血塗られた百合の手に

    ●とある廃墟で
    「……ぐ……ばっ……」
     わずかな息と共に少女は血を吐き出し、そして動かなくなった。
     天井から腕を吊られた少女は苦悶の表情で事切れているが、生命あった頃はなかなか美しかったと思われる。
    「あら、もう死んでしまったの? 人間って、ホントすぐに死んでしまうのだもの、つまらないわ」
     冷たくなっていく少女の前には、これまた非常に美しい20代とおぼしき女性が乗馬鞭を手に立っている。月の銀色に波打つ髪に、すみれ色の瞳で、西洋人と思われるくっきりとした顔立ちである。
    「苦しむ表情が可愛らしかったから、もっと楽しませて欲しかったのに……まあいいわ」
     西洋人女性は白い頬に散った少女の血を、異様に長い舌でぺろりと舐めて。
    「また獲物を狩ってくればいいだけの話よ」
     ふと、女性の手が上がり、自らの首に伸びた。触れたのは、つやのある漆黒の乗馬服にはまるで似合わない、無骨で異様なデザインの首輪。
    「……久しぶりの外界ですもの、少しくらい楽しんでも他の者に遅れをとったりはしないはず」
     自分に言い聞かせるように呟くと、女性は首輪から手を離し、乗馬鞭をピシリと鳴らし。
    「­さあ、狩りの時間よ」
     
    ●武蔵坂学園
    「ジュースにすると美味しいというトマトを大量に頂いたので、ありがたく絞っていましたら……」
     西園寺・アベル(高校生エクスブレイン・dn0191)は語り始めながら、集った灼滅者たちに赤い液体を満たしたグラスを勧めた。
    「ヴァンパイアの事件を予知してしまいまして……あ、どうぞお召し上がりください。ブラディ・メアリーのノンアルコール版、バージン・メアリーというカクテルです」
     トマトの赤が美しいが、ヴァンパイア事件を語りながらというのはどうなの……でも、断るのも悪いし……。
     灼滅者たちの逡巡に構わず、アベルは事件について語り出す
    「皆さんご存じのように、爵位級ヴァンパイアに使役される奴隷ヴァンパイアが、ロシアンタイガーを捜索しはじめました」
     首尾良くロシアンタイガーを発見すれば、奴隷から解放されるらしいのだが、彼らにとっては久々の娑婆である。彼らはまず、自らの殺戮や血への衝動を満たそうと早速あちこちで残虐な事件を起こし始めた。
     ロシアンタイガーという名前を口にしたアベルは、自らが深く関わった先の戦争を思い出したのか一瞬遠い目をしたが、すぐに気を取り直し、
    「奴隷たちは欲求がある程度満たされれば、真面目に捜索を始めるとは思うのですが、そんなのを待ってはいられません。事件を予知できた今のうちに、ぜひ阻止しましょう」
     灼滅者たちは、あまり減っていないグラスを手に頷いた。
    「私が予知したのは、リリー・ノワールと呼ばれる女性ヴァンパイアの蛮行です」
     リリーは綺麗な少女たちを拉致し、アジトとしている廃墟で痛めつけまくり、死に至らしめることで自らの欲求を満たそうとしている。
    「彼女は明日の0時頃、アジトにひとりの少女を連れ込みます」
     アジトは廃ビルの地下である。
    「皆さんは、同じビルの2階以上に隠れていてください。階段を伝って、連れ込まれる気配は感じることができます。被害者はすぐに殺されることはありませんので……被害者の方には悪いですが、連れ込まれて2~3分経ってからアジトに突入してください」
     連れ込んですぐでは、リリーに気づかれてしまう恐れがあるが、少し経って、少女を痛めつける準備に没頭しだした頃なら、気づかれる確率はぐんと減る。
    「被害者もぜひ救ってやってください……と言いたいところですが」
     アベルは申し訳なさそうに眉を下げ。
    「今回の場合、救出できなくても、やむなし……と思います」
     それだけ強敵だということだ。また、ヴァンパイアはプライドが高いので、逃げるようなことはせず、ギリギリまで死力を尽くして攻撃してくると思われる。
    「ちょっと気が重くなるような依頼なんですが、どうぞよろしくお願いします……あ、おかわりいっぱいあるんで、どうぞ遠慮なく飲んで下さいね?」
     アベルは血のような赤い液体で満たされたガラスポットを取り出し、灼滅者たちは……思わず、うっぷ。となった。


