刺青羅刹・新宿迷宮の戦い~異域之鬼

    作者:西東西

    「なるほど、刺青羅刹にはああいう手合もいるのか。正直、俺の勝ち目は薄そうだな」
    「鞍馬天狗の軍が来ます! 外道丸さん、どうしますか……!?」
    「あいつの狙いはお前じゃなく、明確に俺の『刺青』だ。そして俺よりも強く、こちらの陣容も筒抜けっぽいな。力量と情報で敵わないなら、俺達にあるのは地の利だけだ」
    「地の利……あっ、昨日教わった『大勢と喧嘩する時は狭い場所で』、ですね!」
    「その通り。それに、奴等の狙いが俺なら、俺が移動すれば街にダメージは無ぇ。
     新宿迷宮で籠城戦だ。全員俺についてこい!」
      

    「先の戦争で姿を現した羅刹、『鞍馬天狗』が動きだす。ついては、きみたちに対応を願いたい」
     教室に集まった灼滅者たちを見やり、一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が説明を開始する。
    「朱雀門学園から情報を得た鞍馬天狗は、同じ羅刹である『外道丸』勢力を襲撃。その戦闘を、勝利におさめる」
     鞍馬天狗と行動をともにしているのは、アメリカンコンドルを撤退に追いこんだ精鋭。
     そして、『外道丸の拾い物』を回収するために同行中のデモノイドロード『ロード・パラジウム』だ。
     敗北した外道丸は敗残した仲間を引きつれ、新宿迷宮へと撤退。籠城の構えをみせる。
    「生き残った外道丸の配下は、少数だが精鋭だ。鞍馬天狗側も、さすがに苦戦を強いられる」
     しかし、鞍馬天狗勢力が数のうえで優位であることは、揺るがない。
     やがて外道丸が敗北し、刺青を奪われるのは火を見るよりも明らかだ。
    「よって、最悪の事態。『鞍馬天狗』による刺青強奪を阻止するために、きみたち灼滅者の手で『外道丸』を灼滅してほしい」
     なおこの機会にダークネス同士の抗争の隙をつくことができれば、鞍馬天狗やロード・パラジウムの灼滅も、可能となるかもしれない。
     すべての目標を達成することは不可能だが、と前置きし。
    「より多くの戦果をえられるよう、健闘を祈る」
     一夜はそこで、いちど言葉を切った。
     
    「今回の戦場だが、まずは、今から言う状況を頭に叩きこんでくれ」
     第一に。『外道丸』は、新宿迷宮に籠城している。
     智の犬士『カンナビス』が捜索し、『ロード・パラジウム』が狙っている「何者か」も、外道丸が保護している。
     第二に。外道丸を狙い、『鞍馬天狗』と精鋭たちが迷宮の深部を探索している。
     迷宮の浅い階層は、配下の手ですでに制圧完了済みだ。
     第三に。大規模な襲撃があれば鞍馬天狗は撤退をはじめる。
     鞍馬天狗が灼滅、あるいは撤退するような状況になれば、ロード・パラジウムも撤退を行う。
    「鞍馬天狗とロード・パラジウムを灼滅、もしくは撤退させてはじめて、外道丸勢力への攻撃が可能となる。それぞれが優先すべき目的を考え、戦いにそなえて欲しい」
     
    「今回、いくつかの状況が同時に展開する。そのため、作戦や状況変化によっては、思わぬ苦戦を強いられることになるかもしれない」
     しかしこの争いを見過ごせば、『鞍馬天狗』はもちろん、朱雀門勢力をさらに拡大させてしまう可能性がある。
     情報の少ない部分もあるが、くれぐれも慎重に対応するようにと、一夜は念を押して。
     ――必ず、全員そろって戻るように。
     灼滅者たちの無事の帰還を願い、その背を見送った。


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    朝山・千巻(スイソウ・d00396)
    聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)
    ニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)
    澤村・民子(ストロークス・d03829)
    白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    鳥辺野・祝(絶縁体質・d23681)

