UDON!

    担当マスター:ツヅキ

    <オープニング>

     サイキックアブソーバー。
     世界に満ちるサイキックエナジーを吸収する装置、サイキックアブソーバーによって活動を封じられた強大なダークネス達は二十年以上もの間、雌伏の時を余儀なくされた。
     しかし時は来たる。
     今になって、サイキックアブソーバーの存在する東京都武蔵野市を中心とした日本全土でサイキックパワーが急激に増加するという現象が確認された。
     サイキックエナジーの増加は即ち、ダークネスの活性化を意味する。
     もともと、特に強いサイキックエナジーが検出されていた日本ではダークネスや眷属との小競り合いは珍しいものではなかった。だが、今回のサイキックエナジー増加はダークネスの更なる暗躍を招くトリガーとなりうる。

    「けど、こんな時のために学園にはたくさんの灼熱者が――みんながいる! さっそくだけど事件だよ。みんな、私の話を聞いてくれる?」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は教室に集った灼熱者たちの顔を順番に見渡して、頼もしげに頷いた。
    「準備は万端みたいだね。それじゃ、説明を始めるよ。……闇堕ちって、みんな知ってるよね?」
     まりんは声のトーンを僅かに下げて、事件のあらましを語り始めた。

     闇堕ち。
     それは即ち、ヒトがダークネスになることである。
    「みんなはダークネスにならず、灼熱者になった。けど、いつまたダークネスになるとも限らない。学園で過ごす日常を通じてその可能性を低めることはできるけど、いまのところ、完全に防ぐことは難しいんだ」
     まりんはファイルを持つ手とは反対の指先を広げて見せた。
    「実際、今5人の学生が闇堕ちしてる」
     彼らは今まさに、日本各地で事件を引き起こそうとしている。放っておけば本格的にダークネスと化して取り返しのつかないことになるだろう。
     まだ間に合う、とまりんは告げた。
    「だからすぐに現地へ向かって、闇堕ちした仲間を助けてあげて。みんなに救出をお願いしたいのは5人のうちの1人――荒木・琢磨(高校生ご当地ヒーロー)!」

     まりんがサイキックアブソーバーから得た情報によれば、琢磨は現在、四国の県境にあるダムに居座っているという。
    「こらーっ、そこの少年! あぶないから降りて来なさい!!」
     拡声機を持った2人の職員が、ダムの堤防に仁王立ちした琢磨の説得を試みる。しかし、琢磨は両手を腰にあてて大きく胸を張った。
    「だーかーらぁ、俺は愛するうどんのためにここはどけません!! 絶対どかない!! どくものか!! このダムの水を全部頂けば水不足になってもへっちゃらだぜ。香川県は安泰。つまり、さぬきうどんの未来も守られるわけだ」
    「ばっ、馬鹿者! このダムは四国四県全てに水を供給せねばならんのだ。香川県だけに独占させられるかっ!!」
    「……わかってるさ、理想に犠牲はつきものだって」
     ふっと悲しげに息をついて、琢磨は拳を握り締めた。
    「うまいうどんを作るにはたくさんの水が必要なんだ。うどんの明るい未来のためなら俺は、たったひとりだろうと戦い抜いてみせる!!」
     琢磨が叫ぶと、首に巻いた赤いマフラーがひらりと風にたなびく。少年らしい顔立ちには邪悪な笑みが浮かび、闇を宿した瞳は暗く狂気の色をたたえていた。

    「――琢磨くんは香川県出身で、大のさぬきうどん好きなの。夏休みで帰省した時に聞いた水不足の噂がきっかけで闇堕ちしちゃったみたい。実はこのダム、数々の反対を押し切って建設したにも関わらず水不足が頻発していて……今年は大丈夫だけど、来年は駄目かもしれない。もしかしたらその次も……県民の不安に触発された琢磨くんはダムの奪取作戦を思いついたんだ」
     急ぎ現地へ向かえば、職員たちが琢磨を説得している場面に出くわすはずだ。何らかの手段で職員を遠ざけ、琢磨を倒す。そうすれば彼は正気を取り戻して、みんなと一緒に学園へ戻ることができるだろう。
    「琢磨くんがいる堤防は3人が並んで戦えるくらいの幅で、職員さんたちは端っこに立って説得を続けてる。琢磨くんまでは20メートルくらいかな。反対側から登るのは難しそうだから、真正面からぶつかりあうことになりそうだね。琢磨くんの武器は手の甲に装備した光の盾、WOKシールド。戦いを挑まれれば、彼の方から積極的に打って出るよ」
     幸い、まだ闇堕ちしたばかりで眷属は引き連れていない。彼ひとりを倒せばそれで解決だが、闇堕ちしたダークネスは灼熱者であった頃より力を増している。
    「強さはざっと十倍ってところかな。でも、彼はひとりだけ。みんなはひとりじゃない。力を合わせれば大丈夫、だよね!」

