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2月14日、バレンタイン当日。
徳島県北東部、鳴門市にて。
夕刻。ある男子高校の校門前に、20人ほどの少女たちが集まっていた。
チョコレートの包みを手に少女たちがささやき交わすのは、この男子校に通う松葉瀬(まつばせ)、竹御門(たけみかど)、梅小路(うめこうじ)という、イケメン3人の話題だ。
それぞれに固定ファンがついており、毎年彼らの下校時刻を狙って、他校の女子生徒がチョコレートを渡しに殺到する。
この日、地味で眼鏡で内気な少女――桜庭・千代子(さくらば・ちよこ)は、初めてこのイベントに参加しようとしていた。
昨年、とつぜんの豪雨で困っていた時。千代子は通りすがりの少年に傘をかり、難を逃れた。
ずぶ濡れになってまで千代子を助けたのが、3イケメンのひとり、松葉瀬だったのだ。
いらい、千代子は今日の日を待ち望んでいた。
(「……松葉瀬さまにお礼を言う、チャンスだもん。がんばろう」)
返しそびれていた傘と手作りのチョコを手に、憧れの姿を待っていた、その時だ。
ズザザッと靴音を響かせ、軍服を着た2人の男たちが千代子を取り囲む。
「な、なに……!?」
驚いて逃げようとすると、2人は千代子の周囲を周りながら、奇妙な踊りを踊りはじめた。
「さあ、さあ、さあ!」
「今すぐ持っているチョコを渡せ!」
見れば、ほかの少女たちの元にも3人の男が現れ、チョコを渡せと脅しながらコサック・ダンスを踊っている。
数分後。
校門前にいた少女たちは、ひとり残らず、コサック兵たちにチョコを奪われていた。
代わりに渡されたのは、徳島名産のサツマイモ。
「ひどいわ! これじゃあバレンタインが台無しよ!」
「せっかく、今日のために一生懸命作ったのに……!」
絶望する少女たちの前に現れたのは、『お芋道』と書かれたマントを羽織った、サツマイモ頭の男。
「なにを泣くことがあるか、少女たちよ! 徳島に生を受けたならば、サツマイモで愛を語るが良い!!」
そう言い放ち、徳島サツマイモ怪人は高らかに笑いながら、去って行った。
●
「あの、お願いがあるんです……」
放課後の教室で、そう話はじめたのは園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)。
「2月14日は、みなさんもご存じのバレンタインデーです。ですが、そんなバレンタインデーを前に、全国のご当地怪人たちが、はた迷惑な事件を起こそうとしているんです」
なぜチョコレートが狙われたのかは、わからない。
だが、チョコレートが奪われるのを阻止しつつ、ご当地怪人を灼滅してほしいとエクスブレインは説明を続ける。
事件が起こるのは、徳島県鳴門市。
放課後を迎えたある男子高校の校門前で、イケメン目当てにチョコを渡しにきた少女20人が、狙われる。
「みなさんがご当地怪人に接触できるのは、女の子たちからチョコレートを奪い、その場を去ろうとする時です」
ご当地怪人たちは一般人を傷つけるようなことはしないので、避難誘導についてはあまり考えなくてかまわない。
その分、確実に敵の逃走を阻止し、戦闘に注力して欲しいと槙奈は告げる。
「現れる敵は徳島サツマイモ怪人と、その配下のコサック兵5体です」
徳島サツマイモ怪人は、ご当地ヒーローに似たサイキックとバトルオーラを扱う。
コサック兵は5人とも、龍砕斧とガンナイフを装備し、連携攻撃をしかけてくるという。
「……チョコレートを奪われた子の中には、前日、大切な想いをこめて、手作りをした子もいるようです」
たとえ手作りではなく、買ってきたチョコであっても。
渡す相手を想い、手間をかけて選んだのには違いない。
「女の子たちが楽しくバレンタインデーを過ごせるように……。どうか、よろしくお願いします」
まるで自分のことのように切実に告げ。
槙奈は深々と、頭をさげた。
参加者 | |
---|---|
風宮・壱(ブザービーター・d00909) |
森田・供助(月桂杖・d03292) |
桃野・実(水蓮鬼・d03786) |
