡蘭が視線を合わせ、頷き交わし。
    「いくぞ!」
    「はぁーっ!」
     ロッドと鋼鉄の拳が同時に叩き込まれた。
    「ぐ……」
     美女の長身が、凍った地面に崩れ落ち。
    「……可愛い年下に滅ぼされるってのも、なかなかイイかも……」
     そんな呟きが微かに聞こえ。
     氷のような風が吹き。
     残ったのは、ボロボロの白衣と聴診器だけだった。

    ●ピンクハートを掃討せよ
     8名はすぐにサポート隊と合流すべく山道を駆け下りた。病院が間近に見えてきたあたりで、
    「葉月さん、ご無事でしたか!」
     フィアッセ・ピサロロペス(モノトーンの歌姫・d21113)が森から飛び出してきた。
    「おっ、みんなも無事か?」
     続いて他のサポート隊メンバーも次々と現れた。
     彼らの話によると、数体のピンクハートがボスの所に戻ろうとしたが、いずれも単独行動だったので容易く仕留めたということだ。みれば、路肩にしなびたピンク色の巨大な風船のような物体が数体横たわっている。
    「ピンクハートちゃんて、気持ち悪いよねえ」
     胡麻本・愛(戦場のお天気お姉さん・d11864)が身震いする。
     そして今眷属は病院への攻撃は続けているものの、ボスの異変を感じたのか、混乱し始めているようだという。
    「わかりました。ではまず……」
     智慧が頷き、仲間たちを見回して。
     箒が2本飛び立った。騎乗しているのは綾峰・セイナ(赤点の女王様・d04572)と黒鳥・湖太郎(黒鳥の魔法使い・dn0097)である。それぞれの箒には、月夜と葉月がタンデムしている。
    「ひゃあ、まだ数は多いわね……!」
     病院に群がるピンクハートを上空から見てセイナが言う。それでも病院側でも幾らかは倒したのだろう、40体は切っているようだ。
     病院屋上の白衣の人物がこちらに銃口を向けたのを見て、葉月が叫ぶ。
    「俺らは敵じゃないです。『病院』の皆さんの助太刀に来ましたー!」
     声の通る2人によって病院に、淫魔を倒したことと、援軍にきたことを知らせようというのである。
     月夜も箒から身を乗り出し、眷属にも聞こえるように精一杯の声で。
    「ボスの淫魔は撃破しましたよー!」
    「細かい事は後回しです! まずはこいつらを片付けましょう!!」
     屋上の人物は、両手で大きく丸を作った。

     地上でも病院からピンクハートを引き剥がすべく、灼滅者たちが行動を始めていた。
     軽音部のメンバーは病院上空を舞う葉月を見上げていたが、
    「俺らもやったろうじゃねえか」
     万事・錠(バスタード・d01615)がニカっと笑い、軽音部の仲間にワイドガードをかけた。
     一・葉(デッドロック・d02409)と城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)が、
    「がんばっぺ!」
    「わたし東北の出だで、人ごとではねんだ」
     と、東北弁で応え、
    「ぜったい、みんなでぶじに帰りますよっ!」
     北南・朋恵(幼きプリマドンナ・d19917)が小さな拳を握って気合いを入れた。
    「よし、行こうぜ」
     三角・啓(蠍火・d03584)がギュインとギターをひと鳴らしし、メンバーは敵の群を目差し走り出す。
     揃いの赤・青の装甲服を着けた辰峯・飛鳥(変身ヒーローはじめました・d04715)と巳葦・智寛(高校生エクソシスト・d20556)の旧真部研究室のふたりも続いて駆け出す。
    「しくじるなよ」
    「当たり前でしょ! そっちこそ誤射とかしないでよね!」

     灼滅者たちの攻撃により、眷属は病院から徐々に離れつつあった。
     そして出入り口の隔壁が開き……。
    「出てきたでござる!」
     樹上にいたハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)が喜びの声を上げる。
     ピンクの群の向こうに飛び出してきたのは、白衣や黒衣やパジャマの人々。皆武器を手にしている。20名ほどもいるだろうか。
     病院の灼滅者たちだ。
    「(いける!)」
     この人数ならば掃討は可能だ。そう確信した武蔵坂の灼滅者たちの意気は俄然上がる。

    「病院の皆さん、私と契約して邪教徒になってよ!」
     るるいえは戦いながらも、懲りずに今度は病院灼滅者たちを勧誘していた。
    「(そんな場合じゃ……)」
     近くにいたミリー・オルグレン(妖怪顔面置いてけ・d13917)は、犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)とヴィラン・アークソード(ネコミミダンディー・d03457)と呆れて目を合わせるが、先輩なのでなんともツッコミにくい。

    「あっ!」
     そんな乱戦の中、ぷちゅん、と間抜けな音がして、ピンクハートが結留に毒液を注入した。
    「結留さん!」
     智慧が慌てて駆け寄る……が。
    「……あ」
     背後から別のヤツにぷちゅんされてしまった。
     結留と智慧の目が一瞬据わり……次の瞬間、視線がねっとりと絡み合い。
     智慧が場違いな笑みを浮かべて、ポケットからコインを1枚取り出し、
    「このコインをトスして、表が出たらキスしていいですか?」
    「……ぁぅ」
     結留は突然の口説きにまんざらでもないように恥じらう……と。
    「ゆいる、と、ちえ、だいじょぶ?」
    「ふたりで、何やってんの?」
     アスルとミツキが現れ、ふたりに触手を絡めようとしているピンクハートを影で縛った。
     風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)もやってきて、
    「こんな時でなければ、止めないんですが……」
     申し訳なさそうにギターで癒やしの曲を鳴らした。

     蝶胡蘭もラブポイズンの罠に嵌まりかけていた。身をくねらせて、
    「いやーん♪」
     とか言いながら、よりによってハートちゃんにすり寄っていこうとしている。
    「何やってんですか!」
     天里・寵(桜・d17789)が飛び出してきて鬼神編でハートを殴り倒し、四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)が、
    「しっかり!」
     清めの風を吹かせる。
     ハッと我に返った蝶胡蘭は恥ずかしそうに、
    「すまん、ありがとう」
     頭を下げると、
    「よくも乙女の純情を!」
     すり寄ろうとしたハートに向けて殴りかかった。

    ●戦い済んで
     少し後。
    「ふう……」
     灼滅者たちは雪がちらつく中、地面に座り込んだ。
     戦いは終わった。今周囲にあるのは、消滅しかけのピンクハートの骸だけだ。
     病院灼滅者たちは、ケガ人もいるし院内の片付けもあると、サッサと帰ってしまったので、今山中にへたりこんでいるのは、武蔵坂の灼滅者だけだ。
     ひどく疲れたが、何はともあれ、長い戦いは終わったのだ。
     智慧が懐から保温水筒を取り出して。
    「この人数じゃ、1口ずつしかないですけど……」
     蓋を開けると、甘いココアの香りが闇に広がった。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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