玉こん怪人、女子高襲撃!

    ●某女子高の調理実習
    「うっふっふ、もうじき焼き上がるよ」
    「バレンタインデーに調理実習なんて、ラッキーだよね」
     甘い匂いが充満する調理室で、エプロン姿の女子高生達が、嬉しそうにオーブンを覗いている。オーブンの中ではブラウニーが着々と焼けている。
    「オーブンにかじりついてないで、今のうちレポート書いちゃいなさいよー」
     白衣の先生が教壇で手を叩く。
    「はぁーい」
     生徒達がオーブンから離れ、席に着いて実習のレポートを書き始める……と。
     バーンッ、と、突然扉が開き、先生も生徒も驚いてそちらを注視する。
    「チョコレートの匂いの元は、ここだなぁっ!?」
     甘い香りを打ち消す醤油臭と共にずかずかっと調理室に踏み込んできたのは……。
    「……玉こん?」
     生徒のひとりが呆然と呟いた。
     入ってきたのは、串に刺さった巨大な丸いこんにゃく3個に手足がついたとしか見えない人物であった。
     その人物はバサアっ、とマントを翻し、
    「その通り! 我こそは『山形玉こんにゃく怪人』!!」
     玉こんにゃく怪人は、呆然とする生徒たちに言い放つ。
    「おめサら、山形県民のくせにバレンタインにチョコレートとは何事だべ! 山形なら愛の告白も玉こんだべ!?」 
     怪人はもう一度マントをバサアッとすると、
    「手下共、入れ!」
     廊下を振り返った。すると唐突にカリンカのメロディが流れだし、前面に玉こんの絵が描かれた全身黒タイツのコサック兵が3人、コサックダンスを踊りながら入ってきた。
     ますます唖然とする生徒たち。
    「ブラウニーを没収しろ!」
     怪人の命令一下、コサック兵達は踊りながら、ちょうど焼き上がったブラウニーを素早く没収し、代わりに玉こんにゃくを生徒達に強引に勧めている。
    「な……何をするんですか! せっかく生徒たちが一生懸命作ったものを!」
     やっと我に返った先生が声を上げる。
     没収したブラウニーに囲まれて、チョコとは何事だ、とか言ってた割には何だかやけに嬉しそうな玉こん怪人は、キッと先生の方を見て。
    「うるさい、邪魔ばすんな! これでもくらえ!!」
     怪人がサッと腕を振ると、
    「きゃあー! 熱いー!!」
     先生に無数の玉こん(普通の大きさ)がぽこぽこと降り注いだ。
     
    ●武蔵坂学園
     はふはふっ。
     集った灼滅者と春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)は、玉こんにゃくの試食をしていた。
     玉こんにゃくは山形のソウルフード。お醤油出汁で茶色くなるまで煮た味しみしみの玉こんにゃくを串に刺し、辛子を塗って食べる。祭りや観光地では大概売っているし、家庭でも作る、おやつにもおかずにも酒の肴にもなるヘルシー郷土料理だ。
    「おいしいけど」
     典はごっくんとこんにゃくを飲み込んでから。
    「愛の告白にはどうでしょうねえ」
     そうだよねえ、と灼滅者たちも頷く。愛の告白にはちょっと渋すぎるかも。
     食べ終わったので、本題に入る。
    「全国のご当地怪人たちが、バレンタイン一斉チョコレート強奪作戦を起こすらしいんですね。玉こんにゃく怪人もその一環のようで」
     大変迷惑な一斉蜂起である。馬に蹴られたらいい。
    「玉こん怪人一味は、山形市内の某女子校の調理実習を襲います。調理室は1階で中庭に面してますので、中庭に潜んで待ち伏せるのが無難でしょう」
     もちろん他のイケそうなESPを使って、校内に潜んでもいい。出現がやかましいので、音に注意していれば、別れて潜んでいてもタイミングは合わせられるだろう。
    「初動のタイミングは、集めたブラウニーに怪人がニヤけて油断してるあたりがよさそうですね」
     灼滅者のひとりが手を挙げて。
    「先生と生徒さんたち、避難してもらった方がいいよね?」
     典は頷いて。
    「反抗的な態度さえとらなければ、玉こん怪人一味は一般人に危害を加えませんが、でも戦闘中は調理室から出てもらった方がいいでしょう」
     直接危害を加えられることはなくても、巻き込まれたら危険である。上手く誘導してほしい。
    「玉こん怪人、見かけはアレですがコサック兵もいますし、油断せずしっかり準備して臨んでください。できたら女子高生たちのブラウニーも奪還してあげられるといいですね」
     力強く頷く灼滅者たちに、典はちょっと羨ましげに。
    「無事に解決したら、温泉入ってきたらどうですか? 冬だし、蔵王温泉とかいいですよー。スキー場もありますしねー」


