●
空が青から茜色のグラデーションに染まり、草木が薄闇に沈みはじめるころ。
青森県最北端の『竜飛崎(たっぴざき)』から海を見おろす場所に、ひとりの女が立っていた。
襟元を崩した真紅のシャツに、漆黒のスーツ。
潮風に髪を乱されるのも構わず、微動だにしない。
「『武神大戦天覧儀』って言うんだっけか? それに勝ちまくればどんどん力が手に入って、業大老の門下生どもも下っ端にできるってことなんだろ?」
六六六人衆『龍王』はそうひとりごち、次にこの場にやってくる者を待つ。
アンブレイカブルが現れるなら、叩きのめせばいい。
灼滅者が現れるなら、闇堕ちをけしかけて遊ぶのもいい。
どちらにせよ、最後に『総取り』できれば上々。
危なくなれば逃げるだけだ。
「これはゲームだ。ゲームで、命を賭けるバカはいねぇ」
「そう、てめぇ以外にはな」と、今にも消えかかっている少女――王・龍へ呼びかけ、『龍王』は嗤う。
――『死』と『力』を天秤に。あなたは、どこまでいけるかしら。
かつてこの場でとどめを受け、灼滅されたアンブレイカブルの言葉が蘇る。
「さぁて、どこまでいけるかね」
ニタリと唇をゆがめ、『龍王』は右眼を通る傷痕を撫でた。
上も下も、右も左もわからない闇の中。
少女は鈍りはじめた頭で、ぼんやりと思考する。
(「敵も味方も、なにもかも支配してしまおう。そうすれば、もうなにも奪われない。もうなにも消えてしまうこともない。もうなにも――」)
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「『武神大戦天覧儀』の任務で闇堕ちし、行方不明となっていた王・龍(d14969)が見つかった」
教室に集まった灼滅者たちを見渡し、一夜崎・一夜(大学生エクスブレイン・dn0023)が説明を開始する。
「場所は『竜飛崎』。……そう、王・龍(わん・ろん)が闇堕ちした場所だ」
現れるのは、『龍王』と名乗る六六六人衆。
『龍王』はさらなる力を手に入れるべく、岬で対戦者を待っている。
「扱うサイキックは『鬼神変』や『黒死斬』に似たもの。そして、『シャウト』。それ以外では、『手裏剣甲』に類似した技を使用してくる」
命中率の高い攻撃で確実に相手の体力を削り、追い詰めることを好む。
また、相手が灼滅者とわかれば、闇堕ちを狙った悪辣な攻撃を仕掛けてくる。
「ただし。『龍王』は決して、灼滅者を見くびっているわけではない。むしろ警戒心が強く、挑発も期待できない分、厄介だ」
野心家であるため力を望んではいるものの、なにごともゲーム感覚で行うため、勝敗に対する執着がない。
用心深い性格のため、大勢で対峙することも難しい。
そして旗色が悪くなれば、即座に撤退を決断するだろう。
対する龍の意識は、すでに薄れ、消えかかっている。
「要因は、ダークネスとの同調だ。詳細は私ではわからなかったが……王と『龍王』の思考が、限りなく近づいてしまっている」
つまりその意識を覆すことができなければ、龍の救出は困難を極める。
そして今回を逃せば、龍は完全に闇堕ちし、救出の機会は永遠に失われてしまう。
「できれば救出したい。だがそれが叶わぬのなら――」
岬に立つのは、もはや王・龍ではない。
六六六人衆『龍王』だ。
一夜は眉根を寄せ、けれど、はっきりとした声で告げた。
「王を灼滅し、闇の支配から解きはなって欲しい」
「そうだ」
去り際。思いだしたことがあると一夜が振りかえる。
一枚の報告書を手にとり、
「アンブレイカブルの灼滅に臨むとき、王は、こう言っていたそうだ」
――武蔵坂の皆さんは強いので、私が闇堕ちしたってパパッとやっつけちゃうでしょうからね!
