<オープニング>
「今日はみんな集まってくれてありがとう! 早速始めるね!」
そう言って須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は愛用のノートを広げ、説明を始めた。
世界は、サイキックを持つダークネスによって支配されているの。
でも、1990年にサイキックアブソーバーが稼働し、サイキックエナジーが急激に薄まったことで、活動に大量のサイキックエナジーを必要とする強力なダークネスたちは活動停止に陥った。
そのサイキックアブソーバーが起動してから22年を経過した現在、サイキックアブソーバーのある東京武蔵野市を中心とした日本全土で、サイキックエナジーの急激な増加が確認されているの。
このままサイキックエナジーが高まれば、サイキックアブソーバーの機能も支障をきたし……最悪、再び世界中のダークネスが活発に動き出す、悪夢の時代がやってくるかもしれないんだ。
もとより日本地域は、他の諸地域に比べてサイキックエナジーの濃度が高く、ダークネスや眷属の事件も起きていたんだけど、サイキックエナジーの増加により、今までみんなが解決してきた事件とは比べものにならない程に更に大きな事件が発生するだろうと予測されているの。
けど、だからってただ恐れている訳にはいかないよね。
この時の為に、この学園には、多数の灼滅者が集っているし、サイキックアブソーバーを使いこなせる、私のようなエクスブレインの育成も進んでいるんだ。
だからね、この世界が再び、ダークネスの跳梁を許す事が無いように、みんなの力を貸して欲しいんだよ。
さっき説明したとおり、サイキックエナジーの急激な増加により、日本各地で異常な事件が発生しはじめている。
私がこれから説明する事件は、人間の思念が集まった『都市伝説』が影響しているみたいなんだ。今までも人間の思念が集まった『都市伝説』は希に実体化して周囲に害を成していたのは、きっと皆も知っているよね?
と言っても、その力は弱くて、せいぜい姿を見せたり、声をあげたり、風をふかせたり、人に触れたりする程度のもの。
けれど、この『都市伝説』にサイキックエナジーが加わり、強力な力を持つ敵が現れる事となっちゃったんだ。
サイキックエナジーを得た『都市伝説』は、その噂が広まり、多くの人間がその存在を信じる事で、更なる力を手に入れる事になるんだ。
だからその前に、大きな力を持ってしまう前に、事件を解決しなければならないんだよ。
じゃあ私の解析した『都市伝説』について説明するね。
場所はビルが立ち並ぶ一角、といっても裏通りにある小さな稲荷神社。
社もすっかり傷んでいて、2体のお稲荷さんも苔なんか生えちゃって、もしかしたら今は誰にも管理されてないんじゃないかって思えるぐらいそこは荒れ果てている。
もともと人通りは少ない所なんだけど、夕方から夜にかけての時間、いわゆる逢魔が時、その辺一帯は人の気配が無くなる。
その時間に神社の敷地の中に皆が入って、こう声をかけてほしいんだ。
『狐さん、遊ぼう』って。
そうしたら丁度みんなと同じ人数8名の狐面を被った紺絣の着物の少年たちがそこに現れる。皆にはその少年たちと戦い、退治してほしいんだ。
必ず、ちゃんと全員が神社の敷地に入ったのを確認してから声をかけてね。
彼らは皆にこう尋ねてくる。
「何して遊ぶ? はないちもんめ? かごめかごめ?」
ここで、はないちもんめと答えたら彼らは横一列、かごめかごめだったら皆を囲むようにして攻撃を仕掛けてくる。
答えがバラバラだったり、相手に伝わらなかった場合は普通に前衛後衛を意識した陣で攻撃してくるよ。
子供たちの装備は8人のうち4人がパチンコで玉を打ち込んでくる。それでもう4人は木の棒を振り回して攻撃してくるよ。
まるで子供が遊んでるみたいに見えるけど、威力はみんなが扱う武器と変わらないから絶対、油断しないでね。
それじゃ、皆の鮮やかな事件解決を祈ってるから、頑張ってね!
