グリュック王国大決戦~大広間の怪人達

    作者:霧柄頼道

    「ゲルマンシャーク様が灼滅者達にやられたソーセージ!」
    「あ、ありえない! あのゲルマンシャーク様に限ってそんな……!」
     グリュック王国にて、ゲルマンシャーク灼滅の報に愕然とするゲルマンご当地怪人達。
    「ゲルマンシャーク様のみならずレディ・マリリン司令官までも! おのれ灼滅者め!」
    「復讐すべし! 復讐すべし!」
    「弔い合戦じゃあ!」
    「待つのだソーセージ! ここは一度頭を冷やして考えるソーセージ!」
     本拠地から出ていこうとする者と押しとどめる者、怪人達はまさに混乱の渦中にあった。
     
    「お前達……新潟ロシア村での戦い、本当によくやってくれた! あのゲルマンシャークを倒してしまうとは、さすがのこの俺も驚いたぜ!」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が戦勝気分も冷めやらぬ様子で、集まった灼滅者達を讃える。
    「ゲルマンシャーク、奴はご当地幹部四天王の中でもおそらく最強……。とてつもない強敵な上に巨大化していた相手を灼滅できたのは並大抵の事じゃない。エクスブレインとして鼻が高いぜ。大規模な戦争直後間もないが、学園はこの機を逃さずグリュック王国を掃討する作戦に打って出る」
     グリュック王国。しかしあそこには、灼滅者を闇堕ちさせるという結界があったのではなかったか。
    「ゲルマンシャークが灼滅された事で結界はなくなったんだ。今なら好き放題に出入りできる。ゲルマンご当地怪人も指揮系統がばらばらで、一掃する絶好のチャンスってわけだ」
     だがもしも混乱が収まれば、ゲルマン怪人達は団結してこの苦境を乗り切ろうとするであろう。他のご当地怪人達の傘下に下らないとも限らない。
     そうなれば攻略の難易度は格段に上がり、反撃に出られる可能性すらある。だからこそこの作戦に踏み切るという。
    「やる事は簡単だ。グリュック王国へ攻め入り、浮き足立つ怪人どもを速やかに仕留める。連中は焦るあまり単独行動、あるいは少数で王国内をさまよっているから、各個撃破はたやすいぜ。ご当地ヒーローなら観光の一つもしたいだろうが、一応戦争の続きだ、今回はこらえてくれ」
     ぐっと拳を握ってから、ヤマトは詳細な説明に入る。
    「お前達が担当する相手はゲルマンペナント怪人だ。数は十二体。ビュッケブルグ城大広間で武蔵坂学園に復讐するか否かでもめているようだ。使用するサイキックもビームやダイナミックと少なく、ポジションはめちゃくちゃ。それほど戦闘力は高くないだろうが、窮鼠猫を噛むという言葉もある」
     リーダーを失ったとはいえ元々の組織力の高さもあり、何かの拍子に噛み合って手痛い反撃を喰らわないとも限らない、油断しないようにとヤマトが言い含める。
    「ゲルマンシャークを討ち取ったお前達ならできると信じてるぜ。グリュック王国を制圧し、完全なる勝利と行こうじゃねぇか!」


    参加者
    護宮・マッキ(輝速・d00180)
    外法院・ウツロギ(毒電波発信源・d01207)
    普・通(正義を探求する凡人・d02987)
    山岸・山桜桃(ヘマトフィリアの魔女・d06622)
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    テレシー・フォリナー(第三の傍観者・d10905)
    カリーナ・ランドルフ(パラサイトナース・d17268)
    空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)

