名古屋嬢はきしめんがお好き

    ●名古屋城
    「しゃちほこキンキラだったな~」
     夕暮れ時の名古屋城の庭園を、東京から観光にきた男子大学生3人組が歩いていた。彼らは市内に一泊し、明日も観光して帰京する予定である。
    「腹減ったな。ごはん行こうぜ」
    「だな。ちょっと早いけど、予定してた店に……」
     すると、突然。
    「あの、お兄さんたち」
     城の敷地の出口に近いあたりで、女の子の声で呼び止められた。3人が瞬速で振り向くと、ゴージャスな巻き髪に制服をキュートに着こなした、名古屋嬢予備軍的な可愛らしい女子高生が立っていた。
    「はあい♪ 僕らのこと?」
     旅先でカワイイJKから声をかけられて、舞い上がらない男子大学生がおろうか。しかし、JKは真剣な顔で。
    「お兄さんたち、観光の方ですよね。晩ご飯何食べるんですか?」
    「手羽先揚げで一杯やる予定だけど」
    「じゃ、じゃあ今日のお昼は何を?」
    「名物の辛いラーメン、な」
    「辛かったけど美味かったな」
    「明日の朝ご飯は!?」
    「そりゃもちろん喫茶店でモーニングだよ。名古屋だもん」
    「あああ明日のお昼は!!?」
     いつしかJKの口調は説破詰まり、表情は鬼気迫るものになっている。なんでこの子、俺らの食べるものこんなに真剣に訊いてくるんだろ? と思いつつ、大学生たちは律儀に。
    「奮発してひつまぶしにしよっかなって」
    「夕飯は!!」
    「夕方には帰るからね、新幹線で駅弁かなあ」
     JKは紅潮した顔で3人に詰め寄ると。
    「せっかく名古屋まで来たのに、きしめんは食べないんですか!?」
     きしめん?
     そういえば名古屋名物のひとつではある。
     3人は顔を見合わせ。
    「きしめんは予定してないなあ」
    「うどんとそんなに変わらないしねえ」
    「味噌煮込みうどんの方がいいよね」
     そこまで言った大学生たちは、JKの様子がいよいよおかしいことに気づいた。愛らしかった目が般若のように吊り上がり、紅い唇は耳まで裂けて。
     そしてキレイに巻かれていた黒髪が白く、太く、平たく変化していた――まるできしめんのように。
    「――名古屋ござったら、きしめん食べんかい!!」
     JKは先ほどまでとはうってかわった地に響く太い声で叫び、
    「ひ、ひいいいぃー!」
     逃げだした大学生たちを、しゅるりと伸びた髪……きしめんで捕まえ、容赦なく締め上げて……。
     
     ●武蔵坂商店街
     ずるるる……ちゅるん。
     袖岡・芭子(匣・d13443)と春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は、商店街のうどん屋できしめんを啜っていた。
    「きしめんて、名古屋でも消費落ちてるんですか?」
     典が尋ねる。この商店街でもきしめんをおいている食堂はここ1軒しかなかった。
    「うん……そもそもきしめんて、名古屋人の合理性が生み出したものなの」
     芭子が言葉少なに考え考え解説したところによると。
     きしめんというのは、合理的でせっかちの名古屋人が、うどんのゆで時間を短縮するために発明したものらしい。しかし昨今、名古屋にも県外から早い旨い安いうどん店がたくさん参入したため、必然的にきしめんの需要は落ち込んでいるようだ。
    「なるほど……」
     典は納得して頷く。
     芭子はきしめんのお代わりを注文してから。
    「その闇堕ちしかけのJK、きしめん屋の娘かなんかなの?」
    「いえ、単にきしめんの未来を憂う、きしめん大好きっ子みたいですよ。根岸・綿花(ねぎし・めんか)さんていうんですけど」
    「その子、説得……出来たら、した方がいいんだよね?」
    「もちろん。彼女の行動の不毛さを自覚させるとともに、きしめんへの愛をポジティヴな方角に向けてやるといいんじゃないでしょうかね」
    「ポジティヴね……」
     芭子はほうじ茶を飲みつつ思案する。
    「誘き出すには、名古屋城の庭園できしめんの悪口を叫んでください。怒ってすぐに出てきます」
    「うん、わかった」