    ■リプレイ


     新宿駅の地下。
     『新宿迷宮』の深層を、8人の灼滅者たちが歩いていく。
     彼らの通った道には、赤い糸が這っている。
     灼滅者たちにしか見えないそれは、捜索をはじめた出発点から伸びている『アリアドネの糸』だ。
     朝山・千巻(スイソウ・d00396)がほかの班の『通信担当者』にも見えるよう準備したもので、
    「万が一、ってこともあるからな」
     と、加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)が用意したものを含め2本、存在していた。
     ふいにニコ・ベルクシュタイン(星狩り・d03078)が立ちどまり、仲間たちに向かい手を挙げる。
     意を察した千巻は影業をしたがえ、すぐさま仲間たちの前方へ。
     澤村・民子(ストロークス・d03829)は懐中電灯【報燈】の明かりを絞り、白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)、鳥辺野・祝(絶縁体質・d23681)とともに、後方の闇を見据えた。
     仲間たちに背を預け、ニコはESP『スーパーGPS』で現在地を確認。
     トランシーバーから聞こえくる他班の通信担当者――東班の百合亞(d02507)や西班の白雪(d03838)、北班のフィナレ(d18889)の声に耳を傾け、余さず情報を書き留めていく。
    「――了解した。南班も、引き続き捜索を行う」
    「まだ、どの班もぱらじうむ様とは接触できておりませんのね」
     予備の機器でやりとりを聞いていた聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)が、改めて気を引き締める。
     今回の作戦で『ロード・パラジウム』襲撃にあたるのは、4チーム。
     表記座標を統一した地図と揃いのインカム型トランシーバーを用意し、定期的に連絡をとりあいながら東西南北の各方位を捜索しているが、パラジウム発見の報はいまだ入ってこない。
     8人は再び歩きだし、捜索を続ける。
     片倉・純也(ソウク・d16862)は常時ESP『DSKノーズ』を展開し、索敵に専念。
     少数の敵はすきをついて蝶胡蘭が強襲し、速攻で畳みかけ。
     多数の敵はみなで隠密行動に徹し、迂回ルートを進んだ。
     仲間たちの連携や手際の良さもあり、探索は効率よく進み、南側の地図は早くも埋まりつつある。
     祝も仲間とともに隠密や警戒に勤しんでいたが、初めて訪れる迷宮に興味津々。瞳の輝きだけは、抑えることができない。
    (「ああ、仕事じゃなけりゃーいいのになあ」)
     胸中で嘆息した、その時だ。
     けた違いに強い『業』を感じとり、純也が思わず足を止める。
    「前方に敵7体。ひときわ強い匂い。これは……!」
     警戒の声を発した、直後。
     ――オオオォォォォオオオ!
     前方から咆哮が響きわたり、同時に、暗闇の奥で赤や黄色の光がまたたいた。
     一瞬、なまぬるい風が吹いたかと思うと、
    「避けろ!」
    「伏せるっす!」
     純也、雅の2人がとっさに民子と祝を突き飛ばし、代わりに魔力の波を受けとめる。
     ニコ、蝶胡蘭、ヤマメは回避が遅れ、通路の奥へはね飛ばされた。
    「こんなところにまで武蔵坂学園の灼滅者、ですか。本当に、どこにでもいらっしゃるのですね。ある意味感心いたしますわ」
     薄暗い道の先から姿を現したのは、朱雀門高校の制服に身を包んだ巻き毛のデモノイドロード。
    (「――『ロード・パラジウム』!」)
     ただひとり攻撃を避け体勢をたてなおした千巻は、すぐさまトランシーバーへ向け、声をはりあげた。
    「南班、パラジウムと接触っ。戦闘を開始します……!」


