夜色の天幕を臨む拓けた丘の上。
ぽつり街を見下ろす、ひとりぼっちの廃教会。
見棄てられ長いのか、そこに生の音は聴こえない。
聖堂に足を踏み入れれば、一際目を引くひびだらけの硝子十字。
祀られた其れに、既に神が宿っている様子は無い。
しかし、不思議だ。
割れたステンドグラスから吹き込んでくる冷たい風が、十字架の傷を撫でるたび。
複雑な反響が残響を成し、耳に飛び込むのは、まるで。
「はッ……女神の慟哭、とでも? ズイブンとゴキゲンかますじゃねェですか」
――傷鳴りの十字塔。
誰かがこの場所を、そう名付けた。
生憎と信仰心なんてモノは持ち合わせて無い。
カミサマなんて、そんな残酷なモノが存在するとすれば。
今の世は、こんなに慈悲深くは成っていないでしょうよ。
ああ、それでも、折角御誂え向きの場所が有るんです。
随分とボロボロですが、無駄に小綺麗な有様よりはこっちの方が良い。
――で。貴方は此処で、何を祈るんで?
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