闇堕ちの覚悟のうえに、己の命を重ねて。
それでも少女は、憂いなどなにひとつないと断じ、堕ちた。
そうして今も、あの岬にひとり、立っている。
「どうか、迎えに行ってやってくれ」
王の飼い猫も、きっと帰りを待っているだろうからと告げ。
一夜は灼滅者たちに頭をさげ、静かに、教室を後にした。
参加者 | |
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宗岡・初美(鎖のサリー・d00222) |
若菱・弾(キープオンムービン・d02792) |
夜空・大破(白き破壊者・d03552) |
月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249) |
ミカ・ルポネン(水平線を目指して・d14951) |
アイン・コルチェット(絆の守護者・d15607) |
狩家・利戈(無領無民の王・d15666) |
レオン・ヴァーミリオン(夕闇を征く者・d24267) |
●
夕刻。
湿り気を帯びた風が吹きつける竜飛崎から、外景を臨む。
眼前には、いちめんの空と海。
天上は、藍。
たなびく雲は、灰。
いましも水平線に消えようという黄金の陽が、海に一条の光を描き。
ゆいいつの人影が、黒く、灼滅者たちの前にたたずんでいる。
「迎えに来たよ、王さん」
「てめぇが六六六人衆……『龍王』か。俺たちとのゲームに、つきあってもらうぜ」
ミカ・ルポネン(水平線を目指して・d14951)と若菱・弾(キープオンムービン・d02792)の呼びかける声に、『龍王』は口笛を吹き、振りかえった。
「この『龍王』を相手に、4人で殺りあおうってのか?」
対峙する少年少女の顔をまじまじと見つめ、口の端を吊りあげる。
六六六人衆の嘲笑に構わず、アイン・コルチェット(絆の守護者・d15607)と狩家・利戈(無領無民の王・d15666)はそろって一歩踏みだし、
「なにも言わなくていい。ただ――」
「王は友達なんでな。『龍王』、テメエには消えてもらうぜ!」
決意をこめ、声をはりあげた。
ダークネスはくつくつと笑うと、灼滅者たちへ向かって歩きだす。
「六六六人衆が、なぜそこまで力に拘る?」
弾が警戒しつつ問いを重ねるが、龍王は答えない。
一歩、一歩。
近づくと同時に後ずさる灼滅者たちを前に、ダークネスは右頬の傷痕を、ゆるりと撫でた。
「バカ女一人のためにわざわざ迎えにくるなんざ、泣ける話じゃねぇか。なぁ? でも、残念だったな」
声と同時に、龍王のシルエットがざわめいた。
漆黒のスーツの一部が細かな鱗に変じ、鋭利な刃の形を成しはじめ。
龍王はすうと息を吸い、その眼を細く、愉しげに歪め、言いはなった。
「『龍』なら、とっくに消えちまったよ」
●
哄笑とともにはなたれた殺気に反応し、スレイヤーカードの封印が一斉に解除される。
4人が武器を手に、龍王と斬り結ぼうとした、その時。
「その体、王・龍さんに返してもらいますよ……!」
鋭く告げる声とともに、身を隠していた夜空・大破(白き破壊者・d03552)が横合いから魔法弾を叩きつける。
「『――地獄の底で自由を謳え、それこそ我らの権利と義務なり!』」
続くレオン・ヴァーミリオン(夕闇を征く者・d24267)が高らかに唱え、
「君の戦友に代わって、迎えにきたよ。王龍さん……!」
大破の弾丸を受け体勢を崩した六六六人衆へ、血色の大袖を持つからくり篭手を叩きこむ。
身を捻り、直撃を避けた龍王は声をあげて笑った。
「ハッハァ、やっぱりな!」
灼滅者4人と対峙したその時から、龍王は不審を感じとっていた。
ゆえに殺気をはなち、灼滅者2人を誘いだしたつもりでいたのだが。
「今だ、初美!」
「月詠くん、しっかり捕まって!」
藍色に染まりゆく空から響いたのは、月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)と宗岡・初美(鎖のサリー・d00222)の声。
