イフリートの爪痕残る、焼け爛れた廃屋敷。
誰も寄せ付けぬ荒廃した空気の中、場違いに明るい音楽が流れている。
曲調に合わせて器用に口笛を吹きながら、一人の少女が一輪騎獣の整備に精を出していた。
今時珍しいレコード盤。モーツァルトを初めとした、有名な作曲家の円盤がいくつも置かれている。
普段の彼女を知る者なら、この人物がクラシックに造詣が深いことを意外に思うだろう。
『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』
小夜曲と訳されるこの楽曲は、少女のもっとも好きな曲だ。
この曲がかかっている時だけ、かつてこの屋敷が栄華を極めていた時の夢を見る。
これは白雪に残る数少ない少女の残滓。
彼女が実はバイオリンの名手であることを知る者は、この世にはもうほとんど残っていない。
家族と音楽を愛した少女は、この屋敷とともに焼け死んだ。
今ここにいるのは、心に傷を負った一人の灼滅者だけなのだ。
※試しに作ってみたクラブ。今後の予定は未定。