藤平・晴汰(灯陽・d04373) |
赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996) |
天月・一葉(血染めの白薔薇・d06508) |
キング・ミゼリア(夢見るプリンチペ・d14144) |
唐都万・蓮爾(亡郷・d16912) |
●St. Valentine's day(愛の誓いの日)
事件の解決にあたる灼滅者たちはすこし早めに現地へ向かい、男子高校の近くで待機していた。
「こんだけファンがいるとは、色男なこって」
「いったい、どんな超人なんだ……」
校門前に集う少女たちを見渡し、森田・供助(月桂杖・d03292)と風宮・壱(ブザービーター・d00909)の口から似たような感想がこぼれる。
明後日の方角を見やり、つぶやくのは天月・一葉(血染めの白薔薇・d06508)。
「なんで私は、バレンタイン当日にこんなところに居るんでしょうか……」
「早く倒して本命チョコを届けないと!」と、並々ならぬ決意を固める。
「しかし、ご当地怪人がチョコを奪いにくるとは……」
唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)の言葉に、藤平・晴汰(灯陽・d04373)も憤慨したように頷く。
「女子にとっても男子にとっても、大事なイベントだものね」
「わたしのご当地も芋が名物っぽいから、まけてられないかな!」
拳を固め、赤星・緋色(朱に交わる赤・d05996)も闘志を燃やす。
「みんな、試作のチョコ食ってくれてありがとう」
礼を述べたのは、作戦のために手作りチョコを用意した桃野・実(水蓮鬼・d03786)。
「サツマイモ相手なだけに、スカッと『甘藷う(完勝)』したいわね!」
三つ編みおさげの女子高生――もとい、キング・ミゼリア(夢見るプリンチペ・d14144)のヴァカチアンジョークも絶好調。
8人はざわめく少女たちにまぎれ、徳島サツマイモ怪人が現れるのを待った。
●From Your sweet potato(あなたのサツマイモより)
それから、間もなく。
「貴様たちのチョコレートは、すべて、この徳島サツマイモ怪人がもらいうける!!」
とつじょ現れたコサック戦闘員5体が次々と少女たちのチョコレートを奪い、サツマイモ頭の怪人へと渡しはじめた。
エクスブレインが提示した接触タイミングは、『怪人一味がチョコレートを奪い、その場を去ろうとする時』。
灼滅者たちは少女たちの安全に気を配りつつも、ギリギリまで様子を見守り――、
「ふはははは! 目的は果たされた! ゆくぞ、コサック戦闘員ども!」
集めたチョコレートを袋に入れてかつぎ、怪人が撤退しようとした、その時だ。
「あれ、皆さんお芋を持たれて、どうしたんですか? 今日はバレンタインですよ? いくら徳島だからって、バレンタインにお芋はちょっと……」
芋を手に涙を流す少女たちを前に、一葉がわざとらしく声をあげる。
「むうっ! 今、サツマイモを侮辱したのは貴様か!」
立ち去ろうとしていた怪人はすぐに足を止め、一葉をひとにらみ。
そこへ、
「お芋も、すてきな食材だよ。大事な想いを伝えるためのチョコ。そこに自分のご当地の名産が使われていたら、冥利に尽きるよね」
実が豪奢にラッピングした包みを開け、手作りの菓子を掲げ見せる。
一見、チョコレートソースにハート型のチョコレートを飾ったカップケーキに見えるが、
「ケーキには徳島産のサツマイモと砂糖を練りこんで、上品な甘さに。でも甘すぎると食いづらいこともあるから、チョコソースはビター味にして、ケーキの甘さを引きたたせるよう工夫してみたんだ」
「おおお……!」
見た目、そして味にもこだわったチョコの神々しさに、怪人一味のみならず、少女たちまでもが感嘆の声をあげる。
「怪人たちも、食うか? 往来で食べるの、行儀悪いから――」
「ありがたく頂戴する!」
実が言い終えるより早く、怪人は手渡されたお菓子を一口で飲みこんだ。
「ンむ! 見事なお手前だ、少年!!」
ビシッと親指を立て、サムズアップ。
――しかし!