仲間たちが注意を引きつけている隙に、2人は海側――龍王の背後上空に回りこみ、機会をうかがっていたのだ。
急降下する箒から飛び降り、初美は千尋を抱え、華麗に着地してみせる。
千尋は着地と同時に糸をはなつと、龍王の身体を幾重にも斬り裂いた。
「騎兵隊の登場……ってね。これで、挟撃完了」
さすがの龍王も灼滅者たちに取り囲まれたことに気づき、忌々しげに舌を打つ。
しかし、囲まれたのなら突破すれば良い。
続けざまに繰りだされる灼滅者たちの攻撃をかいくぐると、間近に居たアインの死角から刃を繰りだし、首筋を狙う。
「壁になれ!」
主の声に応え、攻撃線上に走りこんだのは弾のライドキャリバー『デスセンテンス』。
漆黒の刃を機体で受け止め、身を挺して仲間を守りぬく。
――ダークネスの言うことなど、信じない。
アインは黒みを帯びた赤の杭撃機を構え、決意ととも叫ぶ。
「返してもらう、それだけだ!」
だが杭はかすりこそすれ、敵の肉体をねじきることなく、いたずらに大地を抉った。
相手の動きを警戒しているのは、灼滅者も同じ。
「聞こえてんだろ、王よ? ダチ共にここまで心配させてやがるんだ。ここで意地を見せて戻って来れねえなら――」
弾は回避後の龍王めがけ、縛霊手を振りかぶり。
「てめぇには、本当の『力』なんざ、一生手に入らねえよ!」
渾身の一撃とともに、龍王の横っ面を殴り飛ばす。
網状の霊力に縛りあげられながらも、龍王は声をあげて笑った。
「さあ、次に堕ちるやつは誰だ!」
叫びとともに枷を振りはらい、灼滅者たちへ向け、漆黒の刃の雨を降らせる。
すぐに初美、弾、デスセンテンスが前衛陣をかばい盾になるも、爆発した刃の一撃を受け、地面に叩きつけられた。
「ルミ!」
すぐにミカが霊犬を呼び寄せ、初美や弾、ライドキャリバーへ癒しを施すと、仲間たちの牽制を回避する龍王へ向け、声をあげた。
「王さんは武蔵坂のみんなを信頼して自分を犠牲にしたんだ。『そっち』に行かせるわけにはいかない!」
声は、届かないのか。
本当に、『龍』はもう居ないのか。
確かめるすべは、ダークネスと戦い、勝利するよりほかにない。
それでも利戈は、龍王の内に在る友の存在を疑わなかった。
ただただ、まっすぐに。
言葉と、拳を叩きつけていく。
「お前が自分を取り戻す手伝いなら、いくらだってやってやる! だから、戻ってこい!」
叫びとともに叩きつけたバベルブレイカーは、しかし龍王を捉えることなく地を穿つ。
空撃ちの反動を受け、奥歯を噛みしめた利戈の隙を、六六六人衆は見逃さない。
「独り言なんざ、滑稽だな。灼滅者」
ささやくように告げ、漆黒の刃を、利戈の胸に突きたてた。
「狩家さん!」
レオンと大破が即座にエアシューズで地を蹴り、重力を宿した蹴りで龍王と利戈とを引き離す。
ダークネスは利戈を守るように立つ2人から距離を置き、再び笑った。
「ハッハハハハハ! 自滅女のために、必死だな!」
「王さんの選択を、戦うことから逃げなかったその覚悟を、笑ってんじゃねぇよ!」
「この戦いを『ゲーム』と捉えている時点で、侮っているのですよ、龍王」
「そうとも。君と違って、『ゲーム』ではないのでね!」
初美はアインへ向けられた刃をその身に受けつつも、たて続けに石化の呪いをはなつ。
灼滅者たちの傷は少しづつ、確実に龍王に傷を与えていた。
だがそのどれもが致命傷には届かず、架した枷は蓄積するまえに打ち払われてしまう。
灼滅者たちの言葉が『龍』に届けば、ダークネスの動きを鈍らせることも容易だったかもしれない。
だがいくら声をかけようと、それらしい感触はつかめないままだ。
龍王による巨椀の一撃を叩きこまれ、仲間たちをかばい受けたライドキャリバーが霧散し、消えていく。
「さて、もう一度聞くが……。次は、誰が堕ちる?」
●
太陽はすでに海岸線に沈み、世界は戦況を映すかのように、しだいに暗くなっていく。
攻防は続いたが、状況は変わらない。
一方、時間がたてばたつほど、灼滅者たち――特に壁役である弾や初美の疲労が蓄積していった。
これ以上の戦力が削がれれば、ダークネスの逃亡をも許しかねない。
