<オープニング>
世界は、邪悪なる超存在ダークネスにより支配されている。
この支配に楔を打ち込んだのが、サイキックアブソーバーによるサイキックエナジーの吸収である。
サイキックエナジーの希薄化により、世界を支配してきた強大なダークネス達は、活動の停止を余儀なくされ、ダークネス組織は大混乱に陥った。
しかし、サイキックアブソーバーが動き出してから22年が経過した今、サイキックアブソーバーが存在する東京武蔵野市を中心とした日本全土で、サイキックエナジーの急激な増加が確認され始めた。
このままサイキックエナジーが高まれば、サイキックアブソーバーの機能が乱れ、再び、世界中をダークネスが跳梁する悪夢の時代がやってくるかもしれない。
日本地域は、他の諸地域に比べてサイキックエナジーの濃度が高く、ダークネスや眷属の事件も発生していたが、今回のサイキックエナジーの増加により、今まで君達が解決してきた事件とは比べものにならない程に大きな事件が発生していくと予測されている。
しかし、恐れる事は無い。
この時の為に、この学園には、多数の灼滅者が集っており、サイキックアブソーバーを使いこなすエクスブレインの育成も進んでいる。
この世界が再び、ダークネスの跳梁を許す事が無いように、皆の力を貸して欲しい。
「というわけで」
彼女は続ける。
「今説明した通り、サイキックエナジーが高まってきて、ダークネスの動きも活発になってきてるの」
今まで存在も知られていなかったダークネス達が活動をはじめたり、存在は確認されていたが積極的な活動を行っていなかったダークネス組織が活発に動き出したり、或いは、存在を噂されながら実在を疑われていた強大なダークネス組織が蠢動を始めるといった状況だ。
「世界の支配者……って言ったらいいかな、とにかくダークネスと戦うことは、本当に危ないことだし、怖いし、――でもでも、私たちエクスブレインからの情報をいい感じに使ってくれたら、みんなヨユーで勝利しちゃうかもね!」
エクスブレインの彼女――須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)はにぱっと笑ってみせた。
「で、さっそくなんだけど、みんなに頼みたい事件が、あわわわ!」
ばさばさっ――抱えていたファイルを開こうとしたその拍子に、資料をぶちまけてしまう。おたおたと拾い集めるまりんは、ばつが悪そうに笑んで、ずれたメガネを押し上げた。
「じゃ、じゃあ、説明するね」
今回、問題として浮上してきたダークネスは六六六人衆の一人、序列642位の女。
ひとつでも位を上げようと下水道に罠を張り続け、獲物がかかるのを待っている蜘蛛のような女だ。
彼女は『巣』を、『殺人領域(テリトリー)』と名をつけご満悦のようで、早く血が見たいとうずうずしている。
しかし、六六六人衆の根源的な性質のため、獲物は悲しいかな己よりも強い。だから、まずは眷属による攻撃で体力をすり減らし、隙をついて下剋上(ミッション・クリア)という戦法をとるだろう。
「なにが問題視されてるって、この下水道、工事の予定があって、このままだと作業員さんが皆殺しになっちゃうの」
罪なき人が殺されてしまう前に、彼女を撃退できれば万事解決――とまではいかずとも、目下の危機は去る。
女の名は、水島・テイ子。十八、九歳で、肩まで無造作に伸びた髪は黒と金のツートンカラー、その華奢な手には大ぶりなナイフが握られている。
「でも、水島さんと戦うのは、無謀かも」
「そんなに強いのか?」
まりんの話を聞いていた灼滅者の一人が問えば、彼女はおおきく頷く。その真剣な眼差しを受けて、