「芋を使ったチョコレートなら、ここにもあるよ!」
緋色も、用意していた菓子箱の包みを見せ、
「わたしのは、川越芋の芋餡がはいったエクレア風チョコレートだよ! 徳島産サツマイモを使うより、断然おいしいんだから!」
と、自信満々に宣戦布告。
「なにおぅ!? ふかして良し、焼いて良しの、徳島産サツマイモに勝るものなどない! 芋を使うなら、徳島産にしておきなさいっ! 没収ーッ!」
「「「コサーーーック!」」」
実のお菓子をほおばっていたコサック戦闘員たちが、怪人の命令で緋色へ突進!
「想いのこもった品、これ以上奪わせるわけには参りません」
蓮爾がすぐにビハインド『ゐづみ』を一般人の守りにつかせ、スレイヤーカードの封印を解放。
ESP『サウンドシャッター』を展開し、戦闘音が近隣へ届かないよう配慮する。
「あなたたちは、いったい……!」
チョコレートを奪われ、うなだれていた桜庭・千代子(さくらば・ちよこ)が灼滅者たちに詰めよろうとするも、
「下がってろ」
「危ないから! みんな、ここから離れて!」
供助、晴汰の2人が、少女たちに避難を促していく。
しかし、なかには素直に誘導に応じない者も。
「あたしのチョコ、あのイモ頭が持ったままなのよ……!」
――こんなこともあろうかと!
すかさず、壱がESP『ラブフェロモン』を発動。
「えっと、ケガとかしないように……、ちょっと離れてて欲しいなー、なんて」
ひとを魅了するESPとあって、使用する壱にも思わず照れがはいる。
だが、壱は続けて微笑み、
「恋してる女の子って、可愛いと思うよ。でも危ないから。……ね?」
諭すようにささやき、とどめにウィンク。
「わっ、わかりました!」
少女たちが頬を染めながら、指示にしたがってそそくさと離れていく。
「壱ちゃん! セクシーダイナマイツなフェロモンを駆使しての誘導、グッジョブよ!」
キングの声援をうけ、内心「ころせいますぐおれをころせ」的な羞恥心でいっぱいになっていた壱は、
「ぐおおおおおぉぉぉ」
両手で顔を覆い、しばしその場でのたうちまわった。
●Be my sweet potato(私のサツマイモになってください)
校門前にいた少女たちは、全員無事に避難完了。
まんまと足止め作戦にハマった怪人一味は、すぐに灼滅者たちがとり囲み、退路をふさいだ。
「ええい、貴様らそこをどけ! くらえ! 鳴門・ゴールデンターーーーイムッ!!」
放たれたキャノンを、ビハインド『ゐづみ』が赤い衣をひるがえし、優雅に受け流す。
――ご当地怪人の相手は慣れないが、当人たちはたいそう真剣なようす。
蓮爾は利き腕を巨大な砲台に変え、
「なれば、此度も存分に『蒼』、振るわせていただきましょう」
宣言とともに、迫りくるコサック戦闘員へ『死の光線』を浴びせかけた。
緋色は軽やかに妖の槍を回転させるや、
「1年に1回のバレンタインで暴れるなんて、許せないかな!」
気合いとともにコサック戦闘員を一突き!
ちゅどーんと爆煙をまきちらし、1体が爆散する。
恋する乙女のひとりたる一葉も、こんなところでモタモタしているわけにはいかない。
「私も急いでいるんです。さっさと、やられちゃってください!」
腕に装着した巨大杭打ち機を振りかぶり、叩きつけるように、足元に杭を打ちこんだ。
振動波を受けて地面に転がった戦闘員たちへ、すかさず実の霊犬『クロ助』が、六文銭をはなち、援護。
実は倒れた戦闘員の間合いへ飛びこみ、
「ひとのチョコを取ったら、だめだぞ……?」
契約の指輪をはめた手をまっすぐに振りおろし、チョップ!