    参加者
    雲母・夢美(夢幻の錬金術師・d00062)
    御幸・大輔(イデアルクエント・d01452)
    ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)
    風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)
    黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362)
    シャルロッテ・クラウン(残念な海賊きゃぷてんくらうん・d12345)
    千歳・ヨギリ(宵待草・d14223)
    一宮・閃(鮮血の戦姫・d16015)

    ■リプレイ

    ●ココアの香りに包まれて
    「チョコ強奪作戦だなんて、人の心を踏みにじるような行為許せるわけがないよ」
     御幸・大輔(イデアルクエント・d01452)は、某女子高中庭に身を潜ませながら、小声で、しかし憤慨した口調で言った。
    「まったくだぜー。かいぞくでもねーのにひとのもんとるたぁ、ふてーやろーだ!」
     シャルロッテ・クラウン(残念な海賊きゃぷてんくらうん・d12345)は、気合いをこめて頷く。
    「いつからご当地怪人はRB団になったのでしょうかね? 人の恋路を邪魔するような輩はさっさと排除しましょう」
     勇ましいことを言いつつも、ヴァン・シュトゥルム(オプスキュリテ・d02839)はいつも通りの柔らかな物腰。
    「……にしても」
     一方、難しい表情なのは、風見・孤影(夜霧に溶けし虚影・d04902)。
    「うーん、怪人たちは何故チョコを奪おうとするのか……少なくとも、予知にあった主張は本音じゃなさそうだ」
    「そうよね……でも玉こんにゃくも美味しそう」
     千歳・ヨギリ(宵待草・d14223)は、憧れのヴァンを恥ずかしげに見上げて、
    「ねぇヴァンお兄さん。お仕事終わらせたら……玉こんにゃく食べたいね?」
     ヴァンは優しく微笑んで。
    「はい、一緒に食べに行きましょうか。楽しみですね」
     一宮・閃(鮮血の戦姫・d16015)と、雲母・夢美(夢幻の錬金術師・d00062)は、窓から調理室を覗き込んでいる。閃は鼻をぴくぴくさせ甘い香りにうっとりして、
    「ブラウニーいいなぁ……食べれないのが惜しい……こんにゃくも嫌いじゃないけどスイーツの方が好きじゃ。怪人もPRが下手じゃなー。女子高生はこんにゃくよりスイーツじゃろうて」
    「そうですよね。玉こんは、東北人の万能おやつと言える品ですけれど、推すタイミング間違えてますよねー?」
     実家がお隣仙台の夢美にとっては馴染み深い味なので、今回の怪人の主張はなんだか痛々しい。
     そんなことを言っている間に、調理実習は着々と進む。あとは焼き上がりを待つばかり……つまり、もうすぐ敵が現れるということだ。

     黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362)はエイティーン&この女子校の制服で、調理室近くの空いていた被服室に潜んでいた。
    「女の子からお菓子を取り上げるなんて、全く言語道断よ!」
     あんずはそっと廊下に顔を出して、ココアの香り漂う調理室の様子を窺う……と。
    「……!?」
     唐突に廊下の向こう側から、出来損ないのゆるキャラっぽい一団が走ってきた。串刺しの巨大な丸いこんにゃく3個に手足が生えた男と、それに従う全身タイツの3人。
    「現れたわね!」
     あんずは慌てて被服室に頭を引っ込める。
     バーン! と、調理室の戸が乱暴に開けられる音が廊下に響いた。

     中庭の灼滅者たちも、怪人の出現を受けていつでも突っ込めるように、調理室の窓辺ににじりよっていた。
    「我こそは『山形玉こんにゃく怪人』!!」
     怪人が名乗りを上げ、やたらとマントを翻す。生徒たちが呆然とする中、どこからともなくカリンカが流れ始め、コサック兵が入場し、リズムに乗って焼きたてのブラウニーを没収する。集められた8班分の焼きたてブラウニーに囲まれて、玉こん怪人の表情が緩む――。
    「今だ!」

