<オープニング>
世界は、邪悪なる超存在ダークネスにより支配されている。
この支配に楔を打ち込んだのが『サイキックアブソーバー』によるサイキックエナジーの吸収である。
サイキックエナジーの希薄化により、世界を支配してきた強大なダークネスは活動停止を余儀なくされ、ダークネス組織もまた機能を停止。ダークネス達は大混乱に陥った。
世界は、密かな動乱期を迎えていたのである。
しかし、サイキックアブソーバーが動き出してから22年が経過した今、サイキックアブソーバーが存在する東京武蔵野市を中心とした日本全土で、サイキックエナジーの急激な増加が確認されはじめた。
このままサイキックエナジーが高まれば、サイキックアブソーバーの機能が乱れ、再び、世界中のダークネスが蘇る悪夢の時代がやってくるかもしれない。
日本地域は、他の諸地域に比べてサイキックエナジーの濃度が高く、ダークネスや眷属の事件も発生していたが、今回のサイキックエナジーの増加により、今まで君達が解決してきた事件とは比べものにならない程に大きな事件が発生していくと予測されている。
しかし、恐れる事は無い。
この時の為に、この学園には、多数の灼滅者が集っており、サイキックアブソーバーを使いこなすエクスブレインの育成も進んでいる。
この世界が再び、ダークネスの跳梁を許す事が無いように、皆の力を貸して欲しい。
「サイキックエナジーの増加と共に、ダークネスの動きも活発になってきています」
五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は君達へとそう語りはじめた。
今まで存在も知られていなかったダークネス達が活動をはじめたり、存在は確認されていたが積極的な活動を行っていなかったダークネス組織が活発に動き出したり、或いは、存在を噂されながら実在を疑われていた強大なダークネス組織が蠢動をはじめるといった状況が起っているのだと、彼女は現在の状況を説明する。
「世界の支配者であるダークネスと戦う事は、大きな危険が伴うでしょう。ですが」
姫子は君達の目を見据えはっきりと告げた。
「エクスブレインの情報を有効に活用すれば、活路は充分に見えてきます」
今後、ダークネスとの戦いは避けて通ることはできない。
今回の事件は、今後の世界の行く末を占う事になるだろう。
皆の健闘を祈る。
さて。
君達が相対するのは金沢怪人スシレーンと呼ばれる怪人である。
一見普通の戦隊ヒーロー風のスーツを着こんでいるものの、頭の部分がスシ。ネタはみんな大好きなまぐろである。ちょっとぱさついているのがポイントだ。
そして、首の回りにレーンがぐるぐる回っている。ベルトの代わりとばかりにウエスト回りにもレーンがぐるぐる回っている。
彼は回転寿司という文化により、寿司食を世界に広め、ゆくゆくは地球の海産資源を枯渇させようと企んでいるのだ。
……で、枯渇させ何をしようかとしているのかというと。
「世界征服です」
……姫子さん、今なんつった。
「世界征服、です」
……えー、海産資源を枯渇させて風が吹いて桶屋が儲かったりして世界征服を果たすつもりらしい。
「そんな怪人ですが、今回、金沢の回っていないお寿司屋さんを襲撃する気のようです」
回っていないお寿司屋さん。
即ち、豪華なお寿司屋さん。
スシレーンが出現するのは、開店準備中のお寿司屋さんである。
中で仕込みが行われている時間中に現れ「この店にも回転寿司のレーンを設置しろ!」と迫るわけだ。
幸いにして一般人は仕込み中のご主人1人。怪人が押しかけた後に君達が店内に入ってもカウンターの下に隠すなり、奥の控え室に送るなりして、簡単に保護は可能だろう。だが、スシレーン達の入店前に入り込んだ場合、怪人はそれを察知し、その店に現れるのを止めてしまう。
「ですが……その場合、このお店ではない他のお寿司屋さんが被害にあってしまいます。ですから、犠牲を最小限で済ませられる今のうちになんとか止めて欲しいのです」
穏やかながら姫子は君達へとそう願いを告げる。
さておき、スシレーンは冷凍鮪を振り回し戦ったりするらしい。が、それだけならさほど脅威にはなり得ないだろう。
「しかし、スシレーンには必殺技があるんです」
姫子が告げる。
どんな必殺技か? そう言いたげな君達の視線に答えるように彼女は続ける。
「お魚さんって……地上での戦闘に向いてませんよね」
いや、戦闘以前の問題だし!
