
●
雪が降るほど、厳しいひえこみの晩。
薄闇につつまれた病院の個室で、ひとりの少女が夜風にあたっていた。
「ひかりちゃん、風邪をひいてしまうわ」
ひかえめなノックとともに現れたナースが窓をしめ、暖房をつける。
「……みえないんだもの。ほかの感覚で、補うしかないじゃない」
ひかりと呼ばれた少女の目元には、包帯が巻かれていた。
ベッド脇のキャビネットには、フィルム式の一眼レフカメラと、いくつかのアルバム。そして、写真雑誌が置かれている。
だが、少女がそれらに手をつけた様子は、ない。
ナースは少女の肩に上着をかけ、そっと、耳元でささやく。
「みえるように、なりたい?」
「治るなら……。治るなら、そう願いたいよ! だけど、そんなこと。『奇跡』でもおきないかぎり、無理じゃないか!」
心の底からさけび、泣きむせぶ少女を、ナースは愛おしそうに見つめる。
「つよく願えば、『奇跡』はおこるわ。ただし――」
ナース――淫魔・いけないナースは少女を優しく抱きしめ、微笑んだ。
「ひかりちゃんが、私の『眷属』になるなら、ね」
世界が闇に閉ざされた、いま。
少女の耳には、どんな悪魔のささやきも、天使のなぐさめにきこえた。
●
「このところ、寒い日が続きますね」
教室に集まった灼滅者たちに暖かい茶をさしだしながら、一夜崎・一夜(dn0023)に頼まれたという五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が、事件について説明をはじめる。
「すこし前から、淫魔『いけないナース』が事件を起こしているのは、ご存じですか? 今回その淫魔が、新たに事件をおこすことがわかりました」
事件が起こるのは、ある大病院。
失明により入院してる少女、羽畑・ひかり(はばた・ひかり)が、いけないナースと契約を交わしてしまうという。
淫魔の目的は、病院にくる患者を配下にすること。
「強化一般人となった患者は、退院後、次々と行方不明になっているようです。これ以上事件が起きないよう、どうか、淫魔の灼滅をお願いします」
敵との接触タイミングは、深夜。入院病棟の廊下にて。
新たな契約相手を探し徘徊している淫魔を探しだし、戦闘を仕掛けることになる。
病棟は9階建て。
建物の両端には階段が。中央には、エレベーターが設置されている。
「淫魔は契約者を決めかねているため、病室に入っていることはありません。つまり必ず、病棟のどこかの廊下に存在します」
ただし、気をつけてください、とエクスブレインは警告する。
「淫魔に気付かれそうな捜索方法や、捜索に時間がかかってしまった場合。敵の奇襲を受けるおそれがあります」
戦闘を有利な状態ではじめられるか、不利な状態で迎えるかが、そこで決まる。
いけないナースは『ドレイン』や『毒』を付与する攻撃に、『催眠』付きの列攻撃、キュア付きの強力な回復手段を持ちあわせている。
戦闘になれば強化一般人となったひかりを含め、3人の強化一般人が護衛として戦闘に参加する。3人はKOすることで、救出することが可能だ。
「淫魔がだれの命令で動いているのかは、わかりません。直接問いかけたところで、有益な情報を得ることはできないでしょう」
今回は戦闘に集中し、確実に淫魔を灼滅して欲しいと、姫子は告げる。
「ひかりさんは、家計をたすけるために働きながら高校に通う、苦学生です」
忙しい日々の合間に、亡き祖父のカメラを手に、写真を撮り続けてきた。
その一枚が、投稿した写真雑誌で評価され。
将来に展望がみえた矢先に、不幸な事故で両目の視力を失ってしまった。
「失明の事実は、しっかりと受け止めていたようです。けれど、『ありえない奇跡』にすがりたくなるほど、苦しんでもいたのだと思います」
「どうか、ひかりさんを。お願いしますね」と告げ、姫子は灼滅者たちに未来を託した。
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 天鈴・ウルスラ(踊る朔月・d00165) |
