雪中芸者

    ●とある旧家の土蔵の奥で
     吹雪の夜。
     山形県米沢市のとある旧家。その敷地の奥にある古い土蔵。中には埃まみれの古道具が山と積まれている。先祖代々の道具類ではあるが、もう何年も手をつけられていない様子で、何がしまい込まれているのか把握している者はいない。
     その古道具の最奥部に、壁際に立てかけられた細長い包みがあった。1mくらいの長さで、片側が丸く膨らんでおり、かつては紫色だったと思われるボロボロの風呂敷で包まれている。

     ――と。
     蔵の外に、どこからともなく大きな獣が現れた。ポニーほどもある犬……いや狼のような獣だ。そのふさふさとした体毛は銀灰色で、額には黒い星を抱いている。

     ワオォーーーーン。

     蔵に向けて、山里を震わせるような遠吠えをひとつ。
     そしてまた、どこへともなく去っていった。

     ――狼の気配が消えた頃。

     カタリ。
     その風呂敷包みがひとりでに動いた。くるりと狭い隙間で回転し、風呂敷をふるい落とす。
     現れたのは、古い古い三味線。何十年前の、という単位では足りないかもしれないほど古びている。
     なのに。
     三味線は、まるで誰かが構えているかのような角度に宙に浮き。
     キリ、キリ……キリ……。
     全て切れているはずなのに、糸を締める音がして。
     そして。

     ……ベン。

     高らかに、鳴った。
     よく見れば、ぼうと白く煙のように三味線を構える女の姿がある。
     島田髷を結い、留め袖に羽織の粋な装いの美しい女だ。
     女は。

     ……ベン。

     もうひとつ、三味線をかき鳴らした。
     
    ●武蔵坂学園
     幕末。江戸の芸者に、米沢出身の美しい女性がいた。芸名を音吉といい、三味線の名手だった。
     女性は請われてある大商人の妾となる。妾宅を与えられ、静かな暮らしを送っていく……はずだったのだが。
    「旦那の本妻がえらい嫉妬深い人だったようで」
     春祭・典(高校生エクスブレイン・dn0058)がブルリと肩を震わせた。
     本妻が妾宅に乗り込んで刃傷沙汰を起こしたのだ。その時音吉は深手を負ったものの、一命はとりとめた。
     しかし、もう江戸にはいられなくなってしまった彼女は、幾ばくかの手切れ金と三味線を持って故郷に帰ることとなる。
    「で、帰ってきたはいいんですが、結局、刃傷沙汰の傷が元で病気になり、若くして亡くなってしまったそうなんですね」
     悲しいし、もったいない話である。
    「その音吉さんの三味線が、回り回ってその旧家の蔵の奥の奥に眠っていたんです」
     そしてそれをスサノオが目覚めさせてしまったというわけだ。
    「さて、虚実さだかでない昔話はここまでにして、いよいよ依頼の内容に入りますが」
     典と灼滅者たちの表情が引き締まる。
    「音吉さんは目覚めて数日経ちますが、まだ蔵から出てきてません。出現も夜に限られているようです。しかし、徐々に力をつけてきているようで」
     最初は蔵の奥で三味線が一晩に2,3度鳴るくらいだった。が、次第にその音は曲のようなフレーズを持ち始め、ガタガタという荷物を動かすような音も聞こえてくるようになった。
    「蔵の持ち主は、音吉さんの話はもちろん、三味線の存在すら知りませんでしたからね。泥棒が入った様子も無いし、屋根から雪が落ちた音とか、鼠の音かと思ってたそうで」
     しかし、数日たち一晩中三味線の音と物音が聞こえ続けるにあたり、家人たちは覚悟を決めて、朝になってから何年ぶりかに蔵の扉を開けた。
    「そうしたらなんと、蔵の中の古道具が、竜巻に遭ったみたいにぐしゃぐしゃになっていたのだそうですよ」
     それはつまり、音吉がかなりの力を持ってきているということか。蔵から出て、暴れ出すのも時間の問題だろう。
    「蔵の持ち主も、わけがわからないながらビビってますので、皆さんはボランティアのお祓い師ということで入れてもらう手はずになってます」
     今のところ音吉は夜にならないと出現しないので、蔵に入れてもらってその時を待てば良いだろう。 
    「あ、それと待ってる間に、蔵の片付けもすることになってますんで」
     一斉に非難の声がわき起こる。山のような古道具がぐちゃぐちゃとか言わなかったか!?
     典は首をすくめて、
    「壊れたものは外に出して、使えそうな物は隣の物置にとりあえず移しておくってだけですから……ホラ、蔵片付けると戦闘スペースも空けられるでしょ? 何とかお願いしますよ」
     むくれる灼滅者たちに、典は軽く頭を下げて。
    「他でもない、音吉さんに安らかに眠ってもらうためですから」
     ……そう言われると是非もないが。
    「それと、もう一つお詫びしなければならないのですが」
     典は眉を曇らせて。
    「大柄で額に黒星を持つスサノオの行方は、まだ掴めていないのです。会津から米沢に県境を越えたので、今後のルートが予測できそうな気はしてるのですが……」


