●
深夜、うらびれた風俗店にて。
その一室に、一組の男女の姿があった。
ひざまずいた男が手を伸べ、眼前に立つ女に触れようとした時だ。
――パン!
空を裂く音が響き、しなる一本鞭が男の手を打つ。
「おまえ、だれの許しを得てあたしに触れようとした?」
告げたのは、軍帽。コルセット。Tバック。ガーター。フェンスネットストッキング。そして、ピンヒールという全身ボンデージの女。
感情のない眼鏡越しの冷めた目線に、真っ赤な唇。漆黒の長い髪は美しく、白い肌とのコントラストが映える。
「申しわけありません、イーリス様! あまりのお美しさに、つい……!」
言い訳する男の頬を指先で撫で、女――ドミナ・イーリスは瞳を覗きこむように顔を寄せる。
「おまえは、意志の弱い自分を変えたいんだろう? なら、あたしの躾に従うことだ。最後まで耐えきれたなら、きっと新しい世界が開けるだろう」
ピンヒールの先で、男の足をなじるように踏みつけながら、
「あたしは、おまえの可能性を信じよう。おまえは?」
「わ、私も、イーリス様を信じます……!」
「よろしい」
ドミナ・イーリスは無表情のまま告げ、一本鞭を掲げた。
「最後まで頑張れた仔には、ご褒美をあげよう」
数時間後。
あらゆる折檻に耐え、全身の肌という肌を赤く腫らした男は、ドミナ・イーリスの前にひれ伏していた。
「よく頑張ったね。おまえに、あたしへの口づけを許そう」
男は頷き、女王のつま先へそっと口づけを落とす。その表情に、最初の時のような、おどおどとした雰囲気はない。
「ドミナ・イーリス」
部屋を出、呼び止めたのはボンデージ姿の配下の男女。
「本日収穫した『刺青』は、『ラッピング』した後、鹿児島に出荷いたしました」
「あの男も、送りますか?」
問われ、ドミナ・イーリスは目を伏せる。
「あれは『外れ』だ。……明日から、うちで面倒みてやりな」
「かしこまりました」
(「あちらには『素材』を。あたしには『奴隷』を。……悪い話じゃない」)
――この世にはまだ、導きを必要とする者が数多居るのだから。
●
「HKT六六六配下の強化一般人が、博多の中洲地区で動きをみせるという予測が成った。対する相手は、風俗の女。いわゆる『SMの女王』だ」
一夜崎・一夜(高校生エクスブレイン・dn0023)の言葉に、教室の灼滅者たちがざわめく。
「名は、ドミナ・イーリス。『ドミナ』は、女支配者を示す称号。つまり『イーリス女王』というわけだ」
女は中洲でSM倶楽部をひらき、客を招いて『刺青の調査』を行っている。
刺青のある者は鹿児島へ送り、入店した者の何人かは女に心酔し、HKT六六六の協力者として活動しているという。
「刺青羅刹とのつながり。そして、HKTの勢力拡大。これらを阻止するためにも、店を潰す必要がある。よってきみたちに、対応願いたい」
作戦開始となる時刻は、深夜。
場所は、中洲のSM倶楽部にて。
侵入に際し、使える店の出入り口は客が入る『表口』と、従業員が出入りする『裏口』の2つだ。
「だが、ドミナ・イーリスとその配下は、邪魔が入ればいつでも逃走する準備をしている。逃走させずに撃破するには、工夫が必要になるだろう」
考えられる方法は、2つ。
「ひとつめは、1人が囮となって入店。その間に退路を断つ方法だ」
この場合、囮はドミナ・イーリスの相手をすることになる。女の手管によって早々にKOされるため、その後の戦闘に加わるには、仲間たちが踏みこんでから3分以上の間を置かねばならない。
なお囮の性別は問わないが、18歳以上と言って通用する風貌であるか、ESP『エイティーン』の使用が必須となる。
「ふたつめは、配下を籠絡する方法だ」
配下たちはドミナ・イーリスを崇拝し、心から忠誠を誓い、尽くしている。ゆえに彼らの忠誠心を揺らがせることができれば、撤退を阻止できる可能が上がる。
しかし配下たちは全員、ドミナ・イーリスを女王としても、人間としても敬愛し、行動をともにしている。
敵の魅力を上回ることができなければ、籠絡は失敗に終わるだろう。
「――これらの策を使わずに戦闘を仕掛けた場合、高確率でドミナ・イーリスをとり逃がす結果となり、根本的な解決にはならない」