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    色射・緋頼(兵器として育てられた少女・d01617)
    エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)
    小鳥遊・葵(ラズワルド・d05978)
    茂多・静穂(千荊万棘・d17863)
    カノン・アシュメダイ(アメジストの竜胆・d22043)
    三科・遙(霧雨・d24180)
    レオン・ヴァーミリオン(夕闇を征く者・d24267)

    ■リプレイ

    ●血の気配
    「強制されてか、己から望んでかは知らぬが……」
     エウロペア・プロシヨン(舞踏天球儀・d04163)が端正な眉を顰めて囁く。
    「奴隷というのは、どんな気分なのであろうな? 少なくとも、わらわは御免じゃの」
    「隷属も、いっそ開き直れば悪くないと思いますけれどね」
     微かな笑みと共に答えたのは、茂多・静穂(千荊万棘・d17863)。被虐体質の彼女ならではの答えか。
    「ともあれ、人々へ痛みを与えるというのならば、ここで断つまでです」
     レオン・ヴァーミリオン(夕闇を征く者・d24267)がこっくりと頷いて。
    「うん、娑婆に出た途端ストレス解消ってのが、なんとも奴隷根性だよねぇ。その勢いで主に叛逆でもかましてみればいいものを」
     灼滅者たちが潜んでいるのは、廃ビルの2階の階段の踊り場だ。ターゲットへの酷評を囁き合いつつも、皆、感覚器官をフル活用して下階の気配を窺っている。地下へ降りるには、1階の入り口を使うはずで、その際に気配を感じ取ることができるはず。
    「ヴァンプとやり合うのは久しぶりっす。朱雀門の連中じゃなさそうっすが」
     そう言うと、ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)は心底嫌そうに顔を歪めて。
    「リリー・ノワール……フランス名を名乗られてるだけでむかついてくるっすよ。悪趣味っす」
     フランス出身の彼としては、宿敵がフランス語で名乗っていることがまず腹立たしい。
     全くですよね、と同意したのは、カノン・アシュメダイ(アメジストの竜胆・d22043)。
    「弱体化装置を狙うというのはまだ解りますけれども、ただの趣味で人を殺すのは絶対に赦せません」
    「ええ、許せません」
     色射・緋頼(兵器として育てられた少女・d01617)は厳しい表情で。
    「ヴァンパイアは宿敵、絶対に灼滅します。人に害を与えるなら尚更……むっ?」
     ざわり、と階下から微かに風が吹き込んできて、灼滅者たちのバベルの鎖は一斉にそそけ立った。何故ならその風は、妙に生臭く、鉄臭く……血の気配が。
     耳をこらせば、カツ、カツ……と、堅いヒールの音も聞こえる。
    「(きた……)」
     8人は、腕時計や携帯でそっと時間を確かめ、息を潜める。

     じりじりと2分ほどを過ごしてから、灼滅者たちは足音はもちろん、気配も極力殺して、ゆっくりと地下へと降りていった。
     廃ビルとはいえ防犯のためか、かろうじて電気は通じており、階段には煤けた緑色の誘導灯が幾つか点っていた。不気味な緑色の光の中を降りるにつれ、人声と、ガチャガチャとした金属音が聞こえてきた。
    「ふうむむむぅー!」
     明かに少女のモノと思われるくぐもったうめき声と、
    「うふふふ」
     それより幾分年かさと思われる女性の含み笑い。
    「いいわ、その顔……せいぜい長持ちして、楽しませて頂戴ね?」
     舌なめずりしているかのような、浮かれ艶めいた声音。
    「(全く結構なご趣味だな……)」
     常に穏やかな姿勢を崩さない小鳥遊・葵(ラズワルド・d05978)も、わずかながら顔を歪めずにいられない。
     地下階に降りると、短い廊下の右手に両開きの扉があった。無愛想な鉄のドアは、ノブが壊れていて締まりきらず、その隙間から2人の女性の声……一方的にいたぶる者といたぶられる者……が漏れてきている。
    「(ここだ)」
     灼滅者たちはそっと室内を覗く。倉庫か資料室にでも使われていたのか、地下にしては広い部屋。壁際に空っぽのスチール棚が寄せられている以外家具はなく、がらんとしている。その一番奥に、見事な銀髪の女性の後ろ姿と、その向こうに、あまり高くない天井から腕を鎖で吊られた制服姿の少女が見える。中学生くらいか。猿ぐつわをかまされた顔には、既にしとどに涙が流れ落ちている。
     三科・遙(霧雨・d24180)はその光景に、強く唇を噛みしめ。
    「(まるで玩具みたいな扱い……許せないです)」
     幾ら強い相手でも、少女を見捨てるわけにはいかない、という思いを新たにする。
     灼滅者たちは顔を見合わせ、カードに手をかけた。
    「……行くよ!」
     葵が小さく合図を出し、8人は室内に一斉に飛び込んだ。