     まりんはにっこりと微笑んでから、僅かに眼差しを細めた。
    「世界をもう一度ダークネスの好きにさせるなんて、まっぴらごめんだもんね。だから――だから、みんなの力を貸して! 頼りにしてるよ。琢磨くんを連れて戻って来てくれるって信じてるからね」

    種類:
    難度:普通
    参加人数:8人
    ツヅキより
    荒木・琢磨を倒し、闇堕ちから救って下さい。一般人に犠牲者が出たり、倒しきれなかった場合は失敗になります。

    状況はオープニングの通りです。
    それでは、よろしくお願いします。

    ●参加者一覧

    九重・なつき(d03278)
    西田・葛西(d00434)
    六合・薫(d00602)
    鉄・獅子(d01244)
    キルシュ・ヴァッサー(d02343)
    苗原・モアイ(d02523)
    暁星・成美(d04525)
    朔月・クール(d04698)

    →プレイングはこちら

    <リプレイ>

    ●ダムへ
    「荒木先輩のおうどんへかける情熱はスゴイけど、行き過ぎた行動はダメだよね!」
     件のダムを目前にして、九重・なつき(舞う花のように・d03278) は澄んだ瞳を瞬かせた。頷いたのは見るからに堅物といった出で立ちの少年――西田・葛西(迷い足掻く者・d00434)である。彼は眼鏡越しに目を細め、呟いた。
    「うまく止められるといいが……」
    「まー、どうにかなるだろ。というか、しないと困ったことになる。高知愛媛ええとあとどこだ、徳島? このままでは四国3県から目の敵にされ、血をうどん出汁で洗う戦いになるぞ!」
     六合・薫(この囚われない者を捕らえよ・d00602)の言いぐさに暁星・成美(コトダマカブル・d04525)は駆ける足を緩めぬままこめかみを抑えた。
    「冗談じゃないわ……私の地元が目の敵にされるだなんて、絶対に食い止めないと」
    「心中お察しするであります!」
     もしも自分の地元千葉県が周囲の県から総スカンをくらったら――鉄・獅子(ガンメタリックライオンハート・d01244)はぞっとする。大半を海に囲まれた千葉県だ。それこそ孤島と化してしまうだろう。
    「ふーむ、いろいろ大変なのですネ?」
     キルシュ・ヴァッサー(さくらんぼ・d02343)が首を傾げた時、それほど遠くない場所から拡声機越しの警告が聞こえた。
    「こらーっ、いい加減降りて来なさい!!」
     間違いない、ダムの職員だ。
     苗原・モアイ(中学生ご当地ヒーロー・d02523)は灼熱者としての力を解放、顔のランプに赤い輝きが灯らせた。
    「皆さん、準備はいいっすか」
    「OK」
     箒を手に微笑む朔月・クール(クーリッシュソルシエール・d04698)に続いて全員がスレイヤーカードを翻す。次第に視界が開け、林を抜けた彼らの眼前に巨大なダムが現れた。

