「ここのマスクメロン、お一ついただける?」
平日の賑わう商店街。一人の婦人が青果店を訪れ、箱一杯に詰められたマスクメロンを指差す。
「はい、少々お待ちください」
「あら奥さん、あなたもマスクメロンをお目当てで?」
そこにもう一人、セレブっぽい服装に身を包んだ派手なマダムが通りかかる。
「あらあら、お隣の。もちろんですわ、静岡に住んでいながらマスクメロンを食べないなど、人生の損ですもの」
「ですわよねぇ。あ、店主さん、わたくしにもマスクメロンをお一つ」
ほほほ、と手を口に当てて笑う二人の婦人。
と、そこに人垣を割って何者かが飛び出して来た。
「そのマスクメロン、いただくぞ!」
「な、なにごとですの……っ?」
現れたのはメロンのかぶりものをした怪人である。道行く人を突き飛ばし、まっしぐらに婦人達、いや、その奥にあるマスクメロンの箱めがけて突進していく。
「邪魔だ貴様らっ」
「ギャアーッ!」
「グエェ!」
「このマスクメロンは俺が有効利用してやる、ありがたく思え! ゆくぞ戦闘員ども!」
怪人だけでなく、全身緑タイツ姿の男達までもが現れ、マスクメロンを奪っては駆け去っていく。
「ど、どろぼーっ!」
「泥棒ではない、これらのマスクメロンがいつかは世界征服の鍵となるのだ! ……いつかは」
店主の叫びに捨て台詞を残し、怪人と戦闘員達は商店街から風のように姿を消した。
「静岡のマスクメロンを狙って怪人が出没しているようだ」
神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が灼滅者達に説明する。
「今回に限らず、今まで様々な静岡のスーパーや青果店を襲撃し、ことごとくマスクメロンを奪ってやがる。マスクメロンを使って世界征服に近づこうとしているようだが、具体的な行動を起こす前に自分達で食べてしまい、また店へ舞い戻る、の繰り返しだ」
マスクメロンはメロンの中でも最上級。箱に詰め込まれたそれらを目にしてこらえろというのも酷な話だが、目先の欲に負けてはご当地怪人の名が泣くものである。
「そういうわけで連中はメロンの匂いを漂わせながら商店街を訪れる。目的はマスクメロンの強奪だから、目的の物を入手したら人ごみにまぎれて逃走してしまう。そうなったら下手に刺激しても被害が増えるばかりだし、元々の見た目も似たり寄ったりだから見分けるのは難しい」
マスクメロン怪人の足止めと人払い。灼滅のためにはそれらのクリアが条件だ。怪人を取り逃がせば依頼は失敗である。
「工夫の仕方もあるが、最低、マスクメロンを奪えなかったり、逃げ道をふさいでやれば観念して襲って来るだろうな。それでも隙を見せれば逃走を図るから注意してくれ。マスクメロン怪人が現れるのにはいくらか猶予があるから、先回りして準備するための時間には困らないぜ」
今回の依頼には月曇・菊千代(中学生神薙使い・dn0192)が同行する、とヤマトが席で待機していた生徒を示す。
「敵の妨害や一般人の避難誘導を主に行動するから、好きに使ってやってくれ」
「マスクメロン楽しみです! あ、違った、足手まといにならないよう頑張ります!」
菊千代は緊張気味に背筋を伸ばしている。
「ま、一応これが初依頼できょどってるが、悪い奴じゃないぜ。敵の構成は怪人と強化一般人が6体。戦闘員を盾に後衛からメロンの速球を投げつけたり、メロンを握りつぶした汁で目つぶしをしてきたり、ビーム射撃まで行ってくる。他にも常備しているマスクメロンサイダーを飲んで体力を回復するようだ」
戦闘員を含めた全員がばらばらに逃げようとするため、先手を打つ対処が求められるだろう。