     敵は7体。
     しかもそのうちの1体は、デモノイドロードの有力敵だ。
     対する灼滅者は8人。
     戦力差は明らかだったが、怖気づく者はひとりもいない。
    「いらん敵まで、呼ばれたくないかんね!」
     民子はすぐに『サウンドシャッター』を展開。敵の援軍が来ないよう、対策を施す。
     真っ先に踏みこんだニコの脳裏に浮かぶのは、木更津デモノイド事件。
     今なお受け入れがたい、理不尽な『非日常』の記憶だ。
    「地獄へ、堕ちろ」
     凍りついた赤の瞳でパラジウムを見据え、非物質化した宝剣『Schwert』で斬りかかる。
     しかしレアメタルの名を持つ女は、手にしていた剣で舞うように攻撃を退けた。
     豊満な胸をはり、歯を見せて笑う。
    「逃げ出したあの子をやっと探し当てたのですから、邪魔しないでいただきたいですわね!」
     機銃デモノイド2体とメイジデモノイド1体に灼滅者の処分を命じると、パラジウムは残り半数の配下を連れ、手近にあった脇道へと駆けこんだ。
    「行かせるものか!」
    「喰らいついたら、離さないんだからっ」
     純也と千巻が追いすがるべく影業を放つも、影は配下デモノイドを捕えるに留まり、パラジウムには届かない。
    「回りこむっす!」
    「りょーかい!」
     雅と民子は敵を包囲するべく駆けたが、再び放たれたメイジデモノイドの牽制を前に、それ以上進むことは叶わなかった。
     もとより、パラジウムの退路潰しには相応の人員が必要と聞いていた。
     標的を目の前で逃がすのは悔しいが、ここで配下を相手取れば、その分、ほかの班の負担が軽減されるはずだ。
    「逃げた方角はわかってる。なら、こいつらを倒して追いかけるまでだ!」
     蝶胡蘭は中空へ飛びあがり、左手に集中させたオーラをデモノイドめがけ叩きつける。
    「配下の灼滅も、ぱらじうむ様への嫌がらせには違いありませんの!」
     ヤマメは凛と背筋を伸ばし、放った光輪で民子への守りを固めた。
    「光の戦士 ピュア・ライトが相手っす!」
     月光の力を宿した盾を振りかざし、雅は機銃デモノイドの注意を引きつけにかかる。
     体勢を崩したデモノイドめがけ、縛霊手で殴りかかったのは祝だ。
    「私もがんばる! ちょうがんばる!」
     網状の霊力でデモノイドを縛りあげるも、敵はパラジウムの連れていた配下だけあって、一筋縄ではいかない。
     ――グオオオオォォォオ!
     至近距離から放たれた弾丸が前衛陣の身体を貫き、毒で侵し。
     その傷を十分に癒す間もなく、メイジデモノイドの魔術や炎が追い撃ちをかける。
     とくに雅は機銃デモノイド1体の攻撃を1人で引きつけており、すでに満身創痍状態だ。
    「雅ちゃん、無理しちゃだめだよっ」
     気づいた千巻がWOKシールドをかざし、雅の守りをより強固なものとする。
    「自分は大丈夫っす。それより……!」
     盾を広げ、仲間たちを癒し、枷への耐性を高める。
     雅は敵の仕掛ける枷が想定以上に多く、回復に手数をとられがちになっているのが気になっていたのだ。
     ――せめて1体、落とすことができれば。
     振りおろされた巨腕の一撃を見切り、純也はメイジデモノイドへ向け冷気のつららを撃ち放つ。
     しかし攻撃は壁と化した機銃デモノイドに阻まれ、砕けた。
     ヤマメは仲間たちの傷を癒しながらも、唇を噛みしめる。
    (「このままでは、回復が追いつかずに押しきられますの……!」)
     敵の体力は高く、今も3体が健在。
     一方の灼滅者たちは、徐々に疲労が蓄積しつつあった。
     負けじと攻撃や枷を仕掛けるものの、前衛2体の壁は厚く、メイジデモノイドの回復と癒しが、さらに灼滅者たちの希望をうちはらっていく。
     ふいに、ごっと鈍い音が響き。
     大型機銃の双腕に殴打され、迷宮の壁に叩きつけられた雅が、倒れた。
     攻撃が分散すれば、火力にまかせ押し切られかねない。
    「絶対に! 逃したく、ないっ……!」
     後衛を狙おうとする機銃デモノイドの注意をひくため、千巻は意を決し、WOKシールドで殴りかかった。
     怒りにまかせて向けられる攻撃は、一撃ごとに、大きく千巻の体力を削り。
     それゆえに、機銃デモノイドは大きな隙を作った。
     千巻にとどめをさした、その瞬間。
    「そこまでだ!」
     間合いに飛びこんだ蝶胡蘭が死角から迫り、マテリアルロッドを突きつける。
     杖の先で雷がはじけ、一閃とともに撃ち放つ。
     身を焦がした機銃デモノイドの身体が融解するのと、メイジデモノイドの炎が飛んだのは、同時だった。
     狙う先には、民子の姿。
     その軌道上に飛びだしたのは、純也だ。
     間一髪、民子をかばいきるも、地に伏したまま、起きあがることができない。
    「じゅんや様!」
     ヤマメはすぐに癒しを施そうとしたが、仲間たちを守り続けた少年の身体は赤く染まり、もはや限界に達していた。
     薄れゆく意識のなか、「互いに善処しよう」と拳を合わせた友の声が脳裏をよぎる。
    (「……風宮。頼んだ、ぞ」)
     言葉は、声になることなく。
     薄暗い通路の端に、雅、千巻。そして純也の身体が横たわる。
     残る配下デモノイドは、2体。
     しかし彼らは傷を負いながらも、次なる狙いを回復手のヤマメへと集中させていく。
     護り手を失った灼滅者たちは個々に攻撃を回避するよりなく、形勢はさらに悪化していき。
     放たれた弾丸に撃ちぬかれ、ついにヤマメが膝をついた。
     傷口を押さえ、壁に背を預ける。
     流された血に混じり、地面に、2本の赤い糸が這っている。
     ――8人の足跡。
     ――そして、仲間たちを導く標。
     厳しい戦いとなることは、覚悟のうえだった。
     限られた時間のなか、皆で意見を交わし、最善と思える策を選んだ。
    (「だから、後悔はありませんの。それに、きっと――」)
     目を閉ざし、耳を傾ける。
     聞こえてきたのは、複数の足音。
     少女は、そこでようやく意識を手放し。
    「我ら『東』が加勢する!」
     駆けつけた力強い声に、残る仲間たちを託した。


