●叢雲・ねね子の学園食いしん坊祭
叢雲・ねね子は、制服に包まれたお腹をなでつけて、けふっと小さくゲップした。
この学園祭、ねね子は、思いっきり食べて飲んで騒いで楽しんだ。
サイキックハーツ大戦に勝利した記念ともなる学園祭、どれだけ楽しんでも楽しみ過ぎるという事は無いのだから。
「生きているって素晴らしいずら」
大げさとも言い切れない感想を述べつつ、グルメストリートを闊歩するねね子。
だが、彼女の熱意はまだまだ衰えない。
学園祭が終盤に差し掛かった今、今こそ、彼女の使命を果たす時なのだ。
あらゆる店を食べ尽くしたグルメストリートの権威として、彼女は、威厳をもって上り続ける。
グルメストリートという坂道を……。
●第三位~ロンリィレコード吉祥寺裏路地店~
えびすくい
ねね子が坂道を登って最初にやってきたのは、ロンリィレコード吉祥寺裏路地店で開催されている『えびすくい』の店!
昔ながらの金魚すくいのように、ぽいを使って、えびをすくう、お祭りの定番企画の一つである。
「この、えびすくいが、学園祭のグルメストリートの第三位なんだべ! 簡単そうに見えて、……これけっこう難しいんずらよ!」
おらも、一匹掬ったんだぞと、自慢するねね子。
そこに、 思わぬ入賞連絡に、少しびっくりした表情の店主の吉田・宮子(ゆびきりげんまん・d31659)がやってきて、
「そこが楽しい所だよう。みんさんに楽しんでもらえて嬉しかったよ」
と、楽しそうにそう説明してくれた。
みんなが楽しく参加できるイベントは、学園祭らしくてとても良いものだろう。
ねね子は、えびさんが泳ぐ姿に癒されつつ、そういえばと、えびすくいのイベントの噂について話を聞いてみた。
「えびすくいと言えば、カップルさんとかも掬いに来てたみたいずらね」
ねね子が、そう話を振ると、
「掬ったえびを、晩御飯にするっていうカップルさんが来てね。最初は失敗しちゃったけれど、おまけでぽいを一つ渡したら、仲良く順番に掬って3匹掬っていったんだよ。あれは、幸せそうでよかったね」
宮子も笑顔で、うんうんと頷いて、話をしてくれた。
「カップルさんはやっぱりいいものだべ。学園祭デートは憧れだべ!」
この、ほんわかエピソードに、ねね子も思わず、ふんわり笑顔になると、宮子と二人で顔を見合わせて笑い合った。
その2人の下で、えびさんがすいすいと涼し気に泳ぎ回る。
その泳ぎは、グルメストリートの入賞をお祝いするかのようだった。
●第二位~炎血部~
鉄板焼き『もふリート』
ほんわか涼やかな『えびすくい』の店を出たねね子は、熱い坂道を登って、次の目的地へと歩みだす。
目的地に近づくたびに、どんどんと気温があがっていく事を、ねね子は肌で感じつつ先に進み続ける。
それもそのはず、その目的地とは……鉄板焼き『もふリート』だったのだ!。
「こんにちはずら~」
ねね子は、勢いよく鉄板焼き『もふリート』の扉を開く。
扉を開くと、イフリート焼きの良い匂いが鼻孔をくすぐり、鉄板のもわっとした熱気が後を追いかけてくる。
最高気温37度という今日の武蔵野の気温に負けない、鉄板の熱気が、ねね子の気分を焼き焦がした。
店内には、遅い時間にも関わらず、店員と客がまだまだ忙しく動き回っている。
そんな中、ねね子は元気よく腕を振り上げて宣言した。
「みんな、おめでとうずら! 鉄板焼き『もふリート』は、グルメストリート企画第二位になったずらよっ! 準優勝ずら!」
と。
入店一番、そう叫んだねね子の言葉に、店内に残っていた店員と客たちは歓声をあげる。
これまでも連続入賞を果たしている『もふリート』ではあったが、やはり、入賞が決まるのは嬉しい物のようだ。
「もふリートはは、熱いイフリート焼きと冷たいこおリートの組み合わせが最高なんだべ! 武蔵坂の学園祭で、これを試さないのは損なんだべ!」
ねね子が、受賞理由(或いは個人的感想)を述べると、今日の日の為に力を使い果たす勢いの、炎導・淼(真っ赤なビックバード・d04945)が、鉄板片手に歩み寄ってきてくれた。
「嬉しい事を言ってくれるな。だが、店はまだ終わないぜ。これからの時間でしか顔を出せない奴もいるだろうからな!」
そう言って、腕まくりした淼は、まさに鉄板焼き屋の鏡であろう。
「それは、とても良い事をきいたずら! 今年は、粒あんのイフリート焼きを頂いたずらから、最後の食べ収めで、変わりだねも試してみたいずら!」
ねね子が嬉しそうにそう言うと、淼は「おうよ」と威勢よく応じると、おすすめの、もふリート焼きを早速焼いてくれた。
夏の暑さにも鉄板の熱さにも負けない、淼の炎の男らしい気っ風の良さも、もふリートの魅力に間違いない。
「勿論、こおリートも頂くずらよ。こおリートがなくっちゃ、暑くて死んじゃうずら」
ねね子が、こおリートを催促すると、「そりゃそうだ、今日は暑いからねぇ」と、店内に笑顔がはじけたのだった。
最後に、
「隙あらば学園祭以外でもどっかのタイミングで開いてやるぜ!」
と宣言すると、店内から、更に歓声があがった。
