霞ヶ浦ペナント怪人、東海道を駆ける

    ●安土城怪人の召還
    「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり……」
     滋賀県琵琶湖のほとりで、一体の強力なご当地怪人が復活を果たした。
    「我、目覚めたり。そしてスキュラよ、サイキックエナジーは受け取った。
     我はここに、『日本全国ペナントレース』の開催を宣言する!
     その身に大地と人の有り様を刻む怪人共よ、我、安土城怪人が元に参集せよ」
     琵琶湖から放たれた大量のサイキックエナジーは、様々なご当地へと降り注ぎ、新たなご当地怪人を生み出した。
     ご当地をその身に刻む者、すなわち『ペナント怪人』である。

    「安土城怪人様のお呼びである、いざ、琵琶湖っ!」

     日本各地に現れたペナント怪人達は、一斉に琵琶湖に向けて走り出したのだった。
     
    ●霞ヶ浦ペナント怪人だっぺな
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は集った灼滅者に語り始めた。
    「”いやげもの”の代表、ペナント怪人が全国あちこちに出現し、琵琶湖に向かっていることは、皆さんもうご存じですよね?」
     マリィアンナ・ニソンテッタ(聖隷・d20808)が危惧していた事が現実になってしまった。
     ペナント怪人は、頭部が三角形のペナントになったご当地怪人で、頭部に書かれた地名や名所などに由来するご当地攻撃をしてくるようだ。
     更に怪人は、郷土愛豊かな一般人を『ご当地黒子』として強化し引き連れている。ご当地黒子は全身黒タイツで、頭部にご当地の名前が書かれた姿をしており、やはりご当地にちなんだ攻撃をしてくる。彼らは強化一般人なので、KOするか、親分の怪人を灼滅すれば正気に返るだろう。
     ところでペナント怪人ご一行様は、一斉に滋賀県の琵琶湖を目指しているらしい。そして道中、行きがけの駄賃とばかりに、他の地域のご当地名物を破壊するのだ。それを阻止するために、ペナント怪人を撃破し、名物を守り、ついでにご当地黒子を救済してもらいたい。
    「僕が予知したのは、霞ヶ浦ペナント怪人の事件です。彼はお江戸経由で東海道を下っている最中でして、通りかかった静岡県浜名湖の養鰻場を襲います」
     言うまでもないが、霞ヶ浦は千葉県北部と茨城県南部に広がる湖であり、水源であると共に、観光地でもあり、漁業も行われている。
     一方の名湖は静岡県西部にあり、こちらも観光と漁業が盛んだ。
    「漁業やってる湖同士で、ライバル視したのかもしれません。ペナント怪人は、浜名湖畔の養鰻場に押し入ると、せっかく育てた出荷寸前の鰻の養殖プールを荒らしまくります」
     それはひどい。それでなくとも鰻が高騰しているというのに!
     典は地図を差し出し、
    「ターゲットの養鰻場はここです。8名分社会科見学を申し込んでおきました。見学スケジュールからすると、ちょうど養殖プールにいる時に、怪人ご一行が押し入ってきますので、なるべくプールや建物から遠ざけるようにして撃退してください」
     プールのある建屋から出て、1本細い道路を渡ると、湖畔の広い砂浜である。そこまでおびき出せれば俄然戦い易くなるだろう。
    「このペナント怪人、力が抜けちゃうような見かけはしてますけど、それでもダークネスですからね、しっかり準備をして臨んでください」
     灼滅者たちは力強く頷いた。
    「あ、それからこの養鰻場、食堂も兼ねてますから、無事解決できたら、美味しい鰻を食べてこられたらどうですか?」
     灼滅者たちは、もっと力強く頷いた。


    参加者
    凌神・明(英雄狩り・d00247)
    天上・花之介(連刃・d00664)
    水瀬・瑞樹(彼岸の火精・d02532)
    三島・緒璃子(稚隼・d03321)
    天埜・雪(リトルスノウ・d03567)
    刀鳴・りりん(透徹ナル誅殺人形・d05507)
    藤柄田・焼吾(燃える心は登り窯の如く・d08153)
    無常・拓馬(魔法探偵営業中・d10401)