    ●ヒーローはどっち?
     突然現れた異装の少年少女に気づいた職員たちは思わず驚きの声をあげた。
    「な、なんなんだ、君達は!?」
    「彼と同じ部活の仲間よ。無断で立ち入ったことは謝罪するわ。すぐに連れて帰るから、あと少しだけお時間を頂けないかしら」
     クールは礼儀正しく頭を下げ、それから仲間に目配せを送った。
    「ボクたち、皆で特撮の映画を撮ってるのネ。これ、動画録れるカメラ」
    「特撮……つまりヒーロー物の映画撮影です。それほど時間はかかりませんから」
     キルシュに続き、葛西は丁寧に頭を下げて交渉に入る。その時、どこから郷愁を誘う情熱的なメロディが流れ始めた――振り返ると成美が持参したアコースティックギターをかき鳴らしている。
    「ハナちゃん、フルスロットルであります!」
     音楽に合わせ、ライドキャリバーに騎乗した獅子が飛び出した。呆気にとられて見上げる職員達の目の前でゴージャスモードを発動。
    「なっ、なんだ……!?」
    「ここは危険です、自分達にまかせて下がって下さい!」
     着地後、ブレーキ音を響かせながら振り向いた獅子は実際よりも豪華に見せかけた姿で格好よく登場を決める。何事かと首を傾げている琢磨に向けて名乗りを上げた。
    「君が香川のうどんヒーローか。僕は千葉の落花生ヒーローだ。何でヒーローが一般人を傷つけるんだ? それじゃまるで怪人だ。これ以上、君を闇に堕とすわけにはいかない。いくよ!」
    「釜玉レンジャーの本気、見るといいの!」
    「猪突猛進ヒーロー、ハリウッドモアイの登場っすよ!! 噂ひとつでダークサイドとかヘタレにも程があるっす! もっと悲劇的な結末の後に四肢機械化してコーホー言いながら将来息子と戦うような気合を見せるっすよ!」
     調子を合わせたなつきとモアイが二人揃ってポーズを決める。職員のうちのひとりが歓声をあげた。
    「なんだかこの子たち格好いいですよ!? 内緒で撮影を許してあげても――」
    「ばっ、馬鹿者!! 感動してしまったのと規則は別物だ。どのような事情があろうとダムでの撮影は認められん」
     かたくなな職員の態度に葛西は肩を竦めた。関係者に見せかけることと許可が降りることはイコールで繋がらなかったようだ。
    「ほら、カメラを止めて。そっちの君も戻ってきなさい!」
     あとで許諾をもらってアップしようと考えていた薫は残念そうにカメラを止めた。だが、状況を把握できない琢磨は首を傾げている。
    「おーい、なんだよ!! そっちから来ないから俺から行くぜ!?」
     言い終わるより先に駆け出す琢磨を迎撃するため、獅子はライドキャリバーの向きを変えた。
    「ここは自分が食い止めます!」
     キルシュは職員を振り返り、叫ぶ。
    「彼、役に入り込むタイプなの。責任持って全力で止めるのデ下がっててクダサイ!」
    「止めるって、だからダムの上は危ないって言ってるじゃないか!!」
     琢磨めがけて駆け出す二人に職員の注意が向いた瞬間、葛西は小声で薫の名を呼んだ。
    「六合嬢、頼む」
    「はーい。一般人はそろそろ寝てろ」
     魂鎮めの風をそよがせた薫は倒れ込む職員たちに背を向けて戦闘態勢に入る。箒に腰かけたクールがふわりと宙に浮いた。その瞳にせまる琢磨を映しつつクールが告げる。
    「これが特撮ごっこの延長なら、さしずめ私は悪い魔女――ってところかしら?」
    「なら俺は生き別れた琢磨の兄だな」
     特撮番組において敵が実の家族というのはお約束の設定である。だが、真面目そうな葛西が言うと冗談に聞こえないものだから、幼いなつきは意味をつかみそこねて首を傾げることになった。
    「ハナちゃん、機銃用意、ッてェ!」
    「くっ!!」
     ガトリングの連射とブレイジングバーストの弾幕が琢磨に襲いかかる。
    「やったかな?」
     だが、砂埃の向こうからビームが発せられた。まるでうどんのように艶やかな光条が薫を貫く前に、立ち塞がった葛西がそれを防ぐ。
    「大丈夫デスカ!? ボクが援護シマス」
     すかさず、葛西の周囲を治癒の光が照らした。彼は感謝しつつ呼吸を整え、名を名乗る。
    「西田・葛西、推して参る」
    「ちっ、外したか。さすが、数に物を言わせるなんて悪の上等手段だぜ」
    「えっ、違うの! ヒーロー役は私たちのほうなの!」
     霊犬たるバルドを解き放ち、自らはブレイジングバーストの弾丸を射出しながら叫ぶなつき。前衛として躍り出たバルドは薫が戻るまでモアイと一緒に攻撃手を担った。
     口にくわえた刃でバルドが琢磨の腕を切り裂く。クールのフォースブレイクが更に琢磨を体内から爆砕する。飛行中のため、他のポジションについている仲間よりも威力は劣るが、クールは鷹揚に微笑んだ。
    「せっかくの特撮ごっこですもの。演出って大事よね」
    「くっ、やるな。だがしかし俺も讃岐うどんもこの程度じゃノビないぜ!! 俺は……俺はこのダムを奪取して香川のみんなに笑顔を取り戻すんだ。そして世界をうどん愛で満たしてみせるっ!! そのための第一歩をいま踏み出そうとしているんだああぁぁあああああっ!!」
    「ぐはぁっ!!」
     琢磨の攻撃を受けて地面にたたきつけられたモアイのランプにヒビがはいった。
    「ピコーンピコーンピコーン。ぐっ、限界が近いみたいっす」
    「だめよ、くじけないで! あなたはこんなところで倒れていい人じゃないのよ!!」
