ハニーポット・マニアックス

    作者:西東西


     はちみつ色を基調としたイメージカラーに、木のぬくもりを大切にした店の内装。
     店主自らが作り、数量限定で販売している、ハンドメイドのアクセサリー。

     『はちみつはすべて、安心の日本産。
      店長厳選のこだわりはちみつを使ったランチ&スイーツで、身も心も癒される、あま~いひと時を、あなたに。』

     ――そんなキャッチコピーで開店した小さなカフェ兼雑貨店は、若い女性を中心に、すぐにクチコミで人気が広まった。
     店の名は、『Honeypot Maniacs(ハニーポット・マニアックス)』。
     開店して一年半。
     人気はうなぎのぼりとなり、客足は日々増え続けている。
     しかし。

     閉店後。
     カフェのオーナーであり、店長でもある女性――蜂須賀・夜美(はちすか・よみ)は、集まったメイド服姿のアルバイトを前に、激しく声を荒げていた。
    「常連じゃない客には中国産を使いなさいと言ったのに、どうして日本産のはちみつを使ったの!?」
    「で、でも。お店のウリは、日本産のはちみつで――」
    「馬鹿ね! 味のわからない客には、中国産を使ったってわかりゃしないわよ! まったく。これじゃあいくら仕入れても足りやしないわ! ただでさえ価格高騰で儲けが出ないっていうのに……!」
     バンと机を叩き、また別の少女へと歩み寄る。
    「それから、あなた。今日までに作っておきなさいって言ったアクセサリパーツ。半分もできてないじゃない! 一体どうなってるの!」
    「す、すいません! 今週、家に帰ってからもずっと作業をしたんですが、300個は、さすがに……」
    「言い訳なんて聞いてないわ! 足りない分、明日までに用意してきなさい!」
     叱責を受けた少女は目に涙をため、「すいません、すいません」と謝りながら、夜美の前をあとにする。
     だれもいなくなった店にひとり残り、夜美はその日の精算を済ませながらも、毒づく。
    「まったく。自分たちのバイト代が、どこから出てるのかわかってんのかしら。綺麗ごとだけじゃ、このご時世やってけないの。儲けが出て、バイトも雇えるなら、それが一番じゃない」
     その言葉には、罪悪感のかけらも、なかった。
     

    「『経営のために食品偽装し、夢の中で懺悔する人が居る』のではないか。という関島・峻(ヴリヒスモス・d08229)さんの推理をもとに調査を行ったところ、新たな予測を得ることができました」
     西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)はそう告げ、集まった灼滅者たちに席に着くように勧める。
     机の上にさしだしたのは、冷たい氷で冷やした『はちみつレモン』だ。
    「食材から聞こえてきた情報を、皆さんにお伝えします」
     今回事件を起こすのは、シャドウ『贖罪のオルフェウス』。
     人間の心のなかの罪の意識を奪い、奪った罪の意識によって、闇堕ちを促進するダークネスだ。
     狙われたのは、蜂須賀・夜美という名の、三十代前半のカフェ店長。
    「夜美さんは店の経営を守るため、中国産のはちみつを日本産と偽り、店の料理に使っています。そして、店長のハンドメイドという名目で作っていたアクセサリーも、アルバイトの少女たちに作らせるようになりました」
     最初こそ罪の意識があったものの、ソウルボードはオルフェウスの手におち、今やその行為に良心の呵責は一切みられない。
     悪行に嫌気がさし、辞めたアルバイトは数しれない。
     今でこそ景気の良いクチコミが取りざたされているが、この状況が続けば、やがて悪い噂が広がるのは時間の問題だ。
    「そうなっては、夜美さんの店も、夜美さん自身も。取り返しのつかないことになってしまいます」
     よってこれ以上被害が増す前に、夜美を夢から救いだして欲しいとアベルは告げた。
     
     閉店後、夜美は店に残り、そのままスタッフルームで寝入ってしまう。
     灼滅者たちはその隙に、夜美のソウルボードへ侵入すれば良い。
    「夢の中で、夜美さんは延々と神に懺悔し、罪を告白し続けています」
     この懺悔を邪魔すれば、敵が出現する。
     懺悔の邪魔をすれば、夜美自身が『シャドウもどき』となり。
     邪魔をするだけでなく、罪を受け入れるように説得することができれば、夜美とは別に、『シャドウもどき』が現れる。
    「夢の中に現れる『シャドウもどき』は、シャドウハンターと妖の槍に似たサイキックを使用します。夜美さんの説得に失敗すれば、シャドウと同等の力を持った強力な『シャドウもどき』が出現。スズメバチに似た配下4体を呼びだし、計5体の敵と戦うことになってしまいます。説得に成功すれば、弱体化した『シャドウもどき』1体との戦闘になりますが、夜美さんが攻撃を受ければシャドウもどきが強化されてしまうため、注意が必要です」
     そう告げ、アベルは一呼吸置いた。
     