     パラジウム発見の報を聞き、真っ先に戦場に至ったのは神羅(d14965)をはじめとする東班だった。
     倒れた4人を退避させた後、美鶴(d20700)は清めの風を招き、回復に専念。
    「今すぐ回復するよー」
    「すまない。恩にきる……!」
     傷を癒したニコと蝶胡蘭が、再び攻勢にうってでる。
     機銃デモノイドの死角へ回りこんだニコが、剣を一閃。
     蝶胡蘭はバイオレンスギターをかき鳴らし、決意をこめ、吠える。
    「必ず、吉報を持って帰るぞ!」
     続く神羅の強力な一撃を後押しに、南班は勢いを増していった。
     向けられる攻撃はましろ(d01240)が盾を展開し、
    「もう大丈夫だよ、残りの皆もすぐ来てくれる」
     心強い言葉に励まされたのは、祝と民子だ。
    「皆がいれば、百人力だ!」
    「たすかったー! これで攻撃に専念できる!」
     霊犬『月白』と綸太郎(d00550)の援護に合わせ、仲間たちの攻撃の合間をぬうように、妖冷弾と流星の如き矢を降らせていく。
     機銃デモノイドの足元を狙うのは、由乃(d12219)。
    「草神様の仰せのままに」
    「ヒエイさん、ガードデス!」
     ドロシー(d20166)がすかさずキャリバーを走らせ、メイジデモノイドの攻撃を受けとめる。
    「悪いけど、ヒーローとして見逃すわけにはいかないな」
    「何の成果もないまま、ここでお帰りください」
     遠野(d18700)と百合亞(d02507)の連撃に続き、ニコは柊の木でできた魔法の杖を振りかぶった。
     青い巨躯へ叩きつけると同時に、持てる限りの魔力を注ぎこむ。
    「加藤!」
     内側から破裂するデモノイドを見据え、振りかえらずに呼びかける。
     ともに戦ったのは、短いようで、長い時間。
    「まっ、かせとけ!」
     頼もしい声。足音。息遣い。
     ――確かな信頼があるからこそ、託すことができる。
     高く跳びあがった蝶胡蘭の蹴りが、一直線に機銃デモノイドを貫いて。
     青い異形が爆散し、溶けて消えれば、残る敵はメイジデモノイド1体。
     ――オオオォォォォオオオ!
     咆哮と同時に発光器官をちぐはぐに明滅させ、魔力の波が灼滅者たちを襲った。
     綸太郎やキャリバーが仲間への攻撃をかばい受け、美鶴やドロシー、ましろの祈りが、傷ついた者たちを即座に癒していく。
     由乃と百合亞の戒めに遠野の斬撃が重なり、追い撃ちの神羅の一撃がきまれば、デモノイドの発光器官は次々とひび割れ、砕けていった。
    「……別にな、お前に恨みがあるわけではないよ」
     「でも」とつぶやき、祝は妖の槍を構える。
     ぼろぼろになり、くずおれんとするデモノイドの喉元めがけ、一閃。
    「身内のツケは、身内が払うもんだろ」
     のけぞり、たたらを踏んだデモノイドを見据え、言い放つ。
     民子はしりぞく祝と入れ替わるように、一歩、踏みだして。
     心の深淵を見つめ、暗き想念を集める。
     標的を蝕む流線を、強く、強く、想い描いていく。
     ――戦うことに、興味はない。
    (「今回は、任務だから。そう決まったから、倒すだけ」)
     己に言い聞かせるように、胸中でつぶやいて。
     民子は浮かぶ弾丸に、指を添える。
     ぴんと中指ではじけば、弾丸はデモノイドの青い額へ、一直線に吸い込まれていった。
     穴の開いた額を、どっと地面に打ちつけて。
     メイジデモノイドはそれきり、二度と立ちあがることはなかった。
     原型を留めないほどに崩れたその遺骸を、民子は冷めた瞳で、見おろして。
    「あんたの『青』は、あたしの好きな『青』には、ほど遠い」
     ぽつりと、言い捨てた。


