妖異闇々録『鵺』

    作者:西東西


     ――しゃん、しゃらん。
     鈴のような音とともに、薄暗闇の住宅街を真白き獣が歩む。
     狼とも、狗(いぬ)ともとれるそれは、足首に五色の組紐と、いくつかの金環をつけていた。音は、その金環によるものらしい。
     民家の合間に、ひっそりとたたずんでいた小塚に近づくと、
     ――オオオオオオオォォォン。
     夜月をあおぎ、ひと吠え。
     すると塚の前に、サルの顔、タヌキの胴体、トラの手足、そして尾はヘビという怪異が現れた。
     狗はそれを見届けると、金環を鳴らし、駆け去っていく。
     怪異の足は縄のようなもので地面と繋がっており、狗を追いかけることはできない。
     妖は顔をあげると、
    『ヒィー、ヒィー』
     甲高い声で、もの悲しく、鳴いた。
     

    「今日もよく冷えるな」
     一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)が声をかけながら、教室に集まった灼滅者たちに茶をさしだしていた。
     ひと息ついたところで、事件の説明を開始する。
    「スサノオによって、『古の畏れ』が生みだされた場所が判明した」
     出現するのは、夜。関西のある住宅街にて。
     民家の合間にまぎれ、ひっそりとたたずむ小さな社。
     その前を1人で通りかかると、「ヒィー、ヒィー」ともの悲しい声がする。
     声に足を止めた者を狙い、古の畏れ『鵺(ぬえ)』が、一般人を襲う。
     ただし、複数の人間がいた場合は、姿を現さない。
     そのおかげで、人通りの多い住宅街であることが幸いし、今はまだ被害者が出ていないという。
    「しかし、このままではいずれ一般人にも被害が出てしまうだろう。よってきみたちに、灼滅願いたい」
     
    「この『鵺』だが、一風変わった妖怪として、古くから伝わっている架空の生き物だ」
     サルの顔。タヌキの胴体。トラの手足。ヘビの尾。
     そして、トラツグミという鳥のような声で、不気味に鳴くと伝えられている。
     現れた古の畏れも、伝承とまったく同じ姿で、体格の良い大人ほどの体長があるという。
     攻撃はトラの手足によるするどい斬撃や、蛇の毒。トラツグミの声は、周囲の者たちを催眠に陥れる効果がある。もっとも恐ろしいのは電撃の乱れ撃ちで、貫いた者をマヒさせてしまう。
     なお、社のある場所は空き地となっており、戦闘に支障はない。
    「ただ、街灯の少ない見通しの悪い場所だ。明かりは、あった方が良いかもしれないな」
     そう付けたし、一夜は説明を終えた。
     
    「油断をしなければ、きみたちの手でも十分に灼滅できるはずだ。だが、出現位置がまずい」
     「七湖都」と声をかけ、なじみの灼滅者を呼び寄せる。
    「……ん。住宅街のなか、だから。一般人対応の、おてつだい……だよ、ね?」
    「そのとおり」
     頷き、集まった灼滅者たちに向きなおる。
    「私は引き続きこの事件を起こしたスサノオの行方を探っているが、ブレイズゲート同様、どうにも予知がしにくい。……だが、予測にかかった事件をひとつづつ解決していけば、いずれ、事件の元凶であるスサノオに、つながっていくはずだ」
     一夜はそう告げ、「そうそう」と思いだしたように続ける。
    「当日は冷えこむようだ。防寒対策も、忘れずに」
     「報告に戻ったなら、その時はまた、暖かい茶をふるまおう」と、灼滅者たちを送りだした。


    参加者
    琴月・立花(徒花・d00205)
    殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)
    幌月・藺生(葬去の白・d01473)
    葛木・一(適応概念・d01791)
    海藤・俊輔(べひもす・d07111)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)
    ナタリア・コルサコヴァ(スネグーラチカ・d13941)
    唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)