敵は警戒心が高く、事前策などもよほどうまくやらなければ看破されてしまう。
女王の撃破が難しいと判断したならば、最低限拠点となる店は確実に潰すようにして欲しいと一夜は告げた。
「ところで一夜崎は、予知を見てどうもなかったのか?」
一夜とて青少年。それほど魅力的な女なら、魅了されはしなかったのかと言いたいのだろうが。
エクスブレインは「あの女と私では、SMが成立しない」と意味不明な回答をよこし、
「それにあんな女の導きなどなくとも、私はすでに『矜持』を持っている」
愚問だとでもいうように、意地の悪い笑みを浮かべた。
参加者 | |
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椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285) |
犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889) |
凛々夢・雨夜(夜魔狩・d02054) |
三島・緒璃子(稚隼・d03321) |
リステア・セリファ(デルフィニウム・d11201) |
茂多・静穂(ペインカウンター・d17863) |
北条・葉月(我歌う故に我在り・d19495) |
笹川・瑠々(放浪する凶殲姫・d22921) |
●
博多入りした灼滅者たちは事件が起こると予測された『SM倶楽部』の場所を確認し、夜を待つ。
囮役が入店したのは、つい先ほどのこと。
残る7人は表口と裏口に展開し、突入に備える手はずだ。
裏口には、3人。
「なぜ、一方的に殴られてそれを良しとできるのだろうな……」
SMなどさっぱり理解できないという三島・緒璃子(稚隼・d03321)が、心底不思議そうにつぶやく。
「やってる事は『淫魔』みたいですよね」
特にドミナなどダークネスのようだと、凛々夢・雨夜(夜魔狩・d02054)も頷く。
笹川・瑠々(放浪する凶殲姫・d22921)は別班の仲間たちへ、裏口に到着したことを報告する。
「あとは、合図を待つだけじゃな」
ときおり出入りする従業員をやり過ごしながら、3人は仲間の合図を待ち、引き続き警戒を続けた。
一方、表口では。
「裏口班、配置についたようです」
携帯電話で瑠々と連絡をとっていた椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)が、仲間たちを振りかえる。
「まだ学生なのに、こんなイカガワシイ店入って大丈夫なのかな。いや、純粋に灼滅者としての仕事だから大丈夫! ……たぶん」
物陰に身を隠し、自問自答するのは北条・葉月(我歌う故に我在り・d19495)。
「わざわざ『従いに来る』のを相手にして、なにが楽しいのやら」
ESP『旅人の外套』で一般人の目をやり過ごし、リステア・セリファ(デルフィニウム・d11201)も嘆息交じりにつぶやく。
「どんな任務であろうと、確実に役目をまっとうするだけです」
同じくESP『闇纏い』で身を隠していた犬神・沙夜(ラビリンスドール【妖殺鬼録】・d01889)は、仲間たちに告げると同時に、改めて気を引き締める。
敵は強化一般人だけとはいえ、楽観視は禁物。
常に最悪の事態を意識しておくべきだと、注意深く状況を見守った。
●
時はすこし、さかのぼる。
囮役の茂多・静穂(ペインカウンター・d17863)は入店後、ESP『エイティーン』の効果もあり特に疑われることなく個室に通された。
やがてプレイルームに、全身黒のボンデージに身を包んだドミナ・イーリスが現れ、
「初めてみる『スレイブ』だね。おまえが、ここへ来た理由は?」
「今までの気弱な自分を、変えたいんです」
静穂はおどおどとした態度でドミナの前に、膝をつく。
使いたい『道具』があると見せたのは、黒のラバースーツ。
ドミナは目を細め、手にしていたトランクケースを床に投げ置いた。
開いた鞄のなかにはSMプレイに使用するありとあらゆる『道具』が詰まっている。
「あ、あまり激しくはしないでお導きくださ――」
――パン!
