ご当地怪人とちぎなペナペナっ！

■リプレイ

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　朝からの冷えこみが、ようやく和らぎはじめたお昼どき。
　地元ファンも多い味噌煮込みうどんの老舗店では、店員が忙しくかけまわっていた。
「おそい、おそい、おそーい！　我らが注文した味噌煮込みうどんはまだかーッ！！」
　『日光』と書かれたペナント――もとい栃木県からやってきた『日光』ペナント怪人が、大声で店員を呼びつける。
　同じテーブルについていた全身黒タイツのご当地黒子たち５人も、一緒になって、店員に抗議の意を表明している。
　ちなみにテーブルにはすでに、空になったうどん鉢がいくつも積みあげられていた。
　ご当地怪人たちは来店していらい食べ続け、ずっとこの調子なのである。
「ただいま準備しておりますので、もう少々お待ちください……！」
「そのセリフは何度も聞いた！　料理の出てこない店など、今すぐ破壊してくれようぞッ！！」
　と、今にも怪人たちが暴れはじめようとした、その時だ。
「よければ、私のを譲ろう」
　別のテーブルから、風見・孤影（夜霧に溶けし虚影・d04902）が自分の注文したうどんを手に、ペナント怪人に話しかける。
「先ほどから見事な食べっぷりだが……。ここへは、観光で？」
　うどんをもらって機嫌を良くしたらしい。
　怪人は、孤影の問いに気前良く答えた。
「観光？　まさか！　我らは栃木県『日光』のご当地怪人。安土城怪人さまのお呼びを受け、ペナントレースの真っ最中。この店を破壊しだい、いそぎ滋賀へはせ参じるところよ」
「ペナントレースか。それは、興味深いな」
　孤影は続けて参加している怪人の数、進行ルートを聞きだそうとするも、
「よそ者のことなど知らぬ。だが、安土城さまの呼びかけとあらば、日本全国から相当の怪人が集うであろう！」
　要するに、自分たち以外のことはよくわからん、ということらしい。
（「そう都合よく、情報を引きだせはしないか」）
　孤影は怪人へ礼を述べると、元居たテーブルへ戻り、監視を続ける。

　数分後。
「味噌煮込みうどんはまだかーッ！！」
　再び、ペナント怪人が騒ぎはじめた時だ。
　さりげなく怪人たちの隣のテーブルを陣取っていた黒木・摩那（昏黒の悪夢・d04566）が、うどんをすすりながら、つぶやいた。
「このお店、ちょっと味、落ちたかな」
「なにっ！」
　もちろん、そのつぶやきを聞き逃す怪人ではない。
　なにしろ彼らは、この店が名古屋いち美味しい味噌煮込みうどんの店と聞いてやってきていたのだ。
　黒子たちも一緒になって、少女たちの会話に聞き耳をたてる。
「次、この店にする？」
　同席していた草壁・那由他（モノクローム魔法少女・d00673）とライラ・ドットハック（蒼の閃光・d04068）に、摩那が用意していたチラシを見せた。
　チラシには、『期間限定・特盛味噌煮込みうどん』と書かれている。
「わあ！　絶対、こっちの方がおいしそう！」
　那由他は心の中で店員に詫びながらも、グルメにうるさいミーハー女子を演出すべく、仰々しく声をあげる。
「……その店の特盛味噌煮込みうどんなら、知ってる。あれだけの量は、誰であっても食べきれないよ」
「じゃあ口直しに、行ってみようか。今なら、宇都宮餃子キャンペーンやってるし」
「わ、我らがご当地名物！　宇都宮餃子までも付いてくる、だとッ！？」
　たまらず会話に混ざってきた怪人に、少女３人の視線が集中する。
「あ。チラシ、要ります？」
　怪人が恥をしのんで手を伸ばそうとした瞬間、
「あの。私も、いただいていいですか？」
　横からやってきた柚羽（d13017）が、摩那の手からさっとチラシを受けとった。
「これは、行って食べてみなくては！」
　柚羽はそう言いながら会計を済ませ、出入り口の扉へ向かう。
　店の扉が開いた、ちょうどその時。
「この近くに絶品激ウマ味噌煮込みうどんの店があるのか！　売切れしだい閉店！？　やっべぇ！　急いで行かねぇと！！」
　店の前を『タイミング良く』通りかかった姫乃川・火水（ドラゴンテイル・d12118）が、これみよがしに大きな声で叫ぶ。
　もちろん、声は店内にもちゃんと届いた。
「む、むむむむむむ！　我らも続くぞ！　ぐずぐずするな、見失うであろう！！」
　ペナント怪人はまだ残っているうどんを食べ続けようとする黒子たちをせっつき、火水と柚羽を追うべく、あっという間に店から出ていった。