     パッショネイトダンスによってテンションを上げた成美は、身体の内からあふれ出す想いを歌声に乗せて伝える。――天使の歌声。
    「まだ足りない……キルシュ、お願い!」
    「了解なのデス」
     二重のヒーリングライトによって奮起したモアイは再び立ち上がった。
    「待たせたな」
     時を同じくして、職員への対処で出遅れた薫も戦線に加わる。
    「力がスーッと効いて……これは……危うい」
     胸元にトランプのマークを刻んだ薫は琢磨にトラウマの影を殴りつけた。トラウナックルは相手のトラウマを引きずり出してこちらの援軍とする技である。
    「げっ……!」
     琢磨はぎくりと顔を強張らせた後で、こちらをにらみつけた。
    「くそっ、みんなどうして俺を攻撃するんだ……そんなにうどんが嫌いなのかっ!?」
    「何故? そんなのは簡単よ。貴方が道を違えるなら、殴ってでも正してあげる。おせっかいだと思う? そうよね、私はそういう人なのよ。導きの暁き星は、何時でも天に輝いているのだから」
     うっすらと笑みさえ浮かべながら、成美は告げた。
     戦いのさなか、攻撃の手を休めることなくにらみ合う二人。薫の影縛りと葛西のシールドバッシュが相次いで琢磨を襲い、その自由を奪っていった。
    「理想に犠牲はつきものと君は言ったが……諦めるのか。誰かの為に誰かを切り捨てるのは簡単だ。困難に苦しんで、迷い足掻いて、それでも誰もが笑顔でいられる明日の為に戦う……ヒーローってのはそういうものじゃないのか?」
     葛西の訴えに琢磨の顔がゆがむ。
     だが、闇に支配された彼の心は説得を拒み、叫んだ。
    「全てを救える……そんなのは甘い幻想だ! 人は誰だって、守るべき優先順位を持ってる。それが俺にはうどんだった、それだけだ!!」
     やれやれ、とクールは箒の上で肩を竦める。
    「多対一、理想のため……確かにヒーローらしい状況ね。だけど琢磨、そんなにおいしいうどんなら、独り占めより皆にもそのおいしさを伝えるとか、ね。今の君、カッコ悪いわよ」
    「かっ……」
     ――っこ悪い、と繰り返した琢磨はショックを受けたように目を瞬いた。
     カッコ悪い。
     それはヒーローの心を挫く魔の言葉だ。
     それに、とキルシュが駄目押しした。
    「他県を犠牲にするなんてカガワケンもよろこばナイよー!」
    「な、なんてこったぁー!!」
     愕然と立ちすくむ琢磨に、ガトリングの連射と激しい雷が降り注ぐ――!!
    「バルド、大丈夫?」
     大切なバルドが頷いたのを見て、なつきは続ける。
    「じゃあ、お願い」
     なつきの頼みにひと鳴きした霊犬は、琢磨の迸らせる炎に合わせて刀を振り抜いた。琢磨の張ったシールドを打ち破り、耐性を失わせる。そこへ紅蓮斬から切り替えた葛西のギルティクロスが斬り込んだ。
    「ぐっ……」
     催眠にかかった琢磨の隙を逃さず、獅子はライドキャリバーに機銃掃射を命じる。
    「落花生ビーム……発射!」
    「くらえ、モアイ必殺のハリウッドビーム!」
     続けざまに獅子とモアイのご当地ビームをくらった琢磨は片膝をつきながら自分も同じ攻撃で応戦する。
    「やるっすね」
     闇堕ちしたことで琢磨は力を増している――モアイはライドキャリバーリバーをディフェンダーにつかせ、少しでも自分への被弾を防ごうとした。
    「必殺、肉の壁バリアー!」
    「……あまりヒーローっぽい戦い方じゃないわね、と思ったのはここだけの話にしておくわ」
     ぼそり、と呟くクールの瞳に力が集まる。
     回復は十分であると判断して、霊犬には射撃による援護を命じてあった。
    「――っ!!」
     低く頭を構えた霊犬はまるで弾丸のように六文銭を射出する。
    「いてっ、てててっ!!」
     たまらず、琢磨はシールドを全開にして守りに入った。
     複数を攻撃する手段を持たない琢磨に対して、灼熱者達はほぼ完璧とも言える布陣を組んで当たっている。
    「これだけ押してるなら、挑発する必要すらなかったかしら」
    「ふふ、容赦ないわね」
     息継ぎの合間に、成美はもう一度琢磨を見据える。
     同じ地元、同じうどんを愛するヒーローとして彼女は琢磨の前に立ちはだかっているのだ。
    「さあ、正義の味方を始めましょう。愛する白き魅惑の麺に狂うなら、それを正義と任ずるなら、私たちは必ず打ち倒す。うどんはね、独り占めするものじゃないの。皆で楽しく食べるものよ」
    「その通りデス。ワンフォーオール、オールフォーワン!! カオルサン、カサイサン、がんばっテー!」
     キルシュのジャッジメントレイによって癒された薫は異形化させた己の腕を大きく振り上げた。葛西のシールドバッシュと獅子のビームが琢磨の防御をこじ開け、自己回復ではなく攻撃を誘う――そこへ、鬼人変の一撃が繰り出された。
    「必殺! きしめん唐竹割りィーッ!」
    「ぐっ……うわああああああああった!!!」
     意識を失った琢磨がその場に倒れ込む。
     闇の気配に満ちていた琢磨の顔からすっと、険しさが抜け落ちた。どうやら闇堕ちから救うことができたらしい。
    「勝利……っすね」
     モアイは燃えたぎらせていた魂をしずめながら呟いた。吹き抜ける風が心地よい。大自然の中、滝のように流れ落ちるダム堤防での戦いは、本当の撮影でないことが悔やまれるような完全無欠の勝利だった。

