寂しい辻を北に、急な坂を登れば甘い香りが漂いくらりと眩暈。
登り切って見えるのは、森に埋もれ立つ日本家屋。
小さくない屋敷の門には『香具屋【虚乃杜】』と看板が掲げてある。
門を潜り店舗へ足を踏み入れると、少年が本を片手に座ったまま声を掛けてくる。
「お客様かね、それとも入居希望者かね?」
店主の視線を辿ると、木の板。
彫り込まれているのは「部屋貸します」の文字。
店主曰く、一人では広い屋敷。きちんと錠の閉まる部屋。
そのままでは勿体無いと部屋を貸し出すことにしたらしい。
鍵の掛かる部屋の数は店主の部屋を合わせて10部屋。
「入居するなら好きな部屋の名前を云うと良い」
「それとこれ、規約紙。よく読んどくれ」
***
来る者拒まず、去る者追わず。
入居希望者は規約紙を御覧?
***
部屋名
各々の名に依る家紋が部屋札代わり
藤蝶:八篠
菊蝶:織部
桜蝶:泉名
菫蝶:浅槻
楓蝶:葛城
柏蝶:才門
橘蝶:杜羽子
牡丹蝶:泉谷
桔梗蝶:芦屋
蜘蛛:篝屋