　怪人たちの背を見送り、店内に居合わせていいた孤影、ライラ、摩那、那由他の４人が集まり、頷きあう。
「うまくいったようだな」
「……あとは、外で準備してくれている皆と、合流ね」
「ああ、うまー」
　その間に、摩那はひとり味噌煮込みうどんを完食。
「あ！　私も食べます！　食べますとも！」
　那由他が慌ててうどんに手を伸ばすも、
「……続きは、全部終わってからね」
　ライラたちに促され、泣く泣くその場を後にした。

●
　店を飛びだしたペナント怪人一行は、途中で火水と柚羽の姿を見失い、土地勘のない名古屋の街をさまよっていた。
　周囲は繁華街とも住宅街とも違うさびれた場所で、うどんの店など、ありそうにない。
「くそッ！　おまえたちがのろまなせいで、すっかり見失ってしまったではないか！」
　そこへ、
「絶品味噌煮込みうどんは数量限定！　残りわずか！　わずかです！！」
　客引きの声が聞こえ、味噌煮込みうどんののぼり旗を手にした高沢・麦（栃木県東ゆるヒーローむぎまる・d20857）が姿を現した。
「食べつくせないほどの味噌煮込みうどんへの挑戦も、受付終了間近なのでお早めに！　会場はあちら、これと同じ旗が目印でーす」
「おお！　うどん屋はあっちか！　おまえたち、行くぞッ！！」
　麦に見送られ、一行は先を急いだ。
　すこし行くと、空き地のそばでチラシを配る少女たちの姿が見えた。
　川越イモをこよなく愛するご当地ヒロイン、酒井・片喰（川越小町・d22639）と。
　一般人避けの『殺界形成』ついでにチラシを配る、七湖都・さかな（終の境界・dn0116）だ。
「川越イモの入っていない味噌煮込みうどんだけど。まあそこそこ、美味しいよ」
「…………ん。食べたら、わかる。たぶん」
　客を呼ぶ気があるんだか、ないんだか。
　ひとまず、怪人たちと黒子は、２人からチラシを受けとった。
「ちなみにこのチラシ、私の手作りね」
　どうりで裏面に、『九里四里美味い十三里！　川越イモをよろしく！』とか、『私がこんなに戦えるのも、川越イモを一日三食、毎日食べてるからです！』といった宣伝が（フルカラーで）入っているわけである。
　チラシと一緒にさしだされた川越イモを、怪人は「あ、どうも」と言ってつい受けとってしまった。
　道の先には、先ほど見たのぼり旗の並ぶ空き地が見える。
「店は、この先だなッ！？」
　ペナント怪人とご当地黒子５人が勇んで駆けこめば、空き地の奥に設置されたテーブルのそばに、背筋を伸ばして佇むレニー・アステリオス（星の珀翼・d01856）と、一霧（d22259）の姿。
「いらっしゃい。『売り切れ必至の絶品味噌煮込みうどんの店』へ、ようこそ」
　笑顔で迎えるレニーに近づき、ペナント怪人はチラシを突きつける。
「ありったけのうどんを我らにふるまうのだ！　それができなければ、店ごと破壊してくれようぞッ！！」
　怪人や黒子たちが、そう凄んでみせるものの。
　むしろ、まんまと罠にかかった怪人たちが、レニーには滑稽に映って。
「残念だけど、うどんは売り切れ。ケンカなら売ってるよ」
「なんだとッ！？」
　ペナント怪人が振りかえれば。
　すぐそこでチラシを配っていた、片喰とさかな。
　のぼり旗を手にした、麦。
　途中で姿を見失った、火水と柚羽。
　別の店で居合わせた、摩那、那由他、ライラ。
　そして、店でうどんをおごってくれた、孤影の姿までもが、そこにあった。
「ま、まさか……！」
　ペナント怪人はそこでようやく、自分たちを取り囲む少年少女が、灼滅者であることに気付いた。
　だが、時すでに遅し。
　レニーはスレイヤーカードを取りだし、笑みを深める。
「……僕らも、『破壊』してみる？」
　その声を合図に、灼滅者たちは一斉に、スレイヤーカードの封印を解きはなった。