    「そうだ、無事解決したら、皆さんで名古屋グルメしたらいいんじゃないですか? きしめんに限らず」
    「そうだね……」
     芭子は頷いて、2杯目のきしめんにとりかかり。
    「きしめんも美味しいんだけどねえ……」
     と呟いた。


    参加者
    黒路・瞬(残影の殻花草・d01684)
    アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)
    三園・小次郎(かきつばた・d08390)
    穹・恒汰(本日晴天につき・d11264)
    袖岡・芭子(匣・d13443)
    焔野・秀煉(鮮血の焔・d17423)
    ミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)
    長谷川・佳凛(北の少女・d23917)

    ■リプレイ

    ●名古屋城
    「名古屋かぁ……」
     穹・恒汰(本日晴天につき・d11264)は、ういろうをもぐもぐしながら、夕焼けに染まる天守閣を見上げた。
    「実家を出て以来。久しぶりだなー。地元の事件だし、何とか説得したいなあ」
     彼はご当地ヒーローではないが、地元の事件はやはり気になる。
     黒路・瞬(残影の殻花草・d01684)は頷いて、
    「好きな気持ちが暴走してるだけなんだから、何とかしないと」
    「むしろ今回の事件は、愛知のヒーローとしてはなかなかやり辛いぜ。仕方ねーけどな」
     三園・小次郎(かきつばた・d08390)は苦笑する。
    「美味しいんだけどね、きしめん」
     袖岡・芭子(匣・d13443)は小次郎の霊犬、きしめんをじっと見つめる。きしめんは、びくりと小次郎の陰に隠れた。
     アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)が、拳を振り上げ、
    「そもそも、食事で怒ってよいのは最後の楽しみにとっておいたデザートを奪われた時だけじゃぞ!」
     私見を述べる。
     灼滅者たちは庭園を見回しながら歩みを進める。天守付近は人気も多かったが、時間も時間なので離れれば途端に閑散とする。
    「……このへん、いいんじゃない?」
     ミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)が足を止める。植え込みが切れ、ちょっとした広場のようになっている砂利敷きの空間に出たのだった。
     灼滅者たちは四方を見渡し人気が無いことを確かめると、焔野・秀煉(鮮血の焔・d17423)が殺界形成、恒汰がサウンドシャッターをそれぞれ発動した。仕上げに長谷川・佳凛(北の少女・d23917)が『改修工事の資材搬入のため立ち入り禁止』の看板を立てる。
    「工事中だし、丁度いいわよね」
     準備万端。さあ、思う存分きしめんをディスってターゲットをおびきだそう!
     えへん、と恒汰が咳払いをしてきしめんディスの口火を切る。
    「明日は何食べようかなぁ……まぁきしめんは別にいっかー!」
    「そうだね-!」
     芭子がノって。
    「やっぱり名古屋に来たら味噌煮込みうどんとか味噌カツだよね-、きしめんとか古臭いしー!」
    「きしめんってさー、うどんとカブってる上にうどんよりも存在感ねーしさー!」
     小次郎も声を張り上げ、
    「徹底的に地味だしさー! きしめんよりも辛いラーメンのが数倍いいわー!」
    「だよな、きしめんなんかダセぇ! うどんの方がマシだって!」
     秀煉は大げさに両手を広げて応じた。
    「きしめんって、何て言うかこう、太くて平らで食べにくいのよねーっ!」
     実感を伴う悪口を述べたのは佳凛。実際彼女はラーメンや蕎麦の細麺派で、子供の頃はきしめんを食べにくく感じていた。
    「まあ、きしめんって結構地味だし……ねぇ。あえて食べるほどのモンでもないよな」
     瞬はディスりつつも、実はきしめんが好きなので胸が痛い。
     アルカンシェルがすましてトドメの一発。
    「ところで、そのきしめんとはラーメンの一種なのか?」
     立て板に水のきしめんディスが繰り広げられ、ふと気づくと霊犬の方のきしめんがしゅんとうつむいていた。