「ダークネスの力で眷属化した海産物をレーンに乗せて回転させ無理矢理突撃させる技……その名も『寿司レーン突撃』といいます」
因みに近接攻撃で、喰らった場合ダメージも大きく、ついでにぶつけられた眷属海産物も大粉砕。
外れた場合眷属は可哀相な事に地べたでべちべち暴れるだけである。
なお、生臭いのがポイントだ。
「そうそう、スシレーンは回転寿司をバカにされると大変怒ります」
姫子が語る所によればたとえば「回転寿司は安いけどネタがぱさついてるし、やっぱ回ってないのが最高だよね」とか「回転寿司とか流行らないだろ今はやっぱハンバーガー」とか言うと激怒するらしい。
上手い事怒らせる事が出来れば、ヤツの気を引くことも可能かもしれない。
「皆さんでしたらこの怪人の野望を止められると信じていますから」
宜しくお願いします、と姫子は君達へと丁寧に頭を下げてみせた。
種類:
難度:普通
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参加人数:8人
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●高橋一希より
皆様、はじめまして。高橋一希です。
こちらでもどうか宜しくお願いいたします。
さて、今回の敵は「金沢怪人スシレーン」。 どんな相手かはオープニングを参照くださいませ。
成功条件は金沢怪人スシレーンの撃破。どうか頑張ってくださいませ。
それでは、皆様のご参加をお待ちいたしております。
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●参加者一覧
西川・晶(d03983)
原・晶(d00079)
紅月・チアキ(d01147)
富士山・絶景(d03780)
篠原・小鳩(d01768)
香野・透(d02173)
篶屋・もよぎ(d04350)
キルシェ・ミカエレン(d04672)
→プレイングはこちら
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<リプレイ>
●回るお寿司、回らないお寿司
次第に日が傾きつつある中「ただいま準備中」の札の下がる店があった。
看板を見るに、お寿司やさんであるらしい。
しかし、何ものかがからっと扉をあけた。
「この店にレーンを設置しろ!」
「な、何を言ってるんだあんた!?」
「回転寿司のレーンだ! 分かるか!?」
一方的に告げるそいつの頭はドデカイ寿司(ネタのまぐろがパサついている)で出来ていた。
扉が閉まったのを確かめ、隠れていた灼滅者達はそっと扉に近づく。
(「やってくんぜ、じいちゃん」)
紅月・チアキ(朱雀は煉獄の空へ・d01147)は大好きな祖父の形見である一振りの日本刀を、誓いを込めてじっと見つめる。
一同揃い、覚悟は決まった。扉を開ければ金沢怪人スシレーンと対峙する事となる。
「お寿司……本当は好きなのですけれどねー」
ぽつ、と呟く篶屋・もよぎ(奏花・d04350)。今日はお寿司が苦手なフリをしなければならない。
「回ってない寿司屋も必要なのだよ……接待と言う名の戦場においては!」
まだ学生だろう、接待した事あるのかッ? とツッコみたい発言をしつつ原・晶(兄ノ背中ハ遠ク・d00079)は扉を蹴り開けた。
「そこまでだ怪人!」
富士山・絶景(何とかと煙は高いところが好き・d03780)が叫ぶ。
「な……何ものだッ!?」
ぐるり振り向く怪人。視線の先にいる一同は逆光でシルエットしか確認できない状況。
……まあ、西日なんだが。
「世の為人の為、魚の為! お前の世界征服! 俺達が破壊するっ!」
西川・晶(ヘタレでスケベなヒーロー(笑・d03983)が宣言する間、原・晶は今度は丁寧に両手で扉を閉めている。
「くるくる回る寿司もオレは楽しくて好きですよ」
「ええ、俺も回転寿司はお手軽なので好きではあるんですが」
「そうだろうそうだろう。回転する寿司を食うのだ!」
キルシェ・ミカエレン(微笑む黒の子羊・d04672)と香野・透(中学生殺人鬼・d02173)の言に調子に乗るスシレーン。
しかし二人はそんな彼を余所にこう続ける。
「けれど、目の前で頼んだネタを握ってくれる姿も、オレは好きですから。当然、守らないわけないでしょう?」
「……世界征服はさておき、襲撃を成功させる訳にはいきませんからね」
「……貴様らには罰として24時間回転する寿司を食い続けさせねばなるまい……!」
どっちにせよ喰わせるらしい。
「つーか、回らない寿司の何が気に入らねーんだよ! 夢なんだぞ! 回らない寿司屋で高い寿司頼むのがな……!!」
ビシっと指を突きつけるチアキ。その剣幕から彼がどれだけ怒っているか分かるというもの。
お財布が寂しいと1貫だって厳しい。そんな回らない寿司を目指して人は一生懸命働こうと思ったりするのだ、多分。
「回っているスシならお腹いっぱい食べてもリーズナボー! そして貴様らがどんどん回転するスシを食べれば、我々の世界征服に繋がるのだ……!」
「海産資源を枯渇させて世界征服……なんて恐ろしい計画を企んでいるのだ! 何としても阻止せねばならんな!」
息を飲み、拳を握る西川・晶。
回転寿司は確かに良いものだ。みんなで美味しく食べられ、家族でだって大丈夫。
しかし、スシレーンの野望の通りやたらと生産したならば、無駄に廃棄されるものも増える。
それは決して宜しくない!