    「説得に成功した場合、夜美さんはいままで犯した罪の意識にさいなまれてしまいます。そのため、事件後になんらかのフォローを行った方が良いかもしれません」
     戦闘時、説得をしなかった場合や説得に失敗した場合は、これまでの罪の意識を失ったままとなる。
     崩壊した信用や、人間関係などの問題は、解決することが難しくなるだろう。
     もっとも人と人との繋がりは、他人が下手に手をだすと悪化することもある。あまり、深入りしない方が良いのかもしれない。
    「いずれにせよ、このままオルフェウスの策略を見逃すわけにはいきません。ご対応、よろしくお願いします」
     そう告げ、アベルは灼滅者たちに向かい、静かに頭をさげた。


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    射干玉・夜空(高校生シャドウハンター・d06211)
    阿剛・桜花(性別を超えたハンマーガール・d07132)
    関島・峻(ヴリヒスモス・d08229)
    穗積・稲葉(八重梔の月兎・d14271)
    アウグスティア・エレオノーラ(安寧望む氷の意志・d22264)
    雨音・比々木(梅濡れし雨雫滴りて・d25163)
    輪舞・未兎(絢爛玉兎・d28416)

    ■リプレイ

    ●六角形の悪夢
     蜂須賀・夜美(はちすか・よみ)のソウルボードに至った灼滅者たちは、闇のなかに浮かぶ階段。その途上に佇んでいた。
     上下に伸びた階段の先は闇にしずみ、どこへ続くとも知れない。
    「こちらの先から、光が見えますわ」
     阿剛・桜花(性別を超えたハンマーガール・d07132)がそう告げ、下へ向かう階段を示す。
     見ればたしかに、遠く、金色の光が瞬いている。
     仲間たちは頷きあい、静かに階段を下りはじめた。
    「嘘をつくことは悪いことだけど、お金儲けそのものは悪いことじゃないと思うんだよね」
     永遠とも思える階段を下りながら、射干玉・夜空(高校生シャドウハンター・d06211)はそう零す。
     世の中はお金が全てではない。
     けれどお金があれば、色々なことができるのは事実だ。
    「とはいえ、『悪銭身につかず』という言葉もあります。今のやり方を続けていては、いずれ身を滅ぼしてしまいます」
     アウグスティア・エレオノーラ(安寧望む氷の意志・d22264)の言葉に、加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)も続ける。
    「ここで懺悔し続けてるってことは、夜美さんも悪いことだと感じている証拠だ。こんなことは、早く止めさせないとな」
    「ああ。償うべき罪を、捨てさせてはいけない」
     関島・峻(ヴリヒスモス・d08229)も頷き、段々と近づきはじめた金色の光を見やる。
    「罪の意識を奪うにしても、『成功』がなくては、だね」
     「ねえ、御師さん」とつぶやき、先頭を歩いていた雨音・比々木(梅濡れし雨雫滴りて・d25163)が足を止めた。
     視線の先には、見あげるほど大きな琥珀石が据えられている。
     石のなかには、漆黒のドレスをまとった夜美が膝を抱え、身を縮めるように浮かんでいる。
    「絶対に、夜美ちゃんを助けるんだよ!」
     輪舞・未兎(絢爛玉兎・d28416)は残る階段を駆けおり、石へと駆け寄った。