「戦闘後はたぶん全身メロン汁まみれになってるだろうから、嫌な奴はESPとかで対策していくといい。それと当日はマスクメロンのセール中だ、財布に余裕があるならお持ち帰りもありだぜ。セレブな奥様方も集まって来るようだし、急がないと売り切れちまうかもな!」
参加者 | |
---|---|
霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621) |
神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731) |
人形塚・静(長州小町・d11587) |
レナ・フォレストキャット(山猫狂詩曲・d12864) |
クリス・レクター(夜咲睡蓮・d14308) |
エクスティーヌ・エスポワール(銀将・d20053) |
アイリスエル・ローゼスフォルト(ファイナルレターガール・d22427) |
大・凶(凶星の雄・d25442) |
●静岡マスクメロン強盗怪人
「メロンは何度か食べたことありますけどマスクメロン……一度でいいから食べてみたいもの。泥棒して食べるだけの怪人は許し難し。爆破せねば」
商店街を訪れた霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)が呟く。
物騒だが怪人を爆破、灼滅する心意気は十分のようである。
「マスクメロン旨いよネ。でも独り占めはいけないナ」
これは爆破しかないよネ、と頷くのはレインコートを着込んだクリス・レクター(夜咲睡蓮・d14308)だ。
一仕事した後に堪能できるメロンを思い、自然と表情が緩んでいる。
「マスクメロン! 高級食材! それを狙う怪人の気持ちは解らなくもないが独り占めしよーなんてふてぇ奴には天誅だ!」
「手段の為に目的を忘れるなんて、怪人の風上にもおけないの。あんまり相手したくはないけど、ヒーローの端くれとして放っておく訳にはいかないのよ」
神堂・律(悔恨のアルゴリズム・d09731)と人形塚・静(長州小町・d11587)は怪人討つべしと気勢を上げ、事前に打ち合わせた立ち位置へ移動を開始する。
「うにゃん、にゃんだか、いけにゃい事をする悪い怪人にゃんだにゃ。こんにゃ悪い怪人は灼滅するだけだにゃ。っていうか、攻撃方法ももったいにゃいんだにゃん」
聞いた話ではメロンを投げつけたり潰したり。
せっかくのマスクメロンがもったいない事この上ない、とレナ・フォレストキャット(山猫狂詩曲・d12864)が首を傾げる。そんな場合に備えてレインポンチョを装着済みだ。
「メロンで世界征服など……美味しそうじゃない。さっと倒してメロン強盗防いでついでにメロンゲットよ」
商店街後方、その物陰に隠れたアイリスエル・ローゼスフォルト(ファイナルレターガール・d22427)が変身道具を小脇に抱えてにやりとする。
「この怪傑ロゼがキッチリお仕置きしないとね」
ふう、と息をつく月曇・菊千代(中学生神薙使い・dn0192)に気がついた律がその肩をぽんと叩く。
「そんな緊張すんなって。誰でも最初は初依頼。皆がいるんだから大丈夫大丈夫」
「は、はい……」
「私だって、未だに任務の度に不安だけど、何とかなってきてるの。皆ついてるんだから大丈夫だよ」
そう励ます静に、心なしか顔色も良くなった様子。
「なんだ、緊張しているのか。そういう時は深呼吸だ。やってみな」
大・凶(凶星の雄・d25442)の言うままに菊千代が深呼吸を繰り返す。
「ハイ、吸って。吐いて、吐いて、吐いて、吐いて……」
「……おえっ」
息を長く吐きすぎたせいか、酸欠で白目をむきかけている。
「はは、冗談だ。悪いな。でも、緊張は解れただろ?」