    ■リプレイ


     深夜。
     事件が予測された住宅街の一角にて。
     上着を羽織り、しっかりと寒さに備えた唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)が仲間たちの元を離れ、歩きはじめる。
     ともに進みゆく赤衣の女――蓮爾のビハインド『ゐづみ』の姿を隠し、
    「参りますよ、ゐづみ」
     その背中が、しだいに小さくなっていく。
     灼滅者たちは囮役となる蓮爾をのぞき、全員が社のある空き地から離れ、待機する手はずだ。敵が出現するまでは、じっと待つしかない。
    「やれやれ、真冬の深夜にダークネス退治とは。まったく難儀なことよのォ」
     防寒具に忍ばせたカイロを握りしめ、ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)がぼやく。
    「底冷えしますね……。ホッカイロ、要りますか? 結構あったかいですよ」
     霊犬『クロウ』を撫でながら、幌月・藺生(葬去の白・d01473)が用意していたカイロを仲間たちにさしだした。
     凍りついたように冷えきっていた指先が、じわりととけていく。
    「それにしても、『イニシエのおそれ』って妖怪ばっかだな」
    「『鵺』が現れるとは……。まるで、平家物語じゃないか」
     霊犬『鉄』と寄りそう葛木・一(適応概念・d01791)と殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)の言葉に、海藤・俊輔(べひもす・d07111)も目を輝かせる。
    「色んな動物混ざってるんだっけー。なんだっけそういうの、『きめら』?」
     「カッケーよなー」と笑う俊輔を見やり、
    「古来より伝わる妖怪の退治なんて、まるで退魔士にでもなった気分ですね」
     もしかしたら、灼滅者とは元々そのような存在だったのかもと想いめぐらせながら、ナタリア・コルサコヴァ(スネグーラチカ・d13941)も頷いた。
     「そのうち百鬼夜行みたいになったりすんのかね?」と笑う一をよそに、ワルゼーは身を縮めながら唸る。
    「……古の妖異を生みだす『スサノオ』。やつの目的がなんであれ、まずは『鵺』を始末せねばな」
     琴月・立花(徒花・d00205)も頷き、社へ向かう蓮爾を見守る。
    「ええ。事件をひとつずつ確実に詰めて、その先にある答えを掴まないとね」
     先の戦争後に頻発している『スサノオ』による事件。
     調べたいことは多くあるが、今は、ただ静かに敵の出現を待った。

     同じころ、七湖都・さかな(終の境界・dn0116)は手伝いに訪れた者たちとともに、周囲の人払いを行っていた。
     ESP『プラチナチケット』で工事現場の警備員を装うのは、久良(d18214)。社へ通じる大きな道に立ち、通りかかろうとする者へ声をかける。
    「すいません。今ちょっと工事中なんで、別の道を通ってもらえませんか?」
     道がわからないという者があれば、
    「こっち、こっち!」
    「私たちが、案内するわ」
     星嘉(d17860)とナイン(d12348)が付きそい、迂回路へ誘導していく。
     柚羽(d13017)は柚琉(d02224)の手を借り、さらに内側の道にカラーコーンとロープを設置。
    「社の補修作業中ですので、立ち入りはご遠慮ください」
     『プラチナチケット』を使い、進入禁止を呼びかけた。
     それでも社へ近づこうとする者は、
    「……ここは、通れない」
     ESP『王者の風』を使用したさかなが、有無を言わさず追いはらう。
     やがて社のある空き地から、剣閃が聞こえはじめ。
    「さて。自前の拉麺でも啜りながら、応援でもしていましょうか」
     福郎(d20367)は念押しのESP『殺界形成』を展開し、戦いの行く末を見守る。
    「あと、おねがい」
     さかなは6人に現状の維持を頼み、仲間たちの元へ走った。