    「うっ、お前の悪口じゃないからな……ごめんな……」
     小次郎が慌ててもふもふし、ミツキの霊犬・ういろうと、秀煉の霊犬・焔玉も寄ってきてなぐさめる……と、突然。
     ゴオッ、と不穏な風が吹いた。そこはかとなくめんつゆの香りのする風が。
     ざわり、とバベルの鎖がそそけ立つ。
     すると、天にわかにかき曇り、
    「きしめんの悪口を言ってるのは、だ~れ~じゃ~!」
     地の底から響くような太く不気味な声が。

    ●名古屋嬢
     現れたのは、キュートな制服姿の名古屋嬢予備軍的女子高生……のはずなのだが、その顔は般若並に怖い。目は吊り上がり、口は耳まで裂けている。ゴージャスなはずの巻き髪は、白く平たいきしめんヘア。そのきしめんヘアは1本1本が蛇のようにうにゅうにゅと蠢いている。
     名古屋ご当地怪人・きしめん女子・根岸綿花の出現である。
    「出たな!」
     アルカンシェルが嬉しそうに叫ぶ。
     灼滅者たちはカードを解除し、ポジションに着こうとした……が、それより早く、
    「きしめんの悪口が聞こえたぞ~! 許さん~!!」
     きしめんヘアがぶわあ~っと踏みだしかけていた前衛へと伸び広がった。
    「わあっ!」
     前衛はきしめんに足を取られたり、はじき飛ばされたりして砂利の上に倒れ込んだ。
    「さすがのコシってかー!」
     しかし、小次郎は倒れつつも、必死にシールドを展開しワイドガードを前衛にかける。
     バタバタと前衛が転ばされていく中、焔玉に庇われた秀煉は先制攻撃を逃れ、
    「てめぇ、郷土愛はいいが、熱くなりすぎだろ!? ちったあ周りも見てみろ!!」
     シールドをかざして突っ込んで行き、綿花を殴り飛ばす。
    「黒路当主候補・瞬! いざ参る」
     瞬も決め台詞を叫びながら黒々とした殺気を放出すると、きしめんに倒されていたキャリバーの神威を素早く起こし。
    「神威、突撃!」
     命じられた神威はドバババッと砂利を蹴立てながら突き進む。綿花は、神威の突撃は飛び退いて避けたが、そこへ勢いよく伸びてきたのは、
    「そもそもきしめんは人を傷づけるものではなかろうが!」
     アルカンシェルの縛霊手。
    「きいーっ!」
     綿花はその手を力尽くで撥ねのけた。さすがなりかけとはいえご当地怪人。あなどれないパワーだ。
    「痛いじゃん! おみゃーら何者やか!?」
     名古屋の女子高生口調に戻ってヒステリックに叫んだ。
    「私たちは、武蔵坂学園の灼滅者やよ」
     ミツキが影を足下に引き寄せながら、釣られたのか名古屋弁混じりで応える。
     中衛と秀煉が頑張っている間に、ういろうと、恒汰のナノナノ・イチが忙しく駆け回って、あるいは飛び回って前衛の回復にいそしんだおかげで立ち直った芭子と佳凛が、身構えながらじりじりと接近していく。
    「あなたを救いにきたの。その力、正しく使って欲しいから」
    「そうよ、貴女が本当に、きしめんを良いものだと信じているのなら、腕っ節で殴り倒すんじゃなくて、きしめんの魅力を伝えなきゃ」
    「なんじゃ唐突に! 何者にしろ、あたしのやり方に口を出すとは生意気!」
     綿花はガッと地面を蹴ると接近してきていた女子2人の頭を軽々と越え、先ほどシールドで殴った秀煉目がけて、
    「エビ天キーック!」
    「うげっ!」
     秀煉が今度はまともにくらってひっくり返ってしまった。慌ててういろうが飛んでいく。
     もうっ、とミツキが苛立って頬を膨らませ、
    「少しはこっちの話、聞きなさいよ!」
     足下から伸びた影が綿花に喰らいつく。動きが取れなくなった一瞬に、芭子は異形化した拳を見舞い、
    「函館キーック!」
     佳凛は負けずにご当地キックをかます。そこに小次郎の縛霊手が、
    「捕まえた!」
     殴り、縛る。
    「きしめんの悪口言ったのは悪かったよ」
     恒汰が小次郎の霊力に縛られもがく綿花に、
    「オレたち本当はきしめん好きなんだけど、あんたと話したくて悪口言ったんだ」
     綿花が恒汰の顔を見上げた。
    「何? おみゃーらきしめん好きなのか?」
     灼滅者たちは揃って頷いた。きしめんをマジで知らなかったアルカンシェルも調子よく皆に合わせている。