「はひ……」
「月曇には、一般人の誘導をお願いしたい。それが終わったら、敵の逃走阻止だ。結構忙しくなるが……頼めるか?」
真剣な顔に戻った凶に、しっかりと菊千代が頷く。
「とにかく人々に危害が及ばないのが一番です。避難誘導、がんばりましょうね」
エクスティーヌ・エスポワール(銀将・d20053)が言って、それぞれが店前、商店街前方、後方へ分かれた。
●メロン(怪人)狩り
「さて、では始めましょうか」
配置についた刑一が殺界形成を展開、商店街の一般人達を避難させていく。
のろのろとその場から去ろうとする客達。その中に、メロン頭の怪人の姿がちらほら。
と思った次の瞬間には人垣をかき分けて飛び出し、セール中の青果店へ近づいて行くではないか。
「そこのメロンもらったァーッ!」
「出ましたねメロン買えないから泥棒する貧乏怪人とその他モブ! こんなセコイことしてるとお前達のグローバルジャスティスが泣きますよ!」
その突進を仁王立ちで阻んだのは刑一、律、凶の三名だ。
「ぬぬっ、待ち伏せか、こしゃくな!」
「ここは危険ダ! 早く逃げロ!」
同時に、クリスがパニックテレパスを行使しながら人々へ呼びかけた。
「ここから離れてくださーい!」
エクスティーヌの叫びに、一般人は押し合いへし合い。混乱状態である。
「は、始まりましたね……」
「緊張しているかもしれないが……大丈夫。自分が出来る事を、全力で果たせばいい」
恐れをなしたみたいに立ちすくむ菊千代の背を里桜が軽く叩き、誘導のため迷う事なく人の群れへ突っ込んでいく。
怪力無双を駆使してパニックに陥った人を担ぎ、安全な場所へ運んでいるのだ。
「案ずるな。初依頼など見直す点が有って当然のようなものだ。私も初めて挑んだ依頼でのミスの悔しさは未だに忘れられないが、故に過ちを繰り返す事は無い」
微妙に不安を煽るようなセリフを言い残し、フィクトもまた駆けていく。
「向こうには近づくな。あちらは安全だ、避難を」
「あら、いい男……」
こちらもおろおろする者やセレブな奥様を見つけては手を引き、危険地帯から遠ざける。
「皆さん、すごいですね……私もうまくできるでしょうか」
「大丈夫ですよ? 信頼できる仲間がいるってすごく心強いものです。自分に出来ることを尽くせば、結果はついてくるものだから。落ち着いて、ね?」
避難誘導の合間に微笑みかけるゆまに、菊千代は頷きを返す。
「あ、メロン汁は、義兄の神堂を盾にしちゃって平気ですからね?」
「え、あ、はい……?」
くすくすと笑うゆまの柔らかい声援を受けながら、菊千代はおっかなびっくり戦場へ走り込んで行った。
その近くでは徹太が恍惚の吐息を吐いている。
「商店街を丸ごと包む芳醇な香り、一際輝く柔らかな緑……思わず魅了され崩れ落ちる女のような気持ち悪い声を上げてしまうほどめろめろなそう、メロン! 俺の好物。イエス、メロン!」
庶民はいつでもありつけるわけではないし、その上今日はセール。なにそれすごい。
もちろん避難誘導は真面目にやるが、チャンスと見れば怪人の側へ寄ってメロン汁まみれになろうとしていたり。
「仕方ない、今回はメロンは諦めよう……ものども、ずらかれ!」
さすがに何度も場数を踏んでいるだけあって、マスクメロン怪人の判断は素早かった。
戦闘員達に命じるや身を翻す。逃げ惑う群衆に紛れて姿を消すつもりなのだ。
「成程、確かにいい手だ」
人々を怒鳴りつけながらさらなる混乱を誘発しようとする怪人めがけ、凶が腕を突き出す。
「だが、無意味だ」
指が鳴らされるとともに発動されるのはESP、サウンドシャッター。
結果怪人達は思うように人の壁を作れず、灼滅者の懸命の避難誘導もあってか、気がつけば周囲に自分達以外誰もいない状態となっている。