言い終えるより前に、ドミナの手にした一本鞭が高らかに響く。
「服を脱げ」と、命令し。
「ここでは、おまえはなにひとつ決めることも、望むこともできない」
いやがるそぶりを見せた静穂へ、ドミナは容赦なく鞭を振りあげた。
それからたっぷり数十分。
静穂はドミナに全身を検められた後、ひたすら羞恥心をあおられ、罵られ、鞭を打たれた。
「も、もっと……痛めつけてくださいませイーリス様……!」
静穂は己が『ドM』であると自覚している。
プレイを盛りあげるうちに、段々とドミナの手管に翻弄されつつあった。
――それでも、囮としての役目は果たさねばならない。
「こんな姿、イーリス様以外には……見られたくないです」
「そう、それなら」
ドミナはプレイルームに緊縛師の『ミストレス』を呼び寄せると、部屋の柱に静穂を縛りあげるよう命じた。
扉を開けはなち、緊縛師にも鞭を持たせると、
「声をあげれば、だれかがおまえを見に来るだろうね」
告げられた言葉に、静穂は笑みを浮かべた。
これで役目を遂げられると、再び打ち据える痛みに、身をゆだねた。
●
静穂が入店してから、数十分。
待機中の灼滅者たちは、ESP『テレパス』で静穂の思考を読みとろうと試みていた。
しかし、『テレパス』で読みとれるのは周囲の人々――視界範囲内にいる者の思考のみ。
よって姿の見えない静穂の思考を合図にすることはできず、灼滅者たちは静穂の『声』が届くのを、ただひたすらに待つことになる。
それとて、策を誤れば灼滅者たちのもとへ届かない可能性があったのだが――。
意識の限界。
ぎりぎりのところであげた静穂の絶叫が、ふいに店中に響いた。
本来なら部屋の外へは届かなかっただろう『声』だが、プレイルームの扉を開けさせたことが、功を奏したのだ。
「茂多の声だ。行くぞ!」
表口側で待機していた葉月が声をあげ、真っ先に突入。
「悪いけど、ちょっと眠ってなさい!」
受付に居た一般人がなつみと葉月の姿を見咎めるも、リステアがESP『魂鎮めの風』を使い、即座に沈黙させる。
沙夜はすぐに店内見取り図を探しだし、敵の避難ルートとなりそうな場所を確認。
「表口、裏口以外に、敵の逃げ道はないようですね」
静穂の居場所を探すも、声は先の悲鳴の後ぴたりとやんでいる。
「こちらには居ないようです」
近辺を確認し、なつみがさらに先行しようとした時だ。
殺気を感じ、瞬時にスレイヤーカードの封印を解放。
WOKシールドによる攻撃を、同じくWOKシールドで受け止めた。
「……チッ。仕留めそこねたか」
「た、ただのこどもじゃないみたいだ」
いかにもガラの悪そうな男と、気の弱そうな男が現れ、灼滅者たちの行く手をふさいだ。
一方、裏口から突入した3人はESP『プラチナチケット』で一般人をやり過ごし、先へ進んでいた。
「表口班が、接敵したようです」
携帯電話から聞こえくる喧騒から判断し、雨夜が仲間たちに伝える。
もっとも音だけなので、どれだけの敵とやりあっているのかは、わからない。
「私らも、警戒した方が良か」
緒璃子の提案で、霊犬『プロキオン』とライドキャリバー『キラコマ』を先行させようとした、その時だ。
「表が騒がしいと思えば、こちらもか」
感情のない声が響くや周囲に鋼の糸が張りめぐらされ、灼滅者たちを包囲。
『プロキオン』と『キラコマ』が即座にそれぞれの主を守るも、続けて撃ちこまれた拳の連撃を受け、霊犬が殴り飛ばされた。
灼滅者たちの眼前に立っていたのは、ボンデージ姿の女が2人と、男が1人。
声を発した女はすぐに退路をふせぐべく動いた3人を見やり、目を細めた。
「道をあけよ」
一本鞭を高速で振りまわすと、灼滅者たちを一斉に打ち据えた。
●
状況は、こうだ。
静穂が気絶する直前にあげた『声』を合図に、表口、裏口に待機していた灼滅者たちが一斉に突入。
両出口へ至る通路を押さえることに成功するものの、プレイルームへ行かず、警戒を続けていたM男2名が表口班と接触。
灼滅者たちの侵入はすぐにドミナと残る配下の知るところとなり、逃走を図るべく裏口へ向かった敵が、裏口班と遭遇したのだ。