    ●突入と救助
    「これからお楽しみってところ生憎だけど、ここまでだ」
     冷静に狙いを定めつつ、葵は指輪から魔法弾を撃ち込み、
    「All Pain My Pain!」
     静穂は解除コードを唱えると即シールドを展開し、前衛全員の防御を高める。
     飛び込んだ瞬間にターゲットは素早く振り向いたので、魔法弾は肩をかすめただけだったが、その一瞬に緋頼とギィとエウロペアが距離を詰めていて、
    「殲具解放! さあ、悪趣味な黒百合はとっとと剪定してやるよ!」
     ギィは『剥守割砕』を砕けよとばかりに打ち下ろし、緋頼は槍を捻り込んで穿ち、エウロペアはシールドで殴りつける。
     急襲は成功、しかしターゲットはわずかによろめいただけで倒れることはなく、
    「何者!」
    「うわあっ!」
     大きく振り回した乗馬鞭が、ギィと緋頼を打ち倒した。
     すれすれで飛び退いたエウロペアが、まっすぐに敵を睨み付けた。
    「おぬし、美しい少女をいたぶるのが好きなのだそうじゃな?」

     灼滅班がリリーへの奇襲を行っている間、救出班は回り込むようにして少女の元へとたどり着いていた。
     カノンが、
    「La lumiere du noir de jais」
     解除コードで出現させたクルセイドソードで鎖を切断し、遙とレオンが少女をそっと受け止める。
    「遅れて、ごめん。助けにきた」
     レオンの謝罪に少女はわずかに頷いたが、猿ぐつわを外しても恐怖のあまりか口もきけず、腰も抜けて自力では動けそうにない。3人は視線を交わし、
    「僕が」
     遙が少女をおぶった。カノンはその傍らによりそって少女の背を支え、レオンは盾となるべく殿につき、仲間が敵を引きつけているその脇を、脱兎とばかりに出口に向かう。

    「……ああ、貴方たち、武蔵坂学園とかいうところの灼滅者ね。そうでしょう?」
     リリー・ノワールは、エウロペアの問いには答えず、灼滅班の5人を睨めつけた。
     戦場となった部屋は、非常灯だけではなく蛍光灯も何本か生きている。その白っぽく弱々しい灯りの下、リリーは隙無く鞭を構えながら立つ。奴隷とはいえ、さすがダークネスの貴族であるヴァンパイア、堂々とした姿である。しかし見事な流れるような銀髪にも関わらず、彼女の纏う雰囲気……オーラは、黒と血の赤。それは黒の乗馬服と、奴隷の印の首輪のせいだけではあるまい。
     しかしエウロペアも堂々たる立ち居振る舞いでは負けていない。こちらも敵の問いには答えず、
    「そなたを倒錯した悦びに満たしてやるぞ! 僥倖に咽ぶがよい! 此処に簡単には斃れぬ、闇夜にも眩しき生命の美が咲いておるぞ!」
     長い袖を翻し、自らを示す。
     リリーが短い笑みを漏らす。
    「そうね、半端者とはいえ、貴方たちの方が長く楽しませてくれるでしょう……でも」
     スッと菫色の瞳が細められる。
    「獲物を横取りされるのは嫌いなの!」
     ビシュルッ!
    「あっ!?」
     傷ついた2人を葵が回復している最中だったこともあり、灼滅班の間を縫うように乗馬鞭が長く伸びた。蛇のように空中を伸びる鞭が狙うのは、扉近くに到っていた救出班、そして彼らに守られる獲物の少女。
    「……くっ!」
     殿のレオンが斬艦刀で受けようとしたが、鞭はそれを生き物のように躱すと彼の足に巻き付いた。
    「レオンさん!」
    「俺はいいから、行けッ!」
     レオンは鞭に引き倒され、脚を切り裂かれつつも脱出を促す。カノンと遙は後ろ髪を引かれながらも、最後のわずかな距離を走り抜け、部屋から飛びだした。廊下に出るなりカノンが力任せに扉をバン! と閉める。ノブは壊れているが無いよりマシであろう。
    「この人は僕に任せて、レオンさんの回復を早く!」
     遙が階段の方に走りながら叫ぶと、
    「はい、よろしくお願いします!」
     深緋色の瞳をきらめかせたカノンは、今閉めたばかりの扉を少しだけ開き、するりと戦場へと戻っていった。
     遙は階段を駆け上り少女を死角になる踊り場に下ろすと、手首の鎖を外してやりながら、
    「僕らが戻ってくるまで、絶対にここから動かないでください」
     と言い聞かせた。しかし少女は怯えて首を振る。確かに、この状況下ひとりで待っているのは怖いだろう。遙としては一刻も早く仲間の元に戻りたいのだが。