     時は、すこしさかのぼる。
     囮役の蓮爾は、社のある空き地の前をゆっくりと歩いていた。
    (「いずれ、スサノオと再戦が叶う日も来るのでしょうね……。それまでに、『畏れ』は祓っておきませんと」)
     空き地の周囲に街灯はなく、手にした明りを頼りに歩く。
     社の前にたたずみ耳をすましていると、「ヒィー、ヒィー」と、もの悲しい声が聞こえはじめた。
     姿は見えない。しかし、このまま立っていれば、襲撃を受けるのは明らかだ。
     蓮爾は敵に意図を気取られぬよう耳を澄まし、方向や距離を探る。
    (「前方。いや、前上方。社の上か……!」)
    「ゐづみ!」
     叫ぶ蓮爾がESP『サウンドシャッター』を展開したのと、ビハインド『ゐづみ』が主をかばったのはほぼ同時。
     鵺(ぬえ)のはなった雷をくらい『ゐづみ』は引き裂かれたが、蓮爾はその隙に後退し、事なきをえた。
     社の上からのそりと地面に降りたったのは、サルの顔。タヌキの胴体。トラの手足。そしてヘビの尾を持つ獣。
     その奇妙ないでたちに自身を映し、蓮爾は思わず微笑を浮かべる。
    「大事ないか、蓮爾殿!」
     ワルゼーが真っ先に駆けつけ、牽制がてら破邪の白光をはなつ聖剣で鵺の鼻先を切り裂いた。
     まるで鬼火のように光源を揺らし駆けつけた灼滅者の存在は、攻撃を回避した鵺にもすぐに知れた。己を囲むように対峙する少年少女を見据え、鵺は唸りながら身体をかがめる。
     軽快な動きは猫や犬の動物のそれに近いが、大人ほどの体長もあれば猛獣そのものだ。
    「これが『鵺』ですかー。大きいし……、ちょっと怖いですね」
     藺生が光輪を飛ばし、敵近くに立つ蓮爾の守りを固める。
    「どちらかと言うと、恐ろしいよりも滑稽という感じだが」
     千早は素直な感想を述べつつも、WOKシールドを掲げ、後衛として立つ者たちへ守りを広げた。
     俊輔は小さい身体を利用して鵺の懐にとびこみ、雷を宿した拳でジャンピングアッパー!
     ついでに、鵺の脚が縄のようなもので地面と繋がっていることを確認。
    「このまえ戦ったやつも、地面に繋がれてたなー。呼びっぱなしでほっといて、『スサノオ』は何やってんだろー?」
    「繋がれてんのは、意味あんのかな――おっと!」
     一も首をひねるが、対峙した鵺がふたたび雷撃をはなち、慌てて身体をひねった。
     ナタリアは用意していたペンライト複数本を、足元の明かりを確保すべく勢いよく空き地へ放り投げる。
     仲間たちへの攻撃を肩代わりした霊犬『鉄』、ビハインド『ゐづみ』、『ジェド・マロース』の横合いから踏みだし、
    「未来を、革命する力を!」
     裂帛の気合いとともにクルセイドソードを抜刀。剣先を敵へ向け、走らせた影業で鵺を縛りあげた。
     霊犬『クロウ』が浄霊眼で『ゐづみ』を癒す間に、
    「古の畏れが持つトラウマ……。興味深いところよね」
     立花は影業を操り、殴りかかる。
     傷を負った鵺は灼滅者たちと間合いをとり、すかざすトラツグミの声で「ヒィ」と鳴いた。
    「っ!」
    「これは……!」
     前衛陣がその声に囚われ、催眠にかかろうとした時だ。
    「――おねがい、アニマ」
     ささやくさかなの言葉が風となり、仲間たちにかかった枷をはらっていく。
    「さかなさん、一般人対応の方は?」
     回復しきれなかった傷を藺生の風が重ねて癒し、問いかける。
    「……ん。みんなが、見てくれてる」
     だから大丈夫と、聖剣を手に迷いなく戦列に加わった。
    「よぉし! 全員そろったな!」
     一は不敵な笑みを浮かべ、鎖に縛られた影業『忌避すべき狼』を解きはなつ。
    「やい、鵺! 妖怪大戦争でもおっぱじめるつもりか知らねぇけど、まずはオレたちが、ドーンと相手になるぜ!」
     威勢の良い啖呵を合図に、灼滅者たちは一斉に鵺退治にとりかかった。