「だから、『撃退』なんだな?」
「そうなの、水島さんの眷属を倒しちゃって、完璧だと思いこんじゃってる『テリトリー』を壊しちゃえば、興がそがれてあっさり身を引いちゃうから、しっかりいっぱい眷属を倒してね」
水島・テイ子の眷属は、ネズミバルカンが数十体。個体差はそれほどなく、背負った砲台からは強烈な砲撃が予想され、その鋭い牙で噛みつかれれば激痛が走るだろう。
それほど知能も高いわけではなさそうで、近くにいる敵へと攻撃をしかけてくる。隊列、作戦なんて上等なものは眷属どもにはない。
そして、水島は眷属が十体以上倒されると、自分の『殺人領域』が修復不能になったと考え、撤退してしまうだろう。
「ただ、下水道の中は暗いよ。なにか明りになるものがないとちょっと厳しくなっちゃうのは、わかるよね? それと狭いから、うーん、ちょっと窮屈かも?」
「どれぐらいの広さがあるんだ?」
「横に一直線に四人並んだら、手は広げられないくらい――かな」
そうか…と灼滅者は呟いて、ふむと唇を引き締めた。
「でも大丈夫! 眷属はそこまで強くなさそうだし、みんなが力を合わせれば絶対勝てると思うよ!」
不安が顔をのぞかせた瞬間、まりんは明るい声を出す。
みなの士気が下がらぬように、誰もが無事で帰ってこれるように、精一杯の助言を放つ。
「くれぐれも、水島さんには手を出さないでね。それはこの先の話――ダークネスとの戦いは避けて通ることは絶対にできないの。今回の事件は、今後のことを占う大一番ってとこだから、みんな、頑張ってきてね!」
まりんはぎゅっと拳を握ってエールを送る。
瞬間、ばさばさっと資料が散らばって、彼女の慌てた様子に、緊張感は少し緩んだ。
「みんな、いってらっしゃい!」
まりんの明るい笑顔に送られ、彼女に背を向けた。
種類:
難度:普通
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参加人数:8人
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●藤野キワミより
いざ下水道、壊せ殺人領域(テリトリー)!
てなわけでよろしくお願いします、藤野キワミです。
初めまして? それとも、お久しぶりでしょうか? ともあれどちらさまもお元気そうでなによりです。
気楽にプレイングを楽しんでいただければ幸いです。
成功条件はまりんちゃんの言った通り、「ネズミバルカン10体の撃破=水島・テイ子の撤退」です。
水島・テイ子は現段階のみなさんより遥かに強いです。触らぬ神になんとやら……
では、以下敵能力まとめ
●六六六人衆:序列642位の女「水島・テイ子」
強打斬撃(近単)
斬連撃(近列)
その他、基本戦闘術や殺人鬼に似たサイキック
●ネズミバルカン
バルカン砲撃(遠単)
噛みつき(近単)
ではでは、みなさまの素敵なプレイングをお待ちしています。
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●参加者一覧
真下・一生(d00016)
鬼咲・奏真(d01263)
雨翠・柳(d01627)
叢雲・宗嗣(d01779)
貳鬼・宿儺(d02246)
十・光滋(d02482)
ジブリール・ギルガメシュ(d03275)
七瀬・京司郎(d03402)
→プレイングはこちら
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<リプレイ>
●警戒期待不安、緊張
なぜ下水道に罠を張ったのか、下水道である必要はあったのか――疑問は絶えずして詮ないことだった。