種類:
難度:普通
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参加人数:8人
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●八雲秋より
はじめましての方も多いかと思います。
八雲秋と申します。
今回は『都市伝説』による事件をご用意させていただきました。
少年らを見事倒し、初陣を飾っていただければと願っています。
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●参加者一覧
アインス・イングバル(d00164)
灯丸・月子(d00628)
夜舞・リノ(d00835)
円・陽華(d00850)
アンネリーゼ・ドレクスラー (d01596)
糸崎・結留(d02363)
マリン・アルセラス(d02652)
山南・向日葵(d04383)
→プレイングはこちら
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<リプレイ>
●神社へ
逢魔ヶ時を迎えようとしている神社はなお一層、不気味さを増していた。
「ふーっ『人』『人』『人』……よしっ」
夜舞・リノ(星空に煌めく魔法使い・d00835)は神社の前で深呼吸ひとつすると、『人』という字を三回手のひらに書いて飲み込み、
それから神社に踏み込んだ。
(「ぼろい所ね……都市伝説が出るのも無理ないわ」)
円・陽華(景陽の鐘・d00850)はその神社の外観を眺め、あきれたように肩を竦めながら続いて敷地に入る。
「うーん、実家には古い神社とか多かったから、なんか空気が懐かしわ……」
境内でリラックスするように伸びをしながら灯丸・月子(ノリと勢いだけで生きている・d00628)が呟いた。
「呼び出すにはこの辺がよいでしょうか」
マリン・アルセラス(高校生エクソシスト・d02652)が周囲を確認する。
「そやなここなら見通しもええし。そしたら呼び出し方は……」
月子の言葉にアインス・イングバル(円環法古式覇技継承者・d00164)が、
「えと確か……狐さん……あそ……」
もじもじと言いかける中、皆が口々に声をかける。
「狐さん、遊ぼう」
「狐さん、遊びましょう」
あわててアインスも続けて、
「遊びましょう!」
彼らの言葉に反応し、
「うん、遊ぼ!」
「ボクも!」
次々と狐面の子供たちが現れた。
「むぅ、本当に遊ぶだけならおっけーなのですけどね」
糸崎・結留(ストリンガール・d02363)は彼らが無邪気にはしゃぐ姿を見て感想を漏らした。けれど実際、それだけでは済まないから。
彼らには消えてもらわなければならない。
少年らは待ちきれないように尋ねてくる。
「じゃあ何して遊ぶ? はないちもんめ? かごめかごめ?」
皆は顔を見合わせて頷く。もう作戦は決まっている、それは。
月子が音頭取りの声を上げる。
「いっせーので!」
「「「「「「「「はないちもんめ!」」」」」」」」
「わかった、はないちもんめだね!」
少年らは元気よく答えると、それぞれの武器を手に横一列に並んだ。
対し、こちらも少年らの動きに合わせ、もう態勢は整えてある。
(「このような神社に狐面少年、もともとどのような都市伝説だったんでしょうね」)
こちらに仕掛けようと構える少年たちを見ながらアンネリーゼ・ドレクスラー(ノブリスオブリージュ・d01596)は思う。
何であるにせよ、初陣を飾るからには失敗は決して許されない、アンネリーゼは改めて決意を固めた。
「夜が来てまうと、不利になってまいそうな気もするし、ちゃっちゃといこか」
月子の言葉に結留も返す。
「はい、ぱぱっと倒して『勝ってうれしい♪』となりましょうか!
●戦闘
「大丈夫大丈夫」
リノは相棒の霊犬ユエの頭を撫ぜてやる。ユエの初陣の緊張を解いてやるために、いや、むしろ
自分に言い聞かせるために。
「子供の姿であっても容赦はしません、斬らせていただきます」
山南・向日葵(平和を願う殺人鬼・d04383)は呟きと共に鞘を構えなおした。いつもの癖、刀の鍔を親指で起こして再び鞘に戻す。
と、リーン、境内に涼やかで綺麗な音色が響き渡った。それは彼女の刀の柄尻についている鈴の音。
その音が丁度開戦の合図となり、皆、動き出した。
アンネリーゼは妖の槍の切っ先を真っ直ぐ少年たちに向け、宣言する。
「ノブリスオブリージュ――高貴なる者の責任を果たさせて頂きますわ」
それから即座に間合いを詰め、黒死斬。足を斬り、敵の動きを鈍らせる。
「当たれ!」
少年が無邪気な様子で繰り出したパチンコ玉はしかし肩を掠め陽華を傷つけた。
「くっ」
陽華が悔しそうに肩を押さえ、叫んだ。
「この着物、影華姉に作ってもらったのにー! 何すんのよ、サイテーっ!」
怒ってるのはそっちでか!