●
　戦端が開かれ、真っ先に踏みこんだのはライラ。
　ペナント怪人を守るように布陣したご当地黒子たちへ向かい、左腕を構える。
「……あなたたちに怨みはないけど、少し眠っていて」
　言葉とともに肩から指先までが一瞬にして紫色の筋繊維に変じ、多数の牙を生やす巨大な怪腕と化す。
「……その頭の文字通り、『見ざる』『聞かざる』『言わざる』状態になって、ね」
　とっさに防御態勢をとろうとしたご当地黒子「聞猿」だが、怪腕によるライラの会心の一撃に圧倒され、空き地の端まで殴り飛ばされた。
　「聞猿」は地面に叩きつけられたまま、動かない。
　震えあがったのは、残る４人の黒子たちだ。
「全国のご当地怪人が安土を目指すだけでも騒々しいのに、途中の名物まで破壊していくなんて。はた迷惑なイベントは、ここまでにしてもらうわよ！」
　摩那は手にしたクルセイドソードを非物質化させ、「言猿」の霊魂と霊的防護めがけ、一閃。
　「言猿」は膝をつきながらも踏みとどまってみせたが、
「すぐに楽になれますからね！」
　即座にはなたれた那由他の『魔法の矢』の追撃を受け、たまらず、その場に倒れ伏す。
「よその土地への敬意が足りてないね。地元以外は大事にできないのかい、ペナント怪人？」
　レニーはバイオレンスギターをかき鳴らし「見猿」へ向け音波をはなつも、敵を圧倒するには至らない。
　孤影はすかさず、どす黒い殺気を無尽蔵に放出し、
「ようこそ私の領域へ！　殺人鬼の恐怖、たっぷり味わせてやる……！」
　半ば戦意を喪失しつつあった黒子３人を一気に覆いつくし、睨みをきかせる。
　火水は胸元に炎の意匠をあしらった白青のバトルコスチュームに身を包み、ビシッと怪人たちを指さし、叫ぶ。
「同じく『ご当地』を愛する者として！　おまえたちの悪事、これ以上、見逃すわけにはいかねぇぜ！」
　一気に間合いを詰めたかと思うと、「見猿」を高く抱えあげる。
「くらえ！　奴奈川、ダイナミック！！」
　地面に叩きつけると同時に、どぉんと盛大な爆発が巻きおこった。
　爆煙がひいた後には、ぼろぼろになった「見猿」の姿が。
　これで、ＫＯした黒子は３人だ。
　バトルスーツ姿の麦は仲間たちに続くべく、残るペナント怪人と、黒子２人の前に立ちはだかる。
「日光東照宮にまつられてる家康公の願いは、『平和』と『共存共栄』でしょ！？　なのに『日光』の名を背負って、よその土地の名物を潰そうなんて……。栃木のご当地ヒーローとして、ここから先へは行かせないっ！」
　その隙に、さかなは麦の言葉に聞き入っていたご当地黒子「舞雀」の元へ、音もなく迫り、
「……ざっくざく」
　妖の槍を繰りだし、死角からの斬撃で急所を貫き、足止めを図る。
「中禅寺湖のヒメマスビーム！」
　膝をついた「舞雀」へ、麦のご当地ビームがさく裂！
　「舞雀」ははね飛ばされ、そのまま沈黙。
　残るは、ペナント怪人と、黒子「眠猫」のみだ。
「くっ、こんなはずではッ！！」
　劣勢を見てとったペナント怪人が逃走を図ろうとするも、
「おっと。どこへ行くつもりかな？」
　片喰と、片喰のライドキャリバー『鎧蠍』、そしてともに怪人たちの警戒を行っていた一霧と柚羽が、すぐに２人を包囲する。
　柚羽が影業で黒子を縛りあげ。
　『鎧蠍』が怪人たちへ機銃掃射。
　一霧は日本刀を手に、「眠猫」を一刀に伏す。
　【決戦武装・剣片喰】天白盾を構え、片喰はもの悲しげに、告げた。
「やっぱり、川越イモの入ってない味噌煮込みうどんを食べたのが、ダメだったんじゃないかなぁ」
　振りかぶった『天白盾』で、「眠猫」へ強烈な一撃を見舞う。
　そうして、５人目の黒子もようやく、地に伏した。