     事前の対応と手助けに訪れた者たちの尽力で、社周辺に迷いこむ一般人の姿は一切なかった。
     いらぬ心配をしなくて良くなった分、灼滅者たちの戦いは有利に運んだ。
    「改めて。お相手いたしましょう」
     蓮爾は己の利き腕を巨大な砲台に変え、虎の爪を繰りだし、仲間を切り裂こうとした鵺を『死の光線』で貫く。
     傷を受けてなお後衛を狙おうとする鵺の一撃を、ナタリアは身体をはって受け止めた。
    「ここから先は、通しません!」
     閃光を放つ聖剣で、タヌキの胴体を一閃。
     ナタリアのビハインド『ジェド』が、主を援護すべく霊撃をはなつ。
     俊輔はその隙に鵺の死角にまわりこみ、後方から首の根を押さえつけた。
     腕に装着した巨大な杭打ち機を鵺の背中に押しつけ、
    「カッケーわりに、背中ががらあきだなー」
     ドリルのように高速回転させた杭を、叩きつけるように撃ちこんだ。
     不思議なことに、鵺の身体からは血が流れぬ代わりに、黄色い燐光が蛍のように散っていく。
     手負いの獣のごとく攻撃をくりだす鵺の一撃を神具『Meganada【雲の咆哮】』で受けとめ、ワルゼーは口の端をもたげた。
    「存外……、思った程ではないな」
     つぶやき、集束したオーラを拳で妖異の腹に怒涛の連撃を叩きこむ。
     至近距離から攻撃をくらった鵺の身は、勢いよく空き地へ投げだされた。
     その先に立つのは、影業を従えた立花だ。
    「見切れるのものなら見切ってみなさい。もっとも――」
     唸る鵺が攻撃を仕掛けようとした瞬間、その前脚から黄色い燐光がほとばしる。
    「もう、斬ったのだけれどね」
     立花は鵺の身が眼前に投げだされた時すでに、居合斬りを仕掛けていたのだ。
    「世阿弥の古典能にも『鵺』って演目がある。鵺の亡霊が旅の僧に弔いをたのむ話だが……。お前も、そうしてもらいたくて化けてでたんだろう?」
     千早は話かけるように告げ、非物質化したクルセイドソードを構えた。
    「だとしたら、安心するんだな。俺たちがしっかり、引導を渡してやる!」
     振りおろした刃が霊魂と霊的防護だけを破壊し、鵺は傷のない痛みに悲鳴をあげた。
     攻防は続くも、仲間たちへの攻撃は『鉄』や『ゐづみ』が幾度も防ぎ、戦場にその身を散らしていった。
     傷や枷を負ったとしても『クロウ』やさかな、藺生がたちどころに癒し、灼滅者たちの攻撃の手が止まることはない。
     たまらず、蛇の尻尾を巻いて逃げだそうとした鵺の前に、ナタリアが立ちはだかる。
    「……通さないと言いました! 畳み掛けますよ、ジェド!」
     影業を繰ると同時にビハインドを走らせ、縛りあげた鵺に霊障波を見舞った。
    「そのように繋がれた身で、どこへ行こうというのです」
     逃亡を警戒していた蓮爾もすかさず影業をはなち、さらに呪縛を強固なものとする。
    「そういや鵺って、たしか弓でやられるんだよな。なら、これで――シュートっ!」
     一は影で作りだした弓をはなち、2人に続いて鵺の身を縛りあげた。
     威力や効果は変わらないが、古典にのっとり、様式美を意識したまでのこと。
     立花と千早はすかさず間合いに飛びこみ、
    「最高の悪夢で駆逐してあげるわ。永遠に……夢を視ていなさいな」
    「現代の剣、とくと味わえ……!」
     立花は重い斬撃を、千早は非物質化した剣を振りおろし、妖異の身を一刀に伏した。
     もはや仲間の回復は不要と判じた藺生は、相棒の『クロウ』、さかなとともに攻撃に転じる。
    「くーちゃん、さかなさん!」
    「……ん」
     影業の呪縛に抗おうとする鵺の元へ駆け、『クロウ』が斬魔刀で一閃。
     妖の槍に持ち替えたさかなが、冷気のつららで妖異の姿を凍らせる。
     さらに動きが鈍ったところへ、
    「ここまでです、覚悟してください!」
     カミを降ろした藺生の風の刃が、鵺の全身を斬り裂いた。
     もはや戦意を喪失した獣は、ヒィヒィとかなしく鳴くばかり。
     俊輔は追い撃ちをかけるべくマテリアルロッドを掲げ、
    「雷どっかーん!」
     声とともに、魔術による雷で敵を撃つ。
     連携に次ぐ連携で傷を焼かれた鵺に、反撃の気力さえないことはだれの目にも明らか。
     蓮爾は蒼き刃を、ワルゼーは破邪の聖剣を手に、足並みをそろえ、駆けた。
    「お眠りなさい、ひとで無きものよ」
    「古の生き物は古に還れ、Gute Nacht!」
     ふたつの剣。
     巨大な刃がサルの頭を斬り潰し、非物質化した刃がタヌキの胴体を薙ぐ。
     奇妙な姿をした妖異は、傷口から勢いよく噴きだす燐光に呑まれ、やがて姿を消した。
     その光景は、まるで季節外れの蛍が、盛大に舞ったかのようだった。