    ●ミルクチョコの微笑で
    「やあやあそこのアホったれ共! チョコもらえないから力づくで取り上げるってか? カッコ悪いね!」
     調理室に飛び込むなり、威勢良く口火を切ったのは孤影だ。
    「お前たちの悪行はそこまでだよ。その手にあるもの、返してもらおうかッ!」
     大輔も続けて叫び、びしっと玉こん怪人を指す。
     夢美もビハインドに生徒の護衛を命じてから、
    「玉こん並にまんまる艶やかな胸部のゆめみーがお相手してあげますよ!」
     怪人一味も女子高生たちも、いきなり登場し啖呵を切った謎の少年少女に唖然としている。
     その間に避難誘導係はESPを発動する。ヴァンは眼鏡をすらりと取り、ミルクチョコのような甘い微笑みで丁寧に呼びかける。
    「申し訳ありません。危険ですので、少しだけ避難していただけませんか? ブラウニーは必ず私達が取り戻しますので……お願いします」
     元々女性に好かれる性質の彼がラブフェロモンを使ったのだから、女子高生たちは皆メロメロ。うっとりした表情で言うなりに立ち上がった。
     しかし、先生だけは教師の自覚が蘇ったかハッと我に返り、
    「ま、待って、あなた方は一体」
     すかさずシャルロッテが『あるてぃめっと大胆な水着』姿で先生の前に立つ。
    「そこのせんこー! おめーはこいつらをあんぜんなところにつれてってくれ! あいつらのあいては、あたいたちにまかせな!」
     先生を感動というより煙に巻くと、生徒と一緒に廊下に押し出す。
    「ひなんのこころえ『おかし』は、おさねー、かけねー、しんでもここはとーさねー……だっけ? よろしくたのむぜ!」
     微妙に間違ってるし。
     ヨギリはヴァンに見とれて渋滞を起こしがちな避難の列を進ませる。
    「みんな、ここは危険よ……! 早く避難して……!!」
     廊下ではあんずが、
    「被服室が空いてるわよ!」
     生徒たちをどんどん隣の教室へと連れて行く。
     退避が進む中、閃は防御を整えると、ビハインドと共に怪人と生徒の間に入り、油断なく目を配る。予知にあった通り、怪人は一般人を傷つけるつもりは無いらしく、
    「な……なんだべ、おめサらは!?」
     派手な登場をした3人に引きつけられている。
    「お前らこそ、何故チョコを奪うのだ?」
     孤影が『出雲』を構え、問いながら詰め寄る。
    「とりあえず、彼女たちの大切なもの、返してもらうよ。それっ!」
     大輔は手近な調理台からなべつかみを見つけてはめると、素早く怪人の足下に滑り込み、2個のブラウニーを奪取した。
    「あっ、なんつーことするだ!? ……おい、手下共、取り返すだよ!!」
    「ウラー!」
     コサック兵が一斉に大輔に掴みかかった……が、
    「ようこそ私の領域へ! 殺人鬼の恐怖、たっぷり味わせでやる」
     孤影が全身から発したどす黒い殺気で敵を包み込み、夢美が槍を回転させて立ちすくんだ下っ端の群れに飛び込むと、その間に大輔は調理室の隅に2個のブラウニーを退避させることができた。
     手下が攻撃されたことで玉こん怪人は激高し、
    「ロシアンタイガー様からの預かりものに、よくも!」
     バサア、とマントを翻した。すると、
    「うわあ!」
     前衛に無数の玉こんが降り注いた。
    「あちちちちっ!」
     ぽこぽこの感触なのに、痛いし熱い……と、その時、
    「大丈夫!? ……いま、治すわ!」
     ヨギリの声がして、醤油の香りを一掃する爽やかな風が吹いた。
     気づけば、調理室にはすでに怪人一味と灼滅者たちの姿しかなかった。
    「SweetsParade……チョコブラウニーになりなさい!」
     あんずがソードを出現させながら駆け寄ってきて炎をぶちかまし、ヴァンが縛霊手を掲げて結界を張る。シャルロッテがマストでぶん殴り、閃が自分の体ほどの巨斧をぶん回して斬り込むと、コサック兵の1体が倒れた。
     速やかに避難誘導が済んだことに安堵した灼滅者たちは、残りのコサック兵へ一気に攻撃をかける。