    ■リプレイ

    ●養鰻場見学
    『社会科見学って楽しいです!!』
     天埜・雪(リトルスノウ・d03567)の筆談用のスケッチブックを見て、養鰻場の社長は相好を崩し、
    「そう、良かった。次はいよいよ大きなヤツのプールだからね!」
     張り切って頑丈なビニルハウスといった感じの建屋を目指す。
     上級生たちも養鰻場見学に真面目に取り組んでいる様子ではあるが、やはり待ち受けている戦いに頭がいく。
    「いよいよだな」
     三島・緒璃子(稚隼・d03321)が囁く。目指す成鰻用プールを見学している時に、怪人が現れるはずなのである。
    「人の為にも鰻の為にも、奮わんといけんね! ……しっかし、ペナントって、ほんに貰っても困るシロモノだのぅ。と言うかまだあるんか?」
    「今時見ないよねぇ」
     水瀬・瑞樹(彼岸の火精・d02532)が囁き返す。
    「とりあえず、襲撃とかないわー。浜名湖=鰻って言われるまでにどれだけの苦労があったのか考えたら普通できないっしょー?」
     瑞樹には、浜松の親戚が時折真空パックの鰻を送ってくれるのである。
     凌神・明(英雄狩り・d00247)が頷いて。
    「全くだ。他地域で破壊活動を行ってご当地愛を語るっつーのは矛盾してるよな? 因果応報で、いつか自分のご当地が全力でぶっ壊されることになるかもしれねぇのに」
    「養鰻場にとっては、怪人の道中にあったおかげで、えれえ災難だよな。ま、好きにはさせねえけどよ」
     天上・花之介(連刃・d00664)はそっとポケットのカードを確認する。
    「ペナント怪人は、見かけによらず厄介だぞ」
     刀鳴・りりん(透徹ナル誅殺人形・d05507)が用心深く言う。
    「どんな輩にしろ、美味しい鰻を台無しにするような行為は許さんがな!」
    「そんなことよりうなぎたべたい」
     無常・拓馬(魔法探偵営業中・d10401)がキレイに(?)まとめたところで、灼滅者たちは成鰻がいる建屋に足を踏み入れた。早速プールを覗き込むと、澄んだ水の中、黒々丸々とした鰻がうようよ泳いでいるのが見える。
    「うわあ、いっぱいいるう」
    「おっきーい」
     灼滅者たちは感嘆の声を上げる。
    「何尾くらいいるんですか?」
     藤柄田・焼吾(燃える心は登り窯の如く・d08153)が訊くと、社長は胸を張って。
    「この建屋には今1万尾ほどだね」
    「おお~」
     鰻重1万人前が泳いでいるということだ。いや、並だったら2万人前くらいかも。
    「今から餌をやるよ、面白いから見ててね」
     社長は奥のプールで作業する社員に指示を出した。すぐに2人が、台車に大きなバケツを載せてやってくる。
    「これが配合飼料です」
     バケツの中には、味噌のような茶色いペーストの塊。
    「何入ってるんです?」
     焼吾が興味津々で訊くと、社長はニヤっとして。
    「それは企業秘密だねえ……まあ魚を主にバランスよく。ウチはなるべく自然素材をあげるようにしてます」
     社員が飼料をドッポンと鰻プールに入れると。
     わらわらわらわらわら。
    「うわあー」
     鰻が一斉に餌に食らい付いた。もつれあい絡み合い鰻団子化している。ぬるぬるわらわらと蠢くその様子はぶっちゃけキモいのだが、怖い物見たさも手伝って見入ってしまう。
    「すげー食欲!」
     灼滅者たちが鰻団子に見入っていると……唐突に。
    「――我こそは霞ヶ浦怪人っぺな! 覚悟するっぺな、奢れる養殖鰻に鉄槌を下しに来たっぺな!」
     やたら大きながらがら声が養鰻場に響いた。