「どうした灼滅者、この程度か!」
挑発を続ける六六六人衆を前に、灼滅者たちの脳裏に『灼滅』の二文字がよぎった。
『龍』の意識が戻らず、灼滅者たちが勝利すれば、それは彼らの意思に関わらず達成される。
(「どちらに転んでも、六六六人衆が一匹減るだけよ。だがな、『撤退』だけはさせねえ。ここで必ず消してやるぜ!」)
弾は仲間たちをかばい、満身創痍になりながらも、果敢にダークネスと対峙する。
縛霊手『金剛腕』を振りかぶり攻撃するように見せかけると、
「吼えろ、黒獅子!」
足並みをそろえたレオンが死角から飛びだし、龍王の脚めがけて『無明宗國【黒獅子・風魔砲声】』を振りおろした。
ズンと重い地響きとともに剛刀が地に埋まるも、
「チッ。ダメか!」
すぐに反撃にかかった龍王の一撃を、構えた縛霊手で受け耐えた。
弾の横あいからマテリアルロッドで殴りかかり、千尋も、覚悟を決める。
「灼滅か、帰還か……。ここが、分水嶺だ!」
流しこんだ魔力の爆発に、龍王がたまらずたたらを踏んだ。
ミカとアイン、利戈はその隙を逃さず、敵の懐に飛びこんだ。
――クラスの仲間と行った、花見のこと。
――アインが世話を頼んだ、猫のこと。
3人はクラスメイトとして、誰よりも『龍』の近くに立ち、呼びかけ続けてきた。
仲間たちが次々と決意を固めていくのを、肌身で感じとってもいた。
だからこそ『絆』を信じ、声を掛け続けた。
「王さんは過去に、なにか大切なものを失ったのかもしれない。けど、みんなを信頼してたから。だからあの時、迷わず堕ちたんだよね?」
「やっと、心を許せる友ができたんだ! 諦めて、たまるか!」
「同調なんかしてんじゃねえ! 立ち向かって、お前自身の支配を取り戻せ!!」
影業の戒めに続き、叩きつけた赤黒の杭撃機が龍王の肩を捉え、貫く。体勢を崩したダークネスの身体を、雷に宿した拳が、抉るように捉えた。
三連撃を受け、殴り飛ばされた龍王は愕然として肩の傷を押さえる。
一瞬、思ったように回避行動をとることができなかったのだ。
「くそっ。遊びすぎたか……!?」
ミカは霊犬に仲間たちを癒すよう指示しながらも、再び立ちあがった龍王を見据える。
(「疲労の蓄積? いや――」)
もしも、まだ間に合うのなら。
そう願い、言葉を紡ぐ。
「王さんには待ってる人も、猫もいる。だから、帰っておいでよ……!」
意思をこめたミカの声に気づき、仲間たちも、次々と龍王の変化に気づいた。
「ナタリアくんから伝言を預かっているよ。『龍さんが戻ってこそ、あの任務は成功なのです。お帰りをお待ちしています』だ、そうだ!」
初美が告げたのは、龍が闇堕ちした任務の同行者の名だ。
ナタリアだけではない。『龍王』発見の報を聞いた際、別の任務に向かっていた小次郎もまた、その手を伸べられずにいたことを悔いていた。
――本当は、あの時に連れ帰りたかった。
幾多の想いを継ぎ、初美は白く輝く聖剣で龍王を一閃。
「武蔵坂の皆さんの強さは、内なるダークネスに全てを委ねる事を良しとしない『心』にあるはず。……それは、貴方も同じでしょう?」
『壊すことしか知らない』。
そう名付けられた己が、誰かを助けるための戦いに身を投じるなど笑い話かもしれない。
(「ですが失いたくないものができた今、私にも、彼女を失いたくないと思う人の気持ちが、わかるつもりです」)
――連れ戻しましょう、絶対に。
そう願い、大破も制約の弾丸を叩きこんだ。
早々に退路をひらきこの場を退こうと考えていた龍王は、灼滅者の言葉とともに重くなる身体に危機感を募らせる。
灼滅者たちの説得は、最初から行われていた。
今になって消えかけていた『龍』が起きるなど、考えられない。
(「ならば、なぜ!?」)
混乱するダークネスには、いくら考えてもわかりはしない。
だが『きっかけの言葉』は、確かに、龍に届いていた。
だからこそ身の重みとなって、龍王の動きを阻害しはじめたのだ。
敵の撤退を許すくらいなら『灼滅』をと望んでいた弾も、口の端をもたげ、笑う。
