門には、古ぼけた『邸房花』という表札が掲げられている。
年季の入った公家屋敷ながら、手入れの行き届いているようだ。
玄関の甕では悠々と金魚が泳ぐ。
季節ごとに彩りを変えていく美しい庭では、一匹の自由な目白が舞う。
踏み入れればつるし飾りや飾り棚で飾られた数々の部屋が続いていく。
老婆が一人、会釈して、時間になると帰っていく。
この屋敷には、双子が住んでいる。
炎に愛されなかった少年と、炎に愛された少女たちが、住んでいる。
入り口に立ちつくせば、何時か少年が気付くだろう。
「おや。何か御用かな。
俺か、それともあいつにか。」
遠く、小鳥の歌と、「にいさま」と呼ぶ少女の明るい囀りが響いく。
ふたりぼっちの屋敷へ、ようこそ。