    参加者
    峰崎・スタニスラヴァ(エウカリス・d00290)
    十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)
    斎賀・なを(オブセッション・d00890)
    相羽・龍之介(中学生ファイアブラッド・d04195)
    望月・小鳥(せんこうはなび・d06205)
    鎌北・桜湖(いるまのヒロイン・d10260)
    フィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889)
    縹・三義(残夜・d24952)

    ■リプレイ

    ●土蔵にて
    「ご主人、これは修理すれば使えるかもしれませんね」
     土蔵の入り口近く、蔵主に斎賀・なを(オブセッション・d00890)が、重厚な座卓を示す。脚が1本外れてしまっているが、今回の霊障(?)でも、さほど傷もついていない。
    「んだね、一応物置の方にお願いしようかね」
     蔵主は人の良さそうな中年の男性で、
    「すまないことだずね、お祓い師の先生にまで力仕事してもらって」
     軽く頭を下げた。
    「いえ、片付けなければお祓いもできませんから」
     なをは頭を下げ返すと、軽々と重そうな座卓を持って蔵の外に向かう。プラチナチケット使用とはいえ、彼はエクソシストであるから、お祓い師というのはあながち嘘ではないし、正装と落ち着いた物腰もなかなかそれっぽい。
    「それにしても、三味線の祟りとは」
     蔵主はぶるりと身震いした。霊障の大本が古い三味線にあるらしいという説明を、つい先ほど聞いたばかりなのだった。
     お祓い師助手その1の峰崎・スタニスラヴァ(エウカリス・d00290)が、割れてしまった瀬戸物とそうでないものを分けながら、真顔で。
    「それほど心配しなくても大丈夫ですよ。あの子(三味線)も目覚めたばかりですし、だれかを標的にしているのでもないようです。蔵自体にはなにもいないし、お家の人が狙われているわけではないので」
     助手その2の望月・小鳥(せんこうはなび・d06205)も微笑みかけ。
    「悪いものじゃないです。ただ、ちょっと今は混乱しているみたいです。……あ、ご主人、これ、頂いてもいいですか?」
     小鳥が示したのは、壊れた古いタンスに使われていた黒光りした鉄の金具。本体の方は木っ端みじんで、先ほど助手その3相羽・龍之介(中学生ファイアブラッド・d04195)が外に出した。
    「ええですけど……金具だけどうするんだず?」
    「えへへ、学校のバザーに出してみようかなって。こういうの好きな人いそうです」
     確かに金具だけでも骨董としては楽しめそうだ。
     入り口付近で、蔵主とお祓い師とその助手たちが仕分けをしている一方、奥の方はまだ荷物が幾らか残っているのだが、そちらでは、
    「ああっ、桜湖センパイ、さすがにそれは俺がっ!」
     大正時代のものらしい着物を丁寧に畳んでいた十七夜・狭霧(ロルフフィーダー・d00576)が、重そうな行李を運ぼうとしている鎌北・桜湖(いるまのヒロイン・d10260)を見て、慌てて立ち上がる。
    「大丈夫ですよ狭霧さん、畑仕事しておりますからこれでも力持ちなのですよ♪」
     桜湖はにこやかに、台詞の通り軽々と行李を担ぎ上げて、仕分けコーナーへと運んでいく。米沢織りのバンダナに髪を包み、ガイアチャージもしたので元気いっぱいだ。 
     感心してその後ろ姿を眺める狭霧に、
    「これも運ぶ?」
     縹・三義(残夜・d24952)が、畳んだ着物を入れた引き出しを指す。
    「あ、はい、見てもらってください。虫喰ってるのもありますけど、いい物ばかりですから……すみませんね、三義センパイも」
    「俺は細かいことはできないからね。力仕事で頑張るよ」
     三義も引き出しを3つ重ねてひょいと持ち上げる。
    「しっかし、なかなか出てこないモンだな、三味線」
     箒とちりとりを持ったフィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889)が、だるそうに溜息を吐いた。夕方から片付け始めて、もうとっぷりと日が暮れている。一番奥の壁が見えてきているのに、まだ三味線は出てこない。
    「隠れちゃってんですかねえ……ところで」
     狭霧は首を傾げて。
    「気になってたんですけど、センパイの本日のファッション、何なんですか?」
    「これか?」
     訊かれてフィナレは。
    「道教の道士風だ。気分だ、くふ、気分」
     本人はちょっとゴキゲンだが、本日の彼女の設定は片付け要員のはず……その時。