　黒子を失ったペナント怪人は、灼滅者を前に防戦を強いられた。
　灼滅者たちの罠に気付かず、一気に黒子たちを失ったことが彼の判断を大いに鈍らせた。
　隙あらば逃走しようと何度も試みたことで、かえって自分自身の大きな隙を生むこととなり――。
「『日光』には、癒しの光で対抗しようか」
　レニーが仲間たちを癒すと同時に、灼滅者たちの猛攻がはじまる。
　ライラ、摩那、火水の高火力コンビネーションを受けたところへ、
「悪いが、そのまま動かないで欲しい」
　羅刹の腕を模した縛霊手『出雲』を掲げ、孤影が結界を構築。
　追い撃ちをかけるように、那由他、片喰、『鎧蠍』、さかなの一撃が、ペナント怪人の体力を削っていく。
　ぼろぼろになったペナント怪人を前に、麦は拳を握りしめ、心から叫ぶ。
「本当にご当地を愛する心があるんなら！　俺の！　俺たちの！　栃木のガイアパワーを、受けてみろっ！」
　空高く跳びあがり、『日光』ペナント怪人に狙いを定める。
　その土地を愛するがゆえに。
　その土地を愛するからこそ。
　彼らは、日夜戦い続ける。
　――己の信じるものへの『愛』を、『誇り』を、守るために！
「雷サマーキーーック！！」
　熱き情熱を宿した強烈な一撃を受け。
　『日光』の二文字をその身に刻んだペナント怪人は、二度と栃木の地を踏むことなく、遠く名古屋の地で、散っていった。

●
　ご当地黒子と化していた５人は、その後、駅まで送り届けた。
「日本の食は、守られました……」
　一般人の行きかう雑踏を見守り、那由他がしみじみとつぶやく。
　しかし、ライラと麦は、浮かない顔だ。
「……こんなことをして、怪人たちに一体なんの得が？」
「一番乗りだと、良い事あったりしたんスかね？」
「聞いたところで、明確な回答は得られなかったしな」
　孤影の言葉に、仲間たちは首をひねるばかり。
「うどん、食べにいきたいな」
「オレも、オレも！　外で待機してたから、食べそこねてたんだ！」
　ふいにこぼしたレニーの言葉に、火水が勢いよく賛同。
「今度こそ川越イモを入れよう。美味しいから」
　きっと皆も気にいるはずだと、片喰は確信をもって、勧めた。

　歩きだした仲間たちをよそに、さかなは佇んだまま、首をひねる。
「さかな先輩、どうしたんですか？」
　那由他が声をかければ、ずっと、気になっていたことがあるという。
「……ペナント怪人って。どうやって、うどん、食べてた、の？」
「！？」
　そういえば。
　ペナントって、ぺらぺらの紙や布なんじゃあ――。
「孤影先輩、見てましたよね？」
「いや、私は」
「ライラ先輩、摩那先輩は！？」
「……見てなかった」
「食べる時だけ、口が出現してたとか？」
「もう！　なんで誰もちゃんと見てないんですか！」
「……それ。那由他も」
「う”っ！」

　灼滅者たちは競うように、石畳の道を駆ける。
　おだやかに吹く風が、街路樹の枝を揺らし。
　黄金の葉が、陽光とともに、少年少女たちに幾重にも降りそそいだ。
　
　

作者：西東西	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年12月2日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 3／感動した 0／素敵だった 4／キャラが大事にされていた 2
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