「こ、こんなはずが……」
「花開き樹聞きロゼが聞くってね……メロン強盗覚悟しなさい!」
そこに立ちはだかるのはアイリスエル、ではなく怪傑ロゼだ。
黒いマスクと羽根つき帽子、黒いマントを羽織り、存在感ではマスクメロン怪人にも劣らない。
「とにかく、そこまでだにゃん。もったいにゃいからにゃん」
闇の契約で自らを強化するレナを始めとし、灼滅者達が包囲を狭めて怪人を追い詰める。
「まだだ……総員、ばらばらに逃げろ!」
「纏めて痺れてネ☆」
しかしそこに、クリスの放った除霊結界が戦闘員達を縛り付けた。
「逃がさない……」
そして静の紡ぎ出した禁呪が、よろめく戦闘員達を爆破。爆煙の代わりにメロン汁があたりに四散する。
「お、おのれ、戦闘になるとてんでふがいない奴らだ……こうなったら俺だけでも」
「おっと。お前の相手は俺だろ? 浮気するなよ」
「ええい、どけ、小僧っ!」
怪人と対峙する凶の手元から散らされた花札が花びらのように宙を舞い、合間から現れるスレイヤーカード。
「こいこい」
その言葉が呟かれた瞬間、封印が解放される。
「逃がしません!」
エクスティーヌが旋風輪で弱った戦闘員達を薙ぎ払い、気を取られている怪人の足へアイリスエルの蛇咬斬が絡みつき、身動きを封じた。
「足下がお留守よ!」
「ぐわっ、離せ変なマスク女!」
怪人に言われたくない。
「メロン食べてるのが羨ましい」
その隙に刑一の鏖殺領域が戦闘員を残らず爆破、ではなく灼滅し、残るは怪人一人となった。
●流れる汗、飛び散るメロン
「果物ネタは時流にゃんだけどにゃ。でも、にゃあんか、違うしニャ」
いろいろ間違っているマスクメロン怪人に向けて、レナがフォースブレイクを叩き込む。
「どこが違うか具体的に言ってみろ!」
ちょっと不安になったのか、そんな売り言葉を返しつつ怪人はものすごいメロンの速球を投げつけてくる。
そんなもったいない攻撃だが、直前で飛び出した律がしっかり受け止めた。
空気抵抗とかキャッチした時の衝撃とかで中身が割れているメロンをその場で試食。
「うん、さすがマスクメロン様、美味美味」
「む、そ、そうかな……?」
なんか照れるマスクメロン怪人にあんたも食う? とばかりにメロンを突き出す。
「こんにゃ怪人より、こっちをお勧めするにゃん」
とレナもなぜかスイカを取り出してちらつかせる。
「なんでスイカだっ!」
「隙ありィ!」
当然のようにツッコんだ怪人の意表を突き、肉薄した律がばっさりと斬りつけた。
「だ~くねす……しょっと☆」
怪人の逃走を警戒しつつも果敢に攻め込む静の背後で、アイリスエルが胸の前にかざした手より生成した漆黒の弾丸が射出される。
返り血のようにメロン汁を噴き出す怪人。
「ぐうう、せっかくのメロン汁がこぼれていく……!」
「メ、メロンの怪人だからって、盗んでいいわけがありませんっ」
「あ、あれは盗んでいるのではない、今後の計画のために拝借しているだけだっ」
「マスクメロンが欲しいなら、ちゃんと買うべきでしょう! それ以上、屁理屈を並べるのなら、容赦なくいきますよ!」
ごにゃごにゃ言い逃れる怪人を一喝し、エクスティーヌがマジックミサイルを撃ち込む。
「そもそもっ、世界征服が果たされた暁にはすべてのマスクメロンは俺のもの! だからこんな使い方をしても許されるのだ!」
両手にいくつもマスクメロンを持った怪人が、勢いよくそれらを叩きつける。
破裂音と一緒に飛び散るメロン汁が前衛の灼滅者達へ降りかかり、視界がねとねとした液体に包まれた。
「わけわからん理屈で食物粗末にすんな!」