     なんとか3体のデモノイドを下したものの、南班の8人はそろって満身創痍。
     すぐにでも撤退すべきだというのが、その場にいた全員の見解だった。
    「パラジウムはどうしたのだ、逃げたのか」
     新羅の問いかけに、祝と蝶胡蘭が頷く。
    「すぐそこの脇道を、配下3体と一緒に逃げていった!」
    「確か、『逃げ出したあの子をやっと探し当てた』とも、言ってたな」
    「……あの子?」
     それが誰をさすのかは、わからない。
     しかし、悠長に答えを探るだけの暇はない。
    「残りの班がまだだけど、すぐ追うべきだろうな」
     綸太郎の言葉に続き、東班の面々がそろって脇道へと向かい、駆けだしていく。
     そのそばを、ふいに優しい風が通り抜けた。
     見れば気を失っていたヤマメが身を起こし、清めの風を招いたようだ。
    「せめてもの、餞別ですの」
    「今回は本当に、助かったっす!」
    「みんな、気をつけてねっ!」
    「健闘を祈る」
     同じく目覚め、傷の手当てを受けた雅、千巻、純也の3人が、戦友たちにはなむけの言葉を贈る。
     東班の面々は手を振るに留め、来た時と同じように、風のように去って行った。

    「こちら南班のニコ・ベルクシュタイン。パラジウムと接触の後、配下のデモノイド3体と戦闘。合流した東班とともに、すべて撃破した。これより、撤退を開始する」
     トランシーバーへ向け、ニコは淡々と言葉を紡ぐ。
     だれの胸にも悔しさは残った。
     しかし2本の糸は今もそこに在り、8人の軌跡を物語る。
     ――この糸がなければ、仲間との早期合流も、敵へ迫る道を示すことも、できなかった。
     以降はただ、この標がほかの仲間たちの助けとなるよう、祈るばかりだ。
    「あとは、他班の先達各位に任せよう」
     純也の言葉に、仲間たちが頷く。
     ひとまずの役目は果たした。
     だが、ここはまだ、安全地帯ではない。
    「そんじゃ、あたしたちも行こっか」
     「帰るまでがお仕事だかんね」と続け。
     民子は仲間たちとともに、ふたたび異域の闇へ、踏みだした。
     
     

    作者:西東西 重傷:朝山・千巻(火灯・d00396) 白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197) 片倉・純也(ソウク・d16862) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月22日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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