![]() 笠井・匡(白豹・d01472) |
![]() 龍餓崎・沙耶(告死無葬・d01745) |
![]() フィア・レン(殲滅兵器の人形・d16847) |
![]() 神音・葎(月黄泉の姫君・d16902) |
![]() 幸宮・新(四天王最強・d17469) |
![]() 黄瀬川・花月(モントフィンステルニス・d17992) |
![]() 多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776) |
●
病院突入前。
8人は行動指針の確認を行い、ESPを使ったいくつかの提案を行った。
だが――、
索敵に使おうとしていた『テレパス』は、「今、話しかけたら、どんな返事が聞けるか」というのを探るためのESPだ。相手が見えている必要があるため、視界内に存在しない者の思考を探ることは、できない。
連絡用を検討していた『アリアドネの糸』は、道標として「見えるだけ」のもの。物質的な糸ではないため、糸を引いて合図するといった使い方は不可能だ。
そして『サウンドシャッター』は「戦場」に効果をおよぼし、戦場内の音を周囲に漏らさないためのESP。今回、接敵するまでの戦場は『入院病棟全体』となる。よって「敵に悟られぬよう、自分たちの周囲の物音を隠ぺいする」といった限定的な使い方は、できない。
――作戦の見直しを行う段階で、各案がことごとく潰えた。
ESPは『有用』ではあるが、『万能』ではないのだ。
「索敵は、地道に対応するしかなさそうでゴザルな」
天鈴・ウルスラ(踊る朔月・d00165)が嘆息し、作戦の見直しを行う。
「結局は、できるかぎり自分たちで工夫するのが確実なんだよねぇ」
「ひとまず連絡手段には、無線を用意していきましょう」
笠井・匡(白豹・d01472)と神音・葎(月黄泉の姫君・d16902)が無線機を確保し、二人で使い方を確かめる。
黄瀬川・花月(モントフィンステルニス・d17992)は『猫変身』で。残る者たちは『旅人の外套』や『闇纏い』などを使用し、隠密行動に徹する手はずだ。
「しっかし、『テレパス』の索敵が使えないとなると、どうすっかね」
多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)が考えこむのを見やり、龍餓崎・沙耶(告死無葬・d01745)は己のこめかみをトントンと、指先で示した。
「簡単なことです。『頭』を、使えば良いんですよ」
●まがいものの奇跡
準備を整えた灼滅者たちは二手に別れ、入院病棟へ突入した。
建物の右の階段から、幸宮・新(四天王最強・d17469)、葎、フィア、千幻。
左の階段から、ウルスラ、匡、沙耶、花月が、各階の廊下を半分ずつ捜索する。
深夜をまわった病棟の明りは最小限に落とされ、廊下には非常灯が灯るのみ。
「……念の……ために」
フィア・レン(殲滅兵器の人形・d16847)が呟き、8人の足に赤い『アリアドネの糸』が施される。
糸があれば、互いの足跡をたどることができる。万が一の事態が起こった時のための、保険になるだろう。
左班の4人は薄暗闇のなか、慎重に慎重を期して進む。
「それにしても、『奇跡の対価』でゴザルか。見返りつきの契約を、『奇跡』とは呼ばんのデース」
仲間たちに聞こえる程度の小さな声でつぶやき、ウルスラが階段の踊り場から手鏡をさしだし、廊下の様子をうかがう。
敵影がないとわかると、猫の姿に変身した花月が忍び足で先行。
「夜の病院っ、てちょっと不気味だよねぇ……」
『旅人の外套』をまとった匡が息をひそめ、無線を手に続く。
沙耶は奇襲を警戒し、階段ごとに仕掛けを施していった。
用意したのは黒い糸に小さな金属管を結んだ小道具。仕掛け糸を階段の膝下の高さに設置すれば、誰かが通った際、『鳴子』代わりになる。