きっと、これからも、何かイベントがある度に、鉄板焼き『もふリート』の味を楽しめる事だろう。
●審査委員特別賞~空匣~
ダイス任せのかき氷屋さん
鉄板焼き『もふリート』を出た、ねね子は汗だくであった。
その様子は、某ファーストフードで、
「ねね子学園祭仕様、汗だくだくで」
と注文した結果であるかのようだ。
今のねね子を絞ってみたら、道に水たまりができることだろう。
(そして、その水たまりはすぐに蒸発してしまうのだ)
「今日は熱いずら! でも大丈夫ずら、次の目的地は、おらを助けてくれる神の救いだべ!」
ねね子は、そう言うと、汗だくの服をまくってバタバタと扇ぎながら、道を歩く。
少しだけはしたないが大丈夫。
この暑さの中、そんな女生徒は、いくらでもいるのだから。
「かき氷頂いくずら!」
目的の店についたねね子は、まずは、ダイスを振ってかき氷をかっこむ。
キーンと響く、アイスクリーム頭痛ですら気持ち良い。
まさに生き返る心地であった。
「前に食べた、イチゴシロップ+ミカン+コーヒー寒天+塩辛も独特で好きな人には堪らない感じだったずらが、やっぱり普通の組み合わせが出ると安心するんだべ!」
一気に食べきったねね子は、さっそく、店主の高瀬・丞を捕まえると、
「ダイス任せのかき氷屋さんが、審査員特別賞ずらっ! おめでとうずらっ!」
と、まるで命の恩人にするように祝福する。
丞は、営業スマイルで、
「ありがとうございます」
とあいさつすると、
「それもこれも、ご贔屓にしてくれた皆さんのお陰ですね~」
にへらっと喜びの笑顔を作った。
その笑顔に癒されつつ、ねね子は、ダイス任せの面白さについて語る。
「最後のトッピングまで気が抜けないずらからね。ドキドキワクワクだべっ!」
冷たいかき氷の魅力に、アドレナリンがプラスされる事で、更に魅力がドンっと上乗せされるという事らしい。
「ダイス任せですが、美味しそうなかき氷が完成した時の笑顔は、この店の醍醐味です」
丞もうんうんと頷く。
なお、ダイス任せなので事故的な組み合わせも発生するが、大トロが当たった場合などは、醤油とわさびと割り箸のサービスもあるので、ある意味安心安全なのだ。
「ふぅぅぅ。生き返ったずら」
ねね子は、名残惜しそうに冷たくて美味しかったかき氷の器を見つつ、店を後にする。
残るは、グルメストリート第一位の発表を残すのみ。
ねね子は足取りも軽くグルメストリートを進んでいった。
●第1位~タタラバ~
魁!!デモノまん直売所
ねね子がやってきたのは、とある集会用テント。
太陽は傾きつつあるが、まだまだ刺すような日差しが降り注ぐ中、微かに揺れるのぼりが目印。
ここまで聞けば、多くの灼滅者はピント来る事だろう。
ここは、武蔵坂の学園祭名物『デモノまん直売所』である。
ねね子は、さっそく蒸した肉まんの、甘い匂いに誘われるように、直売所に脚を踏み入れる。
直売所には、肉まんを求める人の列ができており、その先のスチール製の会議机の上には蒸篭が並んでおり、ねね子が食べた、【お口で弾ける野性味】の肉まんを始めとして、個性的な味の肉まんが並んでいた。
ソフトボール大の大き目の肉まんを一口齧れば、人類にはまだ早い酸味や苦みや初恋の味を堪能する事もできるし、あらゆる方向性から飛んでくる、おふくろの味に舌鼓を撃つ事もできるのだ。
今年は新たに、デモノまんロードなる新商品も追加されて、味と危険度の幅が増加している。
デモノまんロードについては、団長の山本・仁道(相克・d18245)も、
「俺も、思わず2度見した。だが、少しずつ齧っていくしかなかった。少しずつ、少しずつだ……」
と証言しており、なかなかの破壊がであったらしい。
そんな仁道と、デモノまんファンの列を前に、ねね子は、
「ずらずらずらずらずらーだべっ」
と、ドラムロールっぽい方言で盛り上げると、
「みんな、おめでとうだべ! 魁!!デモノまん直売所が、グルメストリートの優勝ずら!」
と優勝を発表したのだった。
この発表を聞いた、お客たちは、
「今年はいけると思っていたぞ!」
「…???……!?!?」
「オレ、もうデモノまん無しでは生きていけない体なんだ」
「俺は、余裕で完食したぜっ」
と、口々に祝福の言葉を紡ぎ、仁道に拍手を送る。
仁道も、
「昨年の3位も光栄だったが、まさか優勝とはな。これも、いつも通りの事をいつも通り……毎年続けてきた結果だろう。ありがとう」
と、喜びのコメントで皆の祝福に答えたのだった。
「それじゃ優勝の記念に、おらもう一個食べるずらよっ!」
その祝福ムードの中、ねね子は、蒸篭から一つのデモノまんを手に取ると、むぎゅっと口に頬張った。
「……これは、全然知らない味なのに、なにか懐かしい味がするんだべ。でも、どうして懐かしいかわからないずら!!」
ねね子は首を傾げつつ、そういうと、もふもふとデモノまんを食べきると祝福の輪に加わった。
なお、記念のデモノまんの味は【どこか懐かしい初恋の味】であったらしい。