    ●琥珀の揺籠
    『ああ、また。また私は、なんてことを……!』
     灼滅者たちの頭に響く、悲痛な声。
     石のなかで、夜美は己の罪をふかく悔いていた。
     ――食品の偽装。作り手を偽った商品の販売。アルバイトへの叱責と、過重労働。
     告白とともに、琥珀石のなかをいくつもの泡が浮かんでは消えていく。
     泡は夜美の悪行を映し、その映像を繰りかえす。
     まるで何度も、何度も。犯した罪を思いださせるかのように。
    『アナタノ罪ヲ 黄金ノ夢ニ 溶カシマショウ。琥珀ヘト 沈メマショウ』
     ふいに蜂の羽音とともに、男とも女ともつかない『神』の声が響いた。
    「見て! 夜美さんの手足が!」
     穗積・稲葉(八重梔の月兎・d14271)の声に目を凝らせば、夜美の手や足が、少しづつ透きとおっていく。
    「君が懺悔すべきは、こんな得体のしれない神様じゃない!」
     夜空は石に触れ、夜美に届くようにと声を張りあげる。
    「綺麗事でやっていけないというのは、わかる。……だけど、貴方がしたかったのは、こんなことなのか?」
     蝶胡蘭は夜美が膝に埋めた顔をあげ、仲間たちの声に耳を傾けてくれるようにと願い、呼びかけた。
     続く峻も、羽音に負けぬよう問いかける。
    「偽装をはじめたのは、利益をあげ、店を続けるためなのだろう?」
    『そうよ、お店のため……! だから、仕方なかったの!』
     夜美はさらに強く膝を抱え、その眼を固くつむる。
     響く羽音が、大きくなる。
    「事情はお察しいたしますが、ただ悔いるだけでは神はお赦しになられませんよ? まずはご自身の行いを、認めなければなりません」
     ロザリオを手に、司祭を思わせる姿をしたアウグスティアの言葉に、
    「あなたは『偽装』に頼るまえに、できる努力をすべてしてきたのかな?」
     己の罪と向き合うようにと、未兎が続ける。
    「真心をこめて作った品物で、お客さんを喜ばせたかったのではありませんの? バイトさんに無理やり作らせた品物で、お客さんは本当に喜ぶのかしら?」
     自覚を促すよう問いかける桜花の言葉に、返事はない。
    「よくお考えなさい。貴女が今売っているのは、『商品』ではありません。――『信用』。これまでに築いた『信用』を、切り売りしているだけ」
    『ハチスカ・ヨミ。告白ヲ 続ケナサイ』
     比々木の言葉をさえぎるように、ふたたび『神』の声が響く。
    『話します! だからお願い、邪魔をしないで……!』
     泣き叫ぶ夜美の手が、脚が。次々と透きとおり、石と同化していく。
     灼滅者たちの声を阻むように、羽音が、いちだんと大きくなる。
     夜美は透きとおった手で耳をふさごうとし、
     ――ドン!
     しびれをきらした夜空が琥珀石を拳で叩き、驚いた夜美が、顔をあげた。
    「そうやって耳をふさいで、赦しだけ得て。また過ちを繰りかえすの? あんな偽装、バイトの子がだれかに喋ったら、あっという間に広まっちゃうよ」
     己の罪から逃げ続けようとする夜美へ向け、夜空は鋭く言葉をはなった。
    『私、私は――』
     赦しを乞えば、楽になれる。
     瞳を閉ざし、耳をふさぎ。
     夢の中で懺悔をすれば、それで良いはずだ。
    「……夜美さん。自分のお店、大事ですよね。オレの死んだ父さんも喫茶店やってて、あの場所で過ごした想い出は、今でも特別なんです」
     ふいに響いた声に、夜美は想わず、動きを止めた。
     声の先を見やれば、稲葉の赤茶の瞳と視線がぶつかる。
    「また来たいなって思ってもらえるような、そんな店にしたかったんじゃないですか? 貴女にとって、あの店は『夢』だったんじゃないですか?」
    「お客さんに美味しいはちみつを味わって欲しい、心をこめた手作りのアクセサリーを使って欲しい。そういう気持ちで貴方は店を始めたはずだ!」
    「思いかえしなさい、かつての労苦を。呼び起こしなさい、始まりの意志を。それらの対価は、本当にその『値札』でよろしいのですか?」
     蝶胡蘭と比々木の、闇色の瞳が夜美を見る。
    「貴女の大切な店を、こんな形で終わらせては駄目だ。自分の罪を認め、向き合ってくれ」
     振りかえった先には、峻の静かな瞳がある。
    『ハチスカ・ヨミ。告白ヲ 続ケナサイ。ソウスレバ、アナタの罪ハ 消エルノデス』
     耳障りな羽音が響く。
     己を琥珀に沈めた『神』が囁く。
     桜花は『神』の声に抗うように、叫んだ。
    「こんなところで懺悔しても、罪は消えませんわ! 罪と向きあい、真心をこめた品物を提供することこそが、罪滅ぼしになるのですわ!」
     その言葉に、ふいに、羽音が遠のいて。
     たちのぼる泡に、懐かしい想い出が次々と浮かんでは、消えていく。
     ――大好きなはちみつ料理で、だれかを幸せにできたらいいな。
     ――自分の作っているものが、こんなに喜んでもらえるなんて知らなかった!
     ――小さくてもいい。足を運んでくれたひとが、ほっと、安心できるような。そんなお店にしたいの。
     少年少女たちの言葉を受け、夜美はもう、すっかり想いだしていた。
    『大切だから、守りたかった。どうしても、失いたくなかった』
     こぼれた涙が落ち、透きとおった指先に色をとりもどしていく。
    『……でも、もう。遅いかもしれない』
     嘆く夜美へ向け、アウグスティアは藍の双眸を向ける。
    「行いを改め初心に戻られるのであれば、神は必ずや貴女をお赦しになられます」
    「オレが父さんの店を大切な場所だって想ってるように。貴女のお店のことも、大切に想ってくれてる人は、絶対に居ます」
     稲葉は強い意志をこめ、石越しに手を伸べる。
    「もう一度、やり直しましょう」
     夜美は頷き。
     力強く、応えた。
    『今度こそ。もう二度と、間違えない!』