    ●ぺなぺな出現
     その声に、鰻に見入っていた灼滅者たちは使命を思い出して振り返る。建屋の入り口には、全身黒タイツの3人組と、魚市場の人のような胴長靴を履いた、顔が三角でぺなぺなの人物がふんぞり返って立っていた。ぺなぺなには霞ヶ浦の地図と文字がでかでかと。あまりにもわかりやすい霞ヶ浦ペナント怪人ご一行様の登場だ。
    「な……何だ、お前たちは!?」
     奇天烈な一味の出現に、顎が外れそうなほど口を開けた社長だったが、我に返ると灼滅者を庇うように踏みだそうとした。養鰻場と見学の子供達を守らなければと思ったのだろう。
     しかしそこで焼吾がすかさず王者の風を発動し、
    「今すっごく危険な状況だから、今すぐ別の建物に避難するんだ!」
     続いて明が怪人から社長はじめ社員たちをカバーする位置に入り、
    「裏から出ろ!」
     一喝する。
    「さ、他の建物に逃げてくれ」
     花之介が突然おどおどしはじめた社長を裏口へと促すと、社員たちも大人しくついてくる。
     避難係が一般人を誘導しはじめると、怪人挑発係たちは早速怪人を挑発する。
    『かすみ……ってどこですか?』
     雪がさらさらとペンを走らせる。緒璃子も調子を合わせて、
    「そうじゃ、そも、県すらよぅわからんぞ」
    「な……なんだと?」
     怪人の顔に怒りの青筋が立ってくる。ペナントだけど。
     瑞樹はとぼけた様子で、
    「あそこじゃないの、ほら、官僚の汚職事件とかあるところ」
    「それは霞ヶ関っぺな!」
    「ああそっか、ごめんね鼠ヶ関さん」
    「それこそどこっぺな!?」
     山形県鶴岡市である。

     ところで避難係の焼吾は茨城ヒーローなだけに、一般人を誘導しながら、背後から聞こえてくる仲間たちの霞ヶ浦ディスにこっそり心を痛めていた。
    「(霞ヶ浦はなあ……日本で2番目に大きい湖なんだぞ!)」

     怪人は完全に怒っているが、緒璃子はひょうひょうと、
    「霞ヶ浦の名物って何ぞあるのか?」
    「ある! いっぱいあるっぺな!!」
     霞ヶ浦で漁獲されるのは、主にワカサギ・シラウオ・コイ・フナ・アユ・ナマズ等。よく見れば、黒子の顔にもそれぞれ『ワカサギ』『シラウオ』『ナマズ』と書いてある。それから忘れてならないのは……。
    「天然鰻も獲れるっぺな!」
     実は茨城県は天然鰻の名産地。しかしご多分に漏れず年々その量は減っている。
     雪がスケブのページをめくる。
    『どうしてそんなりっぱなみずうみのかいじんさんが、こんなところで油うっているのでしょう?』
    「だから奢れる浜名湖の養殖鰻に鉄槌を下すっぺな!」
    「あっれえええん? もしかして八つ当たりぃ?」
     忍者装束に紙袋の覆面をした拓馬がくねくねと進み出、
    「あ、ドーモ、カスミガウラペナントカイジン=サン。キンソクニンジャです」
     律儀に挨拶をした後、ねちねちと語り出す。
    「漁業がウリなのはおたくも一緒でしょお? なのにここの鰻めちゃくちゃにするってどうなのん? 真っ向勝負で、食堂で自分チの鰻と取っ替えてアピールするくらいのことしたらどうなのよ。あ、わかった、よっぽど自分チのに自信ないんだ! あらやだ臭い。この怪人負け犬の臭いがプンプンするよぉ!」
    「て、ててて、天然モノが養殖に負けるわけないっぺな!」
     怪人は鼻の穴を膨らませて(ペナントだけど)拓馬に詰め寄ろうとした……が、ふたりの間にりりんがぐいとギターを差し入れ、
    「浜名湖と勝負したければ、まずわしらを倒すことじゃ。ついてこい!」
     あごで外を指す。
    「おう、望む所だっぺな。まずはお前らに霞ヶ浦の実力を見せてくれっぺな!! 外に出ろっぺな!!」
     怪人は鼻息も荒く先頭に立って外へと向かう。