夜勤中の医師や看護師が通る可能性もあるため、確実な手段とは言い難い。
だが作成と設置が容易で、極力消音に徹することができる。今回の作戦には、うってつけの道具だ。
やがて廊下を調べつくした4人は、この階に敵はいないと判断。
匡が別の班へ連絡する合間に、沙耶が階段に設置した鳴子を回収、次の階へ向かう。
同様の手順で、左班は順調に淫魔の捜索を続けた。
作業は順調。とはいえ、沙耶の胸に一抹の不安が去来する。
(「これでは時間がかかりすぎる……。奇襲を覚悟しておいた方が、良さそうですね」)
捜索済みの廊下を振りかえり、いそぎ、階段を昇る仲間たちの背を追った。
一方、右側の階段を進む4人は。
(「……最近……淫魔……多い」)
フィアは12月に入ってから、たて続けに淫魔退治の依頼を受けていた。
今回も淫魔が相手とあり、思わず胸中でつぶやかずにはいられない。
「左班も、到着したようです」
無線で匡と連絡をとっていた葎が、両班の足並みがそろったことを告げる。
「じゃあ7階、行くか」
新の用意した明りを頼りに、千幻が進む。
ここまでの捜索では、夜勤中の看護師や寝付けない患者が通りかかるなどの状況はあっても、淫魔や強化一般人と遭遇することはなかった。
入院病棟は全9階。
ここに至るまでに出会っていないとなれば、残る3階のうち、どこかで出会う可能性がある。
しかし、この階でも、廊下の中央に至るまでに敵は見られない。
落ちあった左班の面々と『異常なし』のハンドサインを交わし、右班の4人は再び、階段へ向かって歩いた。
同じように引きかえし、遠ざかっていく左班の背中を見送り、新はふいに、薄闇に点灯するエレベーターの明りを見た。
真夜中とはいえ勤務中の病院関係者が使用するため、エレベーターは時折、階を移動している。
そこで、気づく。
淫魔『いけないナース』は、病院関係者のふりをして病院内で好き勝手に行動している。
階段を使うこともあれば、エレベーターを使うこともあるだろう。
なにしろ『いけないナース』がエレベーターに乗ったところで、一般人たちに見咎められることはないのだから。
(「まさか――」)
いやな予感を覚え、先を歩く葎、フィア、千幻の後を追い、新は走った。
階段にほど近い廊下で、3人が立ち止っている。
足音をたて、駆けよる新をとがめる者は誰もいなかった。
なぜなら、
「見つけた」
声とともに、血のにじんだ包帯が四方から4人に絡みつき、行動を阻害する。
4人の前に現れたのは、エクスブレインから聞き及んでいた少女。
視力をとりもどし、強化一般人と化した羽畑・ひかり(はばた・ひかり)と、
「上出来よ、ひかりちゃん」
ひかりの傍らに立ち、静かに微笑む淫魔の姿だった。
●ひかりの奇跡
「病棟内に不審な気配がすると思ってきてみれば、あなたたち、灼滅者ね? 夜の入院病棟では、お静かに。大事な大事な患者さんたちが、起きてしまうわ」
さらに2人の強化一般人を呼び寄せた淫魔が赤い唇を撫で、艶めいたしぐさで灼滅者たちに向けて投げキッスを飛ばす。
「……催眠……攻撃!」
攻撃を受けたフィアをかばうべく動こうとした新だが、
「っ!」
痩せた女性の強化一般人が放り投げた劇薬を浴び、その場にひざをついた。
葎はすきをついて無線機での連絡を試みたが、体格の良い男性の強化一般人が手にした消火器に殴打され、粉々に破壊されてしまう。
「お静かにって、言ったでしょう?」
「人の心を弄ぶ汝を、私は許さない。……ここで滅びを!」
くすくすと笑う淫魔を前に、葎は唇を噛みしめる。
千幻は急ぎバイオレンスギターを奏でるも、仲間たちを癒すはずの楽曲は、知らず強化一般人たちを癒してしまう。
淫魔による『催眠』の効果で、思うように行動できなくなっているのだ。
千幻は行動がままならないな中、まっすぐにひかりを見つめた。
灼滅者たちを映す瞳。
凄惨な現場であれ、ひかりはそれが見えることが嬉しいのだというように、淫魔とともに笑っていた。