「……フン。いいぜ、最後までつきあってやる!」
傷を増やしながらも、仲間たちへ向けられた刃の雨を初美とともに振りはらい、
「ボクらの思いを砕くには、足りないね!」
千尋も攻撃が届く前に跳躍し、着地とともに暗器『見えざる神の刃』でダークネスの身を戒める。
レオンは説得の言葉とともに、流星の煌めきをまとった痛烈な蹴りを見舞った。
「王さん。見えてるかい? 君の帰りを望んでる人がいるんだ。君の帰りを待ちきれなくて、迎えにきた人だっているんだ……!」
利戈は己の想いを乗せるべく、拳を固める。
「王! 今、お前からなにもかもを奪おうとしてる敵は誰だ! その『龍王』とか言うダークネスじゃねえか!」
鍛えぬかれた超硬度の拳が、ダークネスを守りごと撃ち抜いて。
「くそ、バカ女め! 邪魔をするな!」
逃走は絶望的とわかっても、龍王は最後の力を振り絞り、灼滅者たちへ攻撃を止めはしない。
己の回復を後手にまわしていた初美が、ついに膝をついた。
「君は本当に『支配すれば終わる』と思っているのかい? そんなもののために、命をかけてきたわけではないだろう!」
それでも痛む傷をおし、希望を繋ぐべく声をかけ続ける。
(「ねえ、王さん。王さんには、力に頼らなくても、たくさん手に入れたものがあるんだ。――帰ってこないなんて、許さないよ?」)
ミカは仲間たちが最後まで力を尽くすことができるよう、聖剣に刻まれた『祝福の言葉』を唱える。
仲間たちの想いがひとつになり、大破の呪い、千尋の糸が、より強固に龍王を戒める。
レオンは篭手を握りしめ。
――手をのばせ。
――差しのべられた、その手を掴め!
祈りとともに、地獄を砕きし宿命(さだめ)の一撃を叩きつけ。
「全部、奪い取って来い!」
声を受け、地を蹴ったのはアインだ。
敵の間合いに飛びこみ、バベルの鎖が薄くなる『死の中心点』を見据える。
杭撃機が唸り。
踏みこんだ大地がえぐれ。
「馬鹿者が。帰ってこなければ、意味がないだろうがっ!!」
万感の想いをこめ、怒涛の一撃を撃ちこんだ。
龍王の赤いシャツに、一本の杭が突き刺さる。
「ハハハハ! これが、愚か者の末路か!」
龍王は左を向いたままの左眼を押さえ、ひとしきり笑った後、どこまでも続く闇へ、まっさかさまに堕ちていった。
●
目を覚まし、真っ先に目に入ったのは瞬く星々だった。
ついで、覗きこむ8つの顔。
「おかえり、王さん」
霊犬とともに覗きこむミカの声に、龍は瞬きをして、応える。
「っしゃー! よく戻ってきた、王! 胴上げだ!」
感激のあまり龍を抱えあげようとする利戈を7人でなだめると、誰ともなしに笑いあう。
「すいません。お手数をおかけしました」
「勘違いするな。俺のためにやった、それだけだ」
そう告げるアインの表情は、穏やかで。
「すべてを支配して、どこかへ行きたかったんですか? 力で押さえつけても、いつか歪ができ、失います」
大破の言葉に、龍は横になったまま頷き、眼を閉ざす。
――奪われることの辛さを知りながら、奪う側になっている。
仲間たちの説得があってこそ、龍は己の愚かさに気づき、闇の淵から浮かびあがることができたのだ。
「……状況終了。帰ろう、学園へ」
千尋の声に、仲間たちはそろって、龍へ手を伸べた。
仲間たちに支えられ、己の足で立つ。
頭上には星々が瞬き、潮風が頬の傷痕を撫で、過ぎていく。
(「……どこへも、行けませんでしたね」)
胸中で、つぶやき。
龍は『こちら』に戻れたことの意味を、考えはじめていた。
作者:西東西 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年6月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 13/感動した 6/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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