    ●湖畔の戦い
     灼滅者とペナント怪人一味は、浜名湖の岸辺で対峙した。避難誘導組の3人も、首尾良く役目を果たして合流する。
    「小町抜刀!」
     解除コードを唱えると、緒璃子の手に二代目砕斬小町が現れる。明もぶんと黒帝 型乃壱を振り。
    「さて、無粋な怪人はとっととお引取り願おうか」
     ペナント怪人も負けじと鋼の糸で作られた投網のような武器を出現させ、
    「誰が無粋っぺな! おい黒子、生意気なガキ共をさっさとやっちまうっぺな!」
     ぺなー! と黒子たちは応えると、一斉に前に出た。灼滅者たちも先に黒子から倒す計画なので、思うツボである。
    「雑魚からいくぞ! ころ殺丸は仲間を守るんじゃぞ!!」
     りりんは霊犬にディフェンダーを命じると、自らは『ワカサギ』に影の刃を伸ばす。
     雪もビハインドの『パパ』を出現させると一旦前に出して顔をさらさせ、自身は楽しそうにくるりと回転しながらステップを踏む。
    「ご当地怪人死すべし、慈悲はない」
     拓馬はくねくねしながら怪しげな霧を全身から発し、その霧に巻かれ怯んだ黒子に、焼吾が槍を、緒璃子は、
    「一刀必殺!」
     全力の刃を見舞う。
    「ぺな~……」
     あっと言う間に『ワカサギ』が倒れた。
    「よっしゃ、次いくよー!」
     しかし黒子とはいえ、ご当地パワーはあなどれない。瑞樹に炎を叩きつけられた『シラウオ』が、焦げながらも、
    「ぺなー!」
     瑞樹を掴みにいく……が、
    「させるかようっ!」
     明が割り込み受け流しつつ、逆に『ワカサギ』の胸ぐらを掴み抑え込む。
    「ぺなー!」
     もう一体の『ナマズ』が肉弾戦に加わろうとしたが、
    「おおっと!」
     焼吾がすかさず影を喰らい付かせ、
    「こいつから先にやっちまえ!」
     よってたかって『ナマズ』をタコ殴りする。
    「ガキ共に何を手こずってるっぺな!?」
     一歩下がっていたペナント怪人が投網を手に進み出ようとした。そこに、
    「お前の相手は俺だ」
     花之介が跳び出て、ぼうと光る掌を掲げて結界を張る。
    「小僧やる気か……ッ」
     怪人が大きく腕を振ると、バサッと投網が頭上に広がり、
    「うっ!?」
     花之介に絡みつく……と、雪がハミングを漏らした。そのメロディが鋼の網を緩め、パパところ殺丸が網からの脱出を手伝ってくれる。
     そうこうしている間に、仲間たちは黒子最後の一体『シラウオ』に集中攻撃を仕掛けていた。
    「甘い!」
     蹴り出された脚をかいくぐった瑞樹が異形化した腕でアッパーカットを見舞い、拓馬と焼吾が左右から槍を突き上げる。りりんの影が喰らいつき、
    「どりゃ!」
     明の雷を宿した拳が炸裂すると『シラウオ』は完全に伸びてしまった。
     これで残るはペナント怪人だけだ。灼滅者たちは改めて怪人と向き合う。
    「ぬぬう……」
     怪人はのされてしまった手下を見回し、歯ぎしりをする(ペナントだけど)。
    「どうしたどうした、やはり無名の地の者じゃ、我等を排する事も叶わぬ非力とはのぅ……」
     緒璃子がまた挑発すると、怪人は彼女を指さして。
    「そういうお前はどこの出っぺな!」
    「私は鹿児島は種子島の出じゃ!」
    「鹿児島~? 種子島~?」
     ペナント怪人は鼻で笑った。
    「なっ……! 貴様! 鹿児島ば馬鹿にすっと許さんど!?」
     郷土愛を漲らせ突っ込む緒璃子を先頭に、灼滅者たちはボスへの攻撃を開始する。りりんの影の刃が胴長靴を切り裂き、瑞樹の炎がペナントの房飾りを焦がし、
    「地獄めいたチョップ突きをくらいな!」
     拓馬は怪人の背後に回り込むと、延髄に手刀をくらわせ、花之介はナイフで傷口をえぐる。
    「くっ……こんなところで負けるわけにいかんっぺな!」
     怪人は群がる灼滅者を振り飛ばすと、投網をぶんと投げた。前衛を捕らえようと鋼の網が広がっていく……が。
    「止めるぜ!」
    「おうっ!」
     明と緒璃子が飛びだし、体を張って網を受けた。
    「大丈夫か!?」
    「だ、大丈夫だ、俺らは」
    「そうだ、いいから攻撃を続けろ!」
     そうは言うが、ふたりは網でぐるぐる巻きである。
    『わたしが』
     雪が素早くスケブを掲げつつ、ててっと前に出てくると、聖剣の投身にキスをして回復を発動し、投網をせっせとほどきはじめる。サーヴァントたちがそのカバーに入る。
    「他県で暴れんじゃねーよっ!」
     焼吾が網ほどきを手伝いつつ、
    「霞ヶ浦にはナマズがあるだろ! 鰻に嫉妬するなよ! 茨城愛するなら他のご当時も大事にしろよ!」
     同郷ならではの怒りである。
    「ナマズは鰻ほど人気無いっぺな!」
     そりゃそうだ、と灼滅者たちはちょっと気の毒になる。
    「それでも」
     半ば網から脱出した明が、
    「自分チに自信があるなら、わざわざ他を貶めるような真似はするなよ、逆にお前の評判が落ちるだろ?」
    「やかましいっぺな!」
     ペナント怪人は、まだ身動きの取れない明にご当地ビームを撃ち込んだ。
    「うおっ」
    「卑怯者! 動けない人を!!」
     瑞樹が聖剣で斬りかかり、
    「ひがんでる暇があったら、ご当地食品の1つも持参して、道中に宣伝したらどうよ!」
     拓馬が光槍『狂い咲き』を突き上げる。花之介のナイフを模った影が襲いかかり、りりんが両手を前に突き出すと、
    「霞ヶ浦は面積は日本第二位、水際線延長は日本一。その誇りも忘れ、養殖場を襲うなど、片腹痛いわ。成敗してくれる!」
     目映い光弾を撃ち込む。
     りりんの台詞を聞いて焼吾は、
    「(なんだ、ちゃんと霞ヶ浦のこと調べてくれてるんだ)」
     と、ちょっと嬉しくなる。
    「う……うるさいっぺな、我は浜名湖への鉄槌を土産に、琵琶湖に上るんだっぺな!」
     ボロボロになった怪人は予備らしい投網を懐から出すと、しゅるりと投げた。網は生き物のように伸びたが、
    「……えいっ!」
     ガキッと金属質な音がした。拓馬が気合い一発、槍の柄で網を絡め取ったのだ。
     勢いが落ちている。どうやらダメージと、蓄積したバッドステータスが効いているようだ。
    「ここらでキメてやろうぜ!」
     焼吾が叫んで影を食らい付かせ、
    「おう!」
     りりんが応じて影の刃を伸ばし、怪人の胴長靴を更に切り裂く。網から抜け出した明は利き腕に宿した刃で斬りかかり、緒璃子は光の刃でパワーを削ぐ。瑞樹は巨大な拳を叩き込み、拓馬がチョップを見舞うと、その背中を雪がポンポーンと軽く駆け上がり魔導書を高く掲げる。書は勝手に炎術のページを開き、同時に炎が怪人を舐める。
    「ぎゃあ!」
    「よしッ」
     花之介がナイフを逆手に握り直すと、燃えさかる怪人に飛びかかりざっくりとペナントを切り裂いた。
    「うぎゃああああ……琵琶湖はまだ遠いのにぃぃぃぃ……」
     湖に断末魔の悲鳴が響き渡り。
    「――おやすみ、怪人さん」
     花之介の呟きと同時に、霞ヶ浦ペナント怪人は爆散して果てた。