    ●ブラウニーはミステリー
    「ぬぬぬぬぬ……」
     あっという間に手下を倒された玉こん怪人は、青筋を立てて(こんにゃくだけど)。
    「しゃあねえ。こうなったら!」
     怪人は、手近に残っていたブラウニーを乱暴に型から出すと、いきなりパクリと食らいついた。
    「ああっ、酷い!」
     大輔が鍋つかみで掴みかかる。
    「返せっ!」
    「来るんでねえっ! おめェはからしでもくらえ!!」
     怪人が右手を接近する大輔の方に伸ばした。その指先から、
     ぶっちゅううううぅ。
     からしが迸り出た! しかし、
    「させませんっ!」
     夢美が体を入れて大輔を庇う。大輔は怪人の腕をかいくぐり、かじりかけのブラウニーを奪うことができた。
    「まさかあなたが食べるためにブラウニーを奪ったんじゃないでしょうね!?」
     大輔を追いかけようとする怪人に、すかさずあんずが炎をたたきつけ、
    「おめー、さめのえさな!」
     シャルロッテが鮫型の影を食らいつかせ、ヴァンはすっと怪人の背後に回り込んで槍を振るう。
    「結界の中で身を焦がし、その罪を悔い改めよ!」
     孤影は結界を張り直し、閃は巨斧でマントを切り裂いた。
     一方夢美はからしまみれで身もだえしており、ヨギリはいそいで縛霊手から霊力を撃ち込んでからし地獄から救い出す。
     はぁはぁ言いながら立ち直った夢美は、キッと怪人を睨み付け。
    「あなた、玉こん普及のためにチョコを奪ったんじゃなかったんですか? 玉こんは、チョコをもらえなかった腹減りな男子の心とお腹の隙間を埋めてあげるに相応しい、って、私、真面目に提案するつもりで来たんですよ!?」
     玉こんには感情移入せずにおれない夢美である。
     あんずが腕組みして。
    「第一、山形県民がどうの言っておきながらコサック戦闘員を連れているのはどういうことなのかしら??」
     孤影も眼鏡の奥の瞳をキラリと鋭く光らせ。
    「うむ、絶対裏があるに違いない。白状したらどうだ」
    「や、やかましいっ」
     灼滅者たちに追求され、玉こん怪人は明らかに動揺している。そして動揺しつつ、残り5個のブラウニーを必死で見比べている……。
    「あっ、また食べる気じゃな!?」
     閃が踏み込んで、光を宿した拳でぼよぼよぼよとこんにゃく顔を連打する。大輔はすかさず飛び込むと、ブラウニーをごそっと抱えて跳び退る。
    「か、返せ……ぐあっ」
     あんずが怪人の行く手を遮って刀を振り下ろし、シャルロッテがドヤ顔で、
    「ちょこもらったやつは『ばいがえし』がきほん、らしーぜっ。つまりちょこをとったてめーにも……ばいがえしだー!」
     色々間違っているが、ガトリングガンからで連射を見舞う。夢美は怒りを込めて、怪人の足下に力一杯杭を撃ち込み、ヴァンは穏やかな表情のまま、
    「だめですよ、人のチョコを奪うなんて。そんな情けないことしてるから貰えないのですよ」
     なにげに嫌味をかましながら書物を模った影を伸ばす。
    「うぬぬ……言わせておけば、なまいきだー!」
     怪人は苦し紛れっぽくバッと両手を大きく広げた。そこから無数の竹串が一斉に発射され、中衛を狙う。
    「麗子!」
    「ピンクハートもどき!」
     閃と夢美が同時にビハインドを呼んだ。2体は機敏に中衛のガードに入り串だらけになった。
    「ありがたい……何か聞き出せればと思ってはいたが、チョコ奪還が優先だ。もう行かせないぞ!」
     竹串攻撃から逃れた孤影は、魔導書を開いて炎を召還し、
    「……かわいそう……ハリネズミみたい」
     ヨギリが気の毒そうに2体のビハインドを癒やした。
     怪人はよろよろになりながらも、残り2個だけになってしまったブラウニーをしっかと抱え、ぶつぶつと呟く。
    「どっちだべ……もしかして奪われた中に……とりあえずこれ食ってみっか……」
     それを閃が耳ざとく聞きつけ、
    「むうっ、懲りずに食べる気じゃな? 妾が我慢しているというのに!」
     ダッと床を蹴って、ケーキを抱え込んでいる腕をロッドでビシリと弾いた。流し込まれた魔力がバチっと火花を散らす。
    「ああっ何するだ!」
     衝撃で2つのブラウニーはぽーんと跳ね上がった。
    「ナイス!」
     それを大輔が機敏にキャッチ……できたのは1つだけで、もう1つは怪人が強引に拾ってしまった。
    「ええい、この1個にかけてみる!」
     そして怪人は。
     かぷっ。
     型に顔を埋めるようにして、ブラウニーを食べた。
    「ああっ! 食ったなあ!!」
     灼滅者たちは悲鳴を上げて怪人に殺到した……すると。
    「……えええ!?」
     ぎしぎしと音を立てて、怪人が巨大化していくではないか!
    「わははは、やった、これが当たりだっけー!」
     なんと、特定のバレンタインチョコレートにはご当地怪人を巨大化させる効能があったのだ!
    「なんてことだ……」
     孤影は呆然と怪人を見上げる。
     怪人はみるみる大きくなり、このままでは天井を破る……と思われた瞬間、巨大化は止まった。こんにゃく頭が天井に当たってぷにっと歪んでいる。
    「どうだ! 参ったか-!!」
     怪人は灼滅者たちを見下ろして高笑いするが、
    「……巨大化したって、ずいぶん弱ってたことに変わりないと……思うわ」
     後方で、ヨギリが小さな声で、けれどきっぱり言い、灼滅者たちはハッと我に返る。
    「うん、その通りだ!」
     大輔が調理台に上がり、至近から怪人の胴体に杭を打ち込んだ。
    「ぐわっ」
    「あんたもでっかいブラウニーになりなさいっ!」
     衝撃でたたらを踏んだ怪人の足下で待ち受けていたあんずが剣に宿した炎を見舞い、シャルロッテが影のロープで縛り上げる。夢美とヴァンが槍で前後から攻撃し、孤影は結界を強化する。メディックのヨギリもここが決め時と、薔薇の枝を模る影を伸ばす。
     怪人はぶんと腕を振って群がる灼滅者たちをふりほどこうとするが、室内で巨大化してしまったし、弱って動きが鈍くなっていることもあり、調理台や器具を倒してしまうばかり。
    「遅い!」
     大輔がロッドを叩きつけあらん限りの魔力を流し込み、シャルロッテは背後から紅蓮斬……からしを怪人にぶっかけると齧り付き、
    「しょっぺーけどうめーな!」
    「ロッテ、離れなさい……たあーっ!」
     入れ代わりにあんずが懐に飛び込み、オーラを宿した拳で連打を放った。
    「……こ……こっだなはずではなかったのに……!」
     あんずの渾身の拳に怪人はへたへたと崩れ落ち……。
     ぶしゅうっ。
    「わっ?」
     突然、厳冬のスキー場で玉こん鍋の蓋を開けたような猛烈な湯気が噴き上がり、至近にいたクラッシャー陣は飛び退いて避ける。