     ……ベン。

     唐突に、三味線の音が響いた。
     蔵内にいる全ての者の手と声が同時に止まった。

     ……ベン。

     その沈黙の中、もう一度、三味の音。
      灼滅者たちはその音の出所を目と耳だけで探すが、どこから聞こえてきたのかハッキリしない。強いて言えば、蔵の最奥部か。
    「しゃ、三味線の音……?」
     蔵主の震える声。唇や顔が白くなっているのを見て、竜之介が素早く寄り添い、
    「霊が活動しはじめたようです。危険なので外へ」
     支えて立たせ、
    「僕らが出てくるまで、決して蔵を開けないようにしてください」
     怯える依頼人を蔵から出す。
     灼滅者たちは音の響いてくる方向を睨み付けながら、残る荷物を壁際に寄せ、持参のランプやライトを点ける。蔵にも電気は来ているのだが、戦闘となれば明るいにこしたことはない。
     その灯りで蔵の奥に残っている影がより黒々と深く感じられ――その闇から。

     ベン!

     ひときわ強く、耳を震わせるような弾音がして。
     三味線がふわりと現れると、煙のような物体が纏わり付き、着物姿の女性の形を取り始めた。
     蔵の扉が締められたのを確認すると、狭霧はサウンドシャッターを発動しポケットの懐中時計をぎゅっと握りしめた。続いて、いち早くカードを解除した桜湖と龍之介が素早くワイドガードをかける。霊犬を出現させた三義は、
    「三味線の音、懐かしいね」
    『ひとつ』に素早く囁いた。祖父が良く弾いていたのだ。ひとつは軽く尻尾を振る。
     なをも、
    「我は射す黎明の光」
     解除コードを呟きロッドを出現させ、最後方で蔵の扉を背に陣取る。
     音吉を蔵から出すわけにはいかない。絶対に。