    ●鰻!
     漂う香ばしい匂いに、灼滅者たちは鼻をひこひこさせる。鰻は焼けるのを待つ時間がまたいいものだ。
    『前に戦ったうなぎかいじんさんは、サンチギソーだったので、今回はぜったい食べたかったんです』
     雪がニコニコしながらスケブを挙げる。花之介がお腹をさすりながら。
    「いやー、一戦やったらお腹空いちまったな」
     緒璃子が頷いて。
    「働いた後だもの。より美味かね、きっと!」
    「身体を動かした後のメシは美味いよな」
     明は満足げに腕組みをする。
    「新鮮な鰻じゃからな、楽しみじゃの」
     りりんは白焼きと肝吸いも注文してご満悦。
    「あ、ねえねえ、鰻と梅干しって食い合わせって言われてたけど、実は相性いいんだよ!」
     瑞樹が蘊蓄を披露し、
    「へえ、そおなんだ」
     拓馬がメニューから顔を上げた。彼女へのお土産がないか探し中なのである……と。
    「お待ちどお様!」
     社長が自ら積み上げた鰻重を運んできてくれる。
     わあっ、と灼滅者たちは盛り上がる。
     焼吾が早速重箱の蓋を開けて、イイ笑顔で。
    「うひょー、やっぱりナマズより鰻の方が美味そうだな。こればっかりは仕方ない!」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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