「大体パチンコを人に向けちゃ危ないでしょ!」
力強く龍砕斧が振るわれる。龍骨斬りの一撃。
ピシッ。面に罅が入る。
「ごめんね素敵なお面を傷つけて。って言っても影華姉の作ってくれた服には負けるけど」
「やっつけちゃうぞ!」
少年に対峙するアインスは子供らしいチャンバラから大人顔負けの確かな殺意を感じ取った。
「そちらが闘う気なら……手加減は出来ません。円環法古式覇技の切れ見せてあげます!」
彼女の武器はバトルオーラだ。
敵が8体ともなると、とりわけ強力な攻撃がなくとも彼らが累積して与えてくるダメージは厄介である。
だが、それの対策はとれている。
一つには敵の攻撃力自体を減らす事。
初手では皆の攻撃は敵全体に向け回避力や武器の攻撃力を削る攻撃を意識したものが多い。
(「蒼は私と共に」)
マリンが自身の腕に蒼き輝きをもたらしながらマテリアルロッドを掲げると、プリズムにも似た輝ける十字架が
降臨した。そしてそこからの無数の光線が敵を攻撃する。
そして、ダメージに対抗しうる癒し手たち。
(「まだ、敵が多い内はほんま、わずかにも気ぃ抜けへんな……けど!」)
月子はメディックとして常に全体を把握する事に努める。
「今治すわ、気張りィや!」
(「ダメージ大きいな……ジャッジメントレイや」)
出来る限り素早く適切な癒しを全力で。
彼女が今所持しているサイキックは全て癒しを意識したもの。彼女の今日の戦いの姿勢をまさに
示していると言える。
「ありがとう」
彼女へのお礼の言葉に月子は、にっと笑い返し、
「出し惜しみするモンでもあらへんし、景気良くばらまいてくでー!」
「まだ負けないぞ!」
少年らが懸命に棒をぶんぶん振ったり、一生懸命パチンコで狙いをつける様子は今が戦闘中でなければ、
少年たちが敵でなければ、さぞ微笑ましいものだったろう。
(「狐少年可愛いなー……一人家にいたら楽しいだろうなー」)
リノも、つい思わなくもなかったが。
トントン。ユエが彼女の足元をつつく。
「う、うん、わかってる。今は戦闘に集中だね」
「……!」
棒を構え相手を探す様子の少年の前に陽華は行く手を塞ぐようにして立つ。
「チャンバラごっこならアタシが受けて立つわよ!」
相手の渾身の一撃を龍砕斧で弾き返す。そのまま懐に入り込み、
「遊びも常に全力で、よ!」
躊躇ない脳天から地へ向けての身体の正中線を通る龍骨斬り。仮面が割れ、落ちる。
「ぐ……ぐ……」
少年は顔を押さえ跪き、そして消えて行った。
「全力で行かせていただきます」
瀕死の少年は恐怖のあまりびくりと身体を震わせたように見えた。見えただけかもしれないが。
対照的に向日葵は笑顔さえ浮かべる。リーン、再び鈴の音が鳴った。
「はい、死んでください」
彼女の宣告。雲耀剣による重い斬撃。少年は声すらあげる事も出来ず倒れ消滅する。
「ふふん、ジャマーなだけに邪魔しまくるのですよ!」
その言葉と共に張り巡らした彼女の結界糸が少年たち全体にダメージを与え、二人の少年が消滅した。
結留はその宣言通り結界糸とセイクリッドクロスを駆使し、相手に確実なダメージをそして
彼らの火力を徐々に削っていく。
「……」
それが気に食わないとでも言うように、無言で一人の少年がパチンコの照準を結留に合わせ、放つ。
「つっ!」
パチンコの玉が彼女にめり込んだ。
「お願い!」
すぐに相棒の言葉を聞き、リノの霊犬が浄霊眼で結留を癒した。
「ありがとうユエ!」
「え? いえ、どういたしまして?」
リノの言葉に結留が振り返って返事し、
「あは、ユエでしたか。ゆえる、かと思いまして、こちらこそありがとうです!」
照れくさそうに頭を掻いた。
少年は上段に構えアインスに襲い掛かる。
「てやっ!」
アインスは少年の全力の一振りを身を翻しかわし切った。
「なんの、まだです!……そこっ!」
少年は大振りのあまり次に行動を移す事も出来ず、隙を見せたまま。
アインスは閃光百裂拳を叩きこむ。連打。少年に逃げるひまさえ与えずに。
「これで、終わりです!」
最後の一撃に彼女が手を止めると、少年は解放されて安堵したかのようにうつ伏せに倒れ、動きを完全に止めた。
(「貴族たる者の務めを、そして確実な成功を」)
アンネリーゼは自身の立場を心の内でもう一度復唱する。
このわたくしがこの程度の攻撃で怯むはずなど!