     小次郎が、
    「俺名古屋出身だし、きしめんのウマさは良く知ってるよ! あっさりしてていいよな!」
     と言うと、
    「私……も、名古屋。でも、名古屋はきしめんだけじゃないけどね」
     ミツキがもにょもにょっと微妙にヤバそうなことを言い、慌てて恒汰が、
    「お、オレも名古屋出なんだけどさ。まあ、確かに他にも美味いものいっぱいあるけど、きしめんて名古屋の代表みたいなとこあるじゃん! ちっとくらい消費量減ったって、名古屋の食文化支えてると思って、焦らずにどーんと構えてようぜ!」
     威勢良く言い聞かせる。
     アルカンシェルが頷いて、
    「そうじゃ、相手がきしめんの良さを知らぬなら食べさせてやればよい。料理の良さを教えるならそれが最良のはず」
    「そうさ、お前のやり方じゃ、分かってくれる人はいない」
     と、瞬も言い聞かせたが、綿花の顔は怒りと羞恥に真っ赤になって。
    「ううう、うるさいっ、きしめんの現状を知りもせず、キレイ事ばかりぬかすんじゃない!!」
     メドゥーサもかくやとばかりに、きしめんヘアが凶悪に蠢く。その1本がしゅるりと伸びて、小次郎を狙う。
    「わあっ!?」
     そこへ。
    「きしめん!」
     きしめんがジャンプ一発、身体を入れた。きしめんがきしめんにしゅるりと巻き付く!
    「くそっ、とりあえず話を聞けって!」
     小次郎は愛犬に庇われ胸をきゅんきゅんさせつつも、敵の至近に出、再度縛霊手で縛りをかける。同時に瞬が、
    「神威、足止め!」
     神威に機銃掃射を命じ、自らも黒死斬で足止めを狙う。
     動きの鈍った綿花に、芭子はロッドで魔力を流し込み、佳凛は光の剣で斬りかかる。後方からはミツキが前に伸ばした両手からオーラを撃ち込んで。
    「せっかく美味しいモノなのに、強制した、ら、美味しいのも美味しいって思えなくなる、と思うの!」
    「目を覚ませ!」
     秀煉はシールドに炎を宿してひっぱたき、
    「味を語らず力に逃げるぅ~、き~しめんを愚弄する道と知れ~♪」
     アルカンシェルは、ディーヴァズメロディに説教を載せ、恒汰がその間に集気法できしめんをきしめんから救出する。
    「……うう」
     連続攻撃をうけ、綿花はさすがに2,3歩よろめいたが、
    「く、くやしい……」
     またきしめんヘアがぞろりと不穏に蠢きだし、小次郎が手を挙げて押しとどめ。
    「待てって! 分かってるんだろ、本当はアンタも! 力尽くは、きしめんの優しい味に反してるって!」
     秀煉は油断なくシールドを構えながら。
    「そうだぜ、押し付けられたらどんな良いもんだって、良い印象は持てねぇよな? そんなものは独りよがりの愛だ」
     佳凛も叫ぶ。
    「そうよ、貴女に暴力を振るわれた人や、その周りの人は、却って嫌いになっちゃうわよ!?」
    「そ……そんなこと」
     ぺたん、と綿花は力なく地べたに座り込んだ。
    「わかってるわ! でも、どうしたらきしめんが復活できるか、わからんのだも……」
     泣きそうである。
    「あのさ……」
     芭子がおそるおそる綿花に近づいて、
    「私達の学園に来ない? 東京なんだけど」
    「え……?」 
     綿花が般若顔を上げた。芭子と目線が合う。
    「その力を正しく使う方法が学べるし、きしめんを広めるにも役立つと思う」
     ミツキがこくんと頷いて。
    「うん、綿花が美味しい美味しい、って食べてるの皆に見てもらうの、いいと思う」
     佳凛も嬉しそうに、
    「そうよね、まずは学園で、きしめんを知らない人が好きになるチャンスを作ればいいのよ、美味しいお店を紹介するとか、新しい食べ方を考えるとか」
     秀煉も笑って。
    「そうだよな、今は名古屋じゃなくても食べられるんだし、名古屋に来たら食え! ってより、きしめんを好きになってもらう方向にアピールしたらいいんじゃねぇか?」
     芭子が手をさしのべる。
    「ご飯のおいしさはシチュエーションで変わるんだよ。きしめんの美味しさは誰より根岸が知っているんだから、一番美味しく食べさせる方法を一緒に考えよう」