    ●挑発と戦闘
     更に踏み込もうとするリリーの前に、静穂と、回復なった緋頼とギィが立ちふさがる。更にエウロペアが後方のポジションに戻り、倒れているレオンと扉を背にして鋼糸を構えた。
    「まあいいわ」
     リリーはしゅるりと乗馬鞭を引き寄せ。
    「貴方たちから倒せばいいだけの話よ。なかなか可愛い子揃いだし……楽しませて頂戴ね!」
     振りかぶった……が。
    「続けて同じ手を喰らうかよ! 悪趣味な奴隷め!!」
     ギィが鞭を斬艦刀で絡め取り、緋頼がすかさず魔法の矢を撃ち込んだ。
    「そうですね、楽しみましょうよ『奴隷様』? 私たちの方があの子より長持ちしますよ……おっと『様』はいりませんでしたか! 想起せよ、虐げられし痛み!」」
     静穂は紫のスライムに包まれたシールドにトラウマを宿して殴りつけ、葵はレオンの回復を行おうとしたが、カノンが戻っているのを見て攻撃に転じ、縛霊手『碧』で殴り抑え付ける。
    「わらわの喜びもまた、そなたのような輩を灼き滅ぼすことであるがゆえに!」
     続けて、エウロペアは傷ついた仲間と扉を背にして美声を響かせる。その間に回復なったレオンも、
    「お返しさせてもらうぜ!」
    『黒獅子・風魔砲声』を振りかぶって突っ込んでいくが、先ほど傷つけられた脚にはまだ血がべっとりと。
     それを見てリリーは、
    「その脚で私に届くと思うか!」
     また鞭を伸ばしたが、レオンは脚にケガをしているとは思えない動きでひょいと躱し、敵の足下に滑り込んでざっくりと刃を見舞い、嘲笑う。
    「おいおい、良く見ろよオバサン。こりゃ血じゃないんだぜ」
     血と見えたものは、アベルからもらってきたバージン・メアリーを仕込んだものだった。見た目ほど深手ではなかったのである。レオンはバージン・メアリーの残りを、これ見よがしにごくごくと飲んで見せる。
    「この……」
     リリーの青白い頬がサッと桜色になる。奴隷とはいえプライドの高いヴァンパイア、からかわれたと知り、血を上らせずにはいられない。
    「喰らえ!」
     怒りを漲らせた鞭がまたレオンを狙う……と。
    「私が!」
     静穂が体を入れて代わって鞭を受けた。剥き出しの腕に、赤い殴打の痕と切り傷が浮かんだが、静穂はキッとリリーを睨み付け。
    「私には貴方の痛みは理解はできないかもしれません。しかし貴女も、鬱憤を晴らされる弱者の痛みを理解しない」
    「ふっ、何を生意気な」
    「その想像力の欠如」
     緋頼が薄く笑いながら前に出て、
    「ヴァンパイアとはいえ、所詮奴隷級ですね」
     挑発の言葉と共に槍を突き出す。
    「無礼な!」
     感情的になっているリリーは槍を躱しきれず、肩口から血がしぶいた。
    「ヴァンプの人狩りほどむかつくものはねぇんだよ! 同じ百合でも、ソロモンの悪魔の白百合の方がよっぽどましだ!」
     ギィも負けじと怒りを漲らせながら、薄暗い地下室の天井に一層黒く光を放つ逆十字を出現させ、カノンがすかさず聖剣を振るう。葵は荒ぶる敵に向けて、指輪を構えて冷静に狙いを定めている……が。
    「!」
     リリーの鞭が今度はその葵を狙った。そこに飛び込んだのは、
    「させません!」
    「遙!」
     遙は鞭に打ち倒されたが、
    「す……すみません、遅くなりまして」
     水晶化した左腕の剣で受けたので深手にはならず、すぐに起き上がって仲間たちに謝罪する。少女を宥めるのに少々手間取ったのだった。
     エウロペアが背後から囁く。