    ●芸者音吉
     予知された段階では、三味線ばかりが実体で、音吉は亡霊のように不安定であった。しかし今夜は、黒留袖の粋に抜いた襟足から白粉の香りが漂ってきそうなほどのくっきりとした存在感がある。瓜実顔に切れ長の目。小作りな唇は紅梅のよう。
     しかし、その瞳は光を吸い込んでしまいそうな暗黒。更に、三味線を構え座した姿勢のまま宙に浮いているので、人外の存在であることは一目で分かるのだが。
     それでも敵は、浮世絵から抜け出してきたかのように美しかった。
     思わず見とれる灼滅者たちを、音吉は細く白い首をついと巡らせて見やる……その仕草に。
    「……来るっす!」
     気配を感じた狭霧が叫び、
    「宴席の始まりですね、いざ!」
     それを受けた桜湖が果敢に前に出た。
     次の瞬間、ベベン!! と鋭い一撃が、踏み込んできていた桜湖を直撃した。
    「符を!」
     衝撃に倒れ込んだ桜湖に、三義が素早く癒しの符を投げた。
    「いきなりきたか!」
     灼滅者たちは攻撃を開始する。音吉への同情から躊躇する気持ちをわずかなりとも持っていたのだが、先制攻撃で吹っ飛んだ。
     なをは最後方でロッドを振り上げて稲妻を呼び出し、狭霧は輝く聖剣で斬りかかり、スタンは小さな体から黒々とした殺気を放出する。フィナレは槍を構えて突っ込んで行き、小鳥は、
    「合わせていきますよ、ロビンさん!」
     ビハインドに顔を晒させながら、自らは非物質化した聖剣を振り下ろす……と、ゆら、と音吉の全身が揺らぎ、宙に浮いていたのが床まで降りた。
    「(もう攻撃が効き始めてる?)」
     灼滅者たちは固唾を呑んで音吉の様子を観察するが、彼女は床に三味線を置くと立ち上がって。
    「(何をするつもり……?)」
     灼滅者たちは身構えたが、音吉はどこからともなく現れた梅の柄の扇子を手に、舞い始めた。
    「わあ、きれい……」
     小鳥が呟いた。さすが人気芸者、息を呑むほどに美しい舞だ。
     ――が。
     ビシュッ!
    「!?」
     つい見とれてしまった灼滅者たちに向けて、4つに分裂し刃と化した扇子が撃ち込まれた。狙いは後衛だ。
    「――させない!」
     龍之介が覆い被さるようにして三義を庇った。戦闘開始早々メディックにダメージを与えたくない。
    「龍之介、ありがとう! 皆、大丈夫か? ひとつは龍之介を!」
     ダメージを逃れた三義は素早く起き上がって自らは後衛に清めの風を送り、霊犬には龍之介の回復を命じる。
    「このくらい何でもない」
     答えたフィナレは唇に滲んだ血をぺろりと舐め、
    「そんな都合は良くないか」
     と、苦笑した。闇堕ち中にスサノオと接触する機会のあった彼女は、今でも古の畏れの攻撃を受けないのではないか、という可能性を期待していた。が、そう上手くはいかない。
    「ちぇっ、見とれてる場合じゃなかったッすね!」
     敵は緋色のオーラをナイフに宿すと、残っていた大きな箪笥を足場にして蔵の高い梁に駆け上がり、
    「たあーっ!」
     音吉の真上から飛び降りた。ナイフは元結いを断ちばらり、と島田がほどける。
     突然ほどけた長い髪に視界を奪われた音吉の間近にすかさず桜湖が飛び込み、
    「チャンスだわ、鎌北桜湖、立方を務めさせて頂きます!」
     米沢織りダイナミックで、襟を掴んで床に豪快に引き落とした。
    「扉を頼む!」
     なをはフィナレに後ろを頼むと前に飛び出し、倒れた音吉にロッドを叩きつけて魔力を流し込んだ。扉を背にしたフィナレは鞭剣を伸ばし、起き上がろうとしている音吉に巻き付いて切り裂き、小鳥が影で更に縛り上げる。
    「……お願い、梔」
     続いてスタンが呟くと、足下から水草のような影が伸び、先端に絡めた聖剣がもがく音吉に斬りかかった。
     見れば、音吉の実存感が薄らぎ、色が薄く白っぽくなっているようだ。弱ってきているのだろうか。
     それでも集中攻撃を振り払った音吉は三味線を取ると、無表情な視線を手元に向け。
     チン、トン、シャン……。
     先ほどまでとは違う、情感の籠もった音色を奏で始めた。
     ほうっ、と灼滅者たちから溜息が漏れる。聞き惚れてはいけないと思いつつも、つい聞いてしまう……と、気づけば、三義の様子が変だ。目を据わらせて、手にした符を音吉目がけて投げようとしているではないか。
    「あっ、催眠です!」
     桜湖が素早く縛霊手をかざして癒しの光を送る。三義は、ハッと我に返って手の中の符をぐしゃっと握りつぶした。
    「危ないとこでした! ロビンさん、三味線を!!」
     小鳥がもう一度影を伸ばし、ロビンに三味線をたたき落とさせる。狭霧は背後に回り込んで聖剣で斬りつけ、スタンは『梔』を黒々と伸ばして音吉を喰らいこみ、
    「……大切な三味線がこんな風にスサノオに利用されて、イヤだろうね」
     そっと呟く。
     後方からは、今度はフィナレが踏み込んで刃と化した利き腕を振るい、扉を守るなをは雷を叩きつける。
    「貴女の哀しみは解りますが、誰かを傷つける前に、眠っていただかなければならないんです!」
     龍之介が振り下ろした聖剣は、影を振り払った音吉に躱されたが、影の中から現れた彼女はますます存在感を薄くして、時に向こう側が透けて見えるほど。
     しかし音吉は三味線を拾うと。
     ベン、ベン……。
     また違った感じの、語りかけるような音色を奏で始めた――そして。
    『――たよりくる』
     切ない旋律に、唄が重なる。
    「……長唄ですか?」
     龍之介が誰にともなく尋ねる。
     若い灼滅者たちには、何という唄なのかはわからない。それでも灼滅者たちは、いけないと思いつつ、また聞き入ってしまう。
    「美しい響き……匠の魂が共鳴しているようです」
     桜湖が感慨を漏らす。
     ……が。
    「……いけない、回復かもだよ!」
     スタンが叫んで素早く影を伸ばした。仲間たちも気づいて音吉の姿を見れば、実存感が少し戻っているような気がする。
    「三味線がやっかいだな!」
     フィナレが鞭剣を伸ばす。蛇のように伸びた剣は撥を持つ手を打ち据え、ビィン、と音を立てて弦の1本を断った。フィナレは薄く笑い、
    「さて、三味線がそのような姿になっても、そなたは演奏を続けるのかね? いい音色だったが、もう充分聞かせてもらったぞ」
     音吉は愛器から哀しげな目を上げる。
    「よし、一気に行こう!」
     いつの間にか敵の背後に忍び寄っていたなをがざっくりと着物を切り裂き、振り返ろうとしたところを、龍之介がシールドで殴り引きつける。
    「貴女の三味線、ずっと聞いていたかったけどッ」
     すかさず狭霧の薔薇と蝶を模る影が喰らい付き、
    「これ以上悲しんで欲しくないんです!」
     小鳥は歯を食いしばって『無銘』を叩きつけ、
    「もうひとさしだけ舞って終演としましょう……たあっ!」
     桜湖は舞のようなステップで踏み込むと、再度投げ技を放った。
    「あんたとはここでさよならだけど、最後に本物の粋、見せてもらったよ」
     ここが決め時と見た三義も風の刃を放ち、ひとつにも援護を命じる。
     ボロボロの姿で弱々しく起き上がった音吉は、今にも消えてしまいそう……なのに、まだ弦の切れた三味線に手を伸ばす。
    「……小鳥ちゃん、いくよ!」
    「はいっ」
     クラッシャーの2人が床を蹴り、同時に音吉に襲いかかった。
     小鳥は腕を伸ばすと光の剣で力一杯胴を薙ぎ、高く跳んだ狭霧は。
    「せめて貴女の三味線が、冥途への道標になりますように!」
     頭上から血色のオーラを叩きつける。
    「わっ!?」
     ボッ、と一瞬音吉の体が一瞬閃光に包まれ、その眩しさに灼滅者たちは瞼を閉じ、目を覆う。