     戦闘を終えた灼滅者たちは、それぞれの光源を手に、全員で社や空き地を調べた。
     だが――、
    「手がかりらしきものは、何もみつからないわね」
    「果てた周囲にも、情報になりそうなものは残っておらぬようだ」
    「鵺が繋がれてたあたり、見てみたけどー」
    「あっちもこっちもスッカラカン! なんも残ってねぇよ!」
     立花とワルゼー、そして俊輔と一の報告に、仲間たちは嘆息するしかない。
    「一夜も待っているだろうし、ひとまず、学園に戻るか」
    「お手伝いのみなさんにも、声をかけてきましょう」
     千早の言葉に、ナタリアが駆けていく。
     その姿を見送り、霊犬とともに回収したペンライトを手に、藺生が声をかける。
    「身体も冷えていますし、コンビニで、なにかあったかい飲み物でも買っていきませんか?」
     問われたさかなは「それなら」と、空き地の外へ目線を向け、
    「コンビニも、いいけど。……福郎が、屋台。持ってきてた」
    「え?」
    「ラーメン屋台」
     まさか手伝いついでに屋台を引っさげてくる者がいるとは思わず、仲間たちは半信半疑で顔を見合わせる。
     やがてナタリアに導かれ、サポートメンバー6人が合流。
     そこにはたしかに、赤い提灯をゆらゆら揺らした、おんぼろ屋台があった。
    「屋台だな」
    「本当に屋台だ……」
     ざわめく仲間たちを前に、すでに人数分のどんぶりを用意していた福郎は、陰気に問いかけた。
    「……召し上がります?」

     ラーメンをすする仲間たちから離れ、蓮爾は来た時と同じように社の前にたたずみ、眼を閉ざす。
     いまもまぶたの裏に、消えゆく鵺の、黄の燐光が舞う。
    (「僕の『蒼』も、いつか、身を喰らう日が来るでしょうか」)
    「蓮爾」
     声に顔をあげれば、湯気のたちのぼるどんぶりを手にしたさかなの姿。
    「あったまる、よ」
     さし出された椀と割りばしを受けとり、湯気の中身をのぞき、ふっと微笑を浮かべる。
     魚介の風味薫る醤油スープに太縮れの麺。
     具は叉焼一枚だけと、やや見た目に難ありのラーメンだけれど。
    「……ありがたく。いただきます」
     蓮爾は手をあわせ、空をあおぐ。

     刺すような冷気に、白くそまる吐息。
     濃紺の空に星がまたたく、うつくしい夜だった。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年1月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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