    「大丈夫じゃ、もし戻ってくるようなことがあっても、わらわが追い返してしてやろうぞ」
     小声なのは、リリーに被害者少女のことを思い出させず、戦闘に集中させたいからである。そのために挑発を重ねているのだ。
    「これで全員揃ったね」
     葵が縛霊手の指先から遙に回復の光を授けながら微笑む。
    「ここからが、本番だよ」
    「おう、行くぜ!」
    「はい!」
     ギィと静穂が挟み撃ちで斬りかかり、緋頼がその間を埋めるように魔法の矢を放つ。レオンは高速回転する杭を撃ち込み、エウロペアは異形化させた拳で殴り飛ばす。
    「こ……の」
     畳みかける攻撃に、リリーはよろめきつつも鞭を振り回し、それは後衛の2人を打ち据えた。
     が。
    「……たいして痛くないぞよ?」
     エウロペアもカノンも立ったまま。
    「弱って威力が落ちているようです!」
     カノンはすかさず自分とエウロペアに回復を施しながら叫び、
    「行きます!」
     遙がそれを受けて、更に動きを妨げるべく腕の腱に刃を振るい、エウロペアが銀の糸を流星群のように操って縛り上げる。
    「こ、こんなものっ」
     銀糸は力尽くで振り切られたが、動きが鈍くなった瞬間を逃す彼らではない。葵の影の刃が乗馬服を切り裂き、レオンが膝裏に刃を立て、たまらずリリーは倒れ込んだ。
    「お前の罪はその血で償え!」
     レオンがテンション高く言い放った……その時。
    「あっ!?」
     突然リリーの周辺に濃い灰色の霧が湧きだした。
    「まずい、回復だ」
     葵が鋭く気づき、素早く指輪を霧に向ける。
    「させません!」
     遙が果敢に霧の中に飛び込んでいき、仲間たちも続く。ここが勝負処とみて、メディックのカノンも蛇剣を伸ばす。
    「ぐ……こ、こんなところで」
     霧が晴れ、回復を妨げられたリリーは、もう起き上がることもできない。ただ怒りでギラギラした視線を灼滅者たちに向けるのみ。
     クラッシャーの2人が進み出て。
    「選べ。炎で燃え尽きるか、この刃の錆となるか、どちらがいい?」
     ギィは刀を突きつけ、緋頼は。
    「灼滅者としての役割を果たすと致しましょう……成敗!」
     槍と刀が、同時にヴァンパイアの心臓を抉った。
     ギイヤアァァァァァ……!
     恐ろしい悲鳴が響き渡り……美しかったリリー・ノワールの体は焼け焦げたように黒くなり……そして灰となって崩れ散った。

    「ふう」
     静穂がぺたんと床に座り込んだ。
    「疲れましたね……」
     灼滅は成し遂げたとはいえ、激戦でこちらのダメージも少なくない。灼滅者たちは溜息をついて床に座り込んだり、壁に寄りかかったり。
    「でも、あの子を送っていかなきゃだよ」
     葵が疲れた笑みで皆に少女の存在を思い出させた。
     リリーの灰に黙祷していたカノンが顔を上げ、
    「そうでした、せっかく助けたのですものね」
    「どれ、行こうかの」
     よいしょ、とエウロペアが、戦闘中とは打って変わった優しい笑みを浮かべて壁から身を起こし。
    「無事に日常に送り届けてやろうぞ」

    作者:小鳥遊ちどり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年5月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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