ある時、鍵を託された。
この場所を「生かして」欲しいと。
老人は何も持たぬ青年に此処を貸し与えた。
――無期限、の名目で
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空色の名前に反した廃ビル。
元々は貸画廊だった広い空間。
沢山のビルの中に紛れ込み、辺りは細く入り組んだ迷路。
其れ故か場所を知るのは極僅かな人のみ。
古びたイーゼル、真っ白なキャンバス。
その他は描きかけの絵。
言うなれば秘密基地。
誰かの暮らすアトリエ。
壁には空から始まり、沢山の世界が創られて。
扉は、お世辞にも趣味がイイとはいえないもの。
気味の悪いステンドグラス。
持ち主は気に入ってるらしいけれど。
屋上はフェンスで仕切られ、本物の空も見れるとか。
自由気ままな美術館。
小さな世界に決まりごとも何もない。
電気も水道も何故か通っている。
若干電波が切れ切れなのはご愛嬌。
目を引くのはゼンマイ式の大きな古時計。
長い時を刻んだ時計は今も其処で針音を鳴らす。
++++
今は約束のみ。
2012/09/14