    ●神性崩壊
     琥珀石越しに、稲葉と夜美の手が重なる。
     その瞬間、これまで夜美を閉じこめていた石が金色の燐光となり、一斉に天へと昇っていった。
     残された闇から現れたのは、スズメバチに似た姿の等身大のシャドウもどきだ。
     現れたのは、1体のみ。
     その背にあるはずの翅は、溶けたかのように、ボロボロに朽ちている。
    『ヨミ。オマエハ永遠ニ 己ノ罪カラ 逃レラレナイ』
     四本の脚で立ち、残る二本の脚で、槍のごとき鋭い針を構える。
     脚を振りかざし、夜美へと攻撃を定めるも、
    「下がって! オレに貴女を護らせてください!」
     WOKシールドを手に、稲葉が攻撃を受け止める。
     盾が割れるかと思う程の衝撃に手腕が痺れるも、比々木がすぐに光輪を分裂させ、稲葉の傷を癒すと同時に、守りを強化する。
    「夜美ちゃん、こっちへ!」
     未兎はその隙に夜美の手を引き、後方へと退避。
    「彼女はボクたちの声に応えた。つまりもう、君は必要ないってことさ『神様』!」
    「お前の相手は、私たちだ!」
     構えたバスターライフルから魔法光線をはなち、夜空が牽制。
     『神』が受け身をとった隙を狙い、蝶胡蘭が捻りを加えた槍で、昆虫そのものの胴体を刺し貫く。
    『贖罪セヨ』
     『神』の声とともに、中空に飴色のつぶてが出現する。
     具現化した弾丸が夜美に迫るよりも速く、峻が動いた。
     エアシューズで地を蹴り、攻撃線上へと身をひるがえす。
     ――彼女を救うために、此処に来たんだ。
    「傷ひとつ、付けさせない……!」
     叫ぶ峻の腕と脚を弾丸が貫き、たまらず膝をつく。
     少年の傷口から流れ落ちる鮮血に気づき、夜美は悲鳴をあげた。
    「あの子、死んでしまうわ!」
    「ダメだよ!」
     駆け寄ろうとした夜美の腕を未兎が再び掴み、引き留める。
     契約の指輪を掲げ見せると、峻の傷は見る間にふさがっていった。
    「ご安心なさい。これは夢。ただの、悪い夢なのですから」
     アウグスティアが告げ、聖剣を手に、駆ける。
     白光をはなつ刃が『神』を斬り裂き、一本の脚を斬り落とした。
    「横槍へのアドリブが之とは。ひとつの芝居には拘らないようでなにより」
     比々木が告げ、黒塗りのステッキを手にうやうやしく身をかがめれば、杖は一瞬にして暗闇の刃を持った鎌へと変じる。
     比々木の足元から伸びた影業がシャドウもどきを戒め、
    「ニセモノの『神様』のようですし、遠慮なくブっ飛ばしますわよ!」
     禍々しいオーラに身を包んだ桜花がWOKシールドを振りあげ、渾身の力で殴り掛かった。
     怒りに標的を変えた『神』を見やり、稲葉がさらに、WOKシールドを振りかぶる。
     夜美を。己を。
     そして仲間たちを鼓舞するように、声を張りあげる。
    「大丈夫。信じて……!」
     ――闇は、うち払える。必ず。
     重い手ごたえとともに、殴りつけた『神』の頭部が陥没する。
     破れた翅を怒りに震わせ、跳躍した『神』の槍が稲葉を狙う。
    「させませんわよ!!」
     すかさず飛びだした桜花が、手にした盾で攻撃を受け止める。
     受け流しきれず穂先が脇腹をかすめるも、
    「桜花ちゃん、回復するよ~!」
     未兎が癒しのオーラをはなち、すぐに傷をふさいだ。
     握りしめた左手に雷を宿し、蝶胡蘭は攻撃直後の『神』の真横から、
    「こいつも、喰らっときな!」
     節くれだった腹を抉るように、拳を振りあげた。
     鮮烈な雷が弾け、ボロボロの翅が硝子片のように粉々に砕けていく。
     殴り飛ばされた『神』めがけ、峻は『Blood-Red』を閃かせる。
    「必ず、護る!!」
     決意をこめ、一閃。
     死角からの正確な斬撃が、さらに2本の脚を断った。
     間をおかず迫ったアウグスティアは即座にマテリアルロッドに持ち替え、
    「逃がしません」
     司祭服をひるがえし、『神』を殴りつける。
     ――聖職服を身にまとい、『神』と呼ばれた存在を滅す。
     皮肉なシチュエーションに、『氷の意志』は思わず口の端をもたげた。
     魔力によって、敵の身体が次々に破裂していき。
     追撃による爆発が続くと、残っていた脚がもげ、ついに体勢を崩した。
     両の手指をきつく握りしめ、桜花が吠える。
    「あなたの悪行は、ここまでですわ!」
     鍛えぬかれた超硬度の拳が『神』を捉え、守りごと撃ちぬく。
     ――どす黒い体液を流し、脚のほとんどを失いながら、なおも灼滅者たちを狙おうとする『神』。
    「その鈍(なまく)らで、なにを貫かんとするのですかな?」
     槍を支えに反撃もままならない敵の姿を見やり、比々木は芝居がかった様子で肩をすくめた。
     そして、
    「そは血河漂処の蟲。なれば、貴女の罪を戴きましょう……!」
     手にした鎌で、『神』の身を大きく薙ぎはらう。
    「エネルギー、フルチャージ」
     夜空はバスターライフルを構え、動きの鈍くなったシャドウもどきへ照準を合わせる。
     『神』がボロボロの身体を引きずり、仲間たちへ槍を投げつけるより早く、
    「――シュゥゥゥゥゥゥトォッ!!!」
     一直線に伸びた魔法光線が、『神』の眉間を貫いた。
    「よぉし!」
     バスターライフルの構えを解き、夜空がガッツポーズをとった瞬間。
     シャドウもどきは地に崩れ落ち。
     一瞬で黒煙と化し、消滅した。