表口班4人は、2名の敵と。
裏口班3人とサーヴァント2体は3名の敵を相手どり、KOされた静穂の居場所はわからない。
「痛めつけてほしいのなら、いくらでもいたぶってあげる……!」
リステアは己の片腕を異形巨大化させ、表口に現れた男たちのうち、ガラの悪い男めがけ腕を振りあげた。
だが気弱そうな男が攻撃をかばい受けた隙に、死角から放たれた男の拳がリステアを捉え、幾重にも打ち据える。
「下がってください。戦端をひらいた以上、おそらく籠絡はもう、効きません」
すぐになつみが踏みだし、エネルギー障壁でガラの悪い男を殴りつける。
2名のほかに敵が現れないということは、残る3名は裏口へ向かったとみるべきだろう。
ドミナを逃がすために彼らが立つ以上、籠絡の成功は、もはやありえない。
「では思う存分、ドSとして相手になってやろう!」
沙夜のはなった鋼糸の結界が、M男2名に絡みつく。
沙夜が事前に用意していた策を仕掛けるだけの猶予は、なかった。受付には眠らせた一般人もいる。この場は、正攻法で戦うしかない。
「おまえら、痛いのが好きなんだろ? だったら、こいつを味わいな!」
葉月は手にした鞭剣を高速で振りまわし、M男たちに叩きつけた。
M男2人の身体には幾重にも裂傷が刻みこまれるも、一向に倒れる気配はない。
静穂の戦力を欠いたまま、裏口班は敵3名と対峙している。
――はやく男たちを倒し、加勢に行かなければ。
焦る4人の前に、男たちはなおも立ち続ける。
同じころ、裏口班の3人も焦りを抱いていた。
ドミナへの攻撃は配下のM男と緊縛師の女が受け、灼滅者たちの攻撃がほとんど通らない。
そのうちにもドミナは己の攻撃を強化し、仲間たちへの攻撃をかばい受け続けたサーヴァント2体を、次々と消し飛ばした。
「与えられただけで変わった心算か? なぶられて平気だったってだけで、なにが変わったと!」
――ドミナが一緒にいる以上、籠絡は叶わない。
それでも一瞬でも揺さぶりをかけることができればと、緒璃子は『参代目砕斬小町』を振るい、M男を叩き伏せる。
「意志の弱い自分を変える? お笑いだな。その手段を他人に依存する時点で、貴様の根底にある弱さは変えられん!」
瑠々は『死』の力を宿した大鎌『凶鳥の翼:因果』を振りおろし、M男の身を一閃。
ひときわ激しく血をまき散らした男は、そのままこと切れ、床に倒れた。
続けて雨夜が攻撃を仕掛けようとするも、瑠々へ向けられた鋼糸をその身に引き受け、動きを封じられてしまう。
「強情な仔だ」
つぶやいたドミナの鞭がしなやかに跳ね、追い討ちとばかりに少女の柔肌を引き裂いた。
「雨夜!」
緒璃子はすぐにバトルオーラを癒しの力に転換し、ひざをついた雨夜の身を癒す。
「貴様も、その女のしていることもSMごっこだ!」
瑠々は武器を『凶鳥の翼:螺旋』に持ち替え、緊縛師へ攻撃と言葉とを叩きつける。
だが女の意志は仲間の死を前にして揺らぐことはなく、ドミナの前に立ち、血を流しながら灼滅者に挑み続ける。
「無駄だ。ここにいる者たちは、皆あたしのために在る」
「自分より弱かものばかり侍らせて、女王気取りか。笑わせるな!」
吠えた緒璃子へ腹部を歪曲したナイフで切り裂き、ドミナは紅い唇をもたげた。
「選ぶのは彼らだ。あたしを『女王』たらしめるのは、『奴隷』たち自身」
「そげんの、わかぁか!」
叫ぶ緒璃子の繰りだした拳は、ドミナには届かなかった。
代わりに捉えたのは、緊縛師の身体。
「本当の倒錯と背徳。甘美なる被虐は、そんなものではない!」
雷に跳ねた身を、瑠々の大鎌が斬り伏せる。
その隙をつき、ドミナが走った。
瑠々と緒璃子の反応が遅れたなか、
「逃がさない……!」
行く手を阻んだのは、雨夜。
己も、仲間も満身創痍。けれど、こうすることに迷いはなかった。
(「――ドミナが逃亡するなら、攻撃を受け続けてでも、食い止める!」)
幾度叩きつけても通らなかった超硬度の拳が、今度こそ、ドミナの身を撃ちぬいて。
