郊外にある、それなりの広さを誇る緑地公園。
近隣住民には馴染みの深いこの緑地公園の片隅に、しかし誰一人としてその存在を知る事のない、謎の廃屋が佇んでいるという。
――否。
「存在を知らない」のではない。
「知らない振り」をしているだけなのだ。
知ってしまえば、廃屋の闇に引きずり込まれ、二度と戻ってこれなくなってしまうから。
その廃屋には昔、大層変わり者だったらしい一人の男が住んでいたという。
物心ついた頃には既に天涯孤独だったその男は、一人の淫魔を飼っていたという。
しかしその男も数年前に急死し、彼が住居としていた家屋は、手入れされる事なく朽ち果てていくばかりだった。
だが、只一人。
「主人」に置き去りにされた淫魔だけが。
未だ其処に。
留まっているのだ。
――今宵もまた。
孤独に咽ぶ淫魔が、心の虚を埋める為。悪戯に両の手を伸ばして謳う。
その、か細い腕に絡み捕られたら最期。
『サア。遊ビマショウ……?』