(「目が見えなくなるっつうのは……代わりのなにかで補えるってもんでも、ねえもんな。ありえない『奇跡』でも、すがりたくなるのは無理ねえ話だ」)
だが、それでいいのだと千幻は思う。
他人の気持ちを考えるのは苦手だ。そのうえ五体満足の身で、なにがわかるというわけでもない。
ひかりはただの被害者で。
被害者を助けるのが、灼滅者の仕事だ。
それさえハッキリとしているなら、成すべきことは、ひとつしかない。
(「――ひかりさんの選択が過ちだったんなら。俺たちが、正してやる!」)
千幻は決意をこめ、再びバイオレンスギターに手をかけた。
独創的で不可解な音楽が、今度こそ、仲間たちの枷をうち払っていく。
別行動をしている仲間たちへの連絡の術は断たれた。だが無線が通じなくなったとなれば、いぶかった仲間たちがすぐにやってくるはずだ。
不利な状況に追いこまれようと、弱音を吐こうとする仲間はだれひとり居ない。
「しばし、皆様を縛ります……ご容赦を!」
戒めから解放された葎は縛霊手『月腕』を掲げ、霊的因子を強制停止させる結界を構築。
強化一般人3人の動きを、一気に抑制する。
「……これ以上……好きに……させない」
続くフィアは背に8枚の翼を広げ、左右に携えた日本刀を一閃。
ひかりの足取りを鈍らせた。
新は開眼した縛霊手『鬼ノ眼』で強化一般人たちの攻撃を受け止めながら、ひかりへ向け、声を掛けつづけた。
「生きがいが奪われてこんなことになったら、そりゃあ、すがっちゃうよね。でも――」
繰りだされた包帯をわざと腕に絡ませ、逆に、ひかりの身を引き寄せる。
驚いたように目を見開く少女。
その瞳に映る己の顔を見やり、静かに、告げる。
「これは、『奇跡』とは違うよ。絶対」
雷を宿した蹴りがひかりの顎をとらえ、のけぞる。
新はすかさずその細い手首を掴み、繊細な身体を抱きとめた。
●それぞれの奇跡
気絶したひかりが灼滅者たちの手に渡ったのを見るや、淫魔は眉根をひそめた。
「ひかりちゃんとは、同意のうえで契約したのよ。さあ、その子を返しなさい……!」
淫魔が巨大な注射器を掲げた瞬間、
「しばし、大人しくしていてもらうでゴザルよ!」
声とともに淫魔たちの背後から現れたのは、階段側から駆けつけたウルスラたちだ。
ウルスラは明らかにただの青いゴム手袋である『勝利とか掴み取る為のウルスラちゃんアーム』を掲げ、残る強化一般人2人の動きを封じこめる。
加勢する前に『サウンドシャッター』も展開したので、戦闘音対策もぬかりはない。
もっともいくつかの異音ですでに目覚めた患者たちもいたのだが、ならばこれ以上の騒ぎになる前に、決着をつけるまでのこと。
「無線が通じないから、もしやと思ってきてみれば……! 遅くなってごめん!」
淫魔の攻撃を受けとめた匡は即座に反転すると、男性の強化一般人へ向けクルセイドソードを繰りだす。
間をおかず、沙耶の魔法の矢が一直線に男を穿った。
沙耶はすぐに倒れた男の元へ駆けつけ、その身柄を戦場から遠ざける。
残る強化一般人も、ひかり同様、淫魔に契約を持ち掛けられた者なのだろう。
花月はサイキックソード『Yellow Sultan』を手に、痩身の女性強化一般人に迫った。
「希望もないんじゃ、『奇跡』にすがりたいのもわかる。だけどその『奇跡』は、駄目だ」
どんな病に苦しんでいたのかは、わからない。
それでも、ありえぬ『奇跡』を願うほど、この女性も苦しんでいたのだろう。
「荒療治ってやつだ、歯を食いしばれっ!」
撃ち出された光の刃が、女性を貫いて。
「せっかく取り戻した健康な身体を、奪う事になってしまうでゴザルな。恨むなとは言わんデース……デスガ、御免!」
ウルスラは拳を固め、目に見えぬ速さで怒涛の連撃を撃ちこんだ。
吹き飛んだ女性の身柄を確保し、花月が淫魔を見据え、告げる。
「これで、残るはあんただけだ」
「おのれ、灼滅者……!」