海産資源の為にも。
そして、回っていないお寿司やさんの為にも。
更に言うなら、一生懸命美味しいものを提供しようとする回転寿司にも。
「寿司ネタだけに、高級品へのねたみなのか?」
ぽろっと絶景が告げた所。
「うっっっ!??」
……悶絶した!?
そんな愉快なやりとりの間に篠原・小鳩(中学生ダンピール・d01768)が傍に居た透へと囁く。
「お願いします」
透は頷き、カウンターへと回り、その場で腰を抜かしていた主人を控え室へと連れ込み囁く。
「安全になるまでここに隠れていて貰えないか」
言われるままに頷くご主人を残し、彼は仲間達の方へと向き直る。
今までのやりとりは全て、怪人の意識を逸らせるのが目的。
戦いの舞台は整った。
「わたしの鋼糸のサビになりたいのなら遠慮はしませんよー?」
寿司ネタだけに。
「……洒落ではないんですよ!」
よぎもは鋼糸をビシリと構えてみせた。
●本当のお寿司とは?
「この冷凍マグロのカチコチ加減を味わうがいい!」
スシレーンが冷気漂うマグロ(インドネシア産)を振るう。それを小鳩は手にしたチェーンソー剣でがきんと押しとどめる。重い一撃に身体が軋むが、負けるわけにはいかない。
「お寿司屋さんなのにお値段が時価じゃないのは変ですっ! そんなの本当のお寿司じゃないですよっ」
得物でマグロを跳ね上げ、武器へと緋色のオーラを纏わせる。
「本当のスシ……だと? どれも寿司酢を混ぜた米に海産物を乗せただけではないか!」
「ただ機械で作られたものとは違います! 本当のお寿司には作ってくれた人の……心がこもっているんです!」
紅色の斬撃がスシレーンをざっくり切り裂く。そこにオーラを纏った絶景の拳が乱打! 原・晶は雷纏った拳でアッパーカットを繰り出し、西川・晶が無敵斬艦刀を振りかぶる。
「受けよ! アルティメットバトルソォード! スラァァッシュ!」
超弩級の斬撃は、あまりの凄まじさにもはや打撃のようだ。
透はスートを胸元に具現化し、己の魂を闇堕ち側へと傾ける。溢れる力は次手への備えとなるのだ。
もよぎの放った鋼糸がスシレーンへと絡みつき、キルシェがガトリングガンを向ける。
「援護します」
放たれた弾丸が怪人へと雨のように降り注ぐも、レーン部分へと狙いを付けた事もあり当たりづらい。
指先に集めた霊力を、チアキは小鳩にむけて放つ。仲間の傷を癒し、清める為に。
●倒せ! 怪人スシレーン!
スシレーンの意識を自らの方へと向けようと努力を重ねる事で、灼滅者達は店を極力傷つけぬよう戦った。
「わたしなまぐさいお寿司は大嫌いなんですー! 回ってるのだと乾燥してパサパサになるのでもっといやですー!」
もよぎもスシレーンの気を引こうと述べる。
「じゃあサラダ軍艦とかカルビとか喰え!」
「海苔がべったりへたりますし、カルビは邪道ですー!」
「ええい、茄子の浅漬けでも喰ってろ!」
対するスシレーンの発言はもはや海産物ですらない。
「回転寿司ってご飯がパサパサになるし……効率的じゃないと思いますっ!」
告げた小鳩をスシレーンがギロリと睨み付ける。ネタキャラなのに怖い。そして。
「喰らえ、我が必殺の一撃! スシレぇぇン突撃ッ!」
レーンが突如高速回転! 繰り出されるお魚!