それでも始まってしまったのだから、決着をつける必要はある。
これを放置すれば無用な命が奪われてしまうことになるのだから。
「まったく、あの人たちはいつまで人様に迷惑を……」
ジブリール・ギルガメシュ(我は希望・d03275)は「それがダークネスだからなんでしょうけどね」と苦笑する。
「テリトリー……ですか」
ヘッドライトの位置を確かめ、影業の調子を念入りに確かめる雨翠・柳(宵霞・d01627)が呟けば、
「蜘蛛を気取るか――今は届かずともいずれは、その首貰いたいものだな」
叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)もまた、腰に留めたランタンの位置を調節しながら慎重に進む。
「……斬滅」
静かに闘志を燃やし、腰に佩いた日本刀に触れる貳鬼・宿儺(双貌乃斬鬼・d02246)は、多くを語らず精神を統一していく。
眼前の敵はただ斬り捨てるのみと意識を尖らせていく。
敵は強いと釘を刺された。今の己の力では拮抗すらできないと相手にされなかった。その言葉があったればこそ、最善と思しき策を練れた――命を繋ぐ方法を紡ぎだすことができた。
それが成功するか否かは、今はまだわからない。しかし、どうにも負ける気がしない。
己が弱い証拠なのか、己の力を過信しているだけなのか、否、仲間がいるからではないのか。
胸が躍る高揚感は、名状しがたい興奮を伴って十・光滋(天下布武を目指す者・d02482)を支配する。
一目だけでも――その願いは、今回の作戦に相反するものだが、その気持ちは確かに彼の心に刺さっていた。
「…………」
「緊張ですか?」
「ん? あ、うん、そうかも」
「大丈夫ですよ、力みすぎず、いきましょう」
やらわかく柳は光滋に声をかける。
彼もまたこれほどの人数で依頼を受けるのは初めてで、多少の緊張を大いなる期待に変えてわくわくしているのだ。
一歩一歩、足元を確かめながら進む。
各々準備してきたライトは闇を斬り裂いて、さまざまな靴音は高らかに、ひそやかに、または重々しく反響する。
じっとりと汗が浮かんで、否応なく緊張が高まる。臨戦態勢が続く。そして、小さな異音――。
「さあて、戦闘開始だ!」
いち早くその音に気付いた鬼咲・奏真(中学生殺人鬼・d01263)はすらりと日本刀を抜き放った。
●殺人領域、綻び
明りを反射して白銀に輝く刀身を向けられたのは、爛々と輝く赤い双眸。数十対の赤い眼は、一様にこちらを狙っている。それほど大きいというわけでない、よく見るネズミバルカンではあるが、はてこれほどの大群を見たことがあっただろうか。
それでも冷静に取り決めた陣形をとる。
「締めて行くぜ!」
被っていた帽子を取り、ライドキャリバーを華麗に操る七瀬・京司郎(弾幕系ダンピール・d03402)がガンナイフを構え、ネズミバルカンどもへ先制の銃弾を叩き込む。
俄かに始まった強烈な戦闘音に、良い意味で緊張がほぐれる。
京司郎の援護射撃によってわずかに傷を負ったネズミバンカンどもは出鼻を挫かれ、たたらを踏んだ。刹那――。
「人に害をなすものは倒す! 斬らせてもらうぞ」
真下・一生(イレヴンソウル・d00016)は烈声を迸らせ、握る刀身は緋色のオーラを発露させ、眼前の敵を袈裟がけに斬り下ろす!
その一生が身を少し引いた瞬間、宿儺の黒死斬が疾る。剛毛で覆われた太股を刺突、耳障りな悲鳴が下水道に響き渡った。
「散華――仇花の如く潔く、な」
そして、間髪いれずに光滋が除霊結界を展開させ、宿儺に貫かれたネズミを含む複数の眷属どもがビリビリと麻痺する。