攻撃と言うにはやさしげな動作ではあったが、指輪から放たれた魔法弾に撃ちぬかれ、2体目の戦闘員が華麗に爆散していく。
「おのれ、灼滅者……!」
早々に態勢をたてなおしたコサック戦闘員2体が大斧を振りかぶり、高速移動で次々と灼滅者たちを薙ぎはらう。
『ゐづみ』、蓮爾、キングは即座に駆けて仲間たちをかばい、一葉の霊犬『三日月犬夜』が浄霊眼で癒しを重ねる。
「おまえらな……。なに狙いか知らんが、逆に、芋の印象悪くしてんだよ」
供助はのこるコサック戦闘員をねらい、羊皮紙写本『The Tempest』に記された一説をそらんじる。
だが一瞬のすきをつき、別の戦闘員が攻撃をかばい。
矢のごとくはなたれた魔力の光線は、身を投げた戦闘員の防護もろとも身体を焼き、貫いた。
死角から飛びだしたのは、のこる1体。
壱めがけ斧を振りおろすも、壱は天性の勘と運動神経の良さでそら高く跳躍し、回避。
着地と同時に、構えた腕に灼熱の炎をまとわせると、
「今日はあの女の子たちの大事な日だよ。変なちょっかい、禁止!」
コサック戦闘員の背後から、業火を叩きつけた。
どおん!とひときわ大きく爆散した配下の勇姿をみおくり、
「こうなったら仕方あるまい……!」
徳島サツマイモ怪人はかついでいた袋からチョコレートを取りだし、ぱくり。
「「「あーーーーっ!!」」」
叫ぶ灼滅者たちをよそに、ご当地怪人はチョコレートをむさぼり続ける。
「おかしい、なにもおこらんぞ!?」
「ちょっとアナタ! 乙女の愛の結晶をつまみ食いするなんて、言語道断よッ!」
声高に非難するも、まずは配下を撃破するのが先決だ。
反撃しようとした戦闘員1体をキングが白銀の障壁≪ Argentina ≫で殴りつけ、
「晴汰ちゃん!」
「まかせて、キングくん!」
呼応した晴汰が、縛霊手をまとった腕をふりあげる。
「恋する乙女たちの邪魔は、許しません!」
殴ると同時に網状の霊力で縛りあげ、さらに1体が爆散し、散っていった。
これで配下4体を倒し、残るは配下1体と怪人のみ。
灼滅者たちは果敢に攻撃を繰りだし、
「チョコが欲しいのでしたら、こちらをご堪能ください!」
一葉が持参した手作りチョコ――義兄をかたどったリアルなチョコレート像を戦闘員の口に押しこみ、チョコごと一閃。
最後の配下も、そうして爆炎に散った。
――しかし、その間にも怪人は別のチョコレートを、ぱくり。
「これもハズレかッ! ええい、どれだ! どれが『例のチョコ』なのだ!」
失ったチョコは2つとはいえ、持ち主の少女のことを思うと悔やまれてならない。
「奪われたチョコは、すべてお返しするつもりでしたのに……!」
蓮爾は生成した強酸性の液体を飛ばし、怪人の装甲を腐食させる。
その隙をついて実が死角に踏みこみ、
「だから、ひと様のチョコ取ったら駄目だって」
高くかつぎあげた怪人を、勢いよく地面に叩きつけた。
「いいから、チョコを、返せっ!」
続けて壱がマテリアルロッドで殴りかかり、攻撃を受けたサツマイモ怪人の手から、チョコレートの入った袋を奪いかえすことに成功。
あとは怪人を倒すだけと、灼滅者たちが安堵したのもつかの間。
「あ、あれは! 私のチョコレート……!」
外野から届いた声に、よろりと身を起こした怪人が高らかに笑う。
「甘い甘い甘い! バレンタインのチョコよりも、我らが徳島のサツマイモや、砂糖よりもなお甘い!」
その手には、千代子の手作りチョコレートが握られており。
怪人は包みを乱暴に引き裂くと、現れた桜の形のチョコレートを口に放りこんだ。
「てんめー……!」
怒りをこめ、供助が攻撃を仕掛けようとした、その時だ。
大地を揺るがす地響きとともに、怪人の身がどんどんふくらんでいき、ついには見あげるほどに巨大化したではないか!