     綿花の手が上がり、芭子の手に近づいていく……が、その手はビクリと震えて引っ込められ。
    「でも……あたし、こんなんで……」
     綿花は自分の髪と顔に触れる。
    「大丈夫、まかせろ」
     瞬も綿花に手をさしのべる。
    「俺たちが、お前の中の悪いヤツを倒してやる」
     灼滅者たちは見上げる綿花に向けて力強く頷いた。
     綿花は芭子と瞬に手を取られ、立ち上がり。
    「わかった……頼む」
     手を離し、しおれたきしめんヘアを軽く下げた。灼滅者たちは改めて武器を構えて殊勝な様子で立つ綿花を囲む。
    「ちょっとだけ、痛いけど、我慢してね……」
     ミツキがふたたび影を足下に引き寄せて。
    「……いくよ!」
     その影が喰らい付いたのを皮切りに、灼滅者たちは一斉に攻撃に出る。
     アルカンシェルの縛霊手が綿花を抑え付けると、芭子のロッドが炸裂し、瞬のナイフは制服を切り裂いた。佳凛はきらめく漁火ビームを撃ち込み、サーヴァント達もそれぞれ積極的に攻撃に加わっていく。
    「そりゃあっ! ……あっ」
     続いて恒汰が思いっきり聖剣を振りかぶった……が。
     ぴしゅるっ。
     しおれていたきしめんヘアが1本だけ起き上がり、その腕を弾いた。
    「あっ!」
    「あ……」
     灼滅者たちも声を上げたが、綿花もハッと顔を上げた。
    「根岸……?」
     芭子が心配そうに名を呼んだ。
     傷ついた恒汰には、イチが、しょうがないわねー、という感じでパタパタ飛んでいく。
    「……は、はやくっ!」
     綿花は頭を抱えて蠢きだそうとする髪の毛を抑え付ける。
    「はやく、やっちゃって!!」
    「よしっ……」
     秀煉がぐっと拳を握りしめ、オーラを込める。
    「小次郎、行くぜ!」
    「おう、しゅーれん!」
     小次郎もぼうと光る拳を構え。
    「「たあっ!」」
     ふたりは綿花を挟み撃ちにするように、渾身の連打を放った……すると。
     ボムッ。
    「わっ!?」
     綿花の身体が突然大量の煙と共に爆発した。その姿は煙に包まれ、まるで見えない。
    「綿花とやら、大丈夫か!?」
     アルカンシェルが声をかけるが返事はない。
     灼滅者たちはやきもきしながら煙が散るのを待ち……。

     煙が晴れるにつれて見えてきたのは、地面に横たわる愛らしい名古屋嬢だった。
     もちろん髪の毛は、もうきしめんではない。

    ●名古屋、上々!
    「ここが、あたしのお勧めの店」
     無事に目覚めた綿花にねだって、灼滅者たちは、彼女のいきつけのきしめん店に連れてきてもらっている。なかなか風格のある老舗で、ミツキは興味深そうに店内を眺め回す。
    「へえ、きしめんて色々あんだなぁ」
     秀煉は感心してメニューをめくる。
     皆で迷いまくったあげく、海老天・野菜天・かきあげ・おろし・月見・きつね・冷やし・カレー等々たくさん注文した。
    「むふふー、きしめん楽しみじゃ」
    「楽しみだねー」
     佳凛と顔を見合わせて笑うアルカンシェルは、きしめんほぼ初体験である。
     瞬はうっとりと、
    「きしめん食べたら、他の名古屋グルメも回りたいな」
     さすが成長期。
    「根岸さ、きしめん自分でも上手に作れる?」
     芭子に聞かれ、綿花は照れくさそうに。
    「作れるけど、上手いかどうかは……」
     恒汰が頭の後ろで手を組んで。
    「きしめんにこだわるのもいいけど、他の名古屋飯もうみゃーって、認めるのも大切だって思うんだて!」
     釣られたのか名古屋弁で言うと、綿花はますます恥ずかしそうに。
    「うん……今思うと、あたし、イタかったよね?」
    「いやいや、きしめんヘアー、なかなかイケてたぜ?」
     からかったのは小次郎。
    「やだー!」
     綿花に背中をひっぱたかれる。
    「いてて……でも、俺のきしめんのが絶対可愛いけどな!」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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