「やっぱりなまぐさいのはやですー! それとお魚さんがかわいそうなのでやめてあげてくださいー!」
「だが断るぅぅぅぅぅ!」
もよぎの制止も聞く耳持たずスシレーンが叫ぶ。ドギュルリリッ! と射出されたお魚の勢いは凄まじい。小鳩はそれをチェーンソー剣でなんとか防ぐ。
敵の攻撃後の隙に、小鳩とキルシェは紅の逆十字を叩きこむ。
「貴様っ! 眷属とはいえ、寿司の命たる魚を無碍に扱うとは……! 寿司への愛が足りん! それで怪人スシレーンとは片腹痛いわぁっ!」
西川・晶の怒りの咆哮と共に、絶景がタイミングを合わせスシレーンへと接近。
「よく見とけよ、いい景色だろう!」
敵を高々持ち上げる。
「受けよ! しらす丼ダイナミィィックゥ!」
「絶景ダイナミィィィィィック!!」
地に叩きつけられ、爆発するスシレーン。苦痛に呻きながら立ち上がろうとした目前には原・晶が立っていた。
「百を以て、貴様を穿つ!」
かまえた拳に闘気が収束し、繰り出された連打がスシレーンを捕らえる。へしゃげて転げる敵に流れるように一同の攻撃は続く。蹌踉めくスシレーンの背後に透が滑るように近寄り、閃く日本刀が戦隊ヒーロー風のアーマーパーツすら切り刻む。
「残念、今度は鋼糸でなくてぶん投げるのですよーっ!」
もよぎは腹黒く告げ、やおら敵をわし掴む。一瞬の後スシレーンはドゴンという音と共にスケキヨ状態に。敵が立ち上がるより前に、チアキは激しく渦巻く風の刃を生み出す。それは容赦無く敵を切り刻んだ。
もはや虫の息のスシレーンを原・晶と絶景が捕まえ、後方へとそりなげる。ブリッヂの姿勢を固めたまま地へと叩きつけられたスシレーンは流石に力尽きたらしい。
「スシレーンは永遠なりぃぃぃぃ!」
一声叫び、スシレーンはドゴォォンしたのであった。
●美味しいお寿司を食べたいな
(「俺カッコいい……!!」)
原・晶は自分の技のキレに感動。更に技を磨く事を心に決める。
「ていうかさ、食ったら美味いのかな……これ……」
チアキの視線の先には暴れるお魚。普通のお魚に戻っているが、恐る恐る触ると更にびっちびち暴れびっくり。
一同そろって荒れた店内を片付け。それでも気をつけて戦っただけあり被害は少ない。
「今度は客として、この店に足を運ばせて頂きますね」
キルシェが誓う傍から小鳩は主人に近寄る。
「べ、別に単に血が吸いたかったわけじゃないんですよ?」
彼女の吸血捕食はご主人の記憶を曖昧にする。それを終えた所で一同はお店からそっと退出した。
「さて、お寿司食べに行きたいですねー? 敢えて回ってないものを」
もよぎの言葉に頷く仲間。さて、どこにしようかとあちこち回ったものの、何故か結局最初のお寿司やさんに。
大丈夫、ご主人は覚えていない。
「お任せで握って」
予算を提示しつつ絶景は席に。ご主人の思いや矜持の籠もったお寿司は美味しいに違い無い。
一方原・晶はぐんにょり顔。胃のあたりをさすりつつ。
「寿司と戦ったら逆に寿司食べたくなくなってきた……今日の飯は洋食か中華だな」
あのパサついたまぐろがいかんかったのかも知れない。
「やはりお寿司屋さんと回転寿司さんの飽くなき戦いは終わらないんでしょうか……? どっちも美味しいですけど」
小鳩の憂いは分からない事もない。
だが、お寿司屋さんも、回転寿司も、お互いには無い良さがある。
だからこそ、共存していくと信じたい。
作者:高橋一希
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重傷:なし
死亡:なし
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種類:
難度:普通
結果:成功!
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出発:2012年8月20日
参加:8人
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