    ■リプレイ

    ●ラスト・ゲルマンペナント怪人
    「ここがグリュック王国かー。いや案外綺麗だわね」
     ゲルマンシャーク灼滅に騒然とする他のご当地怪人達に気取られないよう、テレシー・フォリナー(第三の傍観者・d10905)と霊犬のザッシュを含む灼滅者達は息を潜めて王国内を進む。
    「グリュック王国と言えば同じクラブの仲間が前に闇堕ちさせられた場所っすね。今は結界がなくなったらしいっすけど油断は禁物っす! ゲルマンご当地怪人がまた悪さをする前にしっかり灼滅頑張るっす!」
     決戦を前にしてかナノナノの師匠がひたすら団子を頬張るのを尻目に、空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)が気合いを入れる。
    「あのままゲルマンシャークさんが生きていたら、こうしてグリュック王国を攻略できるのはいつになったのでしょうね。この機会に何とかしてしまわないと。他のご当地幹部の下で再編成されてしまったら大変です」
     霊犬のジョンを連れて進む山岸・山桜桃(ヘマトフィリアの魔女・d06622)が次第に近づくビュッケブルグ城を振り仰ぐ。
    「毒を食らわば皿まで、というのはちょっと違う気がするけど、戦争に参加しておいてこっちへの参加を避けるのは違う気がする。やるなら最後までちゃんとやらないと……自分の意志で踏み込んだんだから」
     一度戦端を開いた以上は最後まで責任を果たさなければならない。その信念に変わりはないのだが、このような一方的な攻撃にはやはり迷いもあるのか、普・通(正義を探求する凡人・d02987)はうつむき気味だ。
    「ゲルマンペナント怪人か。あまり強そうじゃないけど、数が多いし、侮らずにきっちり決めてしまおう!」
     護宮・マッキ(輝速・d00180)と霊犬のブラックポメが仲間達を鼓舞するように先頭を歩く。
    「さて、今回は敵も多いしお遊びなしで必殺な仕事人的に速やかに処理していくよ」
     大広間へ続く正面扉の前、中から漏れるご当地怪人達の話し声に、外法院・ウツロギ(毒電波発信源・d01207)がにやりと口の端を曲げる。
    「……敵の前口上の最中に攻撃しちゃうくらい速やかにね」
    「ゲルマンペナント怪人……。あいつらって横から見たら超薄いのかしら。やっべー超気になる」
     ただでさえ平面っぽくわけのわからない生命体である怪人達を、どうにか扉の隙間から見えないか試すテレシーの横で、黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)とビハインドのアリカがいつでも入り込める位置についていた。
    「私も一応道産子なので、北海道にいつまでもこんな人たち残したくはないですね。大掃除しちゃいましょう♪」
    「あのふざけたペナント怪人のお顔に風穴を開けて差し上げましょう」
     紅いナース服姿のカリーナ・ランドルフ(パラサイトナース・d17268)がビハインドのお婆様と寄り添いながら頷く。
    「いたいた。ちゃんと十二人」
     ウツロギが言い争うゲルマンペナント怪人達を確認し、扉を開ける。
    「混乱に乗じて吹っかけますかね」
     影のように侵入した灼滅者達はほどなくして怪人の一人に見とがめられたが、すでに十分、こちらの間合いを詰める事に成功していた。