『ふあーっはっはっは! これで、我らが勝ったも同然よ!!』
怪人は手足の生えた巨大サツマイモと化し、ズズンと足音を響かせながら、灼滅者たちに攻撃をしかける。
「な、なにこれっ!?」
攻撃を受けた晴汰が驚きながら怪人を見あげるそばで、『クロ助』と『ゐづみ』は果敢に巨大化怪人へ攻撃をしかけていく。
怪人は先に受けた傷をそのまま引き継いでいるらしい。
サーヴァントたちの攻撃を受け、「イテッ! ギャー焦げたところを抉るな!」と悲鳴をあげる。
先に仕掛けたダメージや枷が残っているのなら、灼滅者たちがひるむ理由はない。
霊犬『犬夜』の癒しを受けた晴汰はすぐに契約の指輪を掲げ、石化をもたらす呪いを施して。
「オーッホッホッホ! 巨大化した怪人の末路といえば……みなまで言わずとも、わかるわね!」
セーラー服のすそをひるがえし、ヴァカチン王族のもつ高貴なるオーラを燃えあがらせるキングへ向け、
「キャー、ステキヨー」
供助は無責任な声援をおくりながら、影業をはしらせた。
影に呑まれ、トラウマに囚われた巨大サツマイモへ向け、
「芋に罪はねえ。罪があんのは、てめーだよ」
と静かに、言い捨てる。
「乙女の怒りをくらうがいいわッ! ――オラオラオラオラァ!」
怒涛の連撃を叩きこむキングの背を飛びこえ、緋色はESP『ダブルジャンプ』で民家の屋根へ飛び移ると、そこからさらに、高く高く跳びあがった。
「それじゃあ、正義の王道、つらぬかせてもらおうかな!」
『こしゃくな! 灼滅者!』
眼前に身を躍らせた『赤』へ向け、怪人がゆるりと拳を構える。
緋色は臆することなく中空で身をひねると、
「ふっとべー! 小江戸式、キーーーーーック!」
一条の光のごとく、少女の身体が舞う。
拳を穿ち、巨大サツマイモの身を穿ち、一直線に貫いて。
胴体にぽっかりと穴をあけた巨大怪人はそのまま体勢を崩し、地面に伏す前に、木端微塵に爆散!
跡形もなく、消えていった。
周囲に、焼き芋の、あのかぐわしい香りを残して。
●Chiyoko late blossoms(遅咲きの千代子)
数十分後。
「彼らが、来たようですね」
蓮爾の言葉通り、夕暮れの校門前に松竹梅の名を持つイケメントリオが現れ、少女たちから黄色い歓声がわき起こる。
「私には、もう、チョコがないから……」
手作りのチョコを怪人に食べられてしまった千代子は、想い出の傘を手に、その光景をただ静かに見守る。
唇を引き結びたたずむ少女へ向け、キングはある言葉を贈った。
「『運命の女神は、勇気ある者に微笑む』。感謝の気持ちを伝えたいと願うなら、その想いを、貫いて」
「そうです。チョコレートなんてなくても、ちゃんと、『想い』は伝わりますから」
一葉が万感の思いをこめて、そっと、少女の背を押しだす。
千代子は松葉瀬の前に進みでると、手にしていた芋をさしだし、ふわりと笑った。
「……あの、松葉瀬さま。一緒に、焼き芋を食べませんか?」
笑いかわす少女たちの姿を見送り、灼滅者たちは帰途へつく。
「せっかくだし、観光していく?」
「そんなら、焼き芋でも食って帰ろうぜー」
緋色と供助の提案に、壱が忘れてた!と声をあげる。
「桃野センパイ! 俺にもお菓子ください!」
「俺も、わけてもらえたら嬉しい!」
続く晴汰の言葉に、霊犬も交えた試食会がはじまって。
巨大化チョコレートの謎は、残った。
しかし、ひとまずの平和は保たれたのだと、灼滅者たちは夕暮れの道を、ゆっくりと歩いた。
作者:西東西 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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