     ゴトリ。

     何かが落ちる音がして、瞼を開くと。
     ――蔵の床には、壊れた三味線だけがぽつんと落ちていた。

    ●祓い終えて
    「――というわけで、改めて供養をなさるのがよろしいかと思います」
     三味線を前に、なをはお祓い師の顔に戻って蔵主に話している。小鳥も真面目な顔で。
    「修理して大事に弾いてあげるのもいいと思います。道具に宿った神さま、付喪神は使われてその存在を保つのです。存在を忘れられてしまった付喪神は混乱してしまうですよ」
     スタンも頷いて。
    「そのあたりの判断は、ご主人にお任せしますけれど」
     龍之介が微笑んで。
    「こちらで手に余るようでしたら、おっしゃって下さい。東京の方で手配します」
     真面目に語るお祓い師とその助手たちの後ろで、こっそりと狭霧は、
    「(東京に持って帰ることになるといいなあ。供養する前に修理して弾いてみたい)」
     フィナレも、
    「(いい音だったから、焚きあげてしまうのはもったいないぞ)」
     とか思ってたり。
    「ありがとうございます。とりあえず、お寺さんさ相談してみます」
     蔵主は深々と頭を下げ、灼滅者たちも釣られて頭を下げる。
    「じゃ、とりあえず」
     桜湖がさっと頭を上げて。
    「蔵に戻ってお片付けの続きをしましょう!」
     顔には出さなかったが、げんなりした空気が流れる。戦闘後であるから、当然疲れている。
     三義も心中で、
    「(今夜は確認だけにして、早く寝ようよ……)」
     と訴えてみるが、戦闘で更に散らかってしまったのも事実で。
     と、そこに蔵主が。
    「いやいや、今夜はもう遅いで、続きは明日でええですよ。芋煮作っておきましたで、それ食べて今夜はもうゆっくり休んでください」
     灼滅者たちを見回し笑って。
    「奮発して米沢牛で作りましたでね、たんと食べてくださいね」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月27日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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