クリスが怒鳴りながらも即座に清めの風で味方を回復する。ふさがれた視界はそれで綺麗になるが、メロン汁の感触がなんとも気持ち悪い。
「つーか、メロン好きなら投げるな! 潰すな! 勿体ねぇだろ! それでもご当地怪人か! メロン様に謝れ! 土下座しろ! 食い物は粗末にすんじゃねぇ!」
「そ、そうですよ……!」
クリスに代わって怒りの攻勢をかけたのは律と菊千代である。ちなみに菊千代は律がかばってくれたため、メロン汁の洗礼は受けていなかった。
別に盾にしたわけではないたぶん。
「そ、そんなに怒らなくても……」
「デストローイ!」
猛烈な反発に怯む怪人へ、続けざまに刑一がデッドブラスターをぶちこんで吹っ飛ばす。
「メロン汁なんかかぶったら衣装が大変な事になるでしょう!」
万が一にも受けてしまったら変身が台無しである。それだけは許すまいとアイリスエルの全力のトラウナックルが怪人を追撃した。
灼滅者達の猛攻もあり押され始めるマスクメロン怪人。そして攻撃する度、される度に飛び散るメロン汁。
ESPでの対策はあるし、レナやクリスはレインコートなどで防護しているものの、気づけば目につく所はメロン汁まみれ。強烈なぬるぬるさ加減に足をとられそうだ。
「ふはは、思うように動けまい! 喰らえマスクメロンビームぅおあっ!」
ビームを発射したはいいがメロン汁に足を滑らせて倒れる怪人。しかしビーム自体はまっすぐ凶をとらえ、メロン色の爆煙を残してその姿がかき消える。
「や、やったかっ?」
「どっ、どうだ、仕留めたぞ! まずは一人!」
なぜか敵側っぽく息を呑む刑一と、ビーム命中に狂喜する怪人。
「ふははは! どうだ! 俺は勝った、勝ったのだぁっ!」
刹那、煙がゆがんだかと思うと、その内部を真一文字に斬り裂いて凶が突進し、真正面から怪人をぶった斬る。
「なん、だと……っ」
「やったか、はつまりやってないんだぜ……!」
言ったのは刑一だけれども。
「メロン汁に紛れてるけど結構な威力だネ」
「メロンの匂いに鼻がしびれてきたにゃあ」
蓄積する味方のダメージをクリスが回復を繰り返して支え、その間にアイリスエル、レナが一斉に攻撃する。
「果物充、爆発しろぉ!」
「ぐわあっ……」
刑一の叩きつけたフォースブレイクに、メロン汁を吐き散らす怪人はもうふらふらだ。
「ま、まだまだ……このマスクメロンサイダーを飲めば、たちどころに元気に……」
「そうはさせない!」
サイダーを一息に飲み下そうとする怪人へ接近した静が、黒死斬で横一閃に斬りつける。
「とどめです、シッティングシルバー・ビーム!」
目をむく怪人に、ほとんど零距離からエクスティーヌがビームを放つ。
「まずい、防御が間に合わ……ぎゃあああ!」
サイダーを投げ捨ててガードしようとするも遅い。
ビームの直撃を受けたマスクメロン怪人は盛大に消し飛び、正面にいた静とエクスティーヌはもちろん、ほぼ全員が飛散するメロン汁を頭からかぶる羽目になる。
「もっと世界征服をがんばるべきでしたね」
そう呟くのと同時、放られたサイダーが地面に落ちる音が、戦いの終了を告げていた。
●メロンタイム
「見事にメロン汁まみれ……今の俺って美味そう? なんて冗談はまぁ後にして。それじゃクリーニングするからこっちに来てくれ。レディーファーストでな」
女性陣が集まる中、アイリスエルは物陰へさっと駆け込んで変身を解除。
クリーニングを受けなかったため服はすごい事になっているが、いつの間にか姿を消すのも怪傑の美学である。
「この有様だし片づけてから帰るにゃん」
レナがメロンだらけの通りを大儀そうに見回すと、手持ちぶさたにしていた仲間の何人かも作業を手伝った。
あらかた片付けが終わる頃には人も戻って来ており、一時的に閉まっていた店も再開しているようだ。