緊縛師にとどめをさした緒璃子が、ドミナの背に回りこむ。
「己の可能性は、己の手で得うもんじゃ!」
仲間を信じ。
己を信じ。
絶対不敗の暗示とともに、魂を燃えあがらせた。
●
一方、入口班の4人は連携を駆使して気弱なM男を下し、ガラの悪いM男を相手に立ちまわっていた。
「中学生で、しかもこんな小娘に痛めつけられるのってどんな気分?」
「気持ち良すぎてイッちまわないよう、せいぜい耐えるんだな!」
巨大化したリステアの腕が男を床に叩きつけ、葉月の聖剣が破邪の白光とともにその身を斬り裂く。
ひゅんと、『影』を宿した鋼糸が伸び、M男に絡みついた。
「――あの世で、踊れ」
沙夜のつぶやきとともに、男の四肢が引き裂かれ。
恍惚とした表情で血の海に倒れた男は、そのまま、二度と立ちあがらなかった。
「……やべ。Sに目覚めちまいそう」
葉月は自己嫌悪で顔を覆いながらも、先を急ぐ。
「居ました。こっちです」
静穂を発見したなつみが荒縄で拘束された静穂を解放し、すぐに癒しの力を注ぎこんだ。
しかしドミナに与えられた殺傷ダメージで、疲労が色濃い。
「私より、はやく、ドミナのところへ……!」
静穂の言葉に、仲間たちは迷わず裏口へ向かい、走った。
見えてきたのは、血だまりに沈む男と女。
そして倒れた雨夜と、緒璃子。
残る瑠々がひとり大鎌を振り、ドミナと対峙している。
両者の身にはいくつもの傷がかさみ、いまにも膝をつきそうだ。
駆けつけた4人も傷だらけではあったが、まだ、動くことはできる。
「お楽しみ中邪魔するぜ、女王サマ? 俺らとも、ちょっと遊んでくれねぇかな!」
すかさず葉月が鞭剣を振るい、ドミナの身に巻きつけ動きを封じこめ。
「『女王』を名乗るなら、服従しそうにない奴を従えてみなさい!」
続くリステアが大鎌『Arioch Scythe』を振るい、ボンデージに包まれた女の身を断罪の刃で引き裂いた。
遅れて裏口へ到着した静穂は、聖剣『プレストゥプレーニエ・イ・ナカザーニエ』に刻まれた『祝福の言葉』を風に変換し、開放。
「せめて、これだけでも……!」
仲間たちの傷と枷をはらい、回復に努めた。
「ここまでだ、ドミナ」
癒しの鼓舞を受けた沙夜が鋼の糸をはなち、血に濡れた女の身をさらに戒める。
なつみはドミナの間合いに踏みこむと同時に、拳にオーラを集束させた。
不敵な笑みを浮かべたまま視線を向ける女を前に、見よう見まねで覚えた構えをとり、告げる。
「あなたにも、『導き』がありますように」
一瞬、ドミナ・イーリスが目を見開くも。
なつみは容赦なく拳を叩きこみ、そのまま、女は二度と立ちあがることはなかった。
●
女王の最期を見届け、残っていた一般人を店から遠ざけた後。
沙夜とリステアは店内をくまなく調査したものの、有益な情報はなにひとつ見つからなかった。
「なんとも、期待外れの男たちじゃった」
瑠々は心底残念そうにつぶやき、緒璃子と雨夜に肩を貸しながら店を後にするなつみと葉月の背を追う。
店内にひとり取り残された静穂は微動だにしなくなったドミナの遺体を見やり、目を伏せる。
SMに理解はある。
けれど、今回の目的までは看過できなかった。
だから、全力で潰した。
――しかし女はこの場になにを求め、なに成そうとしていたのか。
直接『女王』と『奴隷』という関係をもった静穂だからこそ、真意を知りたかった。
だが、その願いはもう、二度と叶うことはない。
「貴方とは、別の形でお会いしたかった」
静穂は本心からの言葉を手向けとし、その場を後にする。
深夜を彩るネオンが、ひとつ、またひとつと消えるころ。
降りはじめた雪が、店の裏口に吹きこんで。
ふわりと、亡骸の上に落ちた。
女王が流した最初で最後の涙は、すぐにとけ。
血だまりにまぎれて、消えた。
作者:西東西 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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