せっかく手にした契約者を3人も奪われ、さらに退路までふさがれている始末。
淫魔は再び投げキッスを飛ばし、灼滅者たちに催眠をかけようと試みた。
しかし、すかさず千幻がバイオレンスギターをかき鳴らし、仲間たちの枷を解いていく。
残る淫魔1体を前に、灼滅者たちは一斉に攻撃を仕掛けた。
「悪あがきは、ここまでだよ!」
匡は非物質化させた剣を繰りだし、淫魔の霊魂と霊的防護を直接破壊する。
新はそのすきに得物を持ち替え、淫魔へ迫った。
「勝手で悪いけど。僕たちは、彼らは彼らのままで、いて欲しいんだ」
凄まじい重量と強度を誇る巨大金属片『鬼鉄片』振りおろし、超弩級の一撃を叩きつける。
立ちあがろうとする淫魔の間合いに飛びこみ、沙耶は己の信念のもと、容赦なく日本刀を振るう。
――殺しの依頼があり、そこに殺す相手がいる。
――私は依頼に従い、只殺すだけ。
その結果については、己の関与するところではない。
巨大注射器も身体もことごとく破壊され、血にまみれた淫魔は、それでも己の身を癒し、リノリウムの床に這いつくばりながら、灼滅者たちを睨み続けた。
「……もう……後は……ないよ」
「さあ、おしおきの時間だっ!」
フィアは己の利き腕を巨大な砲台に変え『死の光線』を浴びせ、花月はウロボロスブレイド『Peitsche』に緋きオーラを宿し、淫魔の残る生命力を奪つくした。
「『奇跡』を願うことは、決して悪ではない。だから、その心につけいる者を、私は許さない」
もはや憎まれ口を叩く気力もなくなった『いけないナース』の前に、葎がたたずむ。
「これにて幕だ。……疾く、滅びよ!」
声とともに、赤きオーラの逆十字が淫魔の身体を引き裂いて。
契約の代償に『奇跡』を騙る者は、そうして、跡形もなく葬られた。
●ひかりの軌跡
救出した3人の一般人は皆で癒し、ナースステーションの傍へと運んだ。
できうる限りの後始末を終え、灼滅者がその場を去ろうとした時だ。
「……待って、待って!」
目覚めたひかりの声が、8人を呼びとめた。
「助けてくれたの、あんたたちでしょう」
全ては覚えていなくとも、その声を覚えている。
ひかりは必死に手を伸ばし、灼滅者たちの姿を探した。
つまずきそうになったひかりを、新が、そっと支える。
「『奇跡』と思える事も、起こったのなら只の『必然』。人の手に余る力が、関与しただけの、それだけのことです」
言い捨て、沙耶はきびすをかえす。
「まがい物の『奇跡』なんてなくても、きみは自分自身の力で『奇跡』をおこせるよ」
匡に続き、花月はひかりの手を包み、そっと少女自身の胸元にあてがった。
「大丈夫だ。光なら、ちゃんと、此処にある」
仲間たちの声を受け、涙を流すひかりの背を撫で、新はちいさく声をかける。
「じゃあ。元気で」
新の手が離れ、あたたかい気配が、しずかに消えていった。
ふいに冷気を感じ、ひかりは顔をあげた。
吹きつける風を頼りに窓へと歩み寄る。
目を開くと、世界はぼんやりと輪郭をなくして。
けれど、そこに色があることに気づいた。
すべてがはっきりと見えるわけではないけれど。
ちらつく雪のなか。
眼下の街灯のそばに、8つの影が見える。
ひかりはその情景を認め、今度こそ声をあげて泣いた。
この現象の正体が、いったいなんであろうとも。
「ありがとう。ありがとう……!」
――決して、忘れない。
遠ざかるうしろ姿を、胸のフィルムに、しっかりと焼きつけた。
| 作者:西東西 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2013年12月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 5/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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