    ●Honeypot Maniacs
     シャドウもどきを倒した後。
     灼滅者たちは夜美を前に、声をかけていた。
    「客への罪。アルバイトへの罪。様々な懺悔があるでしょう。しかし真に懺悔すべきなのは、神ではなく過去の貴女自身」
     比々木の言葉に、蝶胡蘭も続ける。
    「とりあえず、叱ったバイトの娘と一緒に、アクセサリーを作るところから始めたら良いんじゃないか?」
    「楽しみながら協力して作った方が良い物ができますし、できの良い品物なら買ってもらえると思いますわ♪」
     桜花も頷き、名案とばかりに微笑む。
    「それに、日本産でないはちみつでも美味しいって評判なら料理の腕前がいいって事なんだし。素直に客に言えばいいんじゃない?」
     夜空がさらりと告げれば、夜美も頷いた。
    「そう、よね。……嘘をついたままじゃ、苦しくなるばかりだものね」
    「全部1人で背負いこまないで、夜美さん。夜美さんのお店、オレ、遊びに行きますから!」
     夜美の手を取り、稲葉が告げれば、
    「初心を忘れず、貴女が胸を張って誇れる店であって欲しい」
     いつか店を訪問するのが楽しみだと、峻も微笑む。
     想う気持ちが強ければ強いほど、罪を犯す時、ひとは同じ強さで自分を責めるのかもしれない。
     そして、その弱みにつけこんでいたシャドウは、もう居ない。
    「神はいつでも見ておられます。貴女の行く道に、幸多からん事を――」
     アウグスティアが祈りを唱え、夜美の背を押しだす。
     後ろ髪を引かれる想いで。
     けれど一歩一歩、黄金の光が降りそそぐ階段を昇っていく。
     ふいに、夜美が足を止め。
     『神』にあらがい、身をていして戦ってくれた少年少女たちを、振りかえる。
    「……あなたたちこそ。私にとって、本当の『神様』なんだわ」
    「私たち? 私たちは――」
     未兎が驚いたように声をあげ、仲間たちと目線を交わす。
    「通りすがりの、ただの『ヒーロー』だよ!!」

     目が覚めれば、そこは、いつもの店の中。
     テーブルの上には夢で視たロザリオが置かれ、朝陽をうけ、きらきらと輝いている。
     まぶたの裏に残る、少年少女たちの笑顔に感謝し。
    「……私、頑張るね」
     夜美はそっと、涙を流した。
     
     

    作者:西東西 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年7月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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