「な、なんですのこれは。メロン汁だらけではありませんの」
「いやですわ、服が汚れてしまいましてよ、ほほほ」
その中にはセレブ奥様達の姿も。貴重なセールの日にはたとえ火の中水の中でも飛び込むのが彼女達の信念である。
「さて、あとはメロン土産にして帰りますかね」
律が言い、灼滅者達はセール中の青果店へ歩いて行く。
「ガイアチャージもできたし、高いから悩むけど、やっぱり折角なのでメロンをお土産に買って帰ります」
「お小遣いもありますし、家の皆でメロンをいただきます」
静とエクスティーヌが買っていく店の側で、手に入れたメロンを愛でるアイリスエルとクリス。
「勝った後のメロンは最高だ!」
「冷やして食べるのがおいしいんだよネ」
俺も行こう、と凶も財布を取り出そうとするが、その時目が見開かれ、絶望にうなだれる。
「さ、財布が……忘れた……。……不幸だ……」
一方、作戦を終えて一息ついた里桜達も、マスクメロンを購入しに商店街へ戻って来ていた。
「……私や親友が良く食べるとはいえ、5個くらいあれば足りるだろうか」
クラブの皆への土産のため、とにかく買えるだけ買おうと息巻く里桜だが、そう考えるのは何も彼女だけではない。
「ちょっと目を離した隙に残りたったの三十個ですってっ? ……ざっけんなッ!」
「冗談じゃァありませんわ、わたくしが先に買いますのことよ!」
セールだけに客数も多く、中でもガタイの良いセレブな奥様方が猛威を振るい、近寄ろうとする他の客をちぎっては投げちぎっては投げしている。
その壮絶さに数瞬、まばたきをした里桜だが。
「悪いが、セレブの奥様の方々に負けるつもりはない! 私の道の邪魔をするな……!」
毒を喰らわば皿までと勢いよく突貫。
「邪魔だァクソガキがぁっ!」
「わたくし達を出し抜こうなど百年早くてよ!」
ダークネスも顔負けの抵抗に遭いつつも、なんとかいくつか入手できたようだ。
「まぁ、大半は欠食児童どもに食われるのだろうが……いや、私も食べるぞ。メロンだ。マスクメロンだからな、譲れん」
男には引けない時があると、フィクトもその阿鼻叫喚の地獄絵図へ乗り込もうとした矢先。
「あら、先ほどは助かりましたわ。わたくしの前へどうぞ」
「い、いいのか?」
「おほほ、お気になさらず」
避難誘導の際に助けた婦人が自分の並んだ列の前にフィクトを誘い、こちらは難なくメロンの箱買いに成功する。
……その背後で無数の屍が転がっているのは見なかった事にしよう。
「あ、さっきはその、どうもありがとうございます……」
熾烈なメロン抗争では運良くお土産分を買えたゆまに、菊千代が話しかける。
「いえいえ、無事で良かったです」
「はい、神堂さんには助けられましたし……」
談笑する二人の横で、徹太が怪人の取り落としたマスクメロンサイダーの容器を覗き込む。
「くそっ、空か……。仕方ない、正攻法だが普通にメロン買うか……」
メロンに魅入られし男は顔を上げる。
視線の先にはメロンに群がる益荒男ども、ではなく婦人達。しかし彼に見えているのはさらにその向こうに輝くマスクメロンのみ。
奇声を張り上げて徹太が突撃し、ESPを使用したよりもはるかに激しい混迷が訪れる。
メロンの祭典(セール)はまだ、終わらない……!
作者:霧柄頼道 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年4月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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