     醤油臭のする真っ白な湯気がおさまると――山形玉こん怪人の姿も消えていた。
    「――これが、チョコを集めていた理由だったんだな」
     孤影が、最後まで怪人が持っていたブラウニーを床から拾い上げる。
    「幾つか囓られちゃったね」
     大輔が残念そうに首を振る。
     灼滅者たちは疲れた笑みを交わして。
    「色んな意味で疲れましたし、ケーキを返したら、蔵王温泉に向かいましょうか」
     ヴァンが眼鏡をかけながら言うと、
    「賛成! 今晩は泊まりだし、明日はスキーをするのじゃ!」
     閃は元気だ。
    「蔵王温泉は肌に良いとされ、美白効果が期待できるんですよ」
    「あら素敵じゃない!」
     夢美とあんずはうっとりと温泉に思いを馳せる。
    「ざおーには、い……なんとかもちっていう、うめーもちもあるらしーぜ!」
     シャルロッテも張り切っている。
    「あの……」
     ヨギリはそっとヴァンに近づき。
    「ヴァンお兄さん、玉こんは……?」
     ヴァンは優しく微笑んで。
    「忘れてませんよ、一緒に食べに行きましょうね」
     ヨギリはホッと胸をなで下ろす。彼に渡したいものがあるのだ。星形の玉こんにゃく。チョコレートは渡せないけど、これなら――。

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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