大きな一撃一撃ではないが、一体ずつ確実に倒していくという作戦に、為すすべなくダメージを蓄積させられていくそのネズミバルカンに更なる猛攻が襲いかかる。
宗嗣の腰に光るランタンがゆらりと揺れたときには、そいつの命運は決まっていた。素早く振られたナイフに切り裂かれ、一矢報いることなく絶命したのだ。
狭い場所ではあるが、それを苦にもせず己の為すべきことをいち早く感じ取って動く彼らの敵ではなかった。
「油断せずにな!」
勢いは良い。このモチベーションを保ちたい。だから京司郎は大きな声をあげ、みなにプラスになるように努める。気持ちが落ちないように、常に成功――勝利を思い描けるように。
「そうですね、まだ始まったばかりですし」
高速演算モードで集中力を高め、百発百中の自信を漲らせるジブリールも京司郎の言に頷く。
「うっしゃ、なら抑え込むぜ!」
すらりと妖しく美しい刀が一閃され、月光衝が放たれる。奏真が撃ち込んだ衝撃の余波が失せる瞬間、どす黒い殺気がネズミバルカンどもを飲み込んでいく。怖気立つ真っ黒い激流に飲み込まれ、際限ない殺気にさらされる――柳だ。
しかし、彼の放った鏖殺領域の脅威にさらされなかったネズミバルカンどもの反撃が始まる。
真っ先に死したネズミバルカンの穴を埋めるように、前に飛び出してきた個体の鋭い歯を突き立てんと迫ってくる。
一番近くにいた宿儺しか見ていない。
彼女はその赤瞳を睨み据え、滑り止めのついた靴底に力を入れる。回避は、寸でのところで間に合わなかった。突如走る激痛に眼前が赤く染まる。それだけでは済まされなかった。もう一体のネズミバルカンが彼女に向って突進してくるではないか。
「笑止――我にかような牙が容易く届くと思うな」
次は見誤らずに僅かな体さばきで躱してみせる。その瞬間に次々に放たれるバルカン砲撃の応酬に、彼らは顔をしかめ、俄かに立ちのぼる土埃をやり過ごす。それは大きな傷を齎す攻撃でなかったのが幸いした。それでもダメージがないわけではない。
それでもまだ無視できる痛みだ。
そして、腹の底へと響くエンジン音が轟いた。
ライドキャリバーの銃砲がお返しとばかりに火を吹いて、ネズミバルカンどもの体力をじわじわと削っていく――ライドキャリバーの銃弾のみではない、その砲撃とともに京司郎はホーミングバレットを放ってネズミバルカンを穿ち貫く!
宿儺に噛みつき、口元を彼女の血で汚したネズミバルカンに振り下ろされたのは、紅蓮に輝く一生の刃。鋭い斬撃に隙を見せたそいつを見逃すほど、甘くなかった。
「いけ!」
「――っ!」
宿儺の短い呼気、効率的に刀に力を乗せて、高速の抜刀――鞘走る甲高い金属音はアドレナリンを沸騰させる。
ばさりと斬り捨てられたネズミバルカンは、どろりと闇に溶けていく。
目標数は残り、八体。
●殺人領域、亀裂
負ける気がしない。
数は圧倒的、しかし雑魚は雑魚だ。雑魚が寄り集まっても雑魚にすぎない。
力は届く。結わえ上げた藍色の長い髪がぞわりと揺らめく。縛霊手の祭壇を展開、結界を構築して眷属を蝕んでいく。
「いくぜ、ジブリール!」
「ええ!」
烈気を発露させ、黒死斬を浴びせる宗嗣に合わせるように狙い澄まし、ジブリールはバスタービームでネズミバルカンの肢体を撃ち貫いた。その精度に眉をあげて、口角を少し上げた宗嗣は、解体ナイフに付着している、こと切れたばかりのネズミバルカンの血をさっと拭った。
「負けてらんねえな!」
柄を握りなおした奏真は深紅の逆十字の刃を生み出し、傷が深そうな一体を狙ってギルティクロスを放った。そして闇に影が浸食する。柳の思念がぞろりと形になって漆黒の弾丸を形成――そして、奏真が狙っていた個体へと解き放つ!