ギリギリとゴムを引き絞りながら少年が叫ぶ。
「このぉ、当たれっ!」
「無理、ですわね」
真っ直ぐアンネリーゼに向かってきたパチンコ玉を彼女は軌道を見極め、少年に向かって行くよう
な格好で鮮やかにかわす。そして黒死斬の位置につき、彼の急所を妖の槍が刺し貫いた。
「ガハッ」
槍を抜くと少年の姿は存在を薄れさせ、空気に溶けるように消滅した。
リノの射程の中には今、瀕死の少年がいる。
「幼い狐少年を倒すのはなんだか心が痛むけれど……」
わずかに眉を顰め呟く彼女に向日葵は前方の敵を見据えたまま、
「とどめに躊躇しているならば私がやりましょうか」
「いえ」
彼女は首を横に振る。それでも自分のすべきことはわかっているつもりだから。
「いきます轟雷!」
リノによって引き起こされた雷に打たれ、少年は痙攣するように全身を震わせた後、霧のように消えて行った。
「……!」
最後の少年が不安げな様子で左右を見る。いくら見回した所で独りとなった事実は変わらない。
「お姉ちゃんにも当たれ!」
最後の一人がマリン目がけて木の棒を振り下ろした、が。
彼女は少年の動きを知っていたかのように、わずかに身を逸らし、優雅に攻撃をかわした。そして。
「悪しきものには滅びを」
彼女から放たれた鋭い光条は、少年に裁きを、永遠の消滅を与えた。
リーン。この鈴の音は刀が鞘に納められた音。つまりは戦いが終わった証だ。
●戦い終えて
「務めは終わりましたわ」
アンネリーゼは構えを解き、と武器を仕舞いながらフッ、と微笑む。
「仲間のため、皆無事なまま戦い抜くことが出来ましたわね。あら灯丸さん、何かありまして」
へたり込んでいる者が約一名。月子だ。アンネリーゼに問われ、へたり込んではいるが笑顔で答える。
「ん。皆もケガあらへんよな? あぁああ、なんやほっとしたら急に気ィ抜けて……」
「何とか終わりましたね。……見た目より強く驚きました……わたしもまだまだです」
油断したわけではない、戦闘も無事やり遂げた、とは言え、見た目に引きずられた事、まだまだ特殊な敵との
戦いに不慣れである事は否めないとアインスは自省し、次なる戦いを思い、きゅっと拳を握りしめた。
「遊び終わったなら帰りましょ。それぞれの場所へ、ね」
「んー、そやね」
陽華の言葉にうなずきながら月子は神社を改めて眺める。
「……気の毒やし、今度このお稲荷さん掃除しに来よかな……」
ぽんと両手を合わせながら結留が提案する。
「今度と言わず、今していきませんか、皆でなら早く終わりますよ。神様だって綺麗なほうがうれしい
でしょうし、ちゃんと手入れされていればホラースポットにもなりにくいのです」
皆で手分けし掃除した甲斐もあり、神社は大分綺麗になった。幾分寂しげな風情なのは変わらないが、不気味な雰囲気はなくなったようにみんな感じていた。
「ここまですればきっと大丈夫だね」
額の汗を拭き、空を見上げながら心の内、リノは呟く。
(「わたしもユエもうまく戦えたかな……もう、ここに魔が現れる事はありませんように」)
空は星がちらちらと見え始め、いつのまにか逢魔が時は過ぎ去っていた。
作者:八雲秋
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重傷:なし
死亡:なし
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種類:
難度:普通
結果:成功!
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出発:2012年8月20日
参加:8人
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