    ●大乱戦
    「な、なんだ貴様らっ」
    「怪しい奴らめ……!」
    「あなたたちに個人的な恨みはありませんが、平和のため、ここで灼滅させていただきます!」
     武器を構えた山桜桃が叫び、怪人達をどよめかせる。
    「灼滅者だと!」
    「おのれ、ここで会ったが百年目ェ!」
    「飛んで火に入るなんとやらだっ」
     報復派も慎重派も関係なくなし崩し的に戦闘へ巻き込まれてもなお、敵の士気は高い様子。
     とはいえ突然の事態の推移についていけるわけでもなく、陣形を整えるための隙が生まれている。
    「我らのゲルマン魂を見せつけ……ぐわ!」
    「ゲームスタート、真っ二つさ!」
     勇敢にタンカを切ろうとする前衛の怪人を、すかさず距離を近づけたウツロギが【蹂躙】をぶん回して吹っ飛ばす。
    「しょっぱなから飛ばして行くよ!」
     マッキの繰り出した螺穿槍がゲルマンペナント怪人をえぐり、突き飛ばした。
     さらには山桜桃の殺人注射が叩き込まれ、怪人達を勢いそのままに奥へと押し込む。
    「こいつら思いのほかやるようだぞ!」
    「ゲルマンシャーク様もこのように包囲されて倒されたに違いない!」
    「許せん!」
     先手は取れたものの、怒り冷めやらぬゲルマンペナント怪人を前に、テレシーが不敵な笑みを浮かべる。
    「ふふ、うふふ。我ら武蔵坂学園70万を相手にどこまでやれるか! さぁ行くぞー!」
    「な、ななじゅうまんだと!」
    「いくらなんでもありえんっ」
    「たぁあー」
     ぎょっとする怪人達を、いまいち力の抜けたかけ声とともにブレイジングバーストの炎弾が襲い、布部分をこれでもかと燃えさからせていく。
    「援護するっすよ!」
     爆煙を恐れず突っ込んだ朔羅が縛霊撃で燃える怪人を捕まえる。
    「ぬおお、離せ!」
     身動きの取れず弱る怪人に近づいたザッシュが刀を一閃、とどめを刺した。
    「同胞がやられたぞ!」
    「臆するな、逃げる者は許さん!」
    「せめて死に花を!」
    「なんだかすごく熱い怪人達ですね……」
     指揮する者がいないなりに団結しようとするゲルマンペナント怪人をよそに、いちごが堅実に前衛の仲間へシールドを張り巡らす。
     そうはさせじと接近しようとする怪人に対してはアリカの霊撃が放たれ、側へ寄せ付けない。
    「仲間を思う気持ちは私達と同じ……。ですが、逃がしません。あなた方にはここで潰れてもらいます」
     通の振り下ろしたフォースブレイクは敵のディフェンダーに遮られるが、呼吸を合わせて踏み込んだカリーナとお婆様の協力攻撃の前に、また一人敵が倒れた。
    「つ、強い!」
    「恐れるな、力を合わせて立ち向かうのだ!」
     怪人達が横一列に並び、一斉にビームを撃ち込んでくる。
    「ジョン!」
    「アリカさん!」
    「お婆様、守ってくださいまし!」
     灼滅者の声に応え、それぞれのサーヴァント達もまた一糸乱れぬ動きで飛び出してビームのほとんどを受け止め、または受け流し、ダメージを最小限にとどめてのけた。
    「こんなにディフェンダーがいるのにまともに喰らった私って……」
     ビームに焼かれてぷすぷすと煙を上げるテレシーが師匠やブラックポメに回復されながらも、ジト目でザッシュを睨む。
    「まだだ、もう一発喰ら……ぎゃあぁ!」
    「ふるぼっこふるぼっこ」
     そっちのターンなんぞ知ったこっちゃないとばかり、ウツロギが暴走するロードローラーのような激しいパンチで敵を蹴散らしていき、すぐさま仲間達も攻勢をかける。
     奇襲の動揺から回復したゲルマンペナント怪人達が正面から飛びかかり、大広間は敵味方入り乱れる乱戦状態へ移っていった。

    ●撃つべし、撃つべし!
    「一緒にいくっす!」
    「了解だ、朔羅!」
    「終わったら山の幸! 海の幸! 味噌ラーメン! でやぁぁぁ!」
     朔羅、マッキ、テレシーの三人が連携して敵の中衛を攻撃し、瞬く間に一体を仕留める。
    「行くよ、ジョン!」
     仲間達が切り開いた道を山桜桃とジョンが駆け抜け、後方でビームを乱射する怪人をジョンが抑え込み、側面から山桜桃がライフブリンガーを突き立てる。
     その最中も暴れようとするゲルマンペナント怪人だが、通の振り抜いた鬼神変に耐えられず、あえなく爆発して果てた。
    「わ、我らのゲルマン化計画は始まったばかりというのに……ぐふっ」
    「ご当地怪人がただご当地愛にあふれるだけだったら良かったのに……」
     それならばこんな事にもならなかったはず、と視線を落とす通だがそれも一瞬、ただちに戦闘状況を見渡し、苦戦している仲間の援護へ向かう。
    「がんばって支援しますね!」
     数では勝るといえども相手はダークネス、無傷ではいられない前衛の仲間達へ、いちごがギターを弾きならし、あるいは洗練された歌唱力で歌い上げ、懸命に戦線を維持する。
    「あざっす! 助かったっす!」
     受けた衝撃を緩和され、礼を言う朔羅の近くで怪人達がいちごに気づく。
    「あそこで歌う者を狙え!」
    「ビームで撃ち落としてしまえ……む、なんだ貴様ァ!」
    「乙女の歌を邪魔するのは無粋ですわよ」
     殺到するゲルマンペナント怪人達の目前へ立ちはだかったカリーナが、除霊結界でその身動きを封じ、アリカとお婆様がその周囲を回りながら翻弄する。
     ……余談だがいちごは乙女ではなかったりするのだが、本人は特に否定しなかった。
    「押されているぞ……!」
    「ゲルマンシャーク様を倒しただけの事はあるというわけだ!」
    「我らゲルマンご当地怪人に撤退の二文字はない! 最後の一兵になろうとも戦うのみよ!」
    「悪いけどその意気ごと、刈り取る!」
     拳を突き上げて気勢を上げる怪人の頭部を、ウツロギの振りかざす【罪悪】が通過する。 次いでずるり、と怪人のペナント部分だけが落ちた。
    「どっ、同胞が、頭だけに!」
    「我らの誇りがぁ!」
    「普通ならグロいんだけど、なんだかシュールだなあ」
     部位が部位だけに、とマッキはブラックポメに回復してもらいつつ、変わり果てた仲間の姿に立ちすくむ別の怪人へフォースブレイクを繰り出す。
    「いかん、これで半数がやられたぞ!」
    「そこ、何をもたついている!」
    「す、すまん、ポジションがメディックなんだが、回復用のサイキックを持ってきてなかった……」
    「バカめ、さっさと変更しろっ!」
    「決死の戦いの割にはあんまり悲壮感がないっすね……」
    「ま、ご当地怪人だからねー」
     朔羅の呟きにテレシーが肩をすくめる。どうあれここまでは戦略通りに運んで来ていた。 前衛、中衛ともに半壊させ、残るは火力に劣る後衛だけ。
     こちらの損害も予想の範囲内にとどまっているが、最後の詰めこそ油断なく、と灼滅者達は気を引き締め直したのである。