「とっととお眠り下さいな」
柳の静かな声音に、それは闇へと沈んでいった。
一体ずつ、一体ずつ――ダメージの累積は、回復のすべを持たない連中にとって地獄でしかない。
じわりじわりと数を減らしていくネズミバルカンは、しかしまだ多く存命している。だからこそ、バルカン砲の嵐が吹き荒れた。
「つうっ!」
「大丈夫、まだイケる!」
苦悶を噛み潰した宿儺に声をかけ、京司郎はヴァンパイアミストを発生させ、ダメージを和らげていく。
そして、宿儺はフェニックスドライブを発動させた。
「不覚――勇気と蛮勇を履き違えたのは我の方か……」
「そんなときもありますって、貳鬼先輩」
柳のほんわりした声音が後ろから聞こえてくる。それでも、二人のおかげで体力は大幅に持ち直した。
「まだまだ、これからだ!」
ひゅんと一生の振るった刀は空を斬って、その次にネズミバルカンの肢を刺し貫いた。
「オレもまだ本気出してないしな」
光滋の縛霊手が猛炎を噴き上げ、
「それを言うなら、俺だってそうだ!」
奏真がいつの間にかネズミバルカンに肉薄、背負った砲台ごと斬り裂き、
「…………」
ただ寡黙に宗嗣は闘志を尖らせ、こまめに手入れをしていたナイフで、ネズミバルカンの首を引き裂いた。
「雨翠さん、」
「オッケー!」
ジブリールと柳のコンビネーションが発動――バスタービームとデッドブラスターが折り重なるようにしてネズミバルカンに吸い込まれていく。
これで、十体目。
「ふむ、これで終いか?」
屠った数を数えていた一生は、刀を下し、辺りを見回す。まだいるネズミバルカンどもの雰囲気が俄かに変化したのだ。
闘争心嗜虐心がゆっくりとなくなっていくようで、ぞろりと後退を始める。
それを確認した一生は、もう一度鼻を鳴らし、
「我が太刀に裁てぬもの無し……」
言下、納刀。キン…と鍔と鞘がぶつかった。
「本当に終わったのか……?」
ナイフを手に、宗嗣が呟く。
――そして、それは唐突だった。
●領域崩壊
「あーあ、壊れちゃった――結構イケると思ったんだけどなあ」
突如響き渡る、あっけらかんとした女の声。
むろん宿儺ではない。彼女は険しい表情で明りの行き届かない闇を睨み据えている。
誰何を問わずとも分かる。
エクスブレインの情報にあった、ダークネスだ。
六六六人衆の一人、序列642位の女――水島・テイ子。
しかしその姿ははっきりと見えない。どんな顔をしているのか、どんな服を着ているのか、どんな髪型をしているのか、その一切合財が闇の中だ。
見てみたいという知識欲が沸いてくるが、これ以上は近づけない。危険すぎる逃げろ踵を返せと防衛本能が叫ぶ。
だがどうしたことか、テイ子も近づいてくる気配もない。あれほど大量にいたネズミバルカンどもの姿もいつの間にやら消えていた。
「ま、どうでもいいけど――次はどうしよっかなあ」
「次、って……どこへ行くんだ?」
とっさに光滋が声を上げる。
「そんなの、教えるわけないじゃない――もう二度と会わないんだし、あんたたちには関係のない話でしょう?」
冷たい冷たい声。楽しそうに弾んでいるが、その温度は絶対零度を思わせる非情を滲ませている。
辛うじて見えていた輪郭も足音とともに闇に溶けていく。
「関係なくはない!」
鋭い反論も嘲笑にも似たそれで受け流された。
「……ホント、つまんないわね」
本当に退屈そうに嘆息したのが分かる。悔しさが全身を支配した。これほど離れていても危機を感じるのだ。一歩も動けない。圧倒的過ぎる。その気配、声音、およそ彼女を構成するすべてが脅威に感じる。
「それじゃあね、――」
なんと言ったのか、女の言葉を最後まで聴き取ることはできなかった。
そして、耳鳴りがするほどの静寂が訪れる。
●悚々痛感決意、帰路
大きな圧迫感が失せ、八人は脱力した。
その場に崩れることはなかったが、ここがもし下水道でなければ座り込んでいたかもしれない。
「よし、脅威は去った。帰ろうぜ、みんな」
京司郎は帽子を被りながら黙りこんでしまった仲間に声をかける。
そう、目下の戦いは終わった。エクスブレインが危惧した脅威は、たった今、彼らの目の前から去った。
ならばこんな辛気臭い場所に用はない。
「悔しいが、――そうだな、次こそは親玉も逃がしたくねえもんだな」
「ええ、ですが今は、まだ。今は、これで良しとしましょう。さて次は、どうなるか……」
奏真とジブリールの胸にあるのは、新たな決意。
否、それは多くの者が抱えたものでもあった。
より疾く、より強く、そして剛く、何者にも負けない力を――、柳はよい土産話ができたと微笑みながら、
「楽しみがひとつ、増えましたね」
大きくうねる物語が、静かに、また盛大に始まった。
作者:藤野キワミ
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重傷:なし
死亡:なし
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種類:
難度:普通
結果:成功!
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出発:2012年8月20日
参加:8人
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