    ●釜玉浪漫
    「平和を守った後のうどんは格別に美味しいわね」
     やはり、うどんには光が似合う――。
     琢磨厳選の釜玉うどんを頬張った成美は満足げに頷いた。
     夏休みの店内は家族連れでにぎわっている。琢磨が案内してくれたのは、涼やかな暖簾がかかった昔ながらの雰囲気を持つうどん屋だった。
    「何杯でもいけるっすね! ん、琢磨くん顔なんてしかめてどうしたっすか?」
    「う~ん……まだ頭がすっきりしない……。なんか俺、君に結構ひどいことを言われたような……」
    「何言ってるっすか、気のせいに決まってるっすよ!」
     モアイに肩を叩かれている琢磨はクールのクリーニングや薫の心霊手術などを受けながらダムを後にした。
     無論、学園の皆と一緒にである。
    「よく覚えてないんだけど、皆が俺を救ってくれたんだよな?」
    「イエス!」
     キルシュが頷くと、琢磨は少しばつの悪そうな顔をした。
     そんな彼をなぐさめるように獅子が言った。
    「君が香川を、うどんを愛しているのは痛いほど分かった。僕も君と同じ、ご当地ヒーローだからね。そして、愛するものが追いやられる痛みも……。だから強くなろう。本当の意味でご当地を守るために。というわけでここのお代は君持ちね」
    「えっ、ちょっと、俺そんなに手持ちないかも!? いや、助けてくれたことには感謝するけど」
     モアイが叩くのとは反対の肩に薫が手を置いた。
    「ここの釜玉、うまかった。それじゃよろしく」
     更になつきが追い打ちをかける。
    「わーい、奢りなの~。あっ、ご当地お菓子も紹介してほしいな。そっちは自分で買うから」
    「うどんは奢り決定ー!!?」
     へなへなとくずおれる琢磨の姿に葛西は「よし」と覚悟を決めた。高校生の男子たるもの、ここは意地と見栄を張るべきところだ。
    「荒木、心配するな。俺が全員分……お前の分まで奢ってやる」
    「えっ、本当に!?」
     琢磨だけではなく、テーブル全体が一気にわいた。
    「じゃあ俺、麺おかわりっ!」
    「私も」
    「モアイもっすね!」
    「ちょっと待て、おかわりは二杯までだ。お前らそれ以上食っただろう」
     男連中が騒ぐ隣でクールは別のことを考えていた。奪取作戦は荒唐無稽だが、あのダムは何とかしなければ香川県と他県の溝も深まるばかりだ。
    「ねえ、琢磨」
    「ん?」
    「地道な努力もヒーローの仕事のうち、一緒に対策、考えてみない?」
     思わぬ申し出に琢磨は瞬きを繰り返した後、しっかり頷いた。
     ご当地ヒーロー。
     彼らは戦い続けるのだ。
     ご当地への愛と情熱をサイキックに変えて、明日もまた――!

    作者:ツヅキ
    重傷:なし
    死亡:なし
    種類:
    難度:普通
    結果:成功!
    出発:2012年8月20日
    参加:8人