    ●最後に立っていたのは
    「ぐはぁっ!」
     霊犬、ビハインド達の集中砲火を浴び、今にも倒れそうなゲルマンペナント怪人が最後の力を振り絞り、天井を仰ぐ。
    「わ、我らを倒したところで意志を継ぐ同志がげばぶっ!」
    「隙だらけだよ」
     容赦なく黒死斬を見舞ったウツロギが通り抜けた後には、セリフを言い損ねた哀れな怪人が無念とばかりに爆発四散。
     残る敵は一人。
     散発的な攻撃に終始するゲルマンペナント怪人達に対し、統制の取れた灼滅者達の勝利は目前に近づいていた。
    「貴様ぁっ、さっきから見ていれば辞世の句さえ許さぬとは血も涙もないのかあっ!」
    「と言われても、今の僕は必殺の仕事人的なモードなんで」
     組みかかる怪人を満身の力を込めた【蹂躙】で押し返すウツロギの横から通とカリーナが肉薄し、同時攻撃で有無を言わせずとどめを刺す。
    「ふ、不覚!」
     うめき声を上げて最後のゲルマンペナント怪人は倒れ、後には呼吸を荒げる灼滅者達が残った。
    「……終わったっすね! お疲れ様っした! お怪我は大丈夫っすか?」
     少なからぬ被害を受けているにもかかわらず、朔羅はあちこちを走り回って怪我人の調子を見る。師匠は再び団子を食べながらのんびりその後をついていった。
    「お怪我をした人はこちらに。治療しますね」
     アリカの頭を撫でてねぎらいながら、いちごが高らかに歌い始める。一方できびきびと働くカリーナの力もあってか、みるみるうちに仲間達の傷は癒えていった。
    「こうしてただの廃墟に戻ってしまったところを見ると、敵の拠点とはいえ、なんだか物悲しい気分になりますね……。ダークネスとはいえ、司令官を失って右往左往する相手をやっつけていく……そんなことがこれからもずっと続いて行くのでしょうか」
     騒がしいご当地怪人のいなくなった大広間は、変わらず壮観ではあるがたしかにこれまでとは違い寂れた印象がある。
     だが。
    「それでも、ゆすら達たちは今日、この土地の平和を取り戻したんですよね」
    「そうですよ、みんなの力です!」
     一息ついたいちごが笑顔で頷き、山桜桃に撫でられたジョンも同意するように吠えた。
    「何か面白い情報ないかなー……そのあたり歩き回ってみよう」
    「ご当地怪人の作った資料とか……有力な敵の情報が見つかるといいですね。僕も同行します」
    「みんなの治療が終わる頃には戻って来てね」
     マッキの言葉を受けながら、テレシーと通は時間の許す限り付近を探検